エピソード1『アスラ・ウェポン』(脚本)
〇川に架かる橋
18時、暗闇が街を覆い始め、道往く人の顔も見えなくなる頃に──
夜の街を一人歩く私
『甲斐 尋 ─カイ ヒロ─ 』はその日──
〇黒
〇アパートの玄関前
特に何のトラブルも無く帰宅した
甲斐 尋(何も起きなくて当然)
甲斐 尋(途中に交番も在るし、怪獣の出現記録だって無いし)
甲斐 尋(事件どころかナンパの一つも無い)
甲斐 尋「何か有るなら~郵便受けの中身ぐらい~♪」
甲斐 尋(昨日も入っていたチラシじゃん)
〇幻想空間
『アスラかいじんクリニック』オープン
今すぐモテかわ怪人になって、アナタも愛され人生を手に入れよう!
〇アパートの玄関前
甲斐 尋「嘘つけ、こんなのやっただけでモテるかよ」
〇アパートの台所
甲斐 尋「キャストオフ!」
スーツをマッハで脱ぎ捨て──
乳の溢れそうなバスローブに着替える
風呂はまだなのだが──
それよりも急がねばならぬ事がある
甲斐 尋「かああぁぁっ!」
甲斐 尋「──げぷっ!」
甲斐 尋「ふへへっ!」
甲斐 尋「無敵ッ! 金曜夜の私に敵無しいぃっ!」
甲斐 尋「オマケに彼氏も無しぃッ!」
甲斐 尋「・・・」
甲斐 尋「・・・」
甲斐 尋「お酒おいしいなあー」
〇古いアパートの部屋
甲斐 尋「──うん?」
甲斐 尋「モテかわ怪人か」
昔よりも、確かに世間から好意的に見られているとは思う
甲斐 尋「今の大河ヒロインも怪人だったっけ?」
怪人化の際に発生する公的奉仕義務
有事労働力提供、その実態は──
甲斐 尋「災害時の人命救助ぐらいは私としてもやぶさかじゃあ無いけど」
『両親に貰った体にメスを──
甲斐 尋「──入れてでも己の生を往け』」
という作家の言葉が去年の流行語大賞候補になったぐらいには──
甲斐 尋「最近は普通の事なんだよね」
〇幻想空間
アスラかいじんクリニックで改造手術をする5つのメリット
1・女性スタッフによる安心対応
面談から施術まで、当クリニックは全て女性のスタッフです
2・補助金制度が適用されるので費用が抑えられる
お財布にも優しい
3・最新AIで改造後の姿をシミュレート
事前のチェックで施術後の違和感を解消
4・完全予約制で待ち時間ゼロ
スタッフ以外の人に会う心配もゼロ
5・当クリニックスタッフは全員改造手術を受けた先輩怪人
その経験からのアドバイス、手厚いアフターケアもお約束します
〇古いアパートの部屋
甲斐 尋「ふーん」
甲斐 尋「割引クーポンを使えば値段は貯金の2割か」
甲斐 尋「・・・」
甲斐 尋「26歳、結婚を焦る程の歳ではないけども」
甲斐 尋「家族以外の男とは、手を握ったことも無い」
甲斐 尋「・・・」
甲斐 尋「顔やスタイルを褒められる事があるけども」
甲斐 尋「今まで告白された事が無いって事は── 私はたぶんモテ無い」
甲斐 尋「みんな気遣っているだけで、本当は私、もしかして、ブスなのかな?」
甲斐 尋「うぅっ・・・」
甲斐 尋「・・・」
甲斐 尋「プチ改造体験コース、予約しちゃった」
〇渋谷駅前
─次の日─
〇病院の診察室
アスラ院長「──さて、これで全ての問診と検査が終わったワケですが」
アスラ院長「私の判断としましては、甲斐さんにプチ改造手術はおすすめ出来ませんね」
甲斐 尋「えっ?」
甲斐 尋「──私じゃあ可愛い怪人になる事も出来ないって事ですか?」
アスラ院長「甲斐さん、何か勘違いさせてしまったら謝るんだがね、逆だよ」
甲斐 尋「なにが逆なんですか?」
アスラ院長「君の改造許容値、私の知る限りだけれども」
アスラ院長「ぶっちぎりで最高よ」
甲斐 尋「え?はぁ・・・最高?」
アスラ院長「ええ、最高なの」
アスラ院長「普通の人だと元の体の20%までしか改造が出来ない」
アスラ院長「大改造で有名になった大河ヒロインの娘だって元の35%しか改造してない」
