オメガ座の怪人

フカダタクヤ

オメガ座の怪人(脚本)

オメガ座の怪人

フカダタクヤ

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〇劇場の舞台
  その劇団には怪人がいる
  奇想天外な公演を次々に成功させて
  人々を魅了した「劇団青梅座」は
  いつしかそう噂されるようになった

〇劇場の舞台
青梅 小春「・・・なんて伝説の『劇団青梅座』も」
青梅 小春「花形役者だった私の爺ちゃんが引退してからは鳴かず飛ばずで、今やすっかり貧乏劇団」
青梅 小春「今度の舞台は、久しぶりにスポンサーもついて、こんなにすげぇ劇場で公演できるんだ」
青梅 小春「初日の公演まであと少し、今日も気合入れて稽古すんぞ!」
男性劇団員「ぐぅ〜、ぐぅ〜」
青梅 小春「おい、聞いてんのかオメガ!」
男性劇団員「ん?」
男性劇団員「小春、話は終わったのか?」
青梅 小春「てめぇ、今寝てたよな?」
青梅 小春「私の話が終わったところで、次はてめぇの人生を終わらせてやろうか!」
男性劇団員「それは困る」
青梅 小春「なら気合入れて稽古しやがれ、このタコ助!」
男性劇団員「小春は私が話を聞いていなかったことに怒っているのか?」
青梅 小春「あぁ?そうだよ」
青梅 小春「はらわたが煮えくり返りそうだぜ」
男性劇団員「小春の腹部から、はらわたが煮えくり返るほどの異常な発熱反応は見られないが?」
青梅 小春「物の例えだよ!」
青梅 小春「はぁ」
青梅 小春「オメガ、お前が演劇をやりたいって言って、この劇団を訪ねて来たときは、私だってそれはそれは感動したんだぜ?」
青梅 小春「それからしばらく経つってのに、未だにお前が何を考えてのるかはよくわからねぇしよ」
青梅 小春「外国からわざわざ日本に来たって言ってたけど、演劇は楽しいか?」
男性劇団員「楽しいという感情は、わからないが」
男性劇団員「小春が創る演劇には魅力を感じる」
男性劇団員「いつまでも観ていたいという気持ちになるのだ」
青梅 小春「バカ!それが『楽しい』ってことだよ」
男性劇団員「これが『楽しい』か」
青梅 小春「さぁ、いつまでも突っ立ってないで、雑用でもなんでもしやがれ!」
青梅 小春「最高の舞台を創るぞ」
男性劇団員「承知した」

〇劇場の座席
青梅 小春「それにしてもバカでけぇ劇場だな」
青梅 小春「うちのオンボロ劇場と交換してほしいぜ」
男性劇団員「小春、頼まれていた清掃だが・・・」
青梅 小春「おぉ、終わったか?」
男性劇団員「舞台上の異物を排除した」
  オメガの手には、くしゃくしゃに丸められた白いテープが握られていた
青梅 小春「ってお前、それ『バミリ』じゃねぇか!」
男性劇団員「バミリ?」
青梅 小春「舞台上で立ち位置を確認するための目印だよ」
青梅 小春「ったく、やり直しだ」
青梅 小春「さっさと、貼り直すぞ!」
青梅 小春「手伝え、オメガ」
男性劇団員「承知した」

