読切 幸運の勇者(脚本)
〇海岸の岩場
ここは、とある辺境の島───
ダンテ「着いたな」
ドクトル「ここが噂の魔境。鬼ヶ島か」
エマ「やっぱり不気味ね」
ダンテ「だからこそ俺たちはここに来たんだ」
ドクトル「はっは!間違いない。 どんな化け物が出てきても、俺がねじ伏せてやるぜ!!」
エマ「あまり野蛮に戦わないでよね。 周りにいると服が汚れるの」
ドクトル「がはは! なんとでも言え!」
ダンテ「・・・さて、じゃあ早速行くか」
ドクトル「おいおい、ダンテ。 一番大事なお仲間を忘れてるぞ?」
ダンテ「・・・ちっ。 あいつはまだ来れないのか」
エマ「ウィル! 大丈夫ー?」
???「ま・・・待って・・・」
ドクトル「どうだ!もう今日の朝飯は全部吐き出せたか!がっはっは」
エマ「もう、ドクトルったら・・・。 大丈夫?」
ウェルシュ「うん、大丈夫。 もう大体治ったから」
ダンテ「たく、もう一人の勇者のお前がそんなだと、俺の評価にまで傷がつくんだよ」
ウェルシュ「ご、ごめん」
ドクトル「ま、勇者といえど、精霊の加護はただ運がいいだけとかいうカスだけどな。 がっはっは」
ウェルシュ「・・・」
ダンテ「運がいいだけのお前は歴代の勇者の中でもカス中のカスなんだから、せめて足手まといになるなよな」
エマ「もうみんな! ウィルにきつすぎ! ウィルも立派な私達の仲間なのよ?」
ダンテ「ちっ」
ゴゴゴゴ──
エマ「きゃあっ」
ダンテ「島が活性化してるな・・・」
ドクトル「がはは、歓迎してくれてるのかもな!」
ダンテ「ふん。それなら客人の俺たちを丁重に迎えて欲しいものだ」
ダンテ「さあ、行くぞ。 ・・・魔王討伐へ」
ウェルシュ「・・・」
魔王。
この世界の魔物の全てを統べ、世界の平和を脅かす巨悪。
100年に一度復活し、その度により強力になり現れる
そして、その魔王の復活と共に人間サイドに誕生するのが勇者。
勇者には生まれつき、精霊と呼ばれる神の力の一部を借りる事のできる存在が宿る
勇者の力はその精霊の力にも半分依存し、生まれつき化け物のような力を持つ勇者もいれば、そこそこのものもいる
そして、ウェルシュに宿った精霊の加護は、「幸運」。
能力はそのまま、ただ運がいいというもの
いわゆる、ハズレであった
そして今回は少し異常であり、なんと勇者が二人誕生したのだ。
それがウェルシュとダンテである。
ウェルシュ「本当、なんで僕なんかに精霊が宿ったんだろ」
〇闇の要塞
ダンテ「ここが魔王城・・・やはり禍々しい魔力が中から放たれているな」
ドクトル「よし、じゃあ乗り込むか!」
???「ぴぃ、ぴぴぃ!」
?
ダンテ「なんだ? カラカラ鳥の小鳥じゃないか」
ドクトル「あぁ、だがこの怪我・・・。 恐らく長くは持たないな」
エマ「可哀想ね・・・」
ダンテ「だがまぁ、俺達には関係ない。 行くぞ」
ウェルシュ「・・・」
小鳥「ぴぴぃ」
ウェルシュ「君も、僕と一緒だね。 近くに巣もないし・・・1人になっちゃったのかい?」
小鳥「ぴぃ」
ウェルシュ「僕は勇者なのに戦えない。 だから、回復魔法だけは練習したんだ。 ちょっと待ってね・・・」
小鳥「ぴぴ・・・ぴぃ!ぴぴぃ!!」
ウェルシュ「あはは、治って良かったね。 後で巣を探してあげるから、此処で待ってて。モンスターに襲われないようにこの茂みに隠れるんだ」
ダンテ「何やってる! 早く来い!」
ウェルシュ「あ!ごめん!!」
ダリアス「・・・」
〇謁見の間
ダンテ「着いたな。 おい魔王!いるか! 勇者様だぞ!」
・・・
ドクトル「なんだ?怖気付いて逃げたのか?」
ダンテ「まさか」
ウェルシュ「な、なんか変だよね。 ここに来るまでも一匹も魔物と会ってない」
ダンテ「・・・いずれにせよ、ここに魔王がいるのは確かだ。 おい!どこに隠れてるんだ!?」
???「やかましいな」
!!?
