第五話 田舎温泉の女神、田舎温泉へ帰る(脚本)
〇銀座
会社員A「女神様を返せぇぇぇ!」
会社員B「温泉うどんを食わせろぉぉ!」
神谷竜司「もううどんは諦めて、そばかラーメンでも食ってろよ!」
屋上の扉を破られたものの、ミコトの空を飛ぶ力で俺たちはどうにか、ビルを抜け出した。
しかしすぐに追いつかれ、銀座の街で温泉ラヴァーたちに追い回されていた。
神谷竜司「って、なんで飛ばないで走ってるんだよ!?」
ミコト「仕方ないでしょ! 飛ぶのって、メチャクチャ疲れるんだから!」
神谷竜司「そんなこと言ってる場合か!」
ミコト「じゃあ、空中で私が力尽きてごらんなさい!」
ミコト「あんたなんて地面にぶつかったらハンバーグの材料よ!」
ミコト「あ、私は女神だから大丈夫だけど」
しれっとエグいことを言うな、この女神は!
神谷竜司「いったいどうすれば・・・」
ミコト「方法がないわけではないわ」
神谷竜司「え?」
ミコト「私がいちばん最初に東京で温泉を沸かせた場所――」
ミコト「あそこに宿った『女神の加護』を解放すれば、温泉ラヴァーに宿った加護も消えていくはずよ」
神谷竜司「それを早く言ってくれよ!」
ミコト「仕方ないじゃない、怖くて忘れてたんだから!」
おいおい・・・
まぁ、いい! 希望の光は見えてきた。新橋に向かおう!
〇新橋駅前
──新橋のSL広場
ここにも当然のように間欠泉が吹き出している。
どうやら、ここが最初にミコトが温泉を沸かせた『始まりの場所』らしい。
だが・・・
会社員A「・・・温泉」
会社員B「・・・うどん」
神谷竜司「瞬間移動でもできるのかよ、あいつらは」
俺たちは物陰からこっそり広場の様子を覗きこむと、
そこには先ほどまいたはずの温泉ラヴァーたちが、うろうろしていた。
それも、何十人も・・・。
ミコト「ねぇすごい数なんだけど。もし、あんなところで女神の加護を封印する儀式でもしようもんなら・・・」
神谷竜司「間違いなく袋叩きだろうな」
ミコト「嫌よ、そんなの!」
神谷竜司「・・・ちなみに儀式が終わるまで、どれくらいかかる?」
ミコト「30分もあればできると思うけど」
出すのは一瞬なのに止めるにはそんなに時間がかかるのか・・・。
だが、こうなったら仕方がない。
神谷竜司「よし、わかった」
ミコト「どうする気?」
神谷竜司「俺があいつらをひきつける!」
そう言って、俺は温泉ラヴァーたちの前へ飛び出した!
ミコト「竜司!?」
神谷竜司「おーい! 温泉ラヴァーのみんな!」
会社員A「!!」
神谷竜司「俺がとっておきの温泉うどんを作ってやる! 食べたいやつは、屋台のある場所までついてこい!」
温泉ラヴァーの目が一斉にこちらを向いた。思った通りだ。
彼らが求めているのはあくまで温泉うどん。別に作るのは女神でなくてもいい。
要するに温泉うどんをくれれば誰でもいいのだ。
神谷竜司「さぁ、こっちだ!」
俺自身が先頭になり、温泉ラヴァーを誘導していく。
その様相は、まるで『ハーメルンの笛吹き男』のようだった。
もっとも・・・
ミコト「うう・・・なんか納得いかないわね・・・」
ミコト本人はどうも釈然としない様子だったが。
ミコト「まぁ、いいわ・・・今のうちに!」
ミコトは間欠泉に近づき──身体から優しく光を発した。
ミコト「我が拳に応え、現れししもべ・・・東京の温泉よ──我が声に従い静まり給え──」
ミコトは祈りを捧げ、儀式を開始したようだ。
一方、そのころ・・・
〇築地市場
会社員B「さぁ、早くうどんをくれよ・・・!」
何十、何百という温泉ラヴァーに囲まれ、殺気にも似た圧を感じながら、
俺はミコトの放置した屋台で、うどんを茹でていた。
神谷竜司「え、と・・・これくらいかな?」
会社員B「早くしろぉ、うどんをよこせ!」
目が血走っている。怖い。
神谷竜司「も、もうできるから、待ってくれ!」
麺をあげ、湯を切り──
俺は目の前の会社員にできたうどんを手渡した。
会社員B「お、おお・・・うどん、うどんだぁ・・・!」
うどんを受け取った会社員は箸も持たずに、素手で熱々のうどんを食らおうとしている。
恐ろしい。温泉とうどんは人をここまで狂わせるのか・・・。だが──
会社員B「ぐ、ぐああああああああああああっ!? ま、マズい! 食えたもんじゃねぇぇぇっ!」
会社員Bは絶叫とともにどんぶりを落とし、倒れてしまった!
会社員B「うう、湯切りはべちゃべちゃ・・・茹で過ぎで伸びてるし・・・こんなうどん食うくらいなら──」
会社員B「って、あれ? 俺はどうしてこんなところに?」
なんと、俺のうどんを食べた会社員は温泉ラヴァーの呪縛が消えて、正気に戻っていった!
・・・そこまでマズいって言われるのは少し傷つくな。
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