瞬きの爪痕

七嶋凛

ありふれた、かけがえのない日々(脚本)

瞬きの爪痕

七嶋凛

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〇荒廃した街
シン「はぁッ・・・はぁ・・・」
  ──逃げていた
  俺は、自分の罪から逃げようとしていた
シン(こんなこと・・・)
シン(するつもりじゃ・・・なかったのに・・・)
  悲鳴と怒号、何かが壊れる音。
  そしてまた悲鳴──
シン(どうして・・・)
シン「ッ・・・?」
シン(悲鳴じゃない)
シン(子供の・・・赤ん坊の・・・)
  ──瓦礫の街を走る
  よろめき、つまずきながら、たどり着いた
シン「っ・・・!」
  その子は泣いていた
  声のかぎり、力のかぎり
シン「・・・」
  おそるおそる、手を伸ばす
  触れた頬はやわらかくて──
赤ん坊「ふぁ・・・」
  小さな命が、泣き、笑う
シン(──助けなきゃ)
  そのために、俺自身がどうなろうと──

〇地下実験室
シン「ぬわ~!」
シン「ま、また失敗した~・・・」
シン「やっぱり、俺なんかには無理なんだ・・・」
シン(才能がないのはわかってる)
シン「・・・」
シン「いや!」
シン「次は成功する!」
シュン「ねえ、また爆発した!?」
シン「シュン! 危ないから、地下室には来るなって言ってるだろ」
シュン「危ないのは地下室じゃなくて」
シュン「おっさんだろ!」
シン「ッ・・・」
シュン「爆発させてるのは、おっさんなんだから」
シン「お、おっさんって呼ぶな~!」
シュン「シュンとシンなんて、ややこしい名前つけるおっさんが悪い!」
シン「うっ・・・」
  ──これが俺たちの日常
  爆発と、呼び名についての言い争い
  それから──
  ・・・──臨時ニュースです
  怪人の情報が入って来ました
  先ほど午後4時過ぎ、〇〇市××町で怪人の発生を確認
  対策班が現場に・・・被害の状況は──
シン「・・・──」
シュン「・・・おっさん!」
シン「えっ・・・」
シュン「もう、ニュース終わった」
シン(・・・終わってない)
  俺の服をつかむシュンの、小さな手を握る
シン(あの日はじまったものは、まだ続いている)
  怪人はどこからか現れ、破壊し、奪う
シン(急がなきゃ・・・)

〇公園の入り口
シュン「わ~ッ!」
シン「おっと!」
  倒れかけた自転車を支えると、シュンが眉を下げた
シュン「ぜんぜんまっすぐ走んない~・・・」
シン「大丈夫、すぐ乗れるようになるって」
シン「俺でも乗れるんだし」
シュン「う~・・・」
シン「ほら、ハンドル持って」
シン「次は成功する!」
シン「な?」
シュン「・・・うん!」

〇地下実験室
シン「・・・」
シン「はぁ~ッ・・・」
シン「・・・」
シン(弱音を吐いてる暇はない)
シン(俺たちは、償わなくちゃいけないんだ──)
  ──怪人の情報が入って来ました・・・
  現場では、対策班が・・・被害者についての──
  いや、仲間たちがどうあれ・・・
シン(俺は、罪を償う)
  そう決めたんだ
シン(必ず──)
シン「次は、成功する!」

〇明るいリビング
シュン「おい、おっさん!」
  ──成長したシュンは、反抗期を迎えていた
  ・・・わけでは、ない
シュン「ソファで寝るなって、何回も言ってるだろ」
  腰を庇いながら起きていては、おっさんと呼ばれるのを否定できない・・・
シュン「TVもつけっぱなしで──」
  臨時ニュースです・・・
  怪人が──教会の・・・建物に被害──
  ふいに画面が消えて、キャスターの声も聞こえなくなる
シュン「コーヒー飲む?」
  リモコンを置くと、シュンはついでのようにたずねた
  濃い目にしてくれと頼むと、俺は軋む体を地下室へと運んだ

