読切(脚本)
〇ビルの裏
怪人「ぐわああああっ!?」
カイジンさん「やっぱ、変身無しで倒すのは無理だわ」
〇渋谷の雑踏
人類が突然変異し怪人化する現代
急増する怪人犯罪に対し、警察は無力だった
政府は怪人に対抗すべく数名の天才科学者を集め、変身ベルトを作成
志願者を集い、ヒーローを生み出すことに成功するのだった
今や人造ヒーローがいたるところに存在している
〇ビルの裏
怪人にとっては住みづらい世の中になったものだ
特救マン「な、なんだ今の爆発音は!?」
くっ、面倒なことに・・・
カイジンさん「あ、ヒーローさんお疲れ様です! えっと・・・ 怪人がいたんですが、勝手に爆発しました」
特救マン「嘘こけ! 怪人が勝手に爆発するか! 君、見たところ一般人のようだが・・・腰に変身ベルトつけてたりする?」
カイジンさん「いえ、俺はその」
困った。
どうすればベルトを見られずに済むのだろうか?
千歳「あー! お兄ちゃん!! こんなとこにいたんだ! 危ないでしょ! ここ怪人が出るって有名だよ!!」
カイジンさん「・・・お、おう」
千歳「ヒーローさん お兄ちゃんがご迷惑をおかけしました」
ペコリ
千歳が頭を下げる
特救マン「え? あ・・・ははは! そう、だね。怪人に襲われていて危ないところだったよ!」
千歳「まあ! 助けくださったんですね! ありがとうございます!!」
特救マン「いやいや市民を守るのがヒーローの役目だからね」
千歳「ご立派です! それではこれで!!」
千歳は再度頭を下げた
よくやるわこいつ
千歳「帰るよおにーちゃん!!」
カイジンさん「せ、せやな」
〇商店街
千歳「あームカつく! なにあのヒーロー本当は怪人倒してないくせに!」
カイジンさん「いや、そういう方向に話をずらしたのは千歳だろ? なんだよおにーちゃんって」
千歳「だって仕方ないじゃない!! そうしないとカイジンさん事情聴取で連れて行かれちゃうでしょ? 晩御飯が冷めちゃう!」
カイジンさん「社会貢献より夕飯が大事かぁ」
千歳「あたりまえでしょ? 社会貢献をするためのご飯よ! カイジンさんにはもっと頑張ってもらわなくちゃ!」
〇高級一戸建て
千歳は両親を怪人に殺されている
〇入り組んだ路地裏
天涯孤独の身になった千歳は両親の残した遺産と共に
その頃腑抜けてさまよっていた俺の前に現れた。
千歳「私みたいな子をこれ以上出さないためにもあなたの力が必要よ」
カイジンさん「君は・・・この前の」
千歳「戦って!! あなたのサポートは私がする」
〇商店街
千歳は今笑っていられるのが不思議なくらいつらい目にあっている
カイジンさん(この子の為にも俺は・・・)
千歳「・・・カイジンさん、大丈夫?」
カイジンさん「え、大丈夫だけど?」
千歳「でも・・・変身してるわよ?」
カイジンさん「ほわっ!?」
通行人「出たぞー! 怪人だ!!」
通行人「怪人よ!!」
通行人「きゃああああ!!」
カイジンさん(や、やばい! ここを離れなくちゃ!!)
千歳を抱えて民家の屋根にジャンプする
通行人「ヒーロー早く来てくれ! 怪人が女の子を攫ったぞ!!」
千歳「・・・カイジンさん、油断してたでしょ?」
屋根の上を走っていると抱き寄せた千歳がため息をついた
カイジンさん「ちょ、ちょっと考え事してたら・・・」
千歳「上の空、駄目っと・・・」
千歳はカイジンノートと書かれたノートに新たな項目を付け足していた
〇アパートのダイニング
カイジンさん「なんで勝手に変身しちまうかな」
千歳「晩御飯冷めちゃったじゃない!!」
えー、俺のせい?
カイジンさん「わ、わりい」
千歳「はあ、まあ体質だから仕方ないわ それよりカイジンさん、上の服、脱いで」
カイジンさん「え、嫌だよなんで?」
晩御飯を冷ました罰に腹踊りでもしろってか?
