ミスターRPG(脚本)
〇パールグレー
お・・・きろ
〇パールグレー
・・・起き・・ろ
〇パールグレー
起きろ、この馬鹿野郎!
〇魔界
俺「ハッ」
カルト「『ハッ』じゃねぇよ馬鹿、目ぇ覚ませ!」
俺「悪い、気を失ってみたいだ」
俺は頭をフル回転させて状況を把握する。倒れた仲間たちと魔王城。
傷ついたカルトと俺。
周囲に敵は見当たらない。
俺「やったんだな! 俺達」
カルト「おめでたい奴だな! あいつに吹き飛ばされたんだよ、俺達は」
カルトが指さした方角をみると、800メートルほど離れたところに巨大な化け物が見えた。
カルト「回復薬も今ので最後だ。多分次の攻撃が、俺達のラストアタックになる」
俺「・・・」
カルト「魔王戦は逃亡不可、残りの仲間は皆死んだ。つまり・・・わかるだろ」
俺「俺達が死んだら・・・」
カルト「流星騎士団は流れ星となり語り継がれる」
俺「・・・笑えん冗談だ」
カルト「ハルヒコ。お前、前に言ってたよな。補助魔法を3重にかけたら無茶苦茶強いネズミが出来たって」
俺「・・・それは」
〇森の中
俺の脳裏に嫌な記憶が蘇る。
補助魔法の訓練で、弱い魔物に強化の魔法をかけていたときのことだ。
当時、補助魔法の詠唱スピードと正確さが誰よりも優れていた俺は、調子に乗っていた。
ちょっとした気まぐれで、ラットに力倍増魔法を3重にかけてしまったのだ。
〇魔界
俺はラットにボコられ、
腕の骨を折る大怪我をした。
だが問題はそこじゃない。
〇血しぶき
俺にトドメを刺そうとしたラットは、自らの力に引き裂かれ、身体が爆散したのだ。
〇魔界
俺「正直な話、俺はやりたくない。こんな状況で正確にできるかわからないし、何より数分後に身体が飛び散るんだぞ」
カルト「じゃあ他に方法があるのかよ」
俺「・・・」
カルト「このまま何もせずに負けたら、あの世であいつらに会わす顔がねぇ!」
魔王「グオオオーー!」
カルト「やべぇ! 魔王のやつ、俺達が生きてることに気づいた!」
800メートル、それは魔王にとって数歩の距離でしかなかった。次の瞬間、魔王は俺達のすぐ目の前に現れる。
カルト「ハルヒコ! やれぇぇぇぇ!」
俺「クッ、クソォォォォ!」
俺「アストロゲーター! 詠唱省略!
トリプル・ゲイン!」
カルト「うおおおおっ! 喰らえっ!
魔王ーーー!」
魔王「オオオオオーーー!」
カルトの目にも留まらぬ斬撃が、魔王の身体に次々とヒットする。そして最後の一撃がついに、魔王の首をはねた。
魔王「ウオオオオオオオーー!」
俺「やった・・・やった! はは、カルト! やったぞ俺達!」
カルト「・・・」
俺「カル・・・ト?」
カルト「いいか、ハルヒコ。これは俺が望んだことなんだ。だからお前は責任を感じなくていい」
カルト「教会についたらまずはミーナを復活させろ。回復魔法は絶対必要だからな、次はネルソンだ」
カルト「多分そこで一度金が尽きる。だから3人で金を貯めたら・・・俺を・・・」
俺「嫌だ、カルト! 死ぬな!」
カルト「ハルヒコ、お前との旅は・・・なかなか楽しかった・・・ぜ・・・」
俺「カルトーーーー!」
〇空
〇西洋の街並み
カルトに言われた通り、俺は街へ戻ると
ミーナとネルソンを復活させた。
ミーナ「カルトくん、死んじゃったんだ。意外ーー」
ネルソン「だな。ハルヒコを盾にして生き延びるとか言ってたのにな」
俺「お前ら、あいつはそんなやつじゃ」
ネルソン「バーカ、わかってるよ」
ミーナ「カルトはねぇ、ハルヒコ」
〇児童養護施設
ミーナ「カルト、いよいよ魔王との戦いだね」
