悪の組織の名探偵

寸尺さぎり

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〇公園のベンチ
少年「はぁ、はぁ」
少年(くそッ)
少年(なんなんだよ、あの怪物は!)
少年(植込みの陰に隠れた瞬間は見られてないはず)
少年(このまま動かなければ──)
少年(助かっ──)
怪物「そこか」
少年「うわあっ!!」
「キャッ」
男「テメエ、危ねえだろ!」
少年「そ、そこに!」
少年「怪物が!」
男「ああ?」
男「何もいねえぞ」
女「キミ高校生? 酔ってる?」
少年「え」
少年「あれ?」
少年(消えた?)
男「おっ」
女「怪物いた?」
男「いや、ベンチの横に妙なもんが」
女「うわ。なにアレ、人形?」
少年(人形?)
少年「あっ!」
男「げ、これ──」
  明かりの消えた街灯の下。
  何かがベンチにでろりと寄りかかっていた。
  人型の紙に服を着せたような奇妙な何か。
  それは──
男「──皮だ」
  皮だけの、人間だった。

〇keep out

〇ゆるやかな坂道
  一月六日 午後二時
少年「はあ」
少年(ようやく取調べから解放されたけど)
少年(・・・怪物、か)

〇取調室
  警察には、変死体を見間違えた、
  なんて言ってごまかしたけど──

〇ゆるやかな坂道
少年(あいつは一体なんだったんだろう)
???「やあ、大変な目に遭ったね」
男「柚木陸君だね?」
柚木陸「そうだけど」
柚木陸「あんたは?」
家入正道「失礼、僕は家入正道といいます」
  道具機関 顧問探偵
  家入 正道
柚木陸「探偵?」
家入正道「うん」
家入正道「ちょっと、君に尋ねたいことがあってね」
柚木陸「何、ゆうべの事件関係?」
柚木陸「俺、偶然あそこに居ただけで、」
家入正道「怪物」
家入正道「怪物に襲われかけたとか?」
柚木陸「なんでそれを」
家入正道「僕はそういうのの専門家でね」
柚木陸「まさか、あれの正体を知ってるのか?」
家入正道「まあ、ある程度は」
柚木陸(凄く怪しい、けど)
家入正道「もし良ければ、そこの喫茶店で 情報交換ってのはどうかな」
家入正道「飲み物ぐらいはおごるよ?」

〇魔界
家入正道「──こんな伝説がある」
  昔々、あるところに万能の悪魔が居た
  悪魔は魂を対価に、人の願いを叶えていたが
  その行為が神の怒りを買って、
  ある日、体をバラバラに砕かれてしまった
  けれど、悪魔は滅びなかった
  その目玉が
  肉が
  骨が
  皮が
  悪魔の力を部分的に保ったまま、
  世界中に飛び散ったんだ
  悪魔の破片は強い願いを持つ者の下に現れ、こんな契約を持ちかけるという
悪魔の破片「お前がおれを飲み込めば、 お前は願いを叶える力を得られる」
悪魔の破片「対価は、お前の魂だ」

〇シックなカフェ
柚木陸「・・・つまり、俺が見た怪物は」
柚木陸「悪魔の破片と契約した人間だ、って話?」
家入正道「おそらく」
柚木陸「本気?」
家入正道「無理に信じろとは言わないよ」
柚木陸「じゃあ聞くけどさ」
柚木陸「結局、俺を襲ったのは誰なんだよ」
家入正道「・・・うん、それを知るためにも、だ」
家入正道「まず、君が見た怪物の容姿を教えてほしい」
柚木陸「ああ、見た目か」
柚木陸「黒っぽくてトゲトゲした奴だったよ」
家入正道「装飾品は身に着けてなかった?」
柚木陸「確か──」

〇公園のベンチ

〇シックなカフェ
柚木陸「スカーフを巻いてたな」
柚木陸「あと剣?」
家入正道「スカーフに、剣」
家入正道「目はどうだった?」
柚木陸「うーん」
柚木陸「あー、左目が妙に輝いてた、かな」
家入正道「・・・」
家入正道「この画面に写ってる奴に、見覚えない?」
柚木陸「写真?」

〇大広間

〇シックなカフェ
柚木陸「こいつ──」
柚木陸「こいつだよ、俺が見たのは!」
柚木陸「なんで写真を!?」
家入正道「・・・」
柚木陸「なあ!」
家入正道「・・・なるほど」
柚木陸「何が──」
家入正道「失礼、着信だ。すぐ戻る」
柚木陸(なんなんだよ)
家入正道「ごめん、待たせたね」
柚木陸「別に」
家入正道「で、だ」
家入正道「今から仲間と合流するんだけど、 一緒に来てもらえないかな」
柚木陸「は?」
柚木陸「ここじゃ駄目なの?」
家入正道「ここだと少し不都合があってね」
柚木陸「・・・移動はいいけどさ」
柚木陸「その前に、一つだけ聞かせてくれよ」
家入正道「なんだい?」
柚木陸「あの写真の奴は、一体誰なんだ」
家入正道「誰、か」
家入正道「僕たちは奴を『オウス』と呼んでる」
家入正道「一言で表すなら奴は──」
家入正道「連続殺人鬼、かな」