〇舞台下の奈落
青梅 小春「よっこいしょ」
青梅 小春「ふぅー、やっと片付け終わったな」
青梅 小春「舞台がデカすぎるってのも考えもんだぜ」
オメガ「小春、備品がいつもより2cm前に出ている」
オメガ「このままでは落下の危険がある」
青梅 小春「2cm?細かいヤツだな」
青梅 小春「どうせ明日も使うから、これでいいよ」
オメガ「小春はここ数日、舞台準備が原因で過労の症状が見られる」
オメガ「疲労状態での作業は、予期せぬ事故を招くだろう」
オメガ「早急に十分な休養を取るべきだ」
青梅 小春「余計なこと気にしてんじゃねぇよ」
オメガ「小春にとって、今回の舞台はそんなに大切なのか?」
青梅 小春「当たり前だろ」
青梅 小春「今回の舞台には劇団青梅座の未来がかかってんだ」
青梅 小春「爺ちゃんが役者として活躍してたのは、私が生まれる前だ」
青梅 小春「だから、私は今の貧乏な青梅座しか知らない」
青梅 小春「でもな、私は爺ちゃんの創る演劇がすごかったことは知ってんだ」
青梅 小春「ボロボロの劇団に生まれて、ガキの頃からお化け屋敷だなんだと周りのヤツらにバカにされてきたけど」
青梅 小春「私は爺ちゃんが残してくれたこの劇団に誇りを持ってる」
オメガ「この劇団は小春の故郷ということか?」
青梅 小春「故郷?」
青梅 小春「まぁ、私にとって青梅座は家で、劇団員は家族みてぇなもんだな」
オメガ「故郷の大切さは、私にも分かる」
オメガ「この舞台、成功するように祈っている」
青梅 小春「成功するに決まってんだろ、タコ助」
青梅 小春「それに、お前も、もう家族の一員なんだぜ?」
青梅 小春「私たちで一緒に成功させるんだ」
オメガ「承知した」
青梅 小春「ったく、小っ恥ずかしい話させんじゃねぇよ」
青梅 小春「とっとと帰るぞ!」
  小春が歩き始めたと同時に、劇場の備品が小春の頭上に向かって落下した
オメガ「小春!」
オメガ「危ない!」
青梅 小春「えっ」
青梅 小春「うぉっ」
  備品が小春にぶつかる瞬間、オメガが小春の手を取り、間一髪衝突を回避した
青梅 小春「いててて」
青梅 小春「おい!大丈夫か、オメガ?」
オメガ「私なら問題ない」
青梅 小春「よかったよ」
青梅 小春「それにしても誰だよ、こんなところに機材を置いたヤツは」
オメガ「小春がそこに置いていたのを先ほど目撃した」
青梅 小春「あはは、私だったか」
オメガ「自分でやった作業を忘れるとは、かなり疲労が溜まっているようだな」
青梅 小春「って、えっ!?」
オメガ「えっ?」
青梅 小春「化け物だー!」
オメガ「はっ!」
オメガ「今の接触で変身が解除されてしまったのか」
青梅 小春「てめぇ、何者だ!オメガをどこにやった?」
オメガ「小春、落ち着いてくれ」
オメガ「私がオメガだ」
青梅 小春「お前、本当にオメガなのか?」
オメガ「そうだ、私はオメガだ」
青梅 小春「一体どうしたんだよ、その格好は?」
オメガ「これを説明するためには、まず私の故郷の話をしなければならない」
オメガ「遠く離れた宇宙に存在した星の話を」