〇地下実験室
  ──あれからまた月日が経ち
  それでもなお、俺は"それ"を完成させることができずにいた
  もう、あまり時間は残されていない
  少しずつ、体力の衰えを感じはじめている
  以前のように、走り回ることができなくなり
  ・・・──
  その時が──
  死が、刻々と迫っていた

〇地下実験室
  そこに行こうと言い出したのは、シュンだった
  数年前、廃墟になった教会だ
  思い出の場所というわけではない
  ただ、誰もいないところに──
  行かなくてはいけないということを、シュンもわかっていたのだ

〇荒廃した教会
  本当は、こんなところになんて来たくなかった
  でも──
シュン「泣くなよ、おっさん」
シン「シュン・・・!」

〇実験ルーム
  人は間違える
  何度だって間違える
  ほんの一瞬で──
  すべてを台無しにすることもできる

〇実験ルーム
シン「博士、このまま実験を続けるのは危険では・・・?」
博士「・・・──」
シン「それはわかっています」
シン「人々を救うために・・・ですが──」
  結果的に、実験は中止になった
シン「なっ・・・」
  襲撃者の姿を見て、一目でわかった
  科学者たちが──
  俺たちが、それを生み出してしまったのだ
  ありふれたバッドエンドだ

〇荒廃した街
  俺にできるのは、怯え、逃げ惑い──
  悔やみ、恐れ──
  タグのつけられた赤ん坊を抱き上げ・・・
シン「・・・」
  この子の怪人化を止める方法を、見つけること

〇地下実験室
シン(怪人化は、体内にとあるエネルギーを投与されることで起こる)
シン(そのエネルギーは、時間をかけて体内で結晶化していく)
  エネルギーの反応はすさまじく
  適合者は、通常の4倍から7倍の速度で成長し──

〇荒廃した教会
  シュンの瞳が、水色に輝きはじめる
  体内のエネルギーが、溢れ出そうとしているのだ
シン「ッ・・・!」
シン(効き目がないことは、俺が誰よりわかってる・・・!)
シン(それでも・・・!)
  やせた腕に、未完成の抑制剤を打つ
シュン「・・・」
シュン「・・・おっさん」
シン「シュ──」
  水色の光が爆発した
シン(エネルギーの臨界・・・)

〇地下実験室
  ──シュンの
  人間としての死
  そして・・・

〇荒廃した教会
  ──怪人としての誕生
シン(やっぱり・・・)
シン(俺なんかに、止めることはできなかった・・・)
シュン「・・・──」
  シュンが──
  怪人が、こちらを見る
  怪人化したものは、理性を失う
  例外は報告されていない
シン(間に合わなくて、ごめん)
シン(でも──)
シュン「・・・──」
シュン「次は、成功する!」
シン「・・・」
シン「・・・えっ?」
  その手にかかって死ぬつもりでいた俺に
  怪人は──
  シュンは
シュン「だろ?」
  笑って見せた
シン「シュ・・・シュン」
シン「お前、大丈夫なのか──」
シュン「うッ・・・!!」
シン「シュン!」
シュン「っ・・・」
シン「・・・!」
  硬質の外骨格が、砂のように崩れはじめる
シン(抑制剤が反応して──まったく効いていなかったわけじゃない・・・)
シン(間に合わなくて、ごめん)
シン(でも──)
  水色の光が瞬いて──
  消えていく
シン「・・・」
  ひとり、そっと目を閉じる
シン「・・・──」
シン(・・・そうだな、シュン)
シン(お前の言う通りだ)
  ──次は、きっと

コメント

  • 最近ニュースを聞く毎日なので、臨場感あふれるお話でした。切ないけど、立ち上がる元気をいただきました。
    感謝。

  • 悲しくも美しい、”生”を描いた物語ですね。2人のステキな関係性もですが、2人とも前を向き続けて必死に生きたところに”美”を感じます!

  • シンとシュンがお互いを想っていることがすごく伝わってきました。責任感というか、親心に近いのかなぁ?
    なんとかしなくちゃという気持ちで普通の日常を感じれないのかなぁとも思いました…。

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