〇川沿いの公園
  同日 午後三時
家入正道「来たか」
クティス「おっまたせしましたぁ!」
クティス「最強諜報員クティス、ただいま帰還でっす!」
家入正道「お疲れ」
柚木陸「ど、どうも」
クティス「あっ、柚木くんですね!」
クティス「はじめまして、クティスです!」
クティス「本名は秘密です!」
柚木陸「はあ」
家入正道「で、どうだった?」
クティス「えっとですねぇ」
クティス「ここ十日の間に、被害者の友人が二人!」
クティス「行方不明になってました!」
家入正道「・・・それでか」
クティス「なにがです?」
家入正道「後で話すよ」
家入正道「まずは、事件の詳細を頼む」
クティス「了解でっす」

〇黒背景
クティス「昨夜、発見された男性は紅山翔。 高校二年生です」
クティス「発見されたといっても、見つかったのは 皮膚、爪、毛髪だけで」
クティス「中身は血の一滴さえ残ってなかったとか」
クティス「キャー」
家入正道「外傷は?」
クティス「一切ナシです」
家入正道「彼はなぜ夜中の公園に?」
クティス「柚木くんが警察で『紅山翔に呼び出された』と証言してますね」
クティス「何かナイショの話があったのでは?」
家入正道「ん?」
家入正道「柚木君、被害者の友達だったの?」
柚木陸「・・・はい」
クティス「ああ!」
クティス「さっき言った現在行方不明の二人と、」
クティス「紅山翔、そして柚木くんの四人は」
クティス「この辺では有名なグループらしいですよ!」
クティス「なんでも紅山翔の父親がこの辺の有力者で」
クティス「それを笠に着て好き放題やってるとか」
家入正道「ふーん?」
柚木陸「・・・否定はしません」
家入正道「ということは、君らに恨みを持つ者も」
クティス「いっぱい居るでしょうねぇ」
家入正道「警察の見解は?」
クティス「動機がある、という点では」
クティス「彼らに暴行された噂があり、 現在は消息不明の伊萩淡香さん」
クティス「現在進行形で酷いいじめを受けている、 暗坂灯さん」
クティス「この二人とその関係者が怪しまれてますね」

〇川沿いの公園
家入正道「柚木君は容疑者候補に入ってなかったのか?」
家入正道「友人で第一発見者なんだろ?」
クティス「第一発見者は他にも二人居ましたし」
クティス「それに、柚木くんは年末から昨日まで 家族と海外に行ってましたから」
クティス「お友達二人が行方不明になった時期には 完璧なアリバイがあります」
クティス「ねっ?」
柚木陸「なんでも知ってるんですね」
家入正道「なるほど」
家入正道「なら、確定かな」
クティス「ですね!」
クティス「なにがです?」
家入正道「犯人が、だよ」
家入正道「いじめ被害者の暗坂灯。彼女が悪魔契約者だ」
柚木陸「はあ!?」
柚木陸「なんでそうなるんだよ!」
家入正道「詳しい説明は後だ」
家入正道「クティス、彼女の住所はわかるか?」
クティス「もちろん。行きます?」
家入正道「ああ。急いで──」
クティス「川から!?」
家入正道「──オウス」

