ヒーローじゃすくいきれない≪未来≫(脚本)
〇市街地の交差点
キザキ「もしもしぃ、ナナちゃん?」
キザキ「今、仕事抜けたんだけどさ・・・」
キザキ「え? 大丈夫だって!」
キザキ「あそこ俺の親父の会社だし!」
キザキ「気にすんなって、今そっちで可愛・・・」
ドンッ!!
キザキ「あ、ヤベッ・・・」
キザキ「・・・」
〇病院の待合室
アキラ「・・・刑事さん、どうしてですか?」
アキラ「順調だって言っていたじゃないですか・・・」
アキラ「娘は赤信号で渡っていなかったって、」
アキラ「悪いのはあの車だって・・・」
刑事「・・・」
アキラ「拘束したところで、何で・・・」
《ひき逃げ事故の男性を不起訴》
アキラ「証拠不十分で捜査も打ち切りって・・・!!」
アキラ「見捨てるおつもりなんですか!?」
アキラ「今こんな時に助けてくれるのは、 アナタ達じゃないんですか!?」
刑事「・・・」
刑事「・・・安田さん、これを」
アキラ「これは・・・?」
刑事「私にできることは、これしかありません」
刑事「もし、本当に耐え切れないのなら・・・」
刑事「・・・未来を歩める自信がないのなら・・・」
刑事「この店の、土曜日に・・・」
〇大衆居酒屋
~居酒屋「かけはし」~
アキラ(土曜日の夜・・・ 奥のカウンター席に座る女・・・)
アキラ「・・・あ」
ノラ「・・・?」
アキラ「・・・あ、あの」
アキラ「・・・」
アキラ「”奢らせてもらってもいいですか?”」
ノラ「・・・」
ノラ「・・・うん」
ノラ「大将、いつもの」
大将「・・・」
ノラ「ま、座ってよ。お兄さん」
ノラ「始めまして。 私はノラ、好きに呼んで?」
アキラ「キザキ製薬の、安田 アキラと申します」
ノラ「アキラさんね」
ノラ「早速なんですけど、場所を変えます」
ノラ「その前に約束して欲しいことが、三つだけ」
ノラ「約束、守ってくれますか?」
アキラ「はい」
ノラ「よろしい」
ノラ「一つ目。 今から行く場所のことを、誰にも話さない」
ノラ「二つ目。 彼らの機嫌を、出来るだけ損ねない」
アキラ(彼ら・・・?)
ノラ「三つ目。 何があっても、全て自己責任」
ノラ「・・・分かった?」
アキラ「・・・はい」
アキラ「本当に・・・引き受けてくれるんですか?」
ノラ「・・・たぶんね」
大将「お待たせしました」
ノラ「さ、それを飲んで」
ノラ「それを飲まないと、人間は入れないから」
アキラ「はあ・・・」
ゴクッ・・・ゴクッ・・・
アキラ(なんだ、妙に甘くて・・・強いな・・・)
ノラ「よし。 じゃあ大将、また後でね」
大将「・・・好きにしろ」
〇広い厨房
アキラ「厨房・・・?」
ノラ「大丈夫、そのまま奥へ進んで」
〇無機質な扉
ノラ「お兄さん。この扉、見える?」
アキラ「・・・はい」
ノラ「効いてるみたいだね。じゃあ、入ります」
アキラ「失礼ですが、どこへ・・・?」
ノラ「依頼を引き受けてくれる人達がいる場所」
ノラ「あ、そうだ」
ノラ「びっくりすると思うけど あまり、騒がない方がいいよ?」
アキラ「え・・・?」
〇大衆居酒屋
アキラ「──!?」
*「いやぁ、スカルビオ様は流石っすねぇ~」
*「まっさかブラックを引き入れちゃうなんて! 流石っすわ!」
孤毒将軍スカルビオ「まあ、アイツは悩んでいたしな・・・」
ノラ「お邪魔しまーす」
孤毒将軍スカルビオ「・・・ケッ、おいおい今日もかよ、ノラ」
ノラ「すみませんねースカルビオさん。 今日もなんすわ」
