「貴様は怪人か?」(脚本)
〇立ち飲み屋
モブB「なあ知ってるか?「怪人」のウワサ」
モブA「「怪人」なんて、随分と昔の言葉だな」
モブA「俺たちのご先祖が地球に移住してきた、今から100年ぐらい前に使われてた言葉だろ?」
モブA「『「怪人」呼びだと差別的だから、単純に異国の人という意味で「異人」と呼ぼう』って話が出たのが数十年前」
モブA「今じゃ「怪人」なんて、教科書か歴史番組でしか聞かない言葉だぞ」
モブA「どうして今どき「怪人」のウワサなんだ?」
モブB「それがよ、なんでもその「怪人」に会うと『貴様は怪人か?』って聞かれるらしいんだ」
モブB「それで、『怪人だ』って答えるとそのままどっか行くみたいなんだけど」
モブB「『怪人じゃない』って答えると殺されちまうんだってよ!」
モブA「よくある都市伝説の類か?」
モブB「いやいや。最近、路地裏で死体が見つかったってニュースがよくやってるだろ?」
モブB「あれの犯人がそいつなんじゃないかって話だ!」
モブA「そういうのを都市伝説っていうんだよ・・・」
モブA「因みにどんな見た目なんだ?」
モブB「灰色の鎧みたいな体に紫のスカーフを着けた「異人」らしい」
モブA「「異人」・・・同族殺しか・・・」
モブA「・・・なあ、外にいるアイツってまさか・・・」
モブB「!!!」
モブB「マジかよ!逃げた方がいいかなぁ!?(小声)」
モブA「・・・いや冗談だよ」
モブA「そんなお尋ね者がこんなところに居る訳ないだろ。しかもあんなに堂々と」
モブB「だ、だよなぁ・・・驚かせんなよ!」
モブA「悪い悪い。それはそうと、そろそろ次の店に行きたくなってきたな」
モブB「おお、そうだな! あ、俺いい店知ってるぜ・・・」
〇飲み屋街
どいつもこいつも・・・「異人」?ふざけたことを抜かす。この星において我らは畏怖されるべき「怪人」のはずだ。
それなのに「異人」等と。人間の良いように扱われるなど我慢ならないし、そのように落ちぶれた者共を見るのも耐えられない。
バルア「あれは・・・人間と共に行動する怪人・・・いや、きっと「異人」だろう」
バルア「人間への従属を選ぶような輩は切り捨てねばならん」
〇ビルの裏
クロイツ「うう・・・頭痛い・・・」
和葉「だから言ったじゃん。キミはお酒弱いんだからさ、無理して私に合わせなくて良いんだって」
クロイツ「今日は君の誕生日なんだ。記念日ぐらい、一緒に飲みたいじゃないか」
クロイツ「うっ・・・頭痛い・・・」
バルア「貴様は怪人か?」
「!!」
クロイツ「そのセリフは・・・最近ウワサの「怪人」というのは君か」
和葉「ヤバいじゃん!殺されちゃうよ!」
バルア「答えろ。貴様は怪人か?」
和葉「ええと・・・確か「怪人じゃない」って答えれば見逃してくれるんだっけ?そう答えて早く逃げよう!」
クロイツ「・・・」
クロイツ「いいや、僕は異人だ。怪人じゃない」
和葉「えっ」
和葉「クロイツ君!?何言ってるの!?殺されちゃうよ!?」
クロイツ「僕は「異人」であって、「怪人」じゃない」
クロイツ「ごめん、和葉。でもこれは譲れない」
バルア「怪人を捨て、異人へと堕ちた貴様を生かしては置けん」
バルア「死ね」
クロイツ「でも安心して、僕は死なないから」
クロイツ「一度君とは話をしてみたかったんだ。どうしてそんなに「異人」を目の敵にするんだい?」
バルア「今から死ぬ貴様に教えても無駄だ」
クロイツ「そうかい・・・・・・じゃあ、死ななければ話してくれるんだね?」
バルア「やれるものならな」
クロイツ「どう?そろそろ話す気になった?」
