手土産を買いに(脚本)
〇黒背景
日曜日の買い物。
〇公園通り
時刻は午後1時を回り、日曜のショッピングモールは喫茶店や飲食店、アパレル店は休日気分の学生や社会人で賑わっている。
〇公園通り
時折モール内の従業員と思われる人は見かけるが、沙織は見つからない。
瀬野 沙織(せの さおり)は僕の恋人でもあり、家族みたいな存在だ。
だが近頃、会話をしていてもどこか上の空で、違和感を感じている。
棚橋 悠介(たなはし ゆうすけ)「沙織はどこに行ったんだか」
そう愚痴をこぼしながら手土産コーナーへと足を踏み出した。
〇白
手土産を買いに
〇デパ地下
宮崎 俊(みやさき しゅん)は今年で四十五歳を迎える。
息子の俊介(しゅんすけ)とは血縁関係にはないが、生まれた時から一緒に住んでいる。
その母親になる、妻と恋人関係になってからもうかれこれ二十七年といった所だろう。
当初、交際して二年ほど経つ妻に他の男性との間に妊娠したことを告げられた時は衝撃を受けた。
けれど二か月半、身勝手な理由で連絡をとりあわなかった自分に責任があると感じ、妻を説得し結婚へと話をすすめた。
自分の全てだと思える息子と家族に迎え入れた今は、妻との間に子供をつくらないという決断は正しかったと思っている。
宮崎 俊(みやさき しゅん)「今日で25年か」
これからの先のこと、自分自身と息子の関係を考えているうちに、共に住むことを決意して二十五年経つのはあっという間だった。
息子から新しくできた彼女の家族に挨拶をする手土産を一緒に選んで欲しいと頼まれ、こうしてショッピングモールへ来ている。
ここはかつて妻と待ち合わせに使っていた場所。懐かしくも少し苦い思いもした場所。
あの時と変わらず今日も地産地消のイベントで周辺は程よく込み合っている。
何組かの家族連れとすれ違う中、息子が
宮崎 俊介(みやさき しゅんすけ)「父さん、ごめんな」
息子の突然の謝罪に驚く私に続けた。
宮崎 俊介(みやさき しゅんすけ)「俺、随分前から父さんと血がつながっていないことを知っていたんだ」
宮崎 俊介(みやさき しゅんすけ)「そりゃ何度も聞きこんで初めて母さんに聞いたときは何とも言えない寂しさに襲われたけど俺、父さんと母さんの子供でよかったよ」
結婚を決意したあの時から親・親戚や友人にまで息子を守るためにいくつもの嘘を重ねてきたが、
今の今になって息子の想いに気づき、心底申し訳なく思った。
もどかしさと悲しい気持ちが入り混じる、こんな曖昧な感情は久しく味わったことがなかっただけに言葉にならない。
そのまま返答を考える自分をよそに
宮崎 俊介(みやさき しゅんすけ)「俺