〇川沿いの公園
柚木陸(こいつが殺人鬼──暗坂灯?)
家入正道「盗み聞きとは趣味が悪いな」
オウス「黙れ」
家入正道「──クティス」
クティス「了解でっす」
クティス「──『擬態する皮』」
柚木陸「なっ」
柚木陸「え!?」
柚木陸(消えた!?)
柚木陸(オウスの胸に大穴が!)
柚木陸(まさか殺し──)
柚木陸(穴が一瞬でふさがった!?)
オウス「そこか」
クティス「ぎゃっ!!」
クティス「あはは、痛ったぁ」
家入正道「やっぱり無理か」
クティス「ムリですね!」
クティス「私は逃げます!」
家入正道「あっ」
オウス「チッ」
オウス「なら──」
柚木陸「うわっ!」
家入正道「っと、参ったな」
柚木陸(灯・・・)
柚木陸「もう、」
柚木陸「もうやめてくれ、暗坂!」
柚木陸「あんたが罪を犯す必要なんて無いんだ!」
柚木陸「だから!」
柚木陸「だから、こんなことは──」
オウス「──どういう勘違いかは知らないが」
オウス「俺は暗坂灯じゃない」
柚木陸「は」
家入正道「そうだよ、何を聞いてたんだ?」
柚木陸「えっ」
家入正道「暗坂灯は君の友人三名を殺しただけ」
家入正道「この化物は、その十倍は殺してる」
オウス「誰も殺してなどいない」
オウス「俺は消しているだけだ」
オウス「悪魔に堕ちた元人間を、な」
柚木陸「え?」
家入正道「元人間、か。勝手な定義だ」
家入正道「仕方ない、やってやるよ」
家入正道「──『固める右眼』」
柚木陸「え」
柚木陸「ええぇっ!?」
家入正道「今日こそ、左眼を返してもらおう」
オウス「──消す」
柚木陸(何がどうなってるんだ?)
柚木陸(探偵もクティスさんも怪物で?)
柚木陸(オウスは怪物だけを殺す怪物?)
柚木陸(それじゃ、まるで──)
家入正道「当たってないぞ、ヒーロー!」
オウス「貴様こそ、避けるだけか小悪党!」
家入正道「フン」
家入正道「そりゃ、僕の目的は」
家入正道「時間稼ぎだからね」
オウス「まさか──」
家入正道「ご明察」
家入正道「クティスがただ逃げたと思ったか?」
オウス「暗坂灯の家に──」
家入正道「彼女の足なら、そろそろ着く頃かな」
オウス「っ、ゴミが!」
柚木陸(オウスが、凄い速さでどこかに・・・)
家入正道「ふう」
家入正道「なんとか助かったな」
柚木陸「でも、クティスさんは」
家入正道「ああ、そうだった」
家入正道「クティス、動けるか?」
柚木陸「は?」
クティス「どうにか」
柚木陸「え?」
クティス「はー、いてて」
家入正道「傷は浅そうだな」
柚木陸「なんで」
家入正道「ん?」
家入正道「そんなに驚くことないだろ」
家入正道「ちょっと嘘をついただけさ」
柚木陸「嘘?」
柚木陸「って、どこから」
家入正道「どこからもなにも」
家入正道「それは君が一番わかってるはずだろ」
柚木陸「え?」
家入正道「いや、だってそうだろう」
家入正道「不良グループを殺した本当の犯人は」
家入正道「君なんだからさ」

〇川に架かる橋の下
  同日 午後四時十分
家入正道「ふう」
家入正道「これだけ離れればひとまず安心かな」
クティス「で、どういうことなんです?」
家入正道「さっき言った通りだよ」
家入正道「彼が、紅山翔の殺害犯」
家入正道「そして、僕らの探してた悪魔契約者だ」
クティス「暗坂灯は?」
家入正道「だから、それは嘘だって」
家入正道「オウスに見張られてるのは予想できたからね」
家入正道「ひっかけてやったんだ」
クティス「え、オウスが来てるの知ってたんです?」
家入正道「ああ、悪い。言うタイミングが無かった」
クティス「あはは、ひどーい」
柚木陸「どうして」
家入正道「ん?」
柚木陸「どうして、俺が犯人だと?」
家入正道「ああ」
家入正道「気付いた理由は色々あるけど・・・」
家入正道「そんなの、もうどうでもいいだろう」
柚木陸「え?」
家入正道「ミスの指摘なんて無意味だよ」
家入正道「君、僕らから逃げようともしないし」
家入正道「今更、言い逃れする気も無いんだろ?」
柚木陸「・・・そうですね」
柚木陸「既に、目的は果たしましたから」
クティス「あれ?」
クティス「でも柚木くん、アリバイがあったんじゃ」
クティス「あ、行方不明の二人はまた別件なんです?」
家入正道「いや、同一犯だよ」
クティス「能力でどうにかしたってことです?」
クティス「でも『人を皮だけにする』力でどうやって」
家入正道「オウスの挙動もあわせて考えると、 こういうことだったんじゃないかな」

〇公園のベンチ
  事件直前(想像)
柚木陸「翔、なんだよこんな時間に」
柚木陸「俺、旅行帰りで疲れてんだけど」
柚木陸「つか大吾たちは?」
紅山翔?「二人は先に行ってる」
柚木陸「先ってどこに」
紅山翔?「地獄」
柚木陸「ああ?」
柚木陸「ごっ!?」
柚木陸「がっ」
柚木陸「げっ」
柚木陸「ぐぼっ」
柚木陸「・・・」
柚木陸?「・・・ふう」
柚木陸?「えっ」
オウス「いったい何が起きたんだ?」
オウス「ずっと見張ってたのに、全然わからなかった」
柚木陸?「ひっ!?」
オウス「おい、そこのお前」
柚木陸?「わああっ!」
オウス「あっ」

