異世怪人と世界問答

すうぱあ

エピソード1(脚本)

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〇荒廃した教会
  この展開を目指して、俺はこの場所へと足を踏み入れたのだから
  臆さず、退くな。瞬きとてしてはならない。
  今これから、一つの大きな答えが出る。それを予感しながら対等の気概を持って奴の眼前へ辿り着いた。
正義「おまえがすべての元凶か」
ユスティース「すべてと言うとどれを指しているかは分らんが、ユーベルの最高位にいるのは間違いなく俺だけだ」
ユスティース「ようこそ、正義の味方。俺たちは同じく資格を持つものだ。この世界を導くことを、ただ二人だけ可能としている。現状だがな」
  含みを持たせた言葉を何気なく語るたび、それだけで膝が崩れそうになるのはこの怪人が他と隔絶していることの証明だろう。
  なるほど、魔人だ。それだけに惜しいと思う。地獄を創るその感性が
  ゆえに負けてはならない。
正義「俺がお前に聞きたいことは一つだ。いったい何をするつもりでいる」
正義「戦争が好きなのか?争いを求めているのか?敵味方で血を流すことを、どうして神聖視できるという」
正義「おまえの存在を引き金に、どれだけの命が散ったと思っているんだ」
  敵味方を合わせればそれこそ、それこそ・・・
  数多くの人命が失われてなお、なしたい夢があるというのか、そう問いかけた質問にユスティースは堂々と返した、否と。
ユスティース「勘違いをするな。俺は戦争が好きなわけではない」
ユスティース「差別、貧困、虐げられる弱者、様々な悲劇・・・一言でいえば不幸、それらを俺は憎んでいる」
正義「なんだと?」
  正気の返答は誰はばかることなき真っ当なもので、だからこそわからなかった。ならばいったい、こいつは、なぜ?
ユスティース「だが同時に、こうも思う。そうした理不尽があるからこそ、人は強く美しく在れる」
ユスティース「友のため、家族のため、身を捨ててでも許せぬ悪に立ち向かう心。恐怖に屈さず立つ信念。つまり勇気だ、覚悟だよ」
ユスティース「今、こうして、俺の前に立ったお前のように」
ユスティース「ああ、美しいぞ勇正義。人とはそう在るべきだ。その輝きをユスティースは愛している。無くしたくはない」
ユスティース「ゆえに地獄の釜へと誘ったのだよ。簡単なことだ、要は腐らせたくなかったのさ」
ユスティース「おまえのことも、他の連中も、等しく俺の楽園に住んでほしいと願っている」
ユスティース「例えば・・・そうだな、女性参政権というものがある。おまえはこれをどう思う?」
正義「それは・・・」
  大正時代に生まれた女性への参政権。どの角度から考えても俺にとって答えは無論、肯定だった。
正義「素晴らしい試みだろう。文明開化とともに、女性にも人権が認められたのだから、否定する材料はどこにもない」
ユスティース「同感だ、しかしそれ以前にはなかったはずの言葉でもある」
ユスティース「なぜなら女は、常に男と家の所有物。いわば人として各下であるという扱いを受けていたのだ」
ユスティース「ゆえにこれは、素晴らしい変化なのだろう。女も同じく人間である。生きとし生ける権利がある」
ユスティース「愛した男を己で選び、子を産み育てる自由はもちろん、男のように社会で戦う自由もある」
ユスティース「参政権とはそれが公に認められた第一歩だ。憲法で保障されたことを皮切りに、やがて男尊女卑は過去のものへと変わっていったが」
ユスティース「問おう。わざわざそんな法案が生まれたのは、いったいどうしてだと思う?」
ユスティース「単に女が強くなったからか?国際化の流れを受けた?それだけの理由ではあるまい。根底には綺麗事で塗装された愉悦がある」
  それが何か、言ってみろと視線が訴えかけていた。
  わからないわけじゃない。あまり認めたくない概念だが、つまりこういうことだろう?
正義「社会的弱者に手を伸ばすことを、高潔だと思うからか?」
ユスティース「そうだ。弱き者へと愛を施す。それは端的にいって快感であり、だからこそ全世界で流行した概念だ」
ユスティース「未開の土人に文化を授けてやるのと同じだよ。傲慢で、かつ癖になる」
ユスティース「無論、それだけがすべての理由ではないだろうが・・・左巻きの思想が富裕層から生まれやすいのは、決して無関係ではあるまい?」
ユスティース「世界全体が豊かになれば、先進国はこぞってそういう善意に耽りはじめる傾向がある」
ユスティース「よって、それは時と共に少しずつ加速していった。女に権利を、非人やエタに賠償を・・・」
ユスティース「ならば次は、未成年や異民族に特権を、か?聖者になるのがそれほどまでに恋しいかよ」
ユスティース「わかるはずだ、歴史に学び、ニュースやSNSでも見れば顕著な問題であるはずだからな」
ユスティース「人権、訴訟。見当違いの愛護精神」
ユスティース「百姓を襲う熊を尊重せよと囃す部外者、イルカやクジラをまるで人間と同等の価値があると見なす自称愛の戦士たち」