甲斐 尋「はぁ」
アスラ院長「でもね甲斐さん、君の改造許容値はね──」
アスラ院長「98%!!」
甲斐 尋「それは──」
アスラ院長「君は理想の──最高の怪人になれる」
甲斐 尋「最高の、怪人?」
アスラ院長「だからプチ改造手術とかヌルい事をしている暇なんて無い、君は今すぐに最高の怪人になる義務が有るのだ!」
甲斐 尋「えっ、義務!? でもお金、持ち合わせも無いですし──」
アスラ院長「私が出そう!」
甲斐 尋「で、でも、全身の設計はまだしてない──」
アスラ院長「実はあの大河の娘、私がデザインと手術したのだ 確認しても良いぞ」
甲斐 尋「えぇ? 本当ですか? 調べますよ」
甲斐 尋「本当だった・・・」
アスラ院長「だから、ね! 私に全部任せて! 君を最高の怪人にするから!!」
アスラ院長「さあ! とりあえずここにサインして!!」
甲斐 尋「え、あ、ハイ」
アスラ院長「よっしゃあ!」
甲斐 尋「あ、勢いでつい」
アスラ院長「ソイッ!」
甲斐 尋「ふぐっ!?」
「う、ぅぁ──」
アスラ院長「ククッ、この素体が在れば──」
アスラ院長「私の”理想の怪人”を造れる」
アスラ院長「ククッ、フハハハハッ!!」
〇黒
〇近未来の手術室
甲斐 尋「うーん」
甲斐 尋「んぁ? 何ここ?」
甲斐 尋「──そうだ! アスラ院長に注射を射たれて」
甲斐 尋「院長!アンタよくも──」
アスラ院長「改造手術は完全に成功したよ 何か違和感は無いかい?」
甲斐 尋「手術だって!? それに違和感って──んん?」
アスラ院長「何かあったかね?」
甲斐 尋「右──右の胸にも、鼓動を感じる?」
アスラ院長「正解、怪人コアは副心臓式を採用した」
アスラ院長「他に痛い所や熱っぽさ、だるさや寒気は?」
甲斐 尋「特に、無い、けれども」
アスラ院長「それではお楽しみ、早速怪人に変身してみようか♪」
甲斐 尋「院長、アンタ勝手に私を改造したのかよ!」
アスラ院長「クリニックに来たのは君の意思だっただろう? 私はその背中を多少強く押したに過ぎんよ」
甲斐 尋「勝手に決めんな、何様のつもりなんだよ!」
アスラ院長「──お姉様、って言ったらどう思う?」
甲斐 尋「はぁ?」
アスラ院長「──私には引っ込み思案の妹が居た 今はもう居ないが、迷う背中を押してあげられなかった事は今でも後悔している」
甲斐 尋「妹さんは──」
アスラ院長「さあ選べ! 私をお姉ちゃんと呼ぶか、変身するかを!」
甲斐 尋「──変身で」
アスラ院長「チェーッ(・ε・` )」
甲斐 尋「で、どうするのよ?」
アスラ院長「変身のトリガーは二つだが── 怪人コアからのエネルギーは感じるかい?」
甲斐 尋「感じる、何コレ?簡単に爆発しそう」
アスラ院長「爆発しても君へのダメージにはならない その胸のエネルギーを解放するイメージで『変身』と言うんだ」
甲斐 尋「このエネルギーを解放──」
甲斐 尋「『変身』!!」
〇近未来の手術室
アスラ院長「おぉ──」
アスラ院長「成功だ」
「私──変身したの?」
アスラ院長「あぁ、そこの鏡を見ると良い」
「う、うん」
「どれどれ──」
〇近未来の手術室
甲斐 尋「・・・?」
甲斐 尋「??」
アスラ院長「どうだい? 最高だろ♥️」
甲斐 尋「・・・く」
アスラ院長「く?」
甲斐 尋「くぁwせdrftgyふじこlp!?!??」
アスラ院長「おや? 倒れた 脚部に不具合でも有ったかね?」
甲斐 尋「院長!なんだよコレ!? どうなってんのよ!?」
アスラ院長「なんだ、脚部に問題は無さそうじゃないか」
甲斐 尋「そうじゃねえだろおおおぉ!」
〇黒
〇病院の診察室
甲斐 尋「──つまり院長は私の体を自分好みの怪人を造る為に使ったと?」
アスラ院長「そう、今君は『私の考えた最強怪人』だ」
