840ぶんの1

木春詩野

1.暗い扉(脚本)

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木春詩野

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〇黒
  読んでくれたんだな。
  ありがとう。
  ってことは、俺はもう「いなかった」ことにされてるのか。
  ちょっと寂しいな。
  でも、そんなことはどうでもいい。
  最後にどうしても言っておきたかったことがあるんだ。
  ■へ。
   ■■■■だったよ。
   俺の大切な■■。
  西暦二〇二一年七月二十三日
  ■■■ ■■記
  同年七月三十日 検閲済

〇教室
初穂「セーフ!!」
先生「アウトだ」
初穂「えーそんな!!」
先生「ったく、春夏冬(あきなし)!! 何回目だ!!」
初穂「あはは」
先生「はぁ・・・ さっさと席に着きなさい」
初穂「へーい・・・」
先生「返事は「はい」!!」
友人「あっきー、また怒られてんのか」
初穂「ちょっと寝坊しただけだよ」
先生「そこ、しゃべらない!」
先生「今日は五谷大塚の模試の返却だ」
先生「お前たち、大学受験はすぐそこだぞ」
先生「ちゃんと勉強しないと痛い目見るからな」
先生「出席番号順に返すぞ」
先生「赤塚」
先生「春夏冬」
初穂「っす」
先生「加藤」
初穂(・・・ん?)
初穂「なあ、なんかおかしくね?」
友人「なにが?」
初穂「ほら、なんか足りなくない?」
友人「いや」
友人「足りないって言ったら、お前の出席日数くらいじゃないのか? 遅刻のしすぎで」
初穂「まあ、それはちょっと危ないけど」
友人「気をつけろよ」
初穂「あはは、そのうち」
初穂「そうじゃなくて 何か足りなくない?」
初穂「物とか人とか あ、もしかして今日、欠席者いたりする?」
友人「欠席者なんていないよ ちなみに遅刻者はお前だけだ」
友人「どうしたんだよ 悪いもんでも食べたのか?」
初穂「いや、そんなことはないけど・・・」
  ざらざらとした違和感があった。
  でも違和感を覚える理由もわからなかった。
  とりあえず、ぐるりと教室を見渡す。
初穂「あれ? ひとつ机が多くないか?」
友人「ああ、どっかの部活が使ってそのままなんだろ」
初穂「あーなるほどな」
先生「ほら、そこ!! というか春夏冬!!」
先生「お前、ちょっとは静かにできないのか」
初穂「できまーす」
先生「じゃあ、しなさい!!」
先生「まったく」
先生「今日の授業は、不正解が多かった問題の解説から始めるからな」
初穂(なんかもやもやするな)
初穂(というか、最近、多い気がする)
初穂(でもみんなは何も言ってないし)
初穂(じゃあ、これって)
初穂「やっぱ、気のせいか!!」
先生「春夏冬!!」
初穂「あ、やべ」
先生「あとで職員室に来なさい!!」
初穂「へーい・・・」
先生「返事は「はい」!!」
初穂「は、はーい!!」
先生「まったく」

〇教室
友人「あっきー 週末の部活、来てくれない?」
初穂「悪いけど、今週末はだめ」
友人「千明ちゃん?」
初穂「そう!! ピアノの発表会なんだ」
友人「それなら仕方ない また今度頼むから、その時よろしく」
初穂「おう!!」
初穂「じゃあ、急ぐから!!」
友人「じゃあな」
友人「千明ちゃんって?」
友人「あれ、知らない? あっきーの妹だよ」
友人「初めて知ったわ」
友人「あっきーってシスコンなの?」
友人「そうかもしれねえけど、ちょっと違うよ」
友人「千明ちゃんはあっきーの血のつながらない妹」
友人「親の再婚相手の連れ子か?」
友人「ああ・・・そうか お前、最近、引っ越して来たんだっけ?」
友人「この辺じゃ有名な話だ」
友人「小二のとき あっきーの親が失踪したんだよ」
友人「あっきーに聞いた話だと、もともと母子家庭で、ある日突然、母親が帰ってこなくなったって」
友人「は? 子どもを置いて?」
友人「ああ」
友人「で、それが変な事件だったらしいんだ」
友人「失踪事件だっていうのに警察は動かなかったり」
友人「そのあとにはあっきーが住んでたアパートが全焼したりな」
友人「なんだそれ」
友人「変だろ?」
友人「アパートの方は放火だったらしいけど、犯人は捕まってないって聞くし」
友人「それで結局、あっきーは親戚の家にいるんだよ」
友人「なるほどな」
友人「ここらじゃ、ほとんどみんなが知ってる話だけど」
友人「あんまり蒸し返さないでやってくれ」
友人「ああ、もちろん」

