正しい『悪』の使い方

依里真 義貞

『悪』は正しく安全にお使いください(脚本)

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依里真 義貞

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〇荒廃した教会
  正義の戦士ブレイザーと秘密結社ダーク・インフェルノの怪魔将軍エイザス──
  長きに渡る決着が着こうとしていた。
ブレイザー「終わりだ! 怪魔将軍エイザス!」
エイザス「グッ──見事、だ・・・・・・」
ブレイザー「はぁはぁ・・・やったか!」
ブレイザー「なにっ!?」
  死角から放たれた炎を躱すと、新たな異形の存在が立っていた。
アイラード「私が前線に立つことになるとはね・・・」
アイラード「イリス、私はブレイザー君と遊んでいきます。君はエイザスを回収して戻りなさい」
イリス「かしこまりました、アイラード様」
ブレイザー「くっ・・・怪魔参謀アイラードッ!」
アイラード「さぁ、私とも踊っていただきますよ!」

〇近未来の開発室
  秘密結社ダーク・インフェルノ秘密基地
イリス「えーと、『十二神将プレミアムコース』で、回復液を大さじ二杯・・・大さじ? ・・・一袋いれておけばいいよね」
イリス「ここで、エイザス様を投入」
イリス「『乾燥』・・・?  『しっかり乾燥』でいっか」
イリス「ポチっとな!」
  そして、50年の月日が流れた・・・

〇黒
怪人回復装置「全行程が終了しました。 中の怪人を取り出してください。 全工程が──」
  長い微睡からエイザスは目を覚ました。
  そして、一面の暗闇と強烈な圧迫感から、理解した。
エイザス(・・・ここが、『地獄』であるか)
  互いに死力を尽くした戦いの決着に悔いはない。しかし──
エイザス(──この耐え難い『渇き』はなんだ!?)
  宿敵ブレイザーに会う前の『渇き』に勝るとも劣らない強烈な『渇き』を感じ──
  エイザスは虚空へ手を伸ばした。

〇近未来の開発室
イリス「ただいま~ ここは冷房きいてて涼しいわね」
イリス「このお菓子も下げないとダメになっちゃうわね。食べちゃお~」
  怪人回復装置にお供えされたお菓子へ手を伸ばしたその瞬間──
  装置が砕け散った。
イリス「なにごとっ!」

〇近未来の開発室
  圧縮された蒸気が部屋中を駆け巡り、イリスの視界を奪う。
イリス「あわわわわわ!」
  視界が晴れるとそこには一人の怪人が立っていた。

〇近未来の開発室
エイザス「ここは秘密基地ではないか!? む・・・イリスか?」
イリス「エ、エイザス様!?」
エイザス「お前に頼みたいことが──あっ!」
イリス「ぐえっ!」
エイザス「すまない、イリス・・・だが、お前がいてくれて助かった」
イリス「こういうのは困ります・・・! 私は十二神将付の怪人ですが、何でもするわけじゃないんですよ」
エイザス「困ったな、我はいまとても『渇いて』いるというのに・・・」
イリス「で、でも、エイザス様が『どうしても』って言うのなら、私は──」
エイザス「我、『どうしても』水が欲しい」
イリス「あ、はい・・・」
エイザス「我、復活である」
イリス(ペットボトル1本で復活するんだ・・・)
エイザス「さて、戦況はどうなっている?」
イリス「えーと、ですねぇ・・・」
???「何事かと思って降りてきたら、懐かしい顔を見たな」
イリス「あ、バカ! 出てくるんじゃない!」
エイザス「・・・貴様、ブレイザーか!? 老いたな」
三澤勇人(元ブレイザー)「そういう君は全く変わらな──」
三澤勇人(元ブレイザー)「いや、少し縮んだか?」
  敵意のないかつての宿敵を見て、エイザスは己の置かれた状況を理解した。
エイザス「そうか・・・」
エイザス「ダーク・インフェルノは滅んだか・・・」
イリス「エイザス様・・・」
イリス「はい、ダーク・インフェルノは50年前に壊滅しました」
エイザス「我は50年も惰眠を貪っていたのか・・・」
イリス「し、しょうがないですよ! それだけ、ブレイザーに負わされた傷が深かったのです!」
三澤勇人(元ブレイザー)「いや、お前が操作を──」
イリス「あーあー、聞こえなーい!」
エイザス「・・・? イリス、こんな不甲斐ない我に長い間よくつきあってくれたな」
イリス「と、とととと当然ですよ! 私は組織に忠誠を誓った怪人なので!」