千歳「いいから早く」
しぶしぶ上を脱いだ俺の腹部には変身ベルトが
ただ、俺の変身ベルトはヒーローのそれと違って、禍々しく腹部の肉と癒着している
千歳は物差しを取り出した
千歳「やっぱり、変身ベルトが朝より5ミリお腹に食い込んでる」
は?
カイジンさん「い、いつの間に図ったんだ?」
千歳「カイジンさんが寝ている間よ」
カイジンさん「まじかよ・・・」
何故気づかなかったんだ俺
千歳「カイジンさん大丈夫? 記憶が変とか、体がおかしいとかない? 自分の名前を思い出せないだけで済んでる?」
不安そうに見上げる千歳
心配をかけていたようだ
カイジンさん「大丈夫だよ。俺はまだ戦える」
千歳が怪人を倒せと言うのなら俺は戦う。
例えこの身が滅びようと──
千歳「無茶する人は皆そう言うのよ。 もっと自分を大切にして!!」
見透かされていた
カイジンさん「・・・はい」
その時、テレビに臨時ニュースが入った
〇街の全景
速報です。
S県F市にて怪人による強盗事件が発生しました
怪人は人質をとっており、銀行内に立てこもっているとのことです
なお、近隣のヒーローが対応に当たったところ返り討ちにあい、現在硬直状態が続いております
付近の住人は事件現場には決して近づかないよう──
〇アパートのダイニング
カイジンさん「S県F市ってここだ」
千歳「カイジンさん行くよ!」
カイジンさん「え? ご飯は・・・」
千歳「悪いけどご飯は後! 犠牲者が出てからじゃ遅いわ!!」
カイジンさん「・・・」
それはごもっとも
〇屋上の端(看板無し)
少し離れた建物の屋上から事件現場を見下ろす
周辺には大量の警察車両と警察
怪人に倒されたのだろうヒーロー達がアスファルトの上に転がって介抱されていた
カイジンさん「・・・勝てるかなぁ?」
千歳「大丈夫。 私が見込んだあなたが負けるはずないわ!」
その自信はどこからくるのだろう
カイジンさん「でも、ま。そこまで信じられて引くわけにはいかないか」
千歳「カイジンさん、頑張って!!」
カイジンさん「おう」
俺は屋上から飛び降りた
カイジンさん「変身」
〇銀行
警官「君は完全に包囲されている。人質を解放して投降しなさい!! くそ!! ヒーロー!! なぜ踏み込まない!!」
セーラーマン「むやみに踏み込んだら人質が殺されるぞ! それに20名以上のヒーローを倒した相手だ。国の有名ヒーローを呼んだ方がいい」
警官「そんな金、地方の田舎町にあるわけないだろ!!」
セーラーマン「なら、このまま硬直状態を保つしかないだろ!!」
警官「な、なんだ!?」
セーラーマン「わからん、ただ、銀行の横の壁が爆発したみたいだ!!」
〇薄暗い廊下
カイジンさん「いてて、勢いつけ過ぎた。 けどま、土ぼこりで姿が見えなくてちょうどいい」
俺は一度変身を解く。
なぜなら人質がいるかもしれないからだ
銀行員「ひいいい! いいい! あ、新手の怪人だああああ!!」
あら、運悪く姿を見られていたらしい
カイジンさん「落ち着いてください、落ち着いて」
どしゅ!(後ろ首強打)
銀行員「あう・・・」
カイジンさん「よし、眠ったな」
カイジンさん「人質は1人だけか?」
銀行強盗の怪人「なんだぁ、てめえは? タダの人間じゃねーな。壁ぶっ壊しやがって新手のヒーローか? それにしては変な感じがするなぁ」
カイジンさん「わかるか? だけどそれを話してる時間はないんでな」
俺が元ヒーローで
人を殺めた結果、変身ベルトが闇堕ちし
怪人へと変身する体質になってしまったことなど今はどうでもいい話だ
カイジンさん「一撃で決めさせてもらうぞ・・・」
銀行強盗の怪人「へっ。怪人に変身する人間か。ヒーローの真似事なんてやめとけ。碌なことにならねえ。それより俺と一緒に一儲けしねぇか?」