〇シックな玄関
初穂「ただいま〜」
叔母さん「おかえりなさい〜」
千明「おかえり、お兄ちゃん」
初穂「あれ、千明ちゃんおでかけ?」
千明「うん、発表会が近いからレッスンに行くの」
初穂「送ってくよ」
千明「近いから大丈夫だよ」
初穂「いいの、いいの、俺も買い物あるし。 ついでにね」
千明「じゃあ、ありがとう」

〇住宅街の道
初穂「ピアノ、おつかれさま」
千明「待っててくれてありがとう」
初穂「俺もちょうど、買い物終わったからさ 全然待ってないよ」
初穂「これ、ふたりで食べような」
千明「いいの!?」
初穂「もちろん!! 発表会準備おつかれさまのお菓子」
千明「やったー」
千明「発表会は? 来てくれる?」
初穂「もちろん」
千明「嬉しいなぁ!!」
千明「お兄ちゃんって優しいよね」
初穂「そう?」
千明「友だちのお兄ちゃんなんて、いつも夕飯のおかずをとるって」
初穂「そりゃ、極悪人だな」
初穂「夕飯がハンバーグならなおさらだよ」
千明「お兄ちゃん、ハンバーグ大好きだもんね」
初穂「ああ!! 叔母さんのハンバーグは特に絶品だしな!!」
千明「私も、お兄ちゃんみたいに・・・なれるかな?」
初穂「ん?」
千明「お母さんがね、「もうすぐお姉ちゃんになるんだよ」って」
初穂「そっか」
初穂「千明ちゃんは大丈夫だよ」
初穂「きっと世界一ステキなお姉ちゃんになれるから」
千明「はは、世界一って!!」
初穂「本当だよ 千明ちゃんは立派なお姉さんになれるよ」
千明「そうかな」
初穂「そうだよ!! 俺が保証する」
千明「ありがとう お兄ちゃん、大好き」
初穂「おお、もうこんな時間か」
千明「今日の夕飯、なんだろうね」
「ただいま!!」
叔母さん・叔父さん「おかえり」

〇教室
先生「じゃあ今日の授業はここまで」
先生「じゃあ良い週末を」
友人「あっきー、今日、楽しそうだな」
初穂「ああ」
友人「どうしたんだ?」
初穂「千明ちゃんのドレスが届くんだ。 着て見せてくれるんだって」
初穂「だから早く帰らないと!! じゃあな!!」
友人「あ、ああ」
友人「千明ちゃんって? 彼女か?」
友人「あいつに彼女なんていたか?」
友人「いや、ないよな。 初カノかもな」
友人「にしてもドレスって ウエディングドレスか何かか?」
友人「さあ・・・」

〇住宅街の道
初穂「千明ちゃんのドレス、何色なんだろ?」

〇シックな玄関
初穂「ただいま!!」
初穂「って、あれ?」
初穂「誰もいない?」
初穂「出かけてんのか?」

〇シックな玄関
初穂(叔母さんと千明ちゃんの靴がない)
初穂(電話も出ない)
初穂(どうしたんだ?)