〇川に架かる橋の下
クティス「想像に悪意が」
クティス「でもなるほど!」
クティス「他人を『皮だけにする』力じゃなく、 『着ぐるみにする』力だったと!」
家入正道「合ってるかな?」
柚木陸?「ええ、ほぼ」
家入正道「いい能力だよね」
家入正道「口から口へ移動するだけなら、犯行はバレにくいし」
家入正道「死体の隠滅も簡単だ」
家入正道「今回は、オウスのせいで露見したようだけど」
クティス「ふむ」
クティス「ということは、あなたは」
柚木陸?「はい」
柚木陸?「私は、柚木陸じゃありません」
家入正道「君の正体を無理に暴く気は無いよ」
家入正道「隠したいならそれでいい」
柚木陸?「それはどうも」
柚木陸?「で、私をどうする気ですか?」
柚木陸?「殺して悪魔の破片を奪うとか?」
家入正道「うん、ここからが本題だ」
家入正道「単刀直入に言うよ」
家入正道「君、僕らの仲間になる気は無いか?」
柚木陸?「仲間?」
家入正道「ああ」
家入正道「僕はね、ちょっとした組織のリーダーなんだ」
家入正道「まだ十人にも満たない、小さな組織だけどね」
家入正道「今は主に、悪魔契約者たちをオウスから守るために活動してる」
柚木陸?「なんで、そんなことを」
家入正道「当然、命を守るためさ」
家入正道「悪魔に魂を売った奴は殺していい、 なんて道理は無いだろ?」
柚木陸?「でも・・・」
家入正道「オウスは不死身の怪物だ」
家入正道「奴の背後には、大きな組織もついている」
家入正道「僕らが生きていくには、群れるしかないんだ」
家入正道「だから──」
家入正道「どうかな?」
柚木陸?「・・・」
柚木陸?「私は──」

〇新幹線の座席
  同日 午後七時
家入正道「・・・」
クティス「いやー、まさかあそこから断られるとは」
クティス「ビックリでしたね!」
家入正道「『もう力は使わない』」
家入正道「『罪を償う方法を探す』」
家入正道「だもんな」
家入正道「ま、自首はどうにか止められたし」
家入正道「オウスの手から守れただけ良しとしよう」
家入正道「自力で道を拓けるなら、それが一番だしね」
クティス「まあ私たち、犯罪者集団ですからねぇ」
クティス「あでも、今回の勧誘は良かったですよ!」
クティス「命を守るためさ」
クティス「でしたっけ」
クティス「まともな人みたいでした!」
家入正道「本音だよ」
家入正道「そりゃ、優先目標ではないけどね」
クティス「ですよね!」
クティス「一瞬、本来の目的を忘れたのかと思っちゃいましたよ」
家入正道「忘れるわけないだろ」

〇大広間
家入正道「愛理!」
家入正道「なんで──」
家入愛理「まーくん・・・」
家入愛理「最後の、お願い・・・」
家入愛理「私の、眼を」
家入愛理「食べて」
家入正道「何を──」
家入愛理「それで」
家入愛理「私の」
家入愛理「仇を」
家入正道「・・・?」
家入正道「あ」
家入正道「ああ」
  あああ
  ああああああ!!

〇新幹線の座席
家入正道「僕は」
家入正道「僕たちは」
家入正道「いつか必ずオウスを──」
家入正道「愛理の仇どもを──」
家入正道「──殺す」
家入正道「どんな手を使っても」
クティス「ふふ」
クティス「じゃあ次は、どうします?」
家入正道「またしばらくは情報収集かな」
家入正道「今度こそ、優秀な仲間を引き入れよう」
家入正道「オウスに見つかる前に、ね」
クティス「はい、了解でっす!」

コメント

  • 謎解きの部分が凝っていて感心しました。普通のミステリーだと思っていたので柚木のアリバイをどう崩すのか、と考えていたらまさか。翔は被害者じゃなくて人から人へ乗り移って皮を捨てていく怪物が入っていて、今度は柚木の体に入っていただなんて!どんな想像力を働かせてもたどり着けない真相に唖然としました。家入がこの仕事をする理由や背景も抜かりなく描かれていてよかったです。

  • まさか悪の組織軍団からのオファーを受けているとは思いもよりませんでした。悪が悪をしとめるために、善を引き入れたいということなのでしょうか?彼は断って正解だったような・・。

  • 人間界にもいろいろな組織があるように、怪物界にもいろんな組織があるんですね。彼が、オファーを断って言った言葉がかっこよかったです。その力を使うも使わないも自由ということなんですね。

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