獄番獣ケルベロ「おいテメ、ノラ!! 人間がいたら酒が不味くなるだろうが!!」
ノラ「もう、一人ぐらい別に良いじゃないですか〜 ケルベロさんったら!」
ノラ「あ・・・ロスさんの喪中でしたね。 すみません」
獄番獣ケルベロ「・・・ったくよぉ」
アキラ「の、ノラさん、これはっ」
ノラ「落ち着いて。あそこの席で話そ」
フィナーレ・ノストラ「おやぁ、ノラ。 依頼かい?」
アキラ「ひっ・・・!?」
フィナーレ・ノストラ「人間、僕に頼むのなら安いよ?」
フィナーレ・ノストラ「だって、今日はこの・・・タチポン? しか頼んでないからさ」
フィナーレ・ノストラ「これ美味しいよねえ。 この味、この形、この感触!」
フィナーレ・ノストラ「あと二、三個食べて帰ろうと思ってたんだ 安いでしょ? どう?」
ノラ「あー、フィナーレさん 勘弁してあげてください」
ノラ「それにたぶん・・・ 今回は、アナタ好みじゃないですよ」
フィナーレ・ノストラ「・・・そっかぁ、残念」
アキラ「・・・か、彼らは」
ノラ「ああ、びっくりしたでしょ?」
ノラ「ドゥームズ・デイが収めきった世界じゃ 人間ってもう珍しいみたいで、」
ノラ「毎回あんな風に絡んでくるんだよね」
ノラ「あ、ドゥームズ・デイっていうのは、 さっきのフィナーレさんの組織で、」
アキラ「そ、そうではなく!!」
アキラ「ここにいるの、怪人ですよね・・・?」
ノラ「・・・ああ、安心してください」
ノラ「彼らは、あくまで別世界の怪人達です」
ノラ「あらゆる手段で来店して、飲みに来ています」
ノラ「本当に、今はただ飲みに来てるだけです」
ノラ「人間の料理って、結構評判良いんですよ?」
アキラ「・・・」
ノラ「そして、アナタの依頼を請け負ってくれる」
ノラ「・・・かもしれない、人達でもある」
アキラ「怪人に依頼なんて、出来るんですか・・・?」
ノラ「それはアナタと、向こうの気分次第」
ノラ「でも──」
ノラ「・・・何より彼らは、 人間の不幸話が大好きなんですよ」
アキラ「・・・」
ノラ「ご存知の通り、善良な生き物ではないです」
ノラ「人間の隙につけ込んだり、支配したり、 嘲笑ったりするのが大好きな連中です」
ノラ「彼らの気を、どこまで引くことができるのか ・・・それが交渉材料になります」
アキラ「・・・」
ノラ「・・・でもまあ、腕は確かですから」
ノラ「きっと、誰かへの復讐でしょ?」
アキラ「・・・はい」
ノラ「じゃあ、ばっちり」
ノラ「彼らはヒーローが止めに来るような、 薄暗く、後ろめたい欲や感情が大好きで」
ノラ「──人間を酷い目に合わせるの、上手だし」
アキラ「──」
アキラ「・・・私には、十五になる娘がいました」
アキラ「亡くなった妻の分まで、必死に育てて・・・」
アキラ「やっとこの前、十五歳になったばかりだった」
アキラ「・・・私の、宝物だったんです」
ノラ「・・・はい」
アキラ「・・・信号無視の車に、轢かれたんです」
アキラ「運転していたのは、仕事の後輩でした」
アキラ「社長の、一人息子で・・・」
アキラ「・・・アイツは、不起訴になりました」
アキラ「父親の力で、もみ消したんです」
アキラ「・・・皆に言われました」
アキラ「不幸な事故だったねって」
アキラ「でも頑張って前を向こう、 憎しみに負けちゃいけないって」
アキラ「みんなで歩いていけば大丈夫だって」
アキラ「私達を救ってくれたヒーローが、 そう言っていたじゃないかって・・・!!」
ダンッ!!