その時、窓から差し込む赤い月明かりが、窓際に座り込んでいる異形の存在を照らした
ダリアス「今年の勇者御一行はどんなものかと思って見てみれば、この程度の隠密にも気づかんとは。笑止だな」
ダンテ「黙れ、この世の諸悪の根源が」
ダリアス「ふん」
魔王。
その存在感は、何もしなくてもビリビリと肌を焼いた。
ダリアス「では蝿どもよ。最後に言い残すことはあるか」
魔王の後ろに、禍々しい紫の魔法陣が出現する
ダリアス「皆殺しだ!」
ウェルシュ「わわわ、ドクトル、守って!!」
ドクトル「・・・」
ウェルシュ「ドクトル?」
ダンテ「すまないな、ウィル。 お前はここで死んでもらう」
ウェルシュ「!!? どういうこと!!?」
ダンテ「我がヴィルス家は、魔王との契約を結んだ。魔王を殺さず、殺したことにする契約をな」
ダンテ「そうすれば俺たちは殺した手柄を頂き、魔王は死なずにすむ。お互い傷つかないクレバーな選択肢だ」
ウェルシュ「そ、そんな!」
ウェルシュ「う、うわああぁぁぁ!!」
紫の衝撃波がウェルシュを直撃する。
衝撃波が収まった頃には、ウェルシュは跡形もなく消えていた。
ドクトル「すごいな、跡形もない」
ダリアス「・・・」
ダンテ「賢い選択だ、魔王。 我々は約束は守る。少なくとも俺が生きている間はここに手は出させない」
ダリアス「・・・」
ドクトル「そういえばエマは?」
ダンテ「この計画を知っていたのは俺とお前だけだが・・・。 まあいい、あの女はもう用済みだ」
ドクトル「がはは、置いていくか?」
ダンテ「ふっ。まあな」
ダンテ「とりあえず、だ。 魔王よ、協力感謝する。これからもお互い協力し合うとしよう。いい関係でいられることを祈るよ」
ダリアス「ふっ」
ダンテ「よし、では我々はこれで失礼する。 行くぞ」
ドクトル「ちっ、魔王との手合わせはそこそこ楽しみだったんだけどな」
ダンテ「バカなことを言うな、そんなこ・・・」
「何を勘違いしている」
ダンテ「?」
ダンテ「何の・・・つもりだ?」
ダリアス「言っただろう、皆殺しだと」
!!?
ドクトル「がはは、そりゃ面白い!! 戦うか!?勇者一行対魔王として!!」
ダンテ「バカが!考え直せ!!」
ダリアス「バカはお前の方だ、ヴィルス・ダンテ。 勇者たるものの使命を忘れ保身に走るとは。恥を知れ」
ダンテ「なっ・・・」
ドクトル「まあ、これで戦う口実はできたな・・・!!」
ダンテ「ドクトルッ!よせ!!」
あっという間に魔王に近づいたドクトルの強烈な一撃が、魔王に直撃する。
ダリアス「・・・」
ドクトル「がはは、原型を留められる奴すらほぼいない技だ、流石だな!」
ダンテ「離れろ!!」
ドクトル「ん?」
ドクトル「ぐあああぁぁ!!」
ダンテ「ドクトル!!」
ドクトルの腕から大量の血が吹き出す。
魔王は今さっきの一撃を受けたことすら忘れたかのように、無表情でこちらを向いた。
ダリアス「やはり弱いな。 最初から抱いていた違和感だったが、確信に変わったぞ」
ダリアス「貴様ら、選ばれし勇者パーティではないな?」
ダンテ「!!?」
ダリアス「本来勇者に宿る精霊は、勇者に仲間となるべき三人にたどり着くべき運命を与え、それに出会う旅をしてからここに来るものだが・・」
ダリアス「貴様らは勇者の仲間探しをすっ飛ばしてここにやってきた。 だからこそ、経験も浅ければ力も弱い・・・」
ダンテ「当たり前だ! 俺は今日ここで第二の勇者のウィルの殺害のためだけにここに来たんだからな!」
ダリアス「ふふふ、そして計画が破綻した今では、惨めにも全滅を待つだけの身というわけか?」
ダンテ「・・・」
ダリアス「どうした? 絶望のあまり声も失ったか?」
ダンテ「・・・残念だよ、魔王。 よき関係を結べるかと思えばやはり我々は分かり合えなかったか」
ダリアス「!?」
ドクトル「それは・・・精霊の加護ってやつか・・・?」
ダリアス「ふん。どうやら少しは楽しませてくれそうだな」
ダンテ「勇者に与えられし加護は、魔王殺しの必殺の武器だ、これを使うということは、もうお前を生かすという選択肢はないぞ」
ダリアス「ふはははは!! 面白い!やってみよ!!」
ダンテ「うおおおおおぉぉ」
ダンテ「炎の精霊よ!汝の熱く燃える怒りを我に宿したまえ!力を貸せ!ハバネロ!!」
ドクトル「すっげえ!これが精霊!!」
ハバネロ「・・・ふーん。 なにちみ、もう魔王にちょっかいかけに来てるの?」
ダンテ「いいから、力を貸せ!」
ハバネロ「・・・べつにいいけどね」
ダリアス「ほう」
ダンテ「くらえ!バーニングスラッシュ!!」
ダンテ(おそらくこの程度では死なないだろうが、炎で一瞬の隙が生まれるはずだ。 その隙に逃げて・・・)
ダリアス「ぐわああぁぁ!!」
ダンテ「へ?」
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鬼ヶ島というタイトルから3匹の動物を想像しましたが。このストーリーに謎が多いので続きをよろしくお願いします。勇者と魔王が仲良くなってどうなるのか?
勇者から魔王になったいきさつや、主人公の幸運の力、また、エマは何処に行ったのかなど、かなり謎は残されていますが、実は勇者と魔王との間で密約が交わされていたというくだりは、かなり度肝を抜かれた展開でした。
最後がとても気になる終わり方でなんだとーって声が出そうになりました笑
しかし同じ勇者がいるのがそんなに嫌なのか…こんな計画たてるくらい愚かなやつに勇者の力が何故宿ったのか…。