2話 ループ❷ 前編(脚本)
〇大きな木のある校舎
俺が、まつりを異性として意識し始めたのは、たぶんあの時。
中学の卒業式で、だった。
雄太 16歳 まつり 16歳
まつり「雄太、第二ボタンないけど誰かにもらわれちゃったの?」
雄太「あー......いや」
まつり「ねえ、雄太......?」
......。
雄太「これから密かに俺のことを好きだった後輩とかが取りにくると思ってな!」
俺は、ポケットに隠しておいた第二ボタンをほれっとまつりに見せた。
雄太「あらかじめむしっておいたんだ」
ドヤ顔で語る俺に、青い顔だったまつりはきょとんとして、弾けるように笑い出した。
まつり「あははー、いないいない」
雄太「なんだとー!」
安心した様にふっと笑ったまつりは、俺が見せびらかした第二ボタンを俺の手からむしり取ると、
桜がほころぶように笑った。
まつり「どうせいないから、もらっちゃうね?」
雄太「......」
俺はそのまつりの笑顔に、今まで全く異性として意識していなかったまつりを、不覚にも綺麗だと思ってしまった。
片親のまつりは、小学生の時から「親なし」と言われていじめられていた。
いつも泣いていたまつりを俺は妹を守るみたいに守った。
そんな辛い過去があるのに、今は外では決して涙を見せずにニコニコしている。
そんなまつりを、俺はいつも隣で見ていた。
〇桜並木
同い年の妹みたいな感覚のまつりに、なんでこんなにドキドキするんだ?
雄太「てかまつり」
まつり「んー?」
雄太「進路俺と一緒でよかったのかよ」
まつり「なんで?」
雄太「まつりなら、もっと上いけるって言われてたじゃん......」
まつり「ばか......」
まつり「私はね、雄太と同じ高校に行きたくて受けただけだから」
まつり「また私のこと、守ってね」
守ってね、その言葉に俺は微笑んだ。
中学でよく告白されたまつり。
中にはしつこいやつもいて、そういうやつからも守ってやっていた。
雄太「当たり前だろ」
俺がまつりを守るのは、当たり前だ。
だって俺は......。
〇勉強机のある部屋
?「...きて....」
?「起きて雄太!」
雄太「ん......?」
午前7時半、かけておいたはずの目覚ましは鳴らなかったらしい。
まつり「あー、やっと起きた!」
目を覚ますと、頬をぷくっと膨らませた幼馴染の顔がそこにあった。
まつり「もー!いつまでたっても降りてこないから迎えにきたんだよ!」
寝ぼけ眼で冷静に考えると、俺は今遅刻一歩手前の危機に直面しているらしい。
まつり「もー!早く支度してよね!」
雄太「わかったよ!」
急いで服を脱ぎ出すと、まつりは驚いて顔を背けた。
まつり「ちょっと!私が出て行ってからにしてよ!」
ぷんぷんと部屋を出て行ってしまうまつりを尻目に俺は急いで着替えて部屋を飛び出した。
微かな違和感を感じながら。
〇おしゃれな玄関
雄太「いってきます」
みこ「行ってらっしゃい!」
弟「いってらっしゃい!」
いつもの日常。
いつもの家族。
いつもの光景。
変わらない、はずなのに何か心に引っかかる。
みこ「お兄ちゃん?どうかした?」
雄太「いや?なんでもないよ!」
でもきっと気のせいだろう。
みこ「朝ごはん今度はちゃんと食べていってね」
雄太「あぁ!悪いな!」
俺は妹に謝ると、急いで家を飛び出し外で待っているまつりの元へと向かった。
〇教室
まつり「おはよう!」
クラスメイト「まつりちゃん!おはよう!」
クラスメイトが自然とまつりの周りに集まる。
俺は陰の様にひっそりと自分の席へと向かった。
まつりはクラスの人気者だ。
しかし、俺は違う。
まつりの幼馴染ってだけなのに、男子からは疎まれ、女子とは関わらないから友達もいない。