アスラ院長「単純な肉体的強度は言うに及ばず感知能力、自己修復能力、分子破壊ブレード、違法改造した怪人コアの出力は原子炉数基分の──」
甲斐 尋「私、男にモテたくて改造手術を受けに来たんだけど──コレ男性型の怪人だよね?」
アスラ院長「大丈夫、男の子ってカッコいい怪人が好きだから!」
甲斐 尋「ソレでモテても嬉しくねえよ!!」
甲斐 尋「しかもコレ特級怪人じゃないの? 怪獣との戦闘義務が発生するじゃん!」
甲斐 尋「どうしてくれるのよ!!」
アスラ院長「さすが私の怪人、凄まじい迫力だが──」
アスラ院長「ポチっとなー」
甲斐 尋「な、何!? 体が勝手に──」
甲斐 尋「行儀の良い正座を!?」
アスラ院長「ふふふ、怪人が言うことを聞かない事ぐらい想定内なのだよ」
アスラ院長「君は怪人状態の時に私の命令に逆らえない設計だ」
アスラ院長「まぁ、余り細かい指示を出せるワケでは無いがね」
甲斐 尋「まさか、私をアンタの奴隷にするつもりなの?」
アスラ院長「イヤ、別に束縛する気は無いよ」
甲斐 尋「・・・本当に?」
アスラ院長「私を攻撃しないんなら好きにして良いよ」
甲斐 尋「好きにして良いんなら、モテかわ怪人への再改造したいんだが」
アスラ院長「君の再改造に必要な予算は東京の年間予算ぐらいする」
甲斐 尋「おいくら兆円・・・」
アスラ院長「では人間形態への戻り方を教えよう」
〇黒
〇アパートの台所
甲斐 尋「・・・変身」
甲斐 尋「・・・」
〇古いアパートの部屋
甲斐 尋「・・・変身」
甲斐 尋「・・・」
甲斐 尋「──寝よう」
〇古いアパートの部屋
(院長の手術で知らぬ間に1泊させられたから、明日は月曜日──)
(明日も仕事だ・・・)
(怪人になったけれども、退職したワケじゃないし)
(悔しいけれど体調はここ数年感じた事が無いレベルで快調なので明日は仕事だ──)
〇ラーメン屋のカウンター
─次の日、昼─
甲斐 尋(怪人の食欲ヤバい、ラーメン十杯食べてまだ満腹じゃない)
甲斐 尋(かといって空腹感も無いし──)
甲斐 尋「お会計お願いしまーす」
〇開けた交差点
甲斐 尋「好きなだけ食べたら食費がヤバい」
甲斐 尋「えっ?この警報って──」
防災警報発令──
この地域で”怪獣”の活動が予想されます
頑丈な屋内等へ避難し、命を守る行ど──
〇荒廃した街
〇荒廃した街
甲斐 尋「か、”怪獣”だ」
甲斐 尋「この街で出現記録なんて無かったのに」
怪我人「うぅ──」
怪我人「い、痛い」
甲斐 尋「ハッ!? そうだ、人命救助をしないと」
甲斐 尋「私が、私がやらないと──」
甲斐 尋「・・・」
甲斐 尋「今、私がすべきことは──」
〇荒廃した街
甲斐 尋「テメエを野放しにしていたらよ、救助なんか出来ねえんだよなぁ」
甲斐 尋「不本意ではあったけれども折角の力なんだ」
甲斐 尋「怪獣退治も──やぶさかじゃあ無いよ」
甲斐 尋「変身」
「おっと──」
甲斐 尋「変身の直後を狙うなんて品の無いヤツめ」
甲斐 尋「フン!」
甲斐 尋「炎も斬れる──院長の言う通りの性能だね」
甲斐 尋「もう被害は出させないよ」
甲斐 尋「フフン、これが剣道全国ベスト4の力よ」
甲斐 尋「お、救助も進んでいる」
甲斐 尋「私も戦ったかいがあったよ」
〇荒廃した街
甲斐 尋「──何か、来る?」
特級怪人「もう片付いたのか?」
特級怪人「──今周辺カメラのログを確認した ”彼”凄いね」
特級怪人「ほらコレ破損して見れない部分も有るけど」
特級怪人「凄いな、特級怪獣を単騎で圧倒するとは」
特級怪人「アンタ見ない顔だが新人かい?」
特級怪人「でもそんな情報は──」
特級怪人「照会したけど彼の情報は無いね」
特級怪人「──アンタ何者だ?」
特級怪人「まさか違法改造怪人?」
甲斐 尋(え?私って違法改造なの? そういえば特級怪人って警察か軍の所属だったような)
甲斐 尋(どど、どうしよう!?)