握手を求められた。
どうやらこいつは仲間意識を持っているらしい
俺は首を横に振る
カイジンさん「・・・悪いが、俺はヒーローでも怪人でもない。千歳の為だけに戦うカイジンさんだ」
銀行強盗の怪人「そうかいじゃあ・・・死ね!!」
カイジンさん「悪いな、死ぬわけにはいかないんだ」
〇薄暗い廊下
警官「とつげきいい!!」
警察官達と、ヒーローが突入してきた
俺はライトに照らし出される
警官「新手の怪人か!? うて! うてええ!!」
警察官達が一斉に発砲する
カイジンさん「いた、いたたたたちょっ痛い! やめ、やめろごらぁ!」
警察官達「ひいい!?」
発砲が止まった。
ヒーローも一瞬震えていたように見えたが。流石、一般人とは違う
セーラーマン「お、お前、ここにいた怪人はどうした? まさか、そこの血だまりが・・・」
この状況はどう言い逃れしようとも逃れられない。かと言って彼らと戦うつもりもない。正体もばらせない。ならば・・・
カイジンさん「くくく、貴様らもそいつと同じようにしてやろうと思ったが・・・今は気分がいい。特別に生かしといてやる。さらばだ!!」
俺は勢いよく天井を突き破って外に出た
〇アパートのダイニング
お昼のワイドショーでは激論が交わされていた
〇テレビスタジオ
コメンテーター「この怪人は王ですよ怪人の王! 怪人たちの親玉に違いありません」
昨日の俺の姿が映し出される
怪人の王でも何でもない
コメンテーター「警官の証言からもうかがえるように悪の親玉に違いありません!! ねえヒーローさん!!」
昨日のヒーローが神妙にうなずいていた
セーラーマン「はい。あの怪人は明らかに格が違った。今まで戦ってきたどの怪人よりも残忍で冷酷なオーラを放っていました」
とんでもない誤解だ。
ごめん、怖がらせちゃって・・・
〇アパートのダイニング
千歳「悪者扱いしてなんなの! 事件解決したのはカイジンさんでしょ!!」
カイジンさん「まあまあ。ぶっちゃけ俺怪人だし・・・」
あの姿はどう見てもヒーローじゃない
千歳は悔しそうに俺を見上げた
千歳「違う! そんなこと言わないで!! カイジンさんは怪人じゃないわ! あの日から私のヒーローよ!!」
〇高級一戸建て
あの日──
怪人化した千歳の両親から千歳を守ったあの時か
それとも、怪人化した千歳の両親を
殺したその後か
〇アパートのダイニング
カイジンさん「・・・そうだな。せめて千歳の前ではカイジンさんはヒーローでいたいと思うよ」
いつかこの子があの日の記憶を思い出す時が来るのだろう。
でも、それまではこのまま──
千歳「いたいと思うじゃない! いるのよ!! ゆくゆくは世間にあなたは怪人じゃないって知らしめるの! わかった?」
カイジンさん「ぐへっ!? わかった! わかったからボディはやめてッ」
このまま穏やかな日々を過ごしていきたい
千歳「わかればいいわ」
カイジンさん、悪くないのに結果的に闇落ちして、女の子のために生きる道を選んで…健気(T-T)
女の子のご両親も、何で怪人化することになったのか…
ハードな話になりそうなのに、セーラーマンがぶち壊してくれました(笑)ありがとう、セーラーマン!
冤罪は許せないけど!(強めのデコピンの刑に処する!)
奇妙な縁で一緒にいる二人ですが、お互いに必要とされているようです。
ただ、一緒にいる限りカイジンさんには穏やかな日々がやって来ないことがこの作品の面白いところ。お互い異なる動機を持ち、決してヒーローでもない二人が今後どうなるのか興味深いです。
誰かを思う気持ちは姿形は違えど同じなんだなと心温まるお話しでした。二人の気持ちが妙に優しく心に伝わってきました。二人がずっと幸せでありますように。