エピソード1(脚本)
〇教室
立花ヒナノ「キイエエエエ!」
立花ヒナノ「キイエエエエエ!!」
鮫島アカネ「ギイエエエエエ!!」
タケダケシイタケ「・・・・」
タケダケシイタケ「・・・それまで!」
タケダケシイタケ「バカモノ! 右腕の角度が違う!!」
立花ヒナノ「すいません、教官!」
鮫島アカネ「教官!」
タケダケシイタケ「怪人訓練学校『カイダマ』・・・怪人の卵に魂を教える、という名目らしいが、お前が怪人になれるのは何時なのか」
立花ヒナノ「教官、私はこの『カイダマ』に入学するために上京しました! 親にも『立派な怪人になるから』と言って・・・」
立花ヒナノ「けれど、この基礎訓練「シャウト」だけで三か月も経ちます・・・私も早く戦闘の訓練を・・・!」
タケダケシイタケ「ええい、馬鹿者! 基礎の『シャウト』すらできんで、怪人になれるか!!」
タケダケシイタケ「『シャウト』こそ、怪人の一歩目。ボクシングでいうジャブ、サッカーでいうトラップ・・・それが『シャウト』だ!」
タケダケシイタケ「こんな基礎もできんお前らが戦闘訓練など十年早いわ! よし、もういい。さっさと寝てしまえ。今日は終わりだ」
立花ヒナノ「ありがとうございました・・・!」
鮫島アカネ「あーあ、そんなこと言ったって、こうも『シャウト』だけじゃ、やる気出ないわよねえ」
立花ヒナノ「アカネ! 教官になんてことを言うの?」
立花ヒナノ「教官は、私たちを鍛えようと・・・」
鮫島アカネ「そうは言うけど、私たち以外の女子はもうそろそろ『怪人』になってる子もいるって聞くわ」
鮫島アカネ「あーあ、栄えある『怪人特車隊』に入隊するために、この『カイダマ』に来たのに・・・」
鮫島アカネ「ずっと、基礎のシャウトばっかり! これじゃ、他の子に遅れを取るわ」
立花ヒナノ「んもう、アカネ!」
桜井シュウト「よーう、一年A組。シャウトは順調か?」
鮫島アカネ「あ、桜井くん!」
桜井シュウト「ま、ゆっくりやろうぜ。怪人修行は長いって聞くしさ」
立花ヒナノ「桜井くんこそ、いっつもサボってばかりで全然見かけないわねえ。基礎訓練にもいないし、どこにいるのよ?」
桜井シュウト「そんな気を張るなって、怪人になれれば将来も三食風呂つきの生活だろ? 最近は怪人の福利厚生も効くっていうし」
立花ヒナノ「んもう! そんなことじゃ、ヒーローにやっつけられるわよ?」
桜井シュウト「ハハっ、ヒーローなんて一年前の『ヒーロー怪人休戦条約』で、手出しもできないだろ?」
鮫島アカネ「そうよね、あの条約さえあれば、私たちに戦闘の機会なんてないのかも・・・」
立花ヒナノ「んもう、アカネまで! 私は、タケダケシイタケ教官やハナバナ教官のような立派な怪人になるわよ!」
桜井シュウト「万年補欠のヒナノが、ハナバナ教官に? ワッハハ、それにはせめて『シャウト』くらいはマスターしないとな」
鮫島アカネ「桜井くんって、シャウトや筆記試験の成績はいいのよねえ・・・どこで練習してるのよ?」
桜井シュウト「んな本気で怪人にならなくても、ヒーローとの戦いなんて無いって! 気楽にいこうぜ」
〇教室の外
立花ヒナノ「んもう、みんなテキトーね。ヒーローとの戦争は、終わったばかり・・・」
立花ヒナノ「何時また始まるかもしれない、ヒーローとの戦いなのよ・・・?」
