灰燼にキスを。(脚本)
〇メイド喫茶
メイドさん「ご注文お決まり?」
堂本 縁「もう少し待ってください」
メイドさん「ご主人様、ここ敬語禁止だからね」
堂本 和友「ほんとにこのお店だよねえ?」
堂本 縁「3回確認したもん あちらのお父様が、ここしかないって」
「遅れて大変申し訳ございません!!」
堂本 縁「縁(ゆかり)と申します。本日はよろしくお願いします」
江西 健留「健留(たける)です。お願いします」
堂本 和友「どうしてメイド喫茶で──いえ、あの〜、ご職業は? うちの院をやっていただけるとのことですが」
江西 健留「はい! ヒーローを少々!」
江西 健留「大切にしていることは、自然です!」
江西 健留「誰でも幸せでいられるのが自然だと思うから、自分の手が届く人の幸せくらいは守りたい!」
堂本 縁(真っ直ぐな眼・・・)
江西 武志「さとり世代といいますか、ワシからすると物足りなくも感じますが、熱い男です」
江西 武志「メイド喫茶? はですな、こういう食事はサービスの充実している店でやるのが自然でしょう」
江西 健留「父も自然さを大切にしてるんですが、極端で」
江西 健留「遅刻も父が、いや俺が──」
〇電器街
江西 武志「助けるぞ」
江西 健留「今日ばっかりは遅れるとまずいよ」
江西 武志「ワシは、全てに最大限の手を差し伸べてこそ自然が保たれると考える! お前の思う自然とは何だ!?」
江西 健留「俺の自然は、手が届く幸せのために精一杯やること」
〇広い改札
〇駅前広場
〇メイド喫茶
堂本 和友「チュー」
江西 武志「結果、慣れない街で迷い・・・ 申し訳ない」
堂本 縁「・・・」
江西 武志「ガツガツ うまい」
メイドさん「お待たせ おまじないするよ」
江西 健留「何ですか?」
メイドさん「仕方ないじゃんルールなんだから あと敬語禁止」
江西 健留「ここではそれが自然ということか。だったら」
「萌え 萌え キュ〜ン♡♡♡」
堂本 縁「・・・・・・」
〇教会の中
3 年 後
堂本 和友「今日も神のご加護があらんことを」
江西 縁「ひろいくん、遊びに行かないの?」
ひろい「ママがしゅっしょしてもね、パパはもう戻ってこないでしょ」
江西 縁「ひろいくんのパパは、いまは遠くへ行っちゃってるみたいだね」
ひろい「気をつかわなくてもいいの しんだんだよ しんだ」
ひろい「お祈りしてるとパパの顔がうかんできて、ぜんぶつまんなくなる」
江西 健留「祈りは、自分と向き合うことでもある もう会えない人のことを想ってしまうのも、自然なことなんだよ」
江西 縁「先生も健留先生も、ママがいなかった。ひろいくんの気持ちがわかるよ」
江西 健留「辛い時には、自分は幸せだよって言えるように頑張ってきたかな 安心して眠っていてほしいから」
ひろい「もし会えたらどうする?」
江西 健留「会えないのが自然だから──考えたことないや」
江西 健留「今度、先生のパパが遊びに来るんだ。俺はいま会える人を大切にしたいな」
江西 縁「先生は何度も考えてるなあ。伝えたいことがたくさんあって、教えてほしいことがたくさんあって」
ひろい「つまんなくならない?」
江西 縁「いつかきっと会えるから──その時まで話したいことをたくさん貯めておかなくちゃと思う」
ひろい「ふーん」
〇近未来の開発室
溝外「成功すれば 俺と山中をテレビで見ない日はなくなるぞ」
柳川「私は二度と案斎の敷地から外へ出ぬだろう」
溝外「犠牲は?」
柳川「この施設で百人は集めた。十分だ」
溝外「山中ぁ!!」
柳川「お嬢様・・・」