〇謎の施設の中枢
  50年前
  秘密結社ダーク・インフェルノ秘密基地 中枢
「グワー!」
  ダーク・インフェルノ首領と最後まで秘密基地を守護していた怪魔十二将が倒れ伏す
イリス「こそこそ・・・」
ブレイザー「ようやく終わったか・・・ん?」
イリス「やばっ、見つかった!?」
イリス「こそっと辞表を出して金目の物を持って逃げようとしてただけなんです~」
ブレイザー「ええ・・・」

〇近未来の開発室
三澤勇人(元ブレイザー)「組織に忠誠ねぇ・・・」
イリス「しゃらっぷ!」
イリス「組織壊滅後はエイザス様の助命を条件に奴隷のように酷使されていました・・・」
三澤勇人(元ブレイザー)「帰る場所がないって言うから、家事手伝いしてもらってただけなんだが・・・」
イリス「しかし、雌伏の時もこれまでです」
イリス「さぁ、エイザス様! にっくきブレイザーをボコボコにしちゃってください!」
イリス「これで草むしりからも解放! 借金もチャラ!」
エイザス「・・・ブレイザーよ」
三澤勇人(元ブレイザー)「ん?」
エイザス「部下が迷惑をかけたであるな」
三澤勇人(元ブレイザー)「これはこれで楽しかったさ」
エイザス「イリスよ、我は正々堂々と戦って負けたのだ。組織もない今、争う必要はない」
イリス「はーい・・・」
エイザス「『借金』とは?」
  請求額:¥150,000,000円
エイザス「・・・ゼロが多いであるな」
エイザス「我の治療に莫大な金がかかったのだな」
三澤勇人(元ブレイザー)「いや、回復装置とやらの電気代は月20円くらいだな。うちの地下室に丸々もってくるのに100万はかかったが」
三澤勇人(元ブレイザー)「あとはそこのちび助が悪巧みしてこさえた借金だ。とりあえず、俺が立て替えている」
イリス「・・・・・・えへへ」
エイザス「・・・・・・」
三澤勇人(元ブレイザー)「ある時払いの催促なしだ」
エイザス「・・・なるべく早めに返すのである」
三澤勇人(元ブレイザー)「この地下室は自由に使ってくれ。 イリス、夕飯までには帰ってくるんだぞ」

〇近未来の開発室
エイザス「というわけで、作戦会議である」
イリス「なんで電気消したんですか・・・」
エイザス「節約である」
イリス「うぅ・・・蒸し暑い・・・」
エイザス「イリス、何かよい金策はないか?」
イリス「世界征服!」
エイザス「却下である。我には世界を征服する理由がない」
イリス「では、消極的な案ですが美人局で100万ずつ回収していきましょう」
エイザス「我々は敗者である。汗水たらして働くのが道理である」
イリス「うーん、でもそれ無理だと思いますよ」
エイザス「なぜだ?」
イリス「エイザスがお眠りになってから、主だった悪の組織が壊滅し職を失った一部のヒーロー達が悪事を起こしたんです」
イリス「政府は対策として『民間英雄会社』の設立を推し進めました。 彼等には怪人の殺害が許可されています」
イリス「私は普通にしていればバレませんが、エイザス様は外に出た瞬間アウトかと・・・」
エイザス「むぅ・・・」
イリス「エイザス様が普通の暮らしを求めても、彼らが放っておいてはくれません」
イリス「この世界は我々に優しくないんです だから、壊してしまいませんか?」
エイザス「・・・少し考えるのである」
イリス「それでは、私はお先に失礼します」
エイザス「ふむ・・・」

