悪には悪の正義があるっ‼︎

川越駿光

第二話「望まぬ初陣」(脚本)

悪には悪の正義があるっ‼︎

川越駿光

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〇備品倉庫
一途 正義「ダスト・・・・・・シュート・・・?」
一途 正義「何を言ってるんですか? 私は『スターダスト・ヒーローズ』の入社試験に来たんです」
  俺の言葉に、彼女は大袈裟に肩をすくめる。
  その表情は、おもちゃを見つけた子供のように楽しげだ。
音羽 奏「君こそ、何を言ってるんだ?」
音羽 奏「ここは「ダストシュート」」
音羽 奏「この社会の陰で暗躍する、悪の組織なんだよ?」
一途 正義「悪の・・・組織・・・?」
  状況が理解できない。
  まるで不思議な国に落とされたようだ。
一途 正義「しかし私は、 メールの住所に従って・・・・・・」
音羽 奏「そう。 きみは自分の足でここにきた」
音羽 奏「自分で受付を済ませ、」
音羽 奏「自分でその席に座り、」
音羽 奏「そして自分の意思で、 この契約書にサインしたんだ」
  ヒラヒラと紙を動かしながら、
  笑う彼女。
  彼女が──
  いやこの組織が何者なのかはわからないが、
  ヤバいものに関わろうとしてる。
  そんな予感がする
一途 正義「・・・騙したのか?」
音羽 奏「おいおいおい。 人聞きの悪いことを言うな」
音羽 奏「私は何一つ、 これっぽっちも嘘をついていない」
一途 正義「──しかし、玄関に、 ”採用試験会場”の看板が!」
音羽 奏「うちは万年人手不足でね」
音羽 奏「常に入社希望者を募ってる。 それだけさ」
  そんなふざけたことがあるか。
  と言いかけて、口を閉じる。
  それよりも先に、
  確認したいことがある
  訳がわからないこの状況だが、
  これだけは確認しなくちゃいけない
一途 正義「──あんた、ここがヴィラン組織だと言ったな?」
音羽 奏「さっきから、そう言っている」
一途 正義「それじゃこれは、 ヒーローへの妨害行為なのか?」
音羽 奏「・・・なに?」
一途 正義「俺のような新卒生を強制的に誘導し、 入社試験の参加を妨害してるんだろ?」
一途 正義「ヒーロー組織の戦力を削る目的なんだろ!」
  俺は何度も送られてきた住所を確認した。
  送られてきたアドレスが公式なものであることも知っている
  あれが、フェイクだったとは思えない
音羽 奏「くくく・・・」
音羽 奏「きみは、ほんとに面白いな」
一途 正義「答えろ!」
音羽 奏「君が自分でここにきた。 真実はそれだけだ」
  そう言うと彼女は楽しそうに笑う。
  俺はそんな彼女を見て、埒があかないことを感じ取った
一途 正義「────失礼する」
音羽 奏「どこへいく?」
一途 正義「ここが場違いだと言うことはよくわかった」
一途 正義「俺は本来の目的地に向かう」
音羽 奏「・・・君は本当に今の状況を理解してないのだな?」
一途 正義「なに?」
音羽 奏「この紙はただの署名書でもなければ、 同意書でもない」
音羽 奏「うちの組織に忠誠を誓う契約書なんだよ」
音羽 奏「君は今、 法の力で縛られているのだ」
一途 正義「そんな読めもしない紙切れなんて知るかっ!」
一途 正義「俺は、『スターダスト』に行くんだっ!」
音羽 奏「はぁ・・・しょうがない」
音羽 奏「聞き分けのない坊やには、 お仕置きが必要だな」
一途 正義「なにを・・・」
  彼女がおもむろに、
  自分のズボンのポケットを触り出す
  その瞬間──
「うがぁぁぁぁぁっ!?」
  左腕に走った衝撃に、思わず体が跳ねる
  数秒の出来事だったが、
  この衝撃が続けば命に関わるものであると、
  瞬時に理解できた
一途 正義「こ・・・んの・・・っ!!」
音羽 奏「よせ。 外れやしない」
音羽 奏「むしろヘタに触って、 制御装置でも壊してみろ」
音羽 奏「”痛い”、じゃ済まなくなるぞ」
一途 正義「貴様ッ・・・」
音羽 奏「理解したか? 君はもう──”詰み”なんだよ」
一途 正義「くっ・・・」
  悔しいが彼女の言葉通り、
  俺は今やっとこの状況を理解した
  俺の人生は、
  俺の夢は、
  今、砕け散ろうとしていることを──
音羽 奏「・・・私だ」
音羽 奏「・・・そうか。 ああ、そうしてくれ」
音羽 奏「・・・・・・いや、まて。 もう1人追加だ」
音羽 奏「・・・ああ、丁度いいのがいる。 すぐそちらに向かう」
  彼女が通話を終える。
  クククッと笑うその表情は、
  また良からぬことを企んでいるように見える
音羽 奏「喜べ、一途くん。 早速仕事が入った」
一途 正義「誰が、ヴィランに協力なんか!」
音羽 奏「おいおいおい。 時間を無駄にさせるな」
音羽 奏「君に拒否する権利があるのかな?」
  腕時計を指すジェスチャー。
  悔しさで拳が震えてしまう。
  もう俺は逃げることもできないのか・・・