溝外「主なき執事、相方なき漫才師、 天使なき聖者」
柳川「理不尽には外法を! 罰にこそ罪ありき! 自らの限界を超え、 あるべき姿に還れ、世界!」
柳川「異常だ! 精神エネルギーが大きすぎる!」
溝外「街全体に影響が及ぶ・・・」
柳川「私たちでは最早どうにもならん! 誰か──」
〇墓石
江西 武志「哲子よ、哲子 ワシらの息子は人の幸せを自然に願う、いい男になった。叶うならばお前に一目──」
江西 武志「いや、生来自然ないい男だったな」
江西 武志「これは今回の戴き物だ。この後寄るからな、健留にも見せてやろうと思って」
江西 武志「実はワシ、ついに200言語目のありがとうをいただ──」
江西 武志(む? 助けを求める気配)
〇火葬場
江西 武志「火葬場、ここか?」
〇教会の中
堂本 和友「今日も神のご加護があらんことを・・・」
江西 健留「・・・」
江西 縁「健留。いってらっしゃい」
江西 健留「空けちゃってごめん できるだけ早く帰るから」
〇葬儀場
江西 健留「親父・・・知り合い多すぎるよ。夕方になっちゃった」
江西 健留「限界突破って感じで、突っ走ったよな。 最後も人助けで死んで、形見がこんなので──最高に自然だよ」
江西 健留「酷いそうだけど、顔だけ見せてくれよ」
〇葬儀場
江西 健留「え」
江西 武志「超自限」
江西 健留「お、親父? 生きて──」
江西 武志「フン」
〇霊園の入口
江西 健留「ハァ、ハァ」
江西 武志「この力があれば哲子にまた会える」
江西 健留「お、お母さん!?」
江西 武志「心の奥底で求めていた。 世界中を旅しても見つからなかった、あまりに自然な力だ」
江西 健留「もしかして、死んだ人が生き返る力なのか?」
江西 健留「自然なわけないよ、そんな姿・・・」
江西 武志「自然とは、自業自得。 想いと努力、犠牲があれば、あるべきものが実現する世界だ」
江西 健留「犠牲──?」
江西 武志「此度はワシだ ワシの莫大な精神力・生命力を糧に、儀式はこの街全体の限界を超えさせた」
江西 健留「街って・・・院は、街の人たちは──! ゆ、縁──!!」
江西 武志「健留も犠牲になれ。ワシに殺され、この力を身に付けろ。 ワシの力はワシが甦るのに使ってしまった」
江西 健留「あ、あんたはもう親父じゃない。親父なら街の人を助けずに人に犠牲を強いるなんてありえない!」
江西 武志「認めないというならワシを倒せ さもなくばこの力を受け入れろ」
江西 健留「何言って──」
江西 武志「会いたくないのか? 哲子に!! 力が広がれば、この動乱で死んでしまう者たちもどの道よみがえる」
江西 健留(親父が生き返った以上、嘘ではない)
江西 健留「あ、会いたいよ」
江西 武志「ならば」
〇教会の中
堂本 和友「縁! 子どもたちはみんな避難できた! きみも早く──」
堂本 和友「縁──!!」
江西 武志「グ、ガ──」
江西 健留「どんなに会いたいとしても──」
江西 健留「助けられる人がいるのに、もう死んでしまった人たちのために立ち止まるなんて不自然だ!」
江西 武志「土産など持ち帰るべきではなかったな」
江西 武志「そもそも、お前を生まなければ。 そうすれば哲子は」
江西 健留「俺が、親父を、親父が俺に、そんな──」
〇綺麗な教会
ひろい「遅い。ぼくが・・・」
江西 健留「ひろいくん、どうなってる?」
ひろい「みんなで夜のお祈りをしたら、火事になって いんちょう先生が避難させてくれたけど中に入って行っちゃった」
江西 健留「縁先生はみんなと一緒?」
ひろい「なか」
〇教会の中
江西 健留「縁ーー! お義父さーーん!」