バルア「・・・・・・良いだろう、貴様の実力を認め、話ぐらいは聞かせてやる」
バルア「今からおよそ100年前、我らの先祖は戦争により荒れ果てた故郷を捨て、地球へやって来た」
バルア「その時、人間を殲滅し地球を奪い取ろうとする侵略派と、平和的に共存を望む穏健派に別れていたのは貴様も知っているだろう?」
クロイツ「ああ。穏健派の尽力のお陰で、今の人間と異人の暮らしがある」
バルア「それを良しとしたのは穏健派のみだ」
バルア「元来、我々は争いを是とする種族。故郷を離れたとてその本質は変わりようもない筈」
バルア「「怪人」と恐れられ、人間との諍いが絶えなかった時代こそ我らが正しく存在していた時だ」
バルア「だが和平だ何だとほざく穏健派は、その諍いを沈めたのみならず「異人」などという呼称を受け入れ、人間に従属する道を選んだ」
バルア「我が使命は腑抜けた「異人」を排除し、同胞の夢見た戦乱の世を取り戻すことだ!」
クロイツ「・・・つまり、君は侵略派を再興し、争いを起こしたい。という事かい?」
バルア「そうだ」
クロイツ「なるほど、君の主張は分かった。これまで受け継がれてきた争いの歴史を絶やしたくない」
クロイツ「そのためにも、「怪人」として在りたい、平和を望む「異人」を排除したいと思っている訳だ」
バルア「理解したのなら、死ね」
ガキィン!
クロイツ「それはできない」
バルア「!我が身が吹き飛ばされるだと!?貴様ッ・・・」
クロイツ「次は僕の話をしようか」
クロイツ「僕の母は穏健派の異人だ」
クロイツ「地球に来た当事者である僕の祖母の後を継いで、人間と異人との関係をより良いものにしようと、毎日あちこち駆け回っていたよ」
クロイツ「僕はその姿を見て、母が作ったこの世の中を護りたいと、人間と共に生きたいと思ったんだ」
クロイツ「君は人間との共生を「従属だ」と言ったね」
バルア「弱者に歩調を合わせるなど、従属でなければ何だ」
クロイツ「僕達の故郷では確かにそうだ。でも地球では違う」
クロイツ「生まれ育った星も、文化も違う人間と共に生きるなら、僕達も変わらなきゃいけない」
クロイツ「変わるべきだ」
バルア「ふざけるな!!」
バルア「幾千、幾万年と生き残って来た我らの、我が祖先らの強者としての矜恃、それをここで捨てろと!?」
クロイツ「変わるなら今だ」
バルア「よくもいけしゃあしゃあと!」
クロイツ「ぐっ・・・」
バルア「貴様の強さに敬意を表し、楽に死なせてやる・・・」
和葉「やめて!」
クロイツ「!」
クロイツ「か、和葉!? 危ないから君は逃げるんだ」
和葉「危ないのはクロイツ君もでしょ!?」
和葉「ねえ貴方、話は聞いてたわ」
和葉「貴方はどうして暴力でしか解決できないの? どうして暴力でしか解決しようとしないの?」
和葉「私達には言葉があるし、貴方にだって言葉がある。話し合えば済むことじゃない!」
バルア「貴様には分からないだろうな」
和葉「・・・」
バルア「我らの種族は誰一人として同じ見た目をしていない」
バルア「二本腕の親から六本腕の子が生まれ、魚の見た目をした親から犬の見た目をした子が生まれるような種族だ」
バルア「親族以外の誰もが、時には親族でさえも、自らの命を脅かす外敵となる」
バルア「そんな世界で生き残るには力を持つしかない。そして力を持つ者同士が対立すれば、武力衝突が発生するのは必然」
バルア「それが我らの歴史だ」
和葉「そんな・・・」
バルア「分かったか。人間と我々では根本的に違う。話し合いなど、脆弱な人間だからこその手段だ」
和葉「分かんないよ!」