甲斐 尋「『クククッ──』」
甲斐 尋「『クハハハハッ!』」
甲斐 尋(え?私の口が勝手に動いている!? これって──院長が操ってるの?)
特級怪人「何がおかしい?」
甲斐 尋「『我は違法改造怪人では無い』」
特級怪人「アンタの情報は警察や軍のデータに無い 信用出来るかよ」
甲斐 尋「『貴様らの権限では開示されぬだけの事』」
甲斐 尋「『アスラ・ウェポン』」
甲斐 尋「『我のコードネームだ、警察長官にでも伺いをたててみるが良い』」
特級怪人「──どうだ?」
特級怪人「──どうやら本当だね」
甲斐 尋「『確認出来たのなら我は去る、別の仕事の途中だからな』」
特級怪人「あ、オイ」
甲斐 尋「『この場は貴様らに任せた、去らばだ』」
特級怪人「行っちゃった」
特級怪人「何者だ?」
???「僕に聞かないでよ」
???「まさか噂の『暗部』ってヤツか?」
???「ちょっぴり興味が出てきた 少し調べてみるよ」
???「頼む、何か分かったら俺にも教えてくれ」
???「おっけー」
〇黒
〇病院の診察室
甲斐 尋「ありがとうって言えばいいのかな?」
アスラ院長「ふふふ、アスラかいじんクリニックはアフターケアも万全なのさ」
甲斐 尋「それで? アタシの扱いって結局どうなるの? 警察?軍?院長の駒?」
アスラ院長「私の駒だ──対外的にはね」
甲斐 尋「何それ?」
アスラ院長「警察や軍のトップとの話はつけてある 今日の様に君が変身して何かをしたら──」
アスラ院長「それは実は私からの指令、という事になる」
アスラ院長「今後は気が向いたら怪獣退治や人助けをしてくれ」
甲斐 尋「訳が分からん」
アスラ院長「謎に包まれた神出鬼没の正義怪人」
アスラ院長「それが『私の考えた最強怪人』だからさ」
甲斐 尋「ロマンに付き合えって事?」
アスラ院長「君の事は調べさせて貰った──」
アスラ院長「こういうの、嫌いじゃあ無いだろう?」
甲斐 尋「まぁ──やぶさかじゃあ無いわね」
アスラ院長「それにイケメン怪人とお近付きになるチャンスかも知れんよ」
甲斐 尋「気合いが入ってキターー!!」
斯くして、謎の怪人『アスラ・ウェポン』は誕生した
〇黒
〇黒
「フレイマが滅された」
「尖兵として過剰だと思ったが」
「簡単にはいかぬか」
「しかし引けぬ」
「我らは進むのみ」
「全ては──」
「世界の持続の為に」
すみません、内容も良かったのですが、続きも気になるのですが、
最後の作者コメントがいちばん気になって仕方がありません!w
改造手術への誘い方が巧みで引き込まれましたw
主人公と院長の距離感がイイ感じで、新たな脅威の存在も気になりますね!
プチ整形感覚の怪人改造クリニック、面白かったです😆
尋さんが変身した瞬間、声を出して笑ってしまいました😁
どうか彼女に春が訪れますように~