「どこだ!? ナインボール?」
「逃げても無駄だぞ!?」
ナインボール「はあっ、はあっ!」
立花ヒナノ「わわっ、君どうしたの・・・? 真っ黒じゃない?」
ナインボール「はあっ、はあっ。う・・・うええ・・・」
立花ヒナノ「だ、大丈夫なの? さあ、水を」
ナインボール「水・・・? お水を飲んでいいの・・・?」
立花ヒナノ「当たり前じゃない。ノドが渇いてるんでしょ?」
ナインボール「ゴクリゴクリ・・・」
鮫島アカネ「ヒナノ!? その子・・・・」
ナインボール「ぷうっ。おいしい」
立花ヒナノ「良かったわ」
鮫島アカネ「その子・・・まさか」
立花ヒナノ「お名前は?」
ナインボール「・・・ナインボール。世界を守る者」
立花ヒナノ「ええ?」
鮫島アカネ「ヒナノ! その子は、ヒーローだわ! 強力なヒーローは、色素を持たないままで生まれてくる・・・!」
立花ヒナノ「まさか・・・ 小さい子供じゃない」
ナインボール「ヒナノさん・・・」
ドクター・セイ「ここにいたか、ナインボールくん。 さあ、薄汚い怪人どもなんか放って、ヒーロー活動をしよう・・・」
立花ヒナノ「なんですって!?」
ドクター・セイ「フフ・・・君も”実験材料”になりたいか・・・?」
立花ヒナノ「ぐ・・・(恐るべき殺気)」
ナインボール「ドクター・・・今は条約があるでしょ」
ナインボール「じゃあね、ヒナノさん・・・」
鮫島アカネ「なあにい、あれ? 感じわるう」
立花ヒナノ「ヒーロー協会って、おかしな噂ばっかりよね。ナインボールくんが無事ならいいけど・・・」
鮫島アカネ「怪人協会の教官は、みんないい人で良かったわね・・・」
立花ヒナノ「実験・・・まさか、ナインボールくんは実験を受けているの・・・?」
立花ヒナノ「ヒーロー協会もこの近くよね、私、見てくるわ」
鮫島アカネ「まさか! 正気!? 休戦って言っても完全に敵なのよ!? ヒナノお! 教官を呼ばないと・・・!」
立花ヒナノ「待っててね、ナインボール君!」
〇大きい病院の廊下
立花ヒナノ「ナインボール君はどこかしら・・・? それにしても、ヒーロー協会のビルは豪華ね」
ドクター・セイ「クッハハハハ、いいぞ。ナインボールくん・・・最高のサンプルが取れた」
ナインボール「これで・・・世界を守るんだよね?」
立花ヒナノ「何かの人体実験にナインボール君を? サイテーな医者ね・・・」
立花ヒナノ「待ちなさい! ナインボール君を放しなさい!」
ドクター・セイ「ナニイ? 怪人学校の・・・?」
立花ヒナノ「なんの人体実験をしようというの!? ナインボール君を放しなさい!」
ナインボール「・・・ヒナノさん」
ドクター・セイ「クフフっ、実験? このナインボールが私の息子だと知っているのか!?」
立花ヒナノ「な・・・? まさか・・・」
ドクター・セイ「世界最高のヒーローになるという私の夢を、この子が叶えるのだ! さあ、ナインボール、さらに出力を・・・」
ナインボール「・・・お父さん、もう僕は他人を傷つけたくない・・・」
立花ヒナノ「ナインボールくん!!」
ナインボール「こんな実験生活は疲れたよ・・・ヒナノさんと遊びたい」
ドクター・セイ「・・・・グフっ」
ドクターは、突如として電流を体から放った!