〇カラフルな宇宙空間
  アストゥラピ星系
  特殊な電磁波を放つ恒星『アストゥラピ』を中心に
  α(アルファ)からΩ(オメガ)までの二十四層の環状惑星群から成る惑星系である
オメガ「それが私の故郷だ」
オメガ「地球の科学者たちは、私の故郷の惑星群を『オメガ座』と呼んでいる」
青梅 小春「じゃあ、オメガは宇宙人ってことか?」
オメガ「宇宙人という呼び方には違和感がある」
オメガ「我々から見れば、小春たちの方が宇宙人なのだから」
青梅 小春「まぁ、たしかにそうだけどよ」
オメガ「地球では、知能を持ち、人並外れた力を身につけた生物を『怪人』と呼ぶらしいな」
オメガ「その呼び名の方が我々には適切だろう」
青梅 小春「オメガ座の怪人」
オメガ「我々の星では、特殊な電磁波を放つ恒星『アストゥラピ』の恩恵を受けて生命が存在していた」
オメガ「そのため、我々は電気エネルギーを活用してヒトの姿に擬態したり、ヒトよりも遥かに強い力を発揮することができる」
オメガ「強い電磁波の影響を受けた生物、すなわち『アストゥラピ』に近い星の生物ほど、より大きな力を備えている」
青梅 小春「はぇ〜、すげぇな」
青梅 小春「そんなにすげぇ力を持ってるのに、なんで急に変身が解けたんだよ?」
オメガ「おそらく、先ほどの小春との接触が原因だ」
オメガ「我々の星に届く電磁波と、人の感情が生み出す電気信号は、よく似た性質を持つ」
オメガ「先ほど、小春の危機的な状況に際して、我々は『危ない』という感情を共有した」
オメガ「小春の感情が生み出す電気信号が、私の身体にも流れ込み、爆発的な力が生み出されたことで思わず変身が解けてしまったのだ」
青梅 小春「人の感情を理解できれば、パワーアップするってことか」
青梅 小春「役者にピッタリじゃねぇか」
オメガ「私がこの劇団に入った理由も、小春の演劇を見て、私の内なる電気エネルギーが共鳴するのを感じたからだ」
オメガ「そして、私はこの現象を発見し、 信号接続《シグナル・リンク》と名付けた」
オメガ「以前から、人間の電気信号が我々の力となることは知られていた」
オメガ「しかし、我々が十分に感情を理解しないまま、ヒトの感情が生み出す電気信号を吸収すれば、その神経細胞まで奪い取る結果となる」
青梅 小春「神経細胞を奪い取られた人間はどうなるんだ?」
オメガ「感情を生み出すことのできない廃人となる」
青梅 小春「こわっ」
青梅 小春「そもそも、なんでそんな危ない生物が地球に来てんだよ?」
青梅 小春「観光ってわけでもねぇだろ?」
オメガ「アストゥラピ星系」
オメガ「私の故郷はもう存在しない」
青梅 小春「えっ?」
オメガ「恒星『アストゥラピ』が終焉を迎え、惑星系は消滅したのだ」

〇舞台下の奈落
オメガ「我々は新たな生存可能領域を求めて、 地球の生態調査に来たのだ」
青梅 小春「お前のこと何も考えてないバカだと思ってたけど、いろいろ苦労してんだな」
青梅 小春「まぁ、よくわからねぇが、早く人間の姿に戻れよ」
青梅 小春「そのままじゃ帰れねぇだろ?」
オメガ「・・・この姿を見ても何も思わないのか?」
青梅 小春「おもしれぇ格好してんなとは思うけど」
青梅 小春「オメガはオメガだろ?」
青梅 小春「お前が悪いヤツじゃねぇってのは十分わかってんだよ」
青梅 小春「ほら、とっとと帰るぞ」
オメガ「承知した」