カルト「ああ、俺達の悲願がついに達成されるときがきたんだ」
ミーナ「ところで・・・さ、ハルヒコのいないところで聞いておきたいんだけど」
カルト「なんだ?」
ミーナ「いざというとき、ハルヒコを盾にするって話。あれ本気?」
カルト「・・・」
カルト「・・・あっはっはっは」
ミーナ「な、何よぉ」
カルト「お前までそう思ってるとしたら、俺の演技はなかなかだってことだな」
ミーナ「どういうこと?」
カルト「ありゃ冗談だ。俺一人生き残ったところで魔王には勝てん。ハルヒコがいるから、流星騎士団は魔王と戦えるんだ」
ミーナ「じゃ、じゃあなんであんなこと」
カルト「あいつ、自己評価が極端に低いだろ?」
カルト「危機に直面したとき、あいつは自ら盾になりかねん」
ミーナ「確かに・・・。先に盾にするって言っておけば」
カルト「あいつは自ら盾になるような動きをしないだろう。『きっと僕を盾にしてくれるはずだ』ってな」
カルト「お前達には悪いが、流星騎士団の要はあいつだと思ってる。だからいざという時、俺はあいつの盾になるつもりだ」
ミーナ「・・・エ、エモい」
カルト「は?」
ミーナ「男子の秘めた友情! めちゃくちゃエモいわ!」
ミーナ「はー、ご飯三杯はイケるわー」
カルト「おい、あいつには言うなよ!」
ミーナ「くぅーー!」
〇西洋の街並み
ミーナ「ってことがあったのよ。あれ? ハルヒコは?」
ネルソン「向こうの建物の影で泣いてる」
元より生き返らせるつもりではあったが、俺はより強く、カルトを生き返らせる決心を高めた。
〇空
〇空
〇空
〇空
〇空
俺「やっと貯まった」
ミーナ「そだねー、長かったよ」
ネルソン「レベルが高いほど復活料金がかさむからな」
ミーナ「じゃ、行こっか」
俺「ああ」
〇教会の中
神父「迷える子羊よ。本日は何をお望みかな」
俺「仲間をーーカルトを生き返らせてくれ」
神父「なかなかの高レベル者だ。お布施額はそれなりに・・・あるようだな」
俺「ああ、頼む」
神父「良かろう」
神父「神よ! 汝の子、カルトを今一度この世に呼び戻し給え!」
カルト「ん・・・」
俺「カルト!」
カルト「声がするな・・・」
俺「こ・・・声?」
カルト「ああ、アホな補助魔法使いの声がする!」
俺「カルトー!」
カルト「あっはっはっは。」
俺「あっはっはっは」
カルト「あっはっはっは」
カルト「ミーナとネルソンもいるな」
ミーナ「いるよー」
ネルソン「久しぶりだな! カルト」
〇空
カルト「よおし! 今夜は祝杯だ!」
俺「あ、ごめん。カルトの復活費用で今ほとんどお金ない」
カルト「マジか」
ようやく揃った流星騎士団。
これからも最高の四人は終わらない冒険を続けていくのだ。
〇黒
〇電脳空間
???「精神障壁第三層を解除」
???「潜在意識をバイパス 側頭葉のデータ領域へのアクセスを確保」
???「ハルヒコ・・・いや 葛西晴彦。貴様らの悪事も これまでだ」
〇大きな日本家屋
〇古風な和室
葛西 晴彦「ん? ああ、夢か。 ふふふ・・・何とも子供じみた夢か 齢70にもなって」
「バタン、ガラガラ」
「親父! 親父はいるか!」
田辺 哲朗「お、親父! 大変だぁ!」
葛西 晴彦「なんだ、騒々しい 久々に楽しい夢を見たというのに」
田辺 哲朗「夢見てる場合じゃねぇよ、親父! サツが事務所にかち込んで来たんだよ!」
葛西 晴彦「なんだと! 理由は?」
田辺 哲朗「わからねぇ。ただ、奴ら 俺達が裏でやってるシノギの内容を 詳しく知ってやがった」
葛西 晴彦(馬鹿な! 俺の組の中にスパイがいたと?)