堂本 和友「来てはいけない・・・」
江西 健留「お義父さんまで──」
堂本 和友「健留くん逃げなさい。子どもたちを連れて、できるだけ遠くへ」
江西 健留「縁、縁はどこに」
堂本 和友「縁は、もう──。行きなさい」
江西 健留「親父が、こうなっていて。なぜか俺も」
堂本 和友「・・・」
〇教会の中
江西 健留「このまま押し切る!」
江西 健留「お義父さん、どうして俺を攻撃する!?」
堂本 和友「・・・」
江西 健留「──!!」
堂本 和友「縁は私が復活させた死人だよ 完全だったはず──なのに、今になって力が目覚めるとは・・・」
江西 縁「すごいよね。この力があれば、お母さんに会える」
堂本 和友「縁。お母さんは、20年前病死した君を超自限させるために──」
江西 縁「今すぐお墓を掘り起こそう。土葬でよかったわ」
江西 健留「何言ってるんだよ、早く子どもたちの安全を確保しないと! ・・・こんな力は病んでいる」
堂本 和友「この姿は醜いかい? お父さんの眼がもう一度開いた時、心が踊らなかった? 少しも?」
江西 健留「あんな、あんなのは親父じゃなかった きっと超自限というやつで復活しても、その人は偽物なんだ!」
江西 縁「私の人生のほとんどは偽物だと言うの? あなたと触れ合った私は、全て?」
江西 健留「それは」
江西 縁「これが私の本当の姿 私にとっては自然」
堂本 和友「黙っていてすまなかった。だがこのまま家族を続けてはくれないか。君にとっても、縁はいる方が自然だ」
江西 健留「縁のいない世界は、認めたくない──」
江西 縁「子ども達も超自限させてあげよう そうだ、ひろいくんもパパに会える」
江西 健留「それでも、死者に婿入りするのは不自然なんだ──!」
江西 健留「超自限」
江西 健留「オレは、生きる人が自然に生きられる世界のために生きていくよ」
堂本 和友「君ひとりで? いつかは限界が来る。いや既に、この動乱は街を包んでいる」
江西 健留「できるだけ頑張って自分の限界を超える──」
江西 健留「それが人間という生き物として自然な在り方なんだ」
江西 縁「自然に考えれば、子ども達もすぐに超自限した人を見てしまうよ。この街はもう醜い怪人の街なんだから」
江西 健留「見せない。オレが一人で向き合えばいい」
堂本 和友「それでボロボロになっていくのかい? 自己犠牲は人間らしさか?」
江西 縁「あなたも私も、もう人間なんかじゃない」
江西 健留「人間じゃないなら、オレはこの動乱を収めるために全霊を注げるよ」
江西 健留「少なくとも手の届く範囲──院の子ども達は、守ってみせる」
堂本 和友「そうやって矛盾を抱え、私は儀式に手を出して獣に堕ちた 君も、そうなる──」
江西 健留「灰になって、見守っていてくれ」
〇綺麗な教会
ひろい「先生、血だらけだよ・・・?」
江西 健留「何ともないから」
江西 健留「行こう、生きよう」
死んでも生き返る=限界を超える状態が是か否かは置いておいて、完全な「死」が存在することで初めて「生」も輝いて世界が循環していくものだと思うので、生命の本質的意義の観点からすれば、やはり健留の決断は正しかったと感じました。
自然って一体なんなんでしょうね。
中々難しいことだなあと普段感じないことを感じました。
特に自分以外の世界って、何が起きてても知らなきゃ自然のままなんだろうなぁ…。
すでに亡くなっている人間が姿形を変え自分の前に現れるという状況を、自分だったらどう受け取るだろうと思いながら読みました。すべて欲望のままにはいかないのが人生ですね。