〇古い倉庫の中
皆川博士「・・・・・・やっときたか」
皆川博士「すでに5分遅れてる。 クレームになるぞ」
音羽 奏「構うものか。 無理を言ってきたのは先方だ」
皆川博士「今までの仕事に、 無理がなかったかは疑問だが・・・」
皆川博士「それで・・・そちらさんは?」
音羽 奏「新人の一途くんだ」
一途 正義「・・・・・・っ」
皆川博士「・・・その制服、『ヒーローエッグ』の生徒か?」
皆川博士「・・・音羽、トラブルはごめんだぞ?」
音羽 奏「何を言ってるんだ。 彼は正真正銘、うちの新卒生だ」
音羽 奏「きちんと自分で面接して、 合格したんだからな」
  心底おかしそうに彼女は笑う
  くそっ、
  いちいち言動が腹立つ
音羽 奏「紹介しよう。 彼は皆川博士」
音羽 奏「うちの機械全般を管理をしている」
皆川博士「機械関係と── 経理と、事業と、施設・・・の管理な」
皆川博士「おかげで万年寝不足だ」
音羽 奏「この通り、ジョークが好きな男だ」
音羽 奏「博士、彼も一緒に連れて行く。 用意は?」
皆川博士「出来てるが・・・彼の装備がないぞ」
音羽 奏「テキトーなものでいい。 あいつらに任せておけ」
音羽 奏「一途、早く車に乗れ」
一途 正義「・・・何をする気だ?」
音羽 奏「言ってるだろ? 仕事だ」
一途 正義「いやだ! ヴィランに協力なんてしないぞ!」
一途 正義「俺は、ヒーローになるんだっ!」
皆川博士「・・・・・・音羽?」
音羽 奏「ああ、そういうことだ」
  やれやれと彼女が肩をすくめる
  皆川とか言う男も、
  何か呆れた様子だ
音羽 奏「一途、もう一度言う。 ──車に乗れ」
一途 正義「断る! こんなとこして許されると思うなよっ!!」
皆川博士「・・・音羽、時間」
音羽 奏「わかっている」
一途 正義「何をされても俺は動かないぞっ!」
一途 正義「協力するぐらいなら、 死んだほうが────」
音羽 奏「──さっさと運ばせろ」
皆川博士「・・・・・・いいのか? 彼、”シロ”だろ?」
音羽 奏「ああ、だからこそ、 いつかは知ることになるんだ」
音羽 奏「どうせ知るなら早い方がいい」
皆川博士「・・・やれやれ、何が新卒生だ」
皆川博士「彼が真実を知って、 うちで働くわけがない」
皆川博士「お前は今、 ひとりの少年を壊そうとしているぞ」
音羽 奏「・・・・・・・・・」
音羽 奏「これで壊れるぐらいなら、 ハナからヒーローなど目指さない方がいい」
音羽 奏「この世界に、 彼が抱くような”正義”など──」
音羽 奏「ありはしないのだからな・・・」

〇車内
  う、うーん・・・・・・
ヤンス「お、起きたでヤンスね」
ゴリオ「シンイリ、ダイジョウ?」
「ここは・・・?」
ヤンス「車の中でヤンス」
ヤンス「大体の事情は団長から聞いたでヤンス」
ヤンス「今日はあっしらが お前をサポートしてやるでヤンス」
「あんたらは・・・?」
ヤンス「”ダスト”の戦闘員、 ヤンスでヤンス」
ヤンス「そしてこのデカいのが、ゴリオ」
ヤンス「南米人で、 日本語がカタコトでしか話せないでヤンス」
ゴリオ「ヨロシクネ」
  なんだこのふざけた連中は・・・
  俺はサーカスにでも、
  売り飛ばされたのか?
ヤンス「お前は今日から、 あっしらの後輩になるでヤンス」
ヤンス「うちは体育会系でヤンスよ。 しっかり先輩を羨むでヤンス!」
「これはどこに向かってるんだ?」
ヤンス「さっそく無視っ!?」
ゴリオ「タチカワノ、ゲンバダヨ」
「立川?」
ヤンス「立川で要請が入ったでヤンス。 すでに現場は動いてるでヤンスよ」
「どういうことだ?」
ヤンス「戦闘が始まってるってことでヤンス」
ヤンス「早く参戦しないと、 どやされるでヤンスよ」
「戦闘だって? 誰と戦うんだっ!?」
ヤンス「誰って・・・そりゃあ、 ヒーローに決まってるんでヤンスよ」
ヤンス「あっしら、”ヴィラン”でヤンスから」
ゴリオ「HERO、タタカウ。 オカネモラエル、ウレシイネ」
「なんだと・・・?」
  冗談じゃない
  俺はヒーローと戦うために、
  キツい訓練を耐えてきたんじゃない
  ヒーローになるために、
  ここまできたんだ!
「・・・降ろしてくれ」
ヤンス「おバカなことを言うなでヤンス もう着くでヤンス」
ヤンス「それに忘れたでヤンスか? その腕についてるものを」
ヤンス「それにはGPSもついてるでヤンス 逃げられないでヤンスよ」
「くっ・・・・・・」
ゴリオ「シンイリジメテル? ヨクナイヨ」
ヤンス「あっしじゃないでヤンス!」
ヤンス「いいからゴリオ、早く着替えるでヤンス! あとはお前だけでヤンスよ!」
「・・・着替え?」
  その言葉を聞いて、
  自分の服装に違和感を感じた
  自分の体を触る。
  その生地感といい、見た目といい、
  身に覚えのないものだ
  慌てて車のルームミラーを覗き込む
  そこには────
  信じられないぐらい、
  クソダサい自分の姿があった
  つづく

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