アキラ「──そんな空っぽな綺麗ごと!! 今は何の意味もないじゃないですか!!」
アキラ「苦しみを和らげる薬にすらならない!!」
アキラ「私が欲しかったのは、娘の未来だった・・・」
アキラ「それがダメなら、裁きと償いだった!!」
ノラ「・・・」
アキラ「それすらも放棄して、アイツは・・・ のうのうと、外に出て・・・」
アキラ「そんなアイツがいる未来で、 娘の分まで生きなければならない・・・」
アキラ「そう言うのなら、せめてどうか・・・!!」
アキラ「アイツに償いを!! 裁きを!!」
???「ほう・・・それだけで良いのか?」
鮮血のコテツ「そんなの、口達者なやつなら 心に無くとも喋れば済む話ぞ?」
鮮血のコテツ「貴様が欲しいものは、 そのような不確定なものなのか?」
アキラ「・・・・・・違う」
アキラ「違う!!」
アキラ「娘が死んで、アイツが生きる未来なんて」
アキラ「──私は、欲しくない!! そんなのはおかしいんだ!!」
アキラ「”あの人たち”が築き上げた未来だとしても!!」
アキラ「そんな未来、歩みたくはない!!」
アキラ「──アイツの未来も、潰してください!!」
鮮血のコテツ「・・・ククク・・・」
鮮血のコテツ「確かに、今のキサマには 英雄の言葉は空虚な戯言でしかない・・・」
鮮血のコテツ「良かろう、人間」
鮮血のコテツ「殲滅衆が一人! 鮮血のコテツ! その哀願、確かに受け取った!」
アキラ「お願いします・・・!! この際、怪人だろうと、何だっていい!!」
ノラ「ではアキラさん。 コテツさんの飲み代を支払ってください」
ノラ「それが、ここでの依頼料となります」
ノラ「コテツさんも、それでいいですか?」
鮮血のコテツ「無論よ」
鮮血のコテツ「この手で滅してしまったが故、 人間の嘆きなど久方ぶりに聞いたが・・・」
鮮血のコテツ「──実に、良い肴であった!」
ノラ「・・・それは良かった」
ノラ「では、明日の夜 ──よろしくお願いします」
〇散らかった部屋
キザキ「あーもしもし、ナナちゃん?」
キザキ「今どこにいるー? いや、謹慎中だけど暇で仕方なくてさ・・・」
ゴトッ・・・
キザキ「マジマジ! ニュースにも出たんだけど、 ちょっとこの前やらかしちゃって・・・」
ガタガタッ・・・ ゴトッ・・・
キザキ「チッ、ちょっと後でかけ直すわ」
キザキ「うるせえよ!! 親父もお袋も何やってんだよ!?」
ガチャッ
〇血まみれの部屋
キザキ「──え・・・」
ザクッ・・・
鮮血のコテツ「──ややっ。 もしや息子というのはキサマの方か?」
キザキ「お、おふ、く・・・ おや、じ・・・!?」
鮮血のコテツ「なるほど、今斬ったのが父親であったか」
鮮血のコテツ「人間は皆似た顔で判別つかんなぁ・・・」
キザキ「ひぃっ・・・!!」
キザキ「な、ななな、なにが、 なにが、もくてき、っすか・・・!?」
キザキ「あ・・・おかねっ!! おかねなら、あ、ありま・・・」
鮮血のコテツ「銭? 命乞いに銭など、なんと陳腐な・・・ よいよい、興が醒めるわ」
鮮血のコテツ「──このコテツが求めるものは、 いつだってキサマら生者の血よ!」
〇血しぶき
キザキ「ぎゃああっ!! あっ、足、足がぁぁッ!?」
キザキ「あ、ああ、ごめんなさい、 ごべんなさぁぁぁあっ!!」
キザキ「た、助けてくれぇ!! ミライレンジャー・・・!!」
鮮血のコテツ「──ほう?」
鮮血のコテツ「ワシが言うのもなんだがなぁ・・・」
鮮血のコテツ「ワシ等と同じ外道の貴様の声など、 英雄は耳を傾けてくれるのかのう?」
キザキ「あ・・・あ」
ああああああ!!!!