ユスティース「まとめて阿呆よ、脳に蛆が湧いている」
ユスティース「畜生を人と同列に扱い、悪党の裁きにさえ見当違いの不平不満が噴出してはいないだろうか」
ユスティース「被害者に対して、加害者を許せと強制するマゾヒストは声だけ大きくなっていないか?」
ユスティース「心当たりがあるだろう、厚かましくなっていく人間の姿。そして、その醜さにだ」
ユスティース「己は生きる権利がある。社会や法律に守られている。高度文明化された庇護の中、覚悟なく糞を口から垂れ流す愚図の群れ」
ユスティース「安全圏の中だけで威勢よく、考慮もせず、ただ図々しい形ばかりの講釈を垂れる人畜ども。認められるものではない」
ユスティース「いいか、相手を扱き下ろすなと言っているわけではない」
ユスティース「ただ他社を貶すというのなら、その人物と直接向き合い、その目を見ながら罵声を浴びせるだけの覚悟・・・それを持てと言っている」
ユスティース「名前すら書かれていないSNS越しの言葉などに、何の力が宿るというのだ」
ユスティース「目の前には異なる思考回路を備えた他者がいる。殴られるかもしれんし、社会的に制裁されるかもしれん」
ユスティース「しかしそれを肝に銘じて行動するのが、相手に対する礼儀であろうが」
ユスティース「彼も人なり、我も人なり、ゆえ対等、基本だろう」
  静かに、だが熱を伴って語るユスティースの言葉が、聖堂を微かに揺らした
  そして驚くことに俺は心から、そう心の底からこいつの言葉に共感していた
  過激な切り口ではあるものの偽りなく、こいつの言っていることをその通りだと感じているし、納得できる
  それは当たり前で大切なことだ。要は現代の人々に対する覚悟と責任の提唱だ
  安全圏で吼える無責任な罵詈雑言や恥を知らない掌返し
  どうせ何も起きないだろうと高を括っているがゆえの図々しさが許せないと言っている
  自ら弱者を偽装して、愛のお題目を盾に甘い汁を吸う輩もまた然り
  曰く匿名性、曰く権利、曰く自由平等と・・・事があるたび口にされるあらゆる保障と守りの数々
  それは今や過剰であり、世界を見れば過保護すぎると感じているから、そこに苦言を呈していた
  この世界の人間として耳が痛いとさえ思う。確かにそれはユスティースの世界にはなかったかもしれない概念だ
  ここより危険が多いならば、自己責任という面はそれこそ多岐にわたっていたはず
  安全がもたらす腐敗。それを時代の推移による劣化だと呼ぶなら、否定することは出来ないし・・・
  逆説的に見えてくるものがあった。そうか、こいつは
ユスティース「だからこそ分るぞ。おまえは今、決死の覚悟で俺の前に立っている。その気概と勇気は素晴らしい」
  俺のように、覚悟を抱いて、勇気を武器に、自分と相対する人間を愛おしいと感じているんだ
  ユスティースの視線は尊いものを眺めるように、熱く雄々しく滾っていた
  俺たちの在り方を寿ぎながら、ならばこそこう続けずにはいられない
ユスティース「だが、その輝きを発揮できたのは俺たち怪人がいたからだ。不退転の決意と試練が、おまえや友を鍛え上げた」
ユスティース「俺の眼前に至るまで、その美しさを錬磨した」
ユスティース「そして、逆にこうは思わんか。帰りたがっている日常とやら、安穏とした日々とやらのいったい何処にその強さは生かされる?」
ユスティース「たゆまぬ意思を、強さを決意を輝きを・・・充分に発揮できる機会はあるのか?いいや否。なかったはず。なんと口惜しいことだろう」
ユスティース「だから──俺は魔王として君臨する!」
ユスティース「俺に抗い、立ち向かおうとする雄々しい者たち。その命が放つ輝きを未来永劫、愛していたい!」
ユスティース「慈しんで、尊びたいのだ。守り抜きたいと切に願う」
ユスティース「絶やしたくないのだよ。おまえや、おまえの仲間のような人間を」
ユスティース「人間賛歌を謳わせてくれ、喉が枯れ果てるほどにッ」

コメント

  • 怪人がワンシーンで至極まっとうな問答を滔々と続けているストーリーが斬新で惹きこまれました。
    社会派でありながら、時折攻撃的なことも述べて怪人という設定も守りつつ展開していくのも面白かったです。

  • ラストバトル前に、ラスボスが世界観や価値観を語るのは”お約束”的ではあるのですが、まさかこんな問答とは。この問答の果て、彼らの戦いは、そして世界はどうなったのか気になりますね!

  • めちゃくちゃ言ってることに賛同できてしまいます。
    私も平等精神なんてものは理想でありそれを実現し続けるのは不可能だと思います。
    特に今の社会では、都合が良いことは平等、悪いことは男の仕事等、女性に優しくしなさいという平等とは程遠い思想の持ち主が増えているのも事実ですし…。

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