怪人の話

NekoiRina

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〇洋館の廊下
男の子「はあ・・・」
男の子「怪人・・・どこにいるんだろう」
男の子「僕・・・今日、怪人に食べられるんだ」
男の子「食べられるって、どんな感じなのかなぁ」
男の子「痛いのは嫌だなぁ。 僕、注射だって怖くて泣いちゃうのに」
男の子「・・・付き合わせてごめんね?」
男の子「ひとりじゃ心細くって・・・」
男の子「大丈夫。怪人は人間しか食べない」
男の子「僕が食べられたら、すぐにおうちに帰っていいからね?道、分かる?」
ジョセフィーヌ「にゃあ・・・」

〇洋館の廊下
男の子「な、何?急に電気が・・・」
怪人「がおおおおおおおおお!」
ジョセフィーヌ「にゃあああああああ!」
男の子「うわああああああああ!」
男の子「って」
男の子「ちょっと。何がガオーだよ」
怪人「え」
男の子「食べるならさぁ、サラっといってくれない?ガオーとか言われたら余計に怖いよ」
男の子「そういう気遣いが出来ない怪人って、 どうかと思うよ?」
怪人「・・・すみません」
ジョセフィーヌ「にゃあ!」
怪人「ひいいいいっ」
男の子「何?猫が怖いの?」
怪人「ね・・・こ・・・?」
ジョセフィーヌ「にゃーーーーーー!」
男の子「こら、ジョセフィーヌ。 大人しくして?」
怪人「あの・・・それは一体?」
男の子「何?猫のことも知らないの? それでよく怪人やってるよね」
怪人「ね・・・こ・・・」
男の子「うちの猫。ジョセフィーヌだよ」
怪人「じょせふぃーぬ」
男の子「怖いの嫌だなぁって言ったら、ママが連れて行っていいわよ~って」
怪人「あの・・・少しだけ触ってもいいですか?」
男の子「いいよ」

〇洋館の廊下
怪人「・・・」
ジョセフィーヌ「・・・」
怪人「ふわあ・・・」
怪人「モフモフだ・・・何これ幸せ・・・」
男の子「ねぇ。僕が言うのもアレだけど」
男の子「僕のこと、食べないの?」
男の子「僕の覚悟を返してよ」
怪人「いや、食べたいですよ? めちゃくちゃお腹すいてますし」
男の子「じゃあ何で? 猫を撫でてる場合じゃないでしょ」
怪人「だって・・・私が君を食べてしまったら、ジョセフィーヌが悲しむでしょう?」
男の子「・・・そうだね」
男の子「めちゃくちゃ悲しむと思うよ?もう悲しむどころの騒ぎじゃないよ」
怪人「ですよね・・・」
怪人「それに私、こんな可愛い生き物を見たの、生まれて初めてなんです」
男の子「へぇー、すさんだ人生を送ってるんだね」
男の子「ずっとこの迷宮に独りでいるの?」
怪人「はい。私はここから出られない身」
男の子「どうして?」
怪人「私は怪人。人間を食べねば生きていけない。だから皆、私を忌み嫌っている」
男の子「まぁそりゃあ誰だって食べられたくないよ」
怪人「だから私はここに引きこもり、人間たちには関わらないようにしているのです」
怪人「ですが、もしも私が死ぬと、世界に災いが起きると言われている」
男の子「どんな災いなの・・・?」
怪人「いや、それが知らないんですよね」
男の子「はあ?そこめっちゃ重要でしょ」
怪人「私もそこのところ詳しく聞きたいのですが、人間を見ると空腹には勝てなくて」
怪人「話を聞く前に、 パクっといっちゃうんですよね」
男の子「バカなの?ちょっとは我慢しなよ」
怪人「だって私、月に1回しか食事を与えられないのですよ?めっちゃ辛くないですか?」
男の子「月に1回は辛いね」
怪人「そうでしょう?そうでしょう?」
怪人「世界に災いが起こらぬよう、私のことは生かしておかねばならない」
怪人「だけど、そんな沢山の人間を食べさせるわけにもいかない」
男の子「月に1回・・・が、最大級の譲歩条件だった。ってわけだな」
怪人「そうなんです」
男の子「そして今月、 生け贄に選ばれたのが僕だった」
怪人「なんかすみません」
怪人「しかし・・私も死ぬまでに一度、お腹いっぱいになるまで人間を食べてみたいです」
男の子「・・・」
男の子「じゃあ、一緒に外へ出てみる?」
怪人「・・・え?外に・・・?」
怪人「ま、ま、ま、まさか・・・」
怪人「君を生け贄に選んだ人間たちに、 復讐するつもりですか?」
怪人「私に人間を食べさせて全滅・・・」
男の子「違うよ。僕もお腹がすいたんだ」
怪人「ま、ま、ま、まさか・・・」
怪人「貴方も人間を食べるのですか?」
男の子「・・・ほんっとバカなの?」
男の子「この迷宮、食べ物なんて無いんでしょ?」
怪人「え。まあ・・・僕は人間しか食べないし」
男の子「その食生活、見直した方がいいよ」
男の子「ねえ、ほら!外に行こう! 何か食べに行こうよ!人間以外」
怪人「・・・僕は外には出られません」
男の子「なんで?」
怪人「さっき言ったでしょう?僕、人間からめちゃくちゃ嫌われてるんですよ」
男の子「それは仕方無いよ」
男の子「人間に見付からなければいいんだよ」
怪人「いやいや、それにね、ここ迷宮ですよ? そんな簡単には出られませんって」
怪人「実際、私がここから出られないように、この迷宮には沢山の罠が仕掛けられている」
怪人「それに鍵は町長だけが持っていて、内側からの解錠は出来ない構造なんです」
男の子「それって、これのこと?」
怪人「かぎーーーーー!え、どうして?」
男の子「町長たちも迷宮に近付くのは怖いんだろうね。食べられちゃうかもしれないから」
男の子「迷宮に着く、かなり手前で車を降ろされて、この鍵を渡されたんだ」
男の子「この鍵はレプリカ。飴で出来てる」
怪人「アメ?」
男の子「そう。鍵を開けて迷宮に入ったら、内側から鍵をしめること。そして鍵をしめたら、」
男の子「飴の鍵を食べなさいって」
怪人「なるほど・・・」
男の子「でも普通に考えて、鍵穴に突っ込んだ飴なんて食べたくないよ」
怪人「不衛生ですよね」
男の子「今までお前が食べた人間も、恐らくレプリカの鍵を持っていた。だけど・・・」
男の子「一緒に食べちゃったんだろうね。もしくは、その頭の炎で溶けてしまったか」
怪人「・・・」
男の子「さあ!来た道を辿ろう!」
男の子「僕わりと頭良いんだよね。来た道にあった罠っぽいのは全部解除しといたから」
怪人「ふおお・・・」
男の子「さあ、行こう!」