俺は、自分の席についていつものようにイヤホンをして机に突っ伏した。
まつり「えー!」
俺から右に二席離れたまつりの席から、まつりの驚いた声がした。
俺はなんとなく、イヤホンを片耳だけこっそり外して、まつりの声に耳をすませた。
クラスメイト「ねえ、隣のクラスの子が番幅神社でお参りして恋が叶ったらしいよ!」
番幅神社は、この町で有名な縁結びの神社だ。
まつり「えー!本当?」
クラスメイト「縁結びで有名な神社なだけあるよね!願えば叶えてくれるんだって!」
まつり「どんなお願いしたのかな?」
クラスメイト「いやーでも、噂では番幅神社って縁結びの神社って言われてるけどさ......実際は」
縁結びの神社なんて、女子が好きそうな話だな。
俺は片耳だけつけたイヤホンをまた耳にしまった。
〇図書館
まつりも、誰か好きな人がいるんだろうか。
図書館で勉強しているのは、まつりと釣り合う男になりたいからだ。
雄太「もっと頑張らないと......」
まつり「なーにしてるの?」
雄太「ま、まつり!?」
まつり「しー!図書館では静かに、でしょ?」
図書館でぽつり、ぽつりと席に座っている生徒がこちらを見ている。
俺は慌てて口を閉じた。
まつり「図書館で雄太が勉強なんて雨でも降るのかな?」
雄太「うるせーな」
雨......?
俺はこれから雨が降るかもしれないという気がしてなんだか胸がざわついた。
まつり「ふふ」
雄太「あ、あれ?生徒会は?」
まぁ、ただの気のせいだろう。
まつり「今日の生徒会、先生の都合で早めに解散したの」
毎週金曜日は生徒会のはずなのにこんなところにいるのは、そういうことだったのか。
まつり「靴があったから探してたんだけど、まさか図書館にいたとはねー」
雄太「友達と一緒に先に帰ってもよかったのに」
かっこ悪いな俺、こっそり勉強しているところを見られるなんて。
まつり「く、靴があったし方向一緒なんだから一緒に帰ろうって思うじゃない」
雄太「なんだそれ」
まつり「なんでこんな図書館の隅っこで勉強してるの?いつから?」
お前に釣り合う男になるためだよ、なんて言えるわけないだろ。
雄太「ま、前のテストの点が悪かったんだよ」
まつり「それなら私に言ってくれれば家でも教えてあげたのに」
まつり「隣......座るね?」
まつりは、俺の隣にすとんと座ると、髪をさらりと耳にかけて俺のノートを覗き込んできた。
妹みたいに可愛がっていた、守っていたまつりを、今は異性として意識してしまっている。
まつりの横顔に見惚れていると、ザァアという雨音が外から響いてきた。
〇図書館
雨音......。
なんだか俺は胸騒ぎがして、まつりの手をとった。
雄太「帰ろう」
まつり「う、うん......」
〇学校の校舎
まつり「ふふっあはは!」
雄太「な、なんだよ」
まつり「帰ろう!って言って傘持ってないんだもん!」
雄太「う、うるさいなあ」
まつり「相合傘だね」
雄太「え?」
そういえば、なんか周りの視線がジメジメしてると思ったら雨のせいじゃなかったのか。
雄太「ま、まつりは嫌じゃないのか?俺なんかと相合傘して」
まつり「嫌じゃない......」
まつり「って言ってほしい?」
まつりの頬はぽっと桜色に染まっていた。
まさかまつりは俺のことを......?
〇教室
「番幅神社で恋が叶ったらしいよ......!」
〇住宅地の坂道
俺は、はっと番幅神社のことを思い出した。
雨......番幅神社?
何か心に引っかかる。
まつり「ねえ、聞いてるー?雄太」
雄太「え?」
まつり「番幅神社のことだってば」
雄太「番幅神社?」
ループした世界で、雄太はデジャビュのような感覚を抱くようになりましたね。これが悲劇を回避するきっかけになるのだろうか、次話が楽しみです。