捨てる神あれば拾う怪人あり(脚本)
〇地球
怪人が発見されて早数十年────
怪人社会の成熟は、同時に衰退の始まりでもあった。
ゴールデンタイムを華々しく飾り、
ニッチな子どもたちの憧れの職業となったのも今や昔────
少子高齢化に不景気、ブラックな環境が露呈したことによる戦闘員不足等、
未解決の問題を挙げるとキリがない。
『栄えたものは、いずれ滅びる』
例に漏れず、怪人社会も衰退の一途を辿っていた。
〇荒れた倉庫
此処にもその余波を受けた怪人が一人、
ジス「・・・・・・」
廃れた倉庫の軒先で雨が止むのを待っていた。
〇魔王城の部屋
遡ること十時間────
戦闘員A「え、この時間にボスから呼び出しとか珍しくないっすか」
戦闘員A「ジス様は何か聞いてます?」
ジス「いや、俺も聞いていない」
戦闘員B「えっ、マジっすか」
戦闘員B「うわ~オレなんか嫌な予感してきたんすけど」
戦闘員A「オレも」
戦闘員A「この前のアレとか」
戦闘員B「いや、この前のアレの可能性もある」
「これ以上給料減らされたらきっついわ~」
ジス「しっ、ボスのお出ましだ」
〇魔王城の部屋
ゴホン────
〇魔王城の部屋
BOSS「えー、朝早くから集まってくれてありがとう」
BOSS「えー、本店からこの城にも経費削減命令が出ました」
BOSS「えー、ということで、えー、早速だけどクビね」
ジス「・・・・・・!」
ジス「ちょ、ちょっと待ってください!」
ジス「こいつらだって一生懸命頑張ってるのにいきなりクビだなんて・・・」
ジスの言葉を遮るようにボスは首を横に振る。
そして肩をポンと叩く。
BOSS「君のことだよ」
ジス「・・・・・・」
ジス「・・・・・・」
BOSS「君のことだよ~」
ジス「・・・・・・え~~!!」
〇魔王城の部屋
〇城の会議室
ジス「ちょっ、」
ハアハア・・・
ジス「なにしれっといなくなってんすか」
ハアハアハア・・・
BOSS「いや、長くなりそうじゃない」
BOSS「私も次のアポがあるから」
ジス「いきなりクビとか勘弁してくださいよボス」
BOSS「いやー無理だね」
BOSS「私が雇われボスだって知ってるでしょ」
BOSS「客観的に考えてみて?」
BOSS「給料だけ無駄に高くて、最近ろくに活躍してない、」
BOSS「このくらいで息が上がる、だらしない体(主に下腹部)なジスくん」
ジス「いや、で、でも!」
ジス「自分、怪人学校卒業してからずっとここ一筋で、」
ジス「今更怪人クビになったらどうすれば・・・」
BOSS「・・・私にはね、可愛い可愛い一人娘がいるのね」
BOSS「もーそれはそれは反抗期でね」
BOSS「たまに会うと『キモい』、『臭い』、『こっち来んな』のオンパレードよ」
BOSS「妻まで娘の味方でね、家庭での居場所がないわけ」
ジス「は、はあ・・・」
BOSS「あ、今『どうでも良い話』って思ったでしょ?」
BOSS「私にとって君の事情も同じことですよ」
ジス「うぅ・・・」
BOSS「若くもないし、独り身なんだから普通にリストラ最有力でしょ」
ジス「うぐ、」
???「随分と落ちぶれたものですね」
ジス「お、お前は・・・」
ジス「ミカハ!」
ミカハ「あのジス先輩がリストラですか・・・」
ミカハ「実に嘆かわしい・・・」
ミカハ「お願いしますと頭を下げるなら、」
ミカハ「先輩にピッタリな職と犬小屋程度の住処は用意してあげますよ?」
BOSS「・・・いやー、良かったじゃないジスくん!」
BOSS「ミカハくんのお世話になったら良いじゃない」
BOSS「ミカハくんのお家は、ほら、あの名門の──」
BOSS「ミカハくん、お父様に私のことも宜しく伝えてくださいね」
ジス「・・・・・・」
ジス「絶対お前の世話にはならない!」
〇明るいリビング
ジス(はあ・・・これからどうするか・・・)
ガチャ──
鶴子「ただいま──」
鶴子「こんな時間にいるの珍しいね」
鶴子「どうしたの?」
ジス「おかえり、鶴子」
ジス「大事な話があるんだ」
鶴子「改まってなに?」
〇明るいリビング