〇アパートのダイニング
幼い初穂「母さん なんで帰ってこないの?」
幼い初穂「ねえ、なんで」
幼い初穂「僕を置いて、どこいっちゃったの」

〇古いアパート
近隣の人「春夏冬さん家、お母さんいなくなったって」
近隣の人「ええ、そうなの?」
近隣の人「らしいわよ」
近隣の人「あら~」
近隣の人「でも、あそこのお母さんを見かけたことあったかしら?」
近隣の人「アタシ、見たことないけど」
近隣の人「・・・私もないわ」
近隣の人「男と逃げたんじゃない?」
近隣の人「ああ・・・ありそうね」
幼い初穂「母さんはそんなことしないもん」
近隣の人「あ、あら初穂くん」
幼い初穂「おばさんたち、いつも母さんと仲良く話してたのに!!」
幼い初穂「なんでそんなこと言うの!?」
幼い初穂「先週だって、母さんがおばさんたちに野菜を配りにいったじゃん!!」
近隣の人「初穂くん?」
近隣の人「先週うちに来てくれたのは初穂くんだったでしょう?」
幼い初穂「え・・・」
近隣の人「お返しに、おばさんは初穂くんにクッキーをあげたんだけど」
近隣の人「忘れちゃった?」

〇シックな玄関
初穂(あのときみたいに?)
初穂「くそ」

〇おしゃれなリビングダイニング
  どれだけ待っても、誰も帰ってこなかった。
  叔母さんも千明ちゃんも、叔父さんも。
  みんな。
初穂「なんで」
幼い初穂「また置いていかれたんだよ」
幼い初穂「僕が要らないから」
幼い初穂「母さんだって、そうだった」
初穂「違う!!!!」
初穂「・・・探しに行ってくる」
幼い初穂「・・・」
幼い初穂「無駄なのに」

〇住宅街の道
初穂「いない」

〇繁華な通り
初穂「いない」

〇学校の校舎

〇コンビニ
初穂「くっそ」

〇大学病院
初穂「病院だったら、連絡来るか」

〇街中の道路
初穂「どこにいったんだよ・・・」

〇シックな玄関
  探すところはもうなかった。
初穂「またかよ・・・」

〇シックな玄関
  無情にも夜は明けた。

〇警察署の廊下
初穂「だから、そんなはずはないんすよ!!」
警察官「とは言ってもね」
初穂「なんてこと言うんすか・・・!!」
  翌日になって、俺は色んなところに連絡した
  叔母さんの友人
  千明ちゃんが通っているピアノ教室
  叔父さんの職場
  それから役所
  でも返ってきた答えはみんな同じだった。
警察官「そんな人たちはいないんだ」
  「そんな人たちは知りません」
警察官「君は昔から一人暮らしをしている これが事実だ」
初穂「違います!!」
初穂「叔母さん家に引き取られたんす!!」
警察官「一人暮らしが高校生にとって負担なのはわかるよ」
警察官「だけど、警察だって暇じゃない」
警察官「いたずらに付き合ってられないんだよ」
警察官「帰ってくれ」

〇警察署の入口
初穂「どういうことだよ」
初穂「どいつもこいつも、「知りません」って」
初穂「これじゃあ」
初穂「あのときと同じじゃないか」
  急に雨が止んだ。
  いや、違う。
  傘を差しだされていた。
茨「はじめまして、春夏冬初穂さん」
茨「私は「セカイ保全委員会」がひとり」
茨「八月朔茨(ほづみいばら)と申します」
初穂「・・・は? 何言って・・・」
茨「ご家族をお探しだと伺いました」
初穂「え、アンタ、俺の家族のことを信じて・・・」
茨「ええ 私はその究明のために参りました」
茨「見つけましょう、ご家族を」
初穂「っす!! ありがとうございます」

次のエピソード:2.雨の歌

コメント

  • なんだか不思議なお話だなぁと思いました。
    居たはずの人間が消えてしまって…他の人からの記憶すら消えてしまうって、怖い話ですよね。
    これからどうなるのか。

  • 家族や身近な存在の人が、ある日急に消えてしまう。しかも、周囲の人の記憶からも、公的な記録からも。この不可解で恐ろしい現象の正体について気になりますね。次話が楽しみになります。

  • 大切な人たちが突然姿を消してしまうほど悲しいことはありませんね。なんだかただぬことが起きている予感がします。信じてくれる人が一人でもいてくれてよかった。真実が見つかりますように。

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