〇公園のベンチ
青梅 小春「すっかり暗くなっちまったぜ」
オメガ「小春、忘れ物をしたから先に帰ってくれ」
青梅 小春「ったく、早く帰ってこいよ」
オメガ「いるんだろう?」
オメガ「出て来たらどうだ」
謎の男「大きな力を感じて来てみれば」
謎の男「お前だったのか、オメガ」
謎の男「シータ、本当にこいつかよ?」
シータ「間違いない」
謎の男「人間と仲良くやってるみたいだけどよ」
謎の男「どうすればお前があんな強力な力を出せるんだ?」
オメガ「ラムダ、その質問に回答することは拒否する」
ラムダ「あぁ?最弱の星に生まれたお前が、俺に歯向かうってのか?」
ラムダ「力の差を思い出させてやる」
オメガ「ぐっ」
ラムダ「アルファも、人間は支配することに決めたようだぜ」
ラムダ「人間の味方をするなら、お前も粛清の対象だ」
オメガ「人間を支配することなど、できない」
ラムダ「なに?」
オメガ「彼らの演劇を見たことはあるか?」
オメガ「ヒトの創造力は自由だ」
オメガ「たとえ我々が力で上回っていたとしても、彼らの心を支配することはできない」
ラムダ「そうか」
ラムダ「なら、死ねよ」
青梅 小春「うちのタコ助が世話になってるみてぇじゃねぇか!」
オメガ「小春、なぜ戻ってきた」
青梅 小春「よく考えたら、単細胞のお前が1人で帰ってこれるわけねぇだろ」
青梅 小春「迎えに来てやったんだ、感謝しろタコ助」
オメガ「早く逃げてくれ!」
オメガ「我々の故郷では、恒星『アストゥラピ』に近い惑星で生まれた者ほど強力な力を持つ」
オメガ「彼は11番目の星『ラムダ』、最果ての星24番目の『オメガ』に生まれた私では勝ち目がない」
青梅 小春「うるせぇ!生まれた場所で、てめぇの価値を決めるんじゃねぇよ」
青梅 小春「やるぞ、オメガ」
青梅 小春「信号接続《シグナル・リンク》だ」
オメガ「しかし、あれは感情を十分に理解しなければ・・・」
青梅 小春「私を誰だと思ってる?」
青梅 小春「劇団青梅座、看板役者の青梅小春だ」
青梅 小春「どんな感情だって、完璧に表現してやるよ」
オメガ「承知した」
ラムダ「ごちゃごちゃと言ってるが」
ラムダ「死ぬ準備はできたのか?」
青梅 小春「あぁ、できたぜ」
青梅 小春「ただし、お前をぶちのめす準備がな!」
「信号接続《シグナル・リンク》」
オメガ「怒りの感情を受容した」
オメガ「この怒り、私が晴らそう」
ラムダ「なんだ?その力」
ラムダ「聞いてねぇぞ、こら!」
オメガ「他者を理解しようとしない者に、進化はあり得ない」
ラムダ「グハッ」
青梅 小春「やるじゃねぇか、オメガ!」
シータ「ラムダがやられたか」
シータ「あの力、アルファにも報告する必要があるな」
オメガ「待て!シータ」
オメガ「くっ、逃してしまったか」
青梅 小春「まあまぁ、ひとまず危機は去ったみてぇだしよかったじゃねぇか」
オメガ「小春、私のせいですまない」
オメガ「彼らの目的は地球を支配することだ」
オメガ「私がこの劇団にいれば、また狙われることになるだろう」
オメガ「私はすぐにここから立ち去る」
青梅 小春「何言ってんだ、タコ助」
青梅 小春「お前なしで、今度の舞台どうやって公演するんだよ」
オメガ「しかし、私がいると小春にも迷惑が」
青梅 小春「お前が迷惑なのは今に始まったことじゃねぇだろ」
青梅 小春「何度ヤツらが来たって、返り討ちにしてやればいいんだ」
青梅 小春「それに劇団青梅座には、怪人がいるってのはもっぱらの噂なんだぜ?」
青梅 小春「私は観客を魅了する『舞台上の怪人』になる」
青梅 小春「だから、お前は私と一緒にヤツらを倒す『オメガ座の怪人』として、手を貸してくれ」
オメガ「小春」
オメガ「私の手は着脱式ではないので、貸すことはできない」
青梅 小春「例えだよ、例え!」

〇劇場の舞台
  その劇団には怪人がいる
  役者と宇宙からの来訪者
  二人の怪人の新たな物語が
  幕を開けようとしていた
  オメガ座の怪人
  END

コメント

  • 見た目に反して口調ががらっぱちの小春がいい味出してますね。オメガとのコンビネーションも最高です。感情が共鳴して力を発揮する仕組みは、当然両者の相性や互いを思う気持ちが反映されるでしょうから、この二人なら今後も無敵なのでは、と期待してしまいます。

  • 『相手を理解しないものに進化はない!』というオメガのセリフが胸に突き刺さりました。私達人間がそうであるように、同じような境遇で生まれ育っても、人それぞれ違いがありますね。・・最後の手が脱却式ではない・・という彼の真面目さが愛おしいです!

  • 人間と怪物、怪物というよりは私は人間らしさを感じました。
    生まれや育ちは違えど、異文化でも話したり笑ったり一緒に行動すればどんなものでも理解し合えると私も思います!

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