ジス「鶴子がどれだけ大切な存在か気付いたんだ」
鶴子「・・・分かった」
ジス「じゃあ俺と結婚してくれるか?」
鶴子「・・・ううん、私、もうじーくんに対する好きの気持ちがないんだなって」
ジス「い、いや、鶴子だって結婚したいって言ってただろ」
鶴子「・・・じーくんにお願いしたの、5年前の話だよ」
鶴子「いきなり結婚の話をしてくるのって、2人の為じゃなくて、自分の為だよね?」
ジス「そ、それは・・・」
鶴子「じーくんは私・・・ううん、他の誰のこともちゃんと見てないよね」
鶴子「・・・・・・出て行って」
鶴子「出てって・・・!」
鶴子「・・・・・・」
〇公園のベンチ
ジス「はあ・・・なんだよ鶴子のやつ」
???「・・・あれ、ジスさん・・・?」
りの「こんな所で会えるなんて♡」
ジス「りのちゃん・・・」
りの「あれれ、なんか元気ない感じですぅ?」
りの「りので良ければお話聞きますよ」
りの「美味しいパンケーキがあるんですっ」
りの「だからぁ・・・」
りの「りののお家でゆっくりお話ししましょ♡」
〇可愛い部屋
りの「はい、どーぞ!」
〇可愛い部屋
りの「えーじゃあ、彼女さんにプロポーズ断られた上に家追い出されちゃった感じですか?」
ジス「あ、ああ・・・」
りの「じゃあ、じゃあ、もう遠慮しなくて良いってことですよね♡」
りの「ジスさん、りのと一緒に住みましょ♡」
ジス「えっ?」
りの「りの、ジスさんのことずーっと好きだったんです♡」
ジス「りのちゃんが俺のことを好き・・・?」
りの「もう、恥ずかしいから繰り返さないでください♡」
ジス「こんなに若くて可愛いりのちゃんが、クビになるようなおっさんの俺を好きなんて・・・」
ジス「・・・あ、良いかも・・・」
りの「え、今なんて言いました?」
ジス「良いかも?」
りの「その前です♡」
ジス「若くて可愛いりのちゃん?」
りの「その後です♡」
ジス「クb・・・」
りの「は?」
ジス「組織をクビに・・・」
りの「はあ?」
りの「クビになるとかマジないわ〜」
ジス「えっ?」
りの「良いとこ勤めてる以外にテメェの価値ある訳ねぇだろ」
りの「出てけよおっさん」
りの「とっとと出てけ!」
りの「はあ〜〜」
りの「時間無駄にしたわ」
〇通学路
〇荒れた倉庫
ジス「・・・・・・」
ジス(腹、減ったな・・・)
〇黒
「きゃージス様ー!!」
男子「ジスには敵わねぇな」
男の子「ぼく、ジスみたいなかいじんになる!」
〇黒
りの「良いとこ勤めてる以外にテメェの価値ある訳ねぇだろ」
鶴子「じーくんは私・・・ううん、他の誰のこともちゃんと見てないよね」
ミカハ「先輩にピッタリな職と犬小屋程度の住処は用意してあげますよ?」
BOSS「クビ」
ミカハ「地べたに額を擦り付けて無様に頼むなら──」
BOSS「K・U・B・I──」
「あはははは!!!!」
〇荒れた倉庫
ジス「・・・・・・っは!」
ジス「夢か・・・・・・」
ジス「・・・・・・」
ジス「プライドだけじゃ腹は膨れない、か・・・」
ジス「・・・・・・」
〇闇の要塞
ピンポーン──
インターホン「はーい」
〇家の廊下
ジス「え、」
ジス「え、」
ジス「え、」
〇ハチ公前
ジス「え、」
???「あ、もしかしてジスさん?」
キララ「キララでーす!」
ジス「れ、レンタル怪人おじのジスです・・・」
キララ「マジでおじじゃん 笑」
キララ「とりま話し聞いてもらえたらな〜って」
〇レトロ喫茶
ジス(あれ)
ジス(この感じ・・・)
ジス(もしかして──)
〇レトロ喫茶
ジス(1、相手の調子に合わせる)
ジス(2、相手に気持ち良く語らせる)
ジス(これ、)
ジス(体育会系接待(得意分野)なのでは──?)
〇レトロ喫茶
キララ「──とか、マジうちの親父酷すぎっしょ?」
ジス「わーかーるー!」
ジス「酷すぎの極み」
キララ「・・・ジスっちもそう思う?」
ジス「思う思う!」
キララ「やっぱそうだよねー!」
〇ハチ公前
キララ「じゃあ今日はありがと!」
ジス「またのご利用お待ちしてます!」
ジス(・・・俺案外この仕事向いてるのでは?)