和葉「人間だってみんな違う。肌や髪、目の色もそうだし、性格も、考え方だって誰一人として同じじゃない」
和葉「確かに人間は弱いかもしれないけど、人間の歴史にだって武力にものを言わせた衝突は沢山あった」
和葉「でも、そういった対立を乗り越えたからこそ今があるんだよ」
和葉「「争いしかない」と思ってたらずっと変わらない。でも変わろうと思えば誰だって変われる」
和葉「現に、貴方の嫌う異人は、話し合いで人間と和解してる。変われないだなんて思い込みだよ」
バルア「どうしてそこまでそこまで異人の肩を持つ。見た目どころか生物としての種族すら違うのだぞ」
和葉「言ったでしょ。人間だってみんな違う。それに・・・」
和葉「私は異人が、彼が好きなの。好きな人の味方をするのは当然でしょ?」
バルア「・・・やはり理解出来ん」
和葉「残念ね。でも、私はここからどく気はないわ」
バルア「我が野望を阻む者は全て排除する」
バルア「人間は異人共を全て屠ってからからにしようと考えていたが・・・貴様は先に殺してやる」
和葉「・・・!」
〇ビルの裏
和葉「・・・?」
和葉「!!」
和葉「クロイツ君!?」
クロイツ「ありがとう和葉。心配かけてごめんね。もう大丈夫だ」
クロイツ「はァッッ!」
バルア「うぐっ!?」
クロイツ「・・・・・・暴力によって全てを解決しようという君の考えも、否定はしない。確かにそれも一つの手段ではある」
クロイツ「でも、犠牲になった人達の分、罪は償って貰うよ」
バルア「貴様・・・・・・」
バルア「異人だなんだと言いつつも、それ程の力を持つ貴様は」
バルア「人間を恐怖に陥れる「怪人」となんら変わりはないではないか!」
クロイツ「そうかもしれない」
クロイツ「だからこそ変わらなければならないし、変えなければいけない」
クロイツ「この力を使う必要のないようにね」
〇渋谷のスクランブル交差点
モブB「なあなあ、あのニュース見たか?」
モブA「見たよ。路地裏の死体の犯人が見つかったんだってな」
モブA「お前が昨日言ってた「怪人」のウワサ、アレ都市伝説じゃなかったんだな。見た目も昨日聞いたのと同じだったし」
モブB「ほらな!オレの言った通りだろ?」
モブB「うん?待てよ、ってことは昨日居酒屋の外にいたのは本物・・・!?」
モブA「まあそんな事は良いだろう」
モブA「ともかく、平和が戻ったんなら今日もまた飲みに行こうぜ」
モブA「昨日はお前のオススメの店に行ったから、今日は俺のオススメの店に連れてってやるよ」
モブB「おお、良いな!」
モブB「お前がどんな店を紹介してくるのか、お手並み拝見といこうじゃないか」
和葉「平和が戻ったね」
クロイツ「うん。これからも、僕はこの平和を護る。母さん達が作ったこの平和を」
クロイツ「これからもずっとね・・・」
END
人間と異人と怪人、三つの立場からの意見がそのまま当てはまりそうな対立関係が世の中にはたくさんありますね。日本人と外国人とハーフ、ゲイとバイとヘテロ、等々。どんな場合も、和葉やクロイツが示したような勇気を突破口として、共存を目指す姿勢が重要なんですね。毎晩飲み歩いているモブたち、楽しそうでした。
同種族のものがそのアイデンティティー保ちつつ他の人種と関わるのなら問題はないとおもいます。視点は違いますが、私は固有の文化がアレンジされて世に知れ渡っていく様に、この怪人と似たような怒りを感じます。理想的な共生をめざしたいですね。
異人が人間と仲良く生活しているように、異人も怪人も同種であれば仲良くやってほしいな。異人が人間社会に同調しているのが良かった。