〇近未来の開発室
  次の日
イリス「おはようございます。 お考えはまとまりましたか?」
エイザス「・・・外に出ず金を稼げばいいのである」
イリス「え、まぁ、そうではあるんですけど・・・」
エイザス「我はVtuberになることにした」
イリス「エイザス様のあほー!」

〇街中の道路
イリス「エイザス様の意気地なし! パワー系なのにインテリぶって!」
イリス「ふーんだ。ブレイザーのお金で食べ歩きしてやるんだから!」
イリス(・・・私、何やってるんだろ)
イリス(この50年、私は失敗ばかりだった。それなのに、目覚めたばかりのエイザス様に頼るなんて虫がよすぎるよね・・・)
イリス(でも、エイザス様は私と違って強い。きっと、今のヒーローにだって負けない・・・期待しちゃうよ)
  イリスが小石を蹴り上げた途端──
  遠くで爆発が起こった。
イリス(怪人の仕業かもしれない!)

〇繁華な通り
「我々は『ネオ・ダーク・インフェルノ』! 逃げまどうがいい! 人間ども!」
イリス「『ネオ・ダーク・インフェルノ』?」
イリス「おっと!」
ネオ・ダーク・インフェルノ怪人「な、なんだあのガキは!」
ネオ・ダーク・インフェルノ怪人「弾が当たらねぇ!」
イリス「・・・弱すぎです」
ネオ・ダーク・インフェルノ怪人「なんだお前は!?」
イリス「あなた達こそ、人間が『ダーク・インフェルノ』を名乗って何をするつもりですか?」
ネオ・ダーク・インフェルノ怪人「お、俺たちは怪人で──」
ネオ・ダーク・インフェルノ怪人「ぐわぁあああああ!」
イリス「こんなに脆いのに?」
男「おい、子供が怪人に襲われているぞ!」
女「怪人が子供に襲われているような・・・?」
イリス「しまった、目立ちすぎたな・・・」
イリス「うぇえ~ん、こわいよぉ~! 誰か助けて~!」
イクサレッド「もう、大丈夫だ。民間英雄会社『イクサ』が助けに来たからね!」
イリス「あ、ありがとぉ・・・ヒーローさん」
イクサブルー「覚悟しろ! 悪の怪人達!」
ネオ・ダーク・インフェルノ怪人「クソっ! 『イクサ』のヒーローめ! ずらかるぞ!」
「待てッ!」
イリス(ふぅ、なんとかなった・・・)
イリス(人間が人間を襲うなんてね・・・)
イリス(怪人の居場所なんて、もうこの世界にないのかな・・・)

〇ビルの裏
イクサレッド「たいして被害が出てねーじゃねぇか!」
イクサブルー「討伐賞金もたいした値は付かないだろうね」
イクサレッド「何のために雇ってると思ってるんだ! ガキに構ってないで一人くらい殺せ!」
着ぐるみの中身「で、でも、あのガキすごい力で! ほら、見てくださいよ!」
イクサブルー「折れてるな」
イクサレッド「ガキに腕を折られたってのか?」
着ぐるみの中身「あいつ弾丸の中を突っ込んできて、無茶苦茶ですよ!」
イクサレッド「そうかい」
着ぐるみの中身「ガッ──!」
イクサレッド「まさか『本物』が釣れるとはな!」
イクサレッド「よし、怪人狩りだ 俺たちは正義の味方だからな」

〇ビルの裏通り
イリス(エイザス様に謝らないとな・・・)

〇和室
エイザス「試し撮りしてみたがどうであるか?」
三澤勇人(元ブレイザー)「Vtuberねぇ・・・」
三澤勇人(元ブレイザー)「まぁ、いいんじゃないか」
三澤勇人(元ブレイザー)「けど、意外だったな 今の世の中に馴染もうとするなんて」
エイザス「昨日、PCとやらで調べた。 今の世の中は平和である。壊す必要はない」
三澤勇人(元ブレイザー)「なら、お前たちは何のために──」
三澤勇人(元ブレイザー)「非常警戒態勢!?」