ナインボール「ぐわあああああ!」
立花ヒナノ「キイエエエエエエ! 止めなさい!」
ドクター・セイ「いつから親に逆らうようになった!? この女にそそのかされたか!?」
桜井シュウト「悪趣味極まりねえなあ、ドクターセイ・・・あんたこそ『ヒーロー条約』に大きく違反だぜ?」
立花ヒナノ「あっ、桜井くん!? 教官は・・・?」
桜井シュウト「ヒナノ! ナインボールを連れて逃げろ!!」
立花ヒナノ「わ、分かったわ!!」
ドクター・セイ「フン! たかだか人間が・・・」
桜井シュウト「俺が人間に見えるか? 医者の割にはフシアナだな」
ドクター・セイ「な・・・」
桜井シュウト「怪人・・・変身!!」
桜井の肉体が、急速に膨張していく。
ドクター・セイ「怪人タケダケシイタケ・・・? フィジカルでは怪人でも最強の・・・?」
タケダケシイタケ「俺は教官・・・腐った精神を叩き直すのが仕事だ!」
タケダケシイタケ「タケダケ拳!!」
ドクター・セイ「ゴフウっ! クソがあ!! 怪人なんぞ、皆殺しだ!! 火炎旋風!!」
ドクター・セイ「クッハハハハ!!」
タケダケシイタケ「・・・攻撃後の高笑いは、敗北の印だぞ?」
ドクター・セイ「ぬあっ!?」
タケダケシイタケ「あいにくと、フィジカルは世界No1の自負がある。この程度が効くか・・・ シイタケ蹴り!!」
ドクター・セイ「ぐぼああああっ!!」
ドクター・セイは仰向けに倒れた。
タケダケシイタケ「ナインボールの父親だ。一応は生かしておいてやろう・・・」
ドクター・セイ「馬鹿め・・・クフフ、今に見ていろ・・・というよりナインボールを侮るな・・・ あれは、俺の最高傑作だ・・・」
タケダケシイタケ「ヌウ・・・」
ドクター・セイ「・・・お前らなんぞに飼える代物じゃない! クフフ、後でお前らのミンチを見るのが楽しみだよ! クハハハハ!!」
タケダケシイタケ「性根の腐った男だ・・・おっと、三分経ったな」
桜井シュウト「よりによって、”ナインボール”・・・とんでもないのを抱え込んじまったな」
〇教室
立花ヒナノ「はあっ、はあっ! 桜井君は無事かしら?」
鮫島アカネ「おかしーわねえ。私、まっさきに教官に助けを呼んだのに・・・??」
桜井シュウト「オウっ、いやー逃げ疲れたぜ」
立花ヒナノ「あっ、無事だったの!? 教官は!?」
桜井シュウト「いや、教官がきてあのドクターを倒してくれたよ。俺なんか逃げるだけで必死さ」
立花ヒナノ「んもう、暢気ねえ。けれど、これで安心ね!」
鮫島アカネ「けど、ヒナノ! ヒーローであるナインボール君は、ここには置けないわよ!」
ナインボール「僕は、この世界の邪魔者。 僕は明日、出て行くよ」
立花ヒナノ「そんなものいない! 邪魔者なんていないのよ!!」
桜井シュウト「ヒナノ・・・」
立花ヒナノ「お姉さんたちと一緒にいましょ!? 私たちは友達よ!?」
ナインボール「ヒナノさん・・・」
そして、夜は明けた。
〇教室
立花ヒナノ「キエエエー!」
鮫島アカネ「ギエエー!」
ナインボール「き、キエエー!」
タケダケシイタケ「馬鹿者! ナインボール、腕が違う!」
鮫島アカネ「あーあ、またコレかあ」
立花ヒナノ「エヘヘ、一緒に練習しようね」
ナインボール「あの、これはなんの意味が?」
タケダケシイタケ「意味などない!」
タケダケシイタケ「怪人は『シャウト』だ! さあ、もう一度!」
読者からすると、怪人とヒーローのどちらが悪者なのか分からなくなってくるような、境界線が曖昧な不思議な世界観の物語ですね。ナインボール君が実体のない影だけというのもシュールです。
怪人学校の授業が退屈ですね。こんなんで本当に強くなれるのか?なんで女子が怪人になりたいんだ。怪人になって何がしたいんだ。次回が楽しみです。
怪人グループである彼女らがいわゆる別人種のナインボール君を保護してあげているところに、ヒーローと怪人の定義が逆転して、とても好感もてました。子供は直感的に彼らを疑わなかったこともすごくいいですね!