〇家の廊下
とり吉「ずいぶんご機嫌じゃねぇか」
ジス「お、とり吉聞いてくれよ──」
とり吉「クビ」
ジス「え、」
とり吉「評価:★☆☆☆☆」
とり吉「口コミ:ぶっちゃけ星一つも付けたくないくらい」
とり吉「何も分かってないおじまじ最低!キモい!」
とり吉「金と時間の無駄!!──キララ──」
ジス「ちょ、ちょっと待ってくれ、何かの間違いだ!」
とり吉「うるせぇ、言い訳すんな」
ミカハ「何騒いでるんですか」
とり吉「ミカハ、やっぱりこいつセンスねぇぞ」
ミカハ「はあ・・・やっぱりですか・・・」
〇家の廊下
昨日────
とり吉「──後、なんか質問あるか?」
ジス「・・・なんで『レンタル怪人おじさん』じゃなくて『レンタル怪人おじ』なんだ?」
「『おじ』の方が可愛いからだろ(です)!」
とり吉「こんなことも分からなくて大丈夫か?」
とり吉「不安しかねぇ・・・・・・」
〇家の廊下
ミカハ「・・・前々からセンスがないとは思っていましたが、これ程とは・・・」
はぁ・・・・・・
ジス「う、」
ミカハ「仕事一つこなせないような人が僕の先輩だったなんてことがあるんですか?」
ミカハ「世も末ですね」
ミカハ「現実だと信じたくないので、さっさと寝て目を覚ましたらどうです?」
ジス「ぐ、」
とり吉「訳:この仕事、絶対に成功させられると信じてますよ」
とり吉「訳:だって僕の先輩ですよ?」
とり吉「訳:僕が何とかするので、取り敢えず寝て休んでください」
ジス「え、ミカハ、これって・・・」
ミカハ「と、とりあえずもう一度依頼人に会ってどうにかしてください」
とり吉「相変わらずミカハはこいつに甘いな・・・」
とり吉「ジス!」
とり吉「クビの皮一枚で繋がって良かったな」
とり吉「センスないんだから、寄り添う気持ちを忘れんなよ!」
〇黒
鶴子「・・・じーくんは調子だけ良くて、他人のことちゃんと見てないよね」
とり吉「ちゃんと目の前の依頼人に寄り添うこと忘れるなよ!」
とり吉「センスねぇんだから!」
ミカハ「センス」
とり吉「センス」
ジス「うー・・・・・・う・・・セン、ス・・・」
〇ハチ公前
ジス(眠れなかった・・・・・・)
キララ「っあ・・・」
ジス「すまなかった──!」
キララ「や、やめてください──」
通行人「なにあれ」
通行人「怪人が土下座してんの初めて見たわー」
キララ「と、とりあえず移動しましょう」
〇レトロ喫茶
キララ「あ、あの・・・」
ジス「すm・・・」
キララ「ごめんなさい!」
キララ「パパが全然帰ってこないのは本当だけど、」
キララ「怪人のおじにまで酷いって言われたら、パパは救いようがないくらい酷いってことで」
キララ「しかも、その原因になってるのが自分だって思ったら、なんか・・・」
キララ「・・・・・・」
キララ「・・・キララじゃなくて、本当は照輝(てるき)って言います」
キララ「こういう可愛い格好をするのが好きで・・・・・・」
キララ「嘘ついてたら分かってもらえるはずないのに、八つ当たりしてごめんなさい」
ジス「・・・・・・」
ジス(ああ、俺はこの子の何も見えてなかったのか──)
ジス「謝るのは俺の方だ」
ジス「本当に申し訳なかった」
ジス「・・・もし、嫌じゃなかったら、もう一度君のことを教えてほしい」
〇レトロ喫茶
キララ「ジスさんってちょっとパパに似てるかも」
キララ「だから話しやすいのかなーって」
キララ「最初からちょっと思ってたんだ♪」
ジス「俺に似てる父親か・・・・・・」
キララ「見る?」
キララ「ほら、夢の一軒家とパパ」
〇綺麗な一戸建て
〇レトロ喫茶
ジス「あーーー!?」
キララ「ちょ、ジスさん声大きい・・・!」
〇レトロ喫茶
────同時刻、別テーブル
とり吉「まったく・・・世話が焼ける奴だな」
とり吉「・・・本当にあいつで良いのかよ」
ミカハはジスにちらりと視線を遣る。
ミカハ「今のところはあれで良いんですよ」
ミカハ「今は、ね・・・・・・」
〇黒
── 完 ──
ジスが周囲の人たちから責められる夢にうなされて目覚めるシーンの描き方がうまくてすごい。ドラマの映像を見てるみたいでした。相手をちゃんと見ないで上辺だけで接していると、いつか全て自分に跳ね返ってきてしまうんですね。実は先輩思いのミカハがいてくれてよかった。
ジスさん、ツンデレ(もしくはクーデレ?)だけどいい人…怪人だけど。
とりあえず今まで支えてくれた、鶴子さんに謝りましょう!多分別れを告げたのも、相手をダメにしない為っぽいですし…
怪人生も歯車が狂ってしまうととんでもないところまで転がってしまいましたね(涙)。肩書に頼ってノウノウと生きてきたつけが回ってきたといえばそうですが、ジスさんは早い時点でプライドを捨てることを選んだあたり、えらい!と思います。