エピソード3(脚本)
〇散らかった職員室
再び近づく足音が全ての終わりを示すカウントダウンのように、着実に俺たちの元まで差し迫ってきている。
歩調が早まり、職員室までの距離は近い。
小田「・・・まずいな。このままだと見つかるぞ」
俺が走ってその場から離れようとするも、何故か佐崎は一歩も動かなかった。
小田「どうしたよ佐崎、早く逃げるぞ!」
佐崎「どーせ見つかるなら見つかればいいじゃない」
小田「お前、何いってんだよ、正気か!?」
佐崎「逃げるって・・・一体何処に? 逃げるとしても私たちの目的は此処なのよ。逃げたら写真が撮れないじゃないっ!」
小田「この状況でまだ七不思議の事考えてるのか?もう十分だろ、さっき撮った写真は七不思議以上の収穫だ」
佐崎「でも、暗かったからちゃんと撮れているか分からないし・・・」
俺たちが押し問答している間にも足音はどんどん近づいてきている。とにかく、ここから離れなければ
佐崎「あっ!そうだわ!」
佐崎「私たちが襲われる瞬間を写真におさめれば良いじゃない!」
佐崎「相手の顔をカメラにはっきり納めて証拠を得られたら、向こうも逃げ出すはずよ」
佐崎「私が撮影するから、小田君はおとり役よろしく。一緒に付いてきて!」
小田「はっ?何アホなこといって・・・おいっ!」
理解に追いつかない発言をすると、佐崎が足音のする方向に駆けていった。
追いかけて引き戻すか?・・・いやっ、俺だけ逃げる手もある。どうする。考えている時間はない。
俺は一度引き留めようとした。それに、佐崎は自分の意思で勝手に向かって行ったんだ。
小田「俺は知らないからなっ・・・!」
俺は結局、佐崎の後についていかなかった。考えた末の決断に後悔は・・・していない。
「キャー―ーーーッ!!」
小田「まさか・・・」
遠くで佐崎の叫び声が聞こえて無意識に足が止まった。しかし今の俺に再び戻る勇気はなかった。
小田「もう、終わりにしよう。儀式なんてやってられるかよ!」
〇まっすぐの廊下
「うわぁっ!!」
井上「急に出てくるなよ、びっくりしたー」
教室から飛び出すと、偶然にも井上と鉢合わせして互いに叫び声を上げた。
小田「なんだ・・・井上かよ」
井上「佐崎ちゃんの叫び声がしたけど・・・二人で何か見たのか?」
井上「叫び声あげて盛り上がってんなーっ思って面白そうだから来たんだけど」
井上「あれ?佐崎ちゃんは?」
小田「井上・・・」
井上「あっ!お前がそんな機嫌だから別行動になったんだろ。さては喧嘩別れだな?」
小田「井上!!」
井上「どうしたよ、大声だして・・・」
小田「佐崎が・・・何かに巻き込まれたかも知れない」
小田「お前が来る前、校庭で人を見たんだ。それを佐崎が撮影したら、相手が校舎に入ってくるような音が聞こえてきて・・・」
井上「えっ!?じゃあ、さっきの叫び声っておふざけじゃなくてガチのやつ!?」
小田「なぁ、井上がここに来る前、叫び声があっただろ?誰かとすれ違ったか?」
井上「いいや、誰ともすれ違ってないけど・・・佐崎ちゃん大丈夫かよ」
小田「お前がすれ違わなかったなら、別の場所に既に移動したんだろうけど、とにかく周辺を探してみない事にはまだなんとも・・・」
井上「だったら話してる場合かよ。佐崎ちゃん探すぞ!」
事情を話した途端、井上が足早に今来た道を引き返した。その後を黙ってついて行くと
2階へ続く階段で明かりが見えた。
〇階段の踊り場
小田「俺から取り上げた懐中電灯だ」
井上「こっちは佐崎ちゃんが大事にしてたカメラじゃん。どうしてこんな所に・・・」
小田「きっと誰かに襲われたんだ。あいつがこんな場所に大事なカメラなんて置かないはずだ」
井上「よし、2階に向かおう」
不明瞭な足下を先程拾ったライトで照らしながら、のぼって行く。
〇まっすぐの廊下
小田「おい、今の見たか?」
井上「え?何が?」
小田「人影っぽいのが向こうに見えたぞ」
井上「佐崎ちゃんか?」
小田「追いかけるぞ!」
〇学校のトイレ
一瞬で消えた影の方向を便りに歩いて行くと、そこに待ち構えていたものは人ではなくトイレだった。
井上「なんだよ、誰もいないじゃん。ほんとに見たのかぁ~?」
男子トイレを見て回ったが誰もいなく、井上が俺を疑いの目で見た。いないのなら考えられるのは一つだけだ。
小田「まだわからないぞ。こっちを探すまではな」
俺が隣の方を指差すと、井上はあからさまに怪訝な表情に変わった。
もし逆の立場だったら、俺もきっと同じような顔をしてたと思う。
井上「えぇ~?俺たち男だぞ?それともお前そんな悪趣味あったのか?・・・引くわ~」
小田「冗談抜かせ。こんな時に男も女もあるかよ」
井上「いやぁ~・・・女子トイレなんて入れないよ。俺わりとデリカシーもってるから」
井上「それに、もし佐崎ちゃんが中に入ってたら、嫌われたくないし・・・」
井上「俺は外で待ってるよ。報告受け付け係。だから小田だけで探しに入れって」
井上「トイレの花子さんに出くわしたらシャッターきるの忘れずになっ!」
そう告げると井上はそそくさとトイレから出てしまった。
小田「まったく、俺一人かよ。しょうがねぇな~」
〇女子トイレ
あまり気乗りしない足取りで女子トイレに入る。
男子トイレと比べて開けた空間が少ないせいか、自分の今の気分のせいか定かでないが、やけに窮屈に感じる。
小田「井上め・・・余計な事口にしたから3番目が気にかかるじゃねーか・・・」
トイレの花子さん。
たしか噂では三番目のトイレに出現するらしい。
花子さんと名前を呼びノックをすると、個室トイレの中から返事が返ってくるとかこないとか・・・
小田「そんな噂・・・まさかな」
嫌でも浮かんでしまった都市伝説を頭の片隅に追いやると、俺は一番目の扉からノックを始めた。