〇湖畔
ジョセフィーヌ「にゃあ~!」
男の子「うわあ、綺麗な湖!」
怪人「めっちゃ簡単に出られた・・・」
男の子「あ!ジョセフィーヌ!危ないよ!」
ジョセフィーヌ「にゃあ!」
男の子「ジョセフィーヌ!すごい! 魚を捕ってきてくれたんだね!」
ジョセフィーヌ「にゃにゃーん」
男の子「よし、皆で食べよう!」
男の子「おい怪人、その頭の火、借りるね?」
男の子「おおおお、いい感じで焼けた」
怪人「この聖なる炎で変な生き物を焼いた・・・」
男の子「ほら、怪人も一緒に食べよう?」
怪人「え・・・でも・・・」
男の子「食わず嫌いって、 大人としてどうかと思うよ」
怪人「・・・」
怪人「ぱくっ・・・」
怪人「・・・」
怪人「まっず」
男の子「・・・魚はダメか」
ジョセフィーヌ「ちっ」
男の子「え、ジョセフィーヌ? 今、「ちっ」って言った?」
怪人「ん・・・でも・・・」
怪人「なんだかクセになる味・・・」
男の子「・・・」
怪人「もぐもぐ・・・止められない・・・」
男の子「・・・」
怪人「いって!骨がノドに刺さった!」
男の子「あはははは!」
男の子「そんなに急いで食べるからだよ」
怪人「むむむ」
男の子「ね?世界は広い。可能性は無限大。あんなとこに閉じこもっていたら、」
男の子「楽しいことや、美味しいもの。 ぜーんぶ見逃しちゃうよ?」
怪人「そうですね・・・」
男の子「ねぇ、一緒にこのまま旅に出ない? えーっと・・・怪人、名前は?」
怪人「名前なんてありません。 そういえば、貴方の名前は?」
男の子「僕もね、無いんだ」
怪人「え?どうして・・・」
男の子「僕もね、お前と一緒。一族に忌み嫌われた存在。だから名前はもらえなかった」
男の子「今回の生け贄だって、ランダムに選ばれた~とかママは言っていたけれど」
男の子「多分、生まれた時から決まっていたんだ」
怪人「・・・」
怪人「名前を探す旅に出ましょうか」
男の子「名前を探す旅?」
怪人「世界中の綺麗なものを見て、美味しいものを沢山、一緒に食べるんです」
怪人「そして、一番気に入ったものを 僕たちの名前にする」
男の子「・・・めちゃくちゃ良いアイデアだ」
男の子「行こう!一緒に」
ジョセフィーヌ「にゃー!」
「ねぇ、手を繋ぎたいから シッポの火を消してくれる?」
「なんかピョンピョンしてて 当たりそうで怖い」
「え、あ、はい」
「なんだ、結構簡単に消せるんだね」
「全部消えたら私、死にます」
「・・・雨の日のお出掛けはやめようね」

コメント

  • ほのぼのした会話の中に、時折不穏な話題が浮かぶ、甘いけどスパイスの効いた、チャイみたいな味のお話ですね(飲んだことないけど…)
    男の子と怪人(プラスネコ)の旅に、幸あれ!
    村は…いっそのこと、滅んじゃえ!(子供を生贄に選んだ時点で、自分的にギルティ)

  • これから食べられる恐怖のストーリーのはずが、怪人の「ガオー」で世界観が一変しました。
    ここから怪人の食べ物探しへと展開されるのも実に面白い発想だと思いました。

  • 男の子は勇気と知性で怪人さんと仲良くなれてよかった。怪人さんは本当は良い怪人さんかもしれないね。二人と猫の旅が面白そうです。

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