〇大衆居酒屋
ノラ「これ、証拠写真。 こんなになるまで生きていたんだって」
アキラ「・・・」
アキラ「・・・ありがとうございました」
ノラ「いいえ。 生きていけそうなら、それで良いよ」
ノラ「アキラさん。 どうか、お元気で」
アキラ「はい。 ・・・では」
ガチャ・・・
フィナーレ・ノストラ「ねえ、ノラ。 君の世界にもヒーローっていないの?」
ノラ「・・・いましたよ。 数年前までは、ちゃんと」
フィナーレ・ノストラ「へえ、いたんだ! どんな奴らなの?」
〇黒背景
──皆と歩む、ミライレンジャー。
失望楽園ディストピアと戦ったヒーロー達
全てが終わった後、
みんなそれぞれの生活に帰って行きました
ミライグリーンは、刑事に
ミライブルーは、
親父さんの後を継いで居酒屋の大将に
レッドとピンクは、結婚して・・・
それからは、私も知らないです
皆が皆、未来は明るいって
思っていたんですけどね
・・・どうやら、
そうじゃなかったみたいです
怪人という分かりやすい敵がいたおかげで、
見えなかったものがたくさんあった
彼らはそれに、対応するのが難しくなった
怪人から救うことはできたけれど、
人間同士の話はどうしようもなかった
怪人にまで手を差し伸べた彼らが・・・
自分達を維持することで手一杯になった
〇大衆居酒屋
ノラ「そんな感じです」
フィナーレ・ノストラ「ふーん、人間も大変なんだねえ」
獄番獣ケルベロ「やっぱりなァ!? 綺麗ごとが過ぎんだよ、ヒーローは!!」
ノラ「・・・そんなことは、ない」
獄番獣ケルベロ「あ? なんか言ったか?」
ノラ「いーえ、何でも?」
ノラ「でも・・・そうですね どんな形であろうと、どんな思惑であろうと」
ノラ「ヒーローが救いきれなかったものを、 アナタ達は拾ってくれている」
ノラ「神様みたいなもんですね!!」
フィナーレ・ノストラ「へー、聞いたスカルビオくん? 僕たち、人間を助ける神様だってさ!」
孤毒将軍スカルビオ「・・・そうか?」
ノラ「そんじゃ、土曜日なんで・・・ また迷える人間、拾ってきまーす!」
バタンッ
獄番獣ケルベロ「・・・ノラのやつよぉ アイツ、絶対人間好きだろ」
孤毒将軍スカルビオ「なんだ、知らねえのかケルベロ」
孤毒将軍スカルビオ「アイツは・・・」
〇無機質な扉
ノラ「・・・」
ノラ「私を助けた時・・・」
ノラ「ディストピアのようにはしないって、 約束してくれたのにな・・・」
元幹部・ノラ「私にこんなこと頼んで・・・」
元幹部・ノラ「本当に良いの・・・?」
元幹部・ノラ「・・・早くしないと、 人間はまた勝手に失望しちゃうよ」
元幹部・ノラ「・・・ミライレンジャー」
人間の作ったルールじゃ裁ききれない悪を討つって、お話よかったです。
本当は法って秩序のためにあるものですが、それだけではどうにもならないことも多く思えます。
そして、怪人さんたちも「善」ではないところがまたよかったです。
復讐の依頼を受ける勧善懲悪ストーリーはありがちだなと思って読んでいましたが、見事に裏切られました。
なぜ、怪人に依頼する仕組みが出来上がったのか?「なるほど」と納得できる種明かしをラストに見せられたようで大変面白かったです。このような話の展開は大げさになってしまうと興ざめしますし、伏線回収の順番を誤ると何の効果もありません。特にミライレンジャーを後半にさりげなく入れてくるあたりは、本当にお見事です
読みながら『敵の敵は味方』という言葉が頭によぎりました。人間の社会では裁ききれない罪が多々あると思います。裁きを逃れる人間は正真正銘の悪人、そこに怪人の手が入るのもありだと思いました。