〇黒背景
  繁華街で大規模な破壊活動が発生
  『イクサ』の活躍により、人的被害はなし
  首謀者と見られる怪人は現在逃走中
  各ヒーローは速やかに怪人を処分されたし

〇和室
三澤勇人(元ブレイザー)「バカな!」
三澤勇人(元ブレイザー)「急いで通達を撤回させなくては──」
エイザス「いや、待つのである。 ここは我が行く」
三澤勇人(元ブレイザー)「よせ! 民間ヒーローは話なんて聞いてくれないぞ!」
エイザス「理解している。しかし、正義の象徴であるお前が軽率に動くべきではない」
三澤勇人(元ブレイザー)「エイザス・・・」
エイザス「ヒーローの敵は怪人だけでいいのである」
三澤勇人(元ブレイザー)「頼んだぞ・・・」

〇廃ビルのフロア
イリス「ここは・・・?」
イクサレッド「討伐賞金2000万突破! あのガキ、意外と大物だったんだな!」
イクサレッド「やっと起きたか」
イリス「・・・私をどうするつもりですか?」
イクサレッド「殺す──」
イクサレッド「のが、惜しくなっちゃったんだよなぁ!」
イクサブルー「我々と組まないか? 君の身の安全は保障するし、金も払う」
イリス「『ヒーローショー』の怪人役ですか、お断りですね」
イクサレッド「か~もったいねぇ! 命は大事にしろよなぁ・・・」
イリス「生き恥は十分晒したので」
イクサレッド「じゃあ、死ね!」
イリス(エイザス様、あとは──)

〇黒背景

〇廃ビルのフロア
イクサレッド「な!」
イクサブルー「に!?」
イリス「・・・なにが?」
???「まったく、借金生活から一抜けしようなどひどいではないか・・・」
イリス「エイザス様!」
イクサブルー「新手か!」
イクサレッド「てめぇも金に変えてやらぁ!」
エイザス「ヒーローの質も落ちたな・・・」
イクサレッド「む、無傷!?」
イクサブルー「シッ!」
エイザス「大道芸は終わりか?」
イクサレッド「あんた、悪の組織の怪人なんだろ! 見逃してくれよ!」
エイザス「正義では為せぬ事を為すのが『悪』だというなら、なるほど同じ悪なのだろう」
エイザス「だが、貴様らと我等は違う。 我等は正しき悪を為す」
エイザス「汝、正しき悪を為せ!」
エイザス「さぁ、すべて話すのである」

〇黒背景
  謎の暴露系Vtuber『え~ざす』により、
  民間ヒーローの闇が暴かれた。
  世論の反発を受け、政府は民間英雄会社に対し、
  調査機関を設立した。
  その実働部隊には──

〇廃墟の倉庫
イリス「三流ヒーローめ! 思い知ったか!」
エイザス「では、二件目に向かうのである」
イリス「もう疲れたし帰りましょうよ~」
エイザス「借金返済のためである」
イリス「ひぃ~ん!」
  戦えエイザス!
  負けるなイリス!
  借金を返済し終えるその日まで!
  終

コメント

  • イリスがいたいけな女の子と見せかけて実は借金まみれの怪人という意外性がパンチが効いてます。ヒーロー側が電気代やイリスの世話までしてくれててほっこり。エイザスとイリスの見た目のコントラストも凸凹コンビな感じでユニークですね。

  • 最後まで社畜エンド!(真面目に働いているという、褒め言葉です笑)
    しかしイリスちゃん、何してそんな額にまでなったの…
    ∑(゚Д゚)

  • 芯の通ったエイザスの生き様が際立った、カッコイイ物語ですね!と同時に、脱力系コメディパートとの落差に笑ってしまいました。イリスの存在が、ストーリーに良いアクセントを与えてくれますね!

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