葛西 晴彦「柳沢は? 三笘は?」
田辺 哲朗「兄貴達はしょっぴかれてったよ。 二人とも真っ青でよ。 親父、俺達どうすればいいんだよ!」
葛西 晴彦「慌てんじゃねぇ! ヤクザがシノギの一つや二つ 見つかったところで オタオタすんな!」
葛西 晴彦「哲、車出せ。事務所に行こう 俺なら警察にも顔が利く。 強制捜査の一時中断くらいはできるはずだ」
田辺 哲朗「わ、わかっ・・・」
ウーウー
キキッ
刑事「葛西晴彦だな」
刑事「恐喝罪、詐欺罪、銃刀法違反、 殺人罪にて逮捕状が 出ている。署までご同行願おう!」
葛西 晴彦「な・・・証拠は!」
刑事「証拠なら先程確認した。 君達の事務所にあるパソコンから 山程でてきたぞ」
葛西 晴彦「嘘をつけ! あのパソコンには何重もの プロテクトがかかっているはずだ 解除できるのは俺だけだ」
刑事「これでも嘘だと思うかね パソコンの画面を印刷した一部だが」
葛西 晴彦「・・・・・・」
刑事「署までご同行願えますかな」
葛西 晴彦「あ、ああ・・・」
〇大きな日本家屋
ウーウー・・・
警察官「刑事! 葛西をパトカーで送り出しました」
刑事「ご苦労。これで、葛西組も終わりだな・・・」
警察官「刑事、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
刑事「ああ、なんだい?」
警察官「葛西のパソコンのプロテクトですが、 京都府警のサイバー課でも 無理だったと聞いています。 一体どうやったんですか?」
刑事「それが気味が悪いんだがな 匿名のタレコミがあったらしい」
警察官「匿名のタレコミ?」
刑事「ああ、葛西組の事務所の間取りから情報端末の場所、挙げ句パスワードまで完備という徹底具合でな。 上も重い腰を上げたのさ」
警察官「一体、誰がどうやって調べたんでしょうか」
刑事「さてな。民間諜報員の個人情報は保護されて連絡もできない。 どこの誰で、どうやってやったのか、末端の俺たちにはわからんさ」
刑事「ただ──」
〇渋谷駅前
その諜報員の名前は・・・
「ミスターRPG」と呼ばれているそうだ
〇大きな日本家屋
アナウンサー「葛西組組長、葛西晴彦容疑者が 殺人罪等の容疑で逮捕されました」
アナウンサー「これまで数々の犯罪に関与されている という噂があった暴力団組織、 余罪の追求が注目されます」
〇渋谷駅前
草場 駆人「・・・・・・」
櫻屋敷 奏美「どうした駆人。 何か珍しいニュースでもあったか?」
草場 駆人「悪人とはいえ、あちらの世界で あいつと俺には確かな友情があった それを思うとな」
櫻屋敷 奏美「葛西組はいささかやりすぎた 死人も被害額も相当なもんだ お前が悔いる必要は全くない」
草場 駆人「ああ、わかってはいるんだけどな」
櫻屋敷 奏美「人の精神に入り込み 架空のエピソードで信頼関係を構築 ガードが空いたところで対象の記憶を 掠め取る・・・」
櫻屋敷 奏美「全く恐ろしい能力だ」
人は苦楽を共にした仲間を信頼する生き物である
その性質を利用し、
対象者と信頼関係を構築する夢を見せる能力──
その夢が、とある種類のゲームに
酷似していることから、
彼はこう呼ばれている
”ミスターRPG” と
草場 駆人「じゃあな、ハルヒコ。 刑務所でも元気でな」
タイトルに引かれてやって来ました。
序盤のテキスト使用はRPG感の表現と伏線を兼ねているとは。
主人公が面会に行けば気付いてくれるのでしょうか。
面白かったです!
ゲームの中だけのお話しも面白い設定ですし、仲間と思っていたのに2重に裏切られる切なさもあり、こういう作品が好きです。
続編期待しちゃいますね。
面白かったです。
意外性があって、謎が解けて話がつながる気持ち良さがありました。
キャラもカルト君格好いいですね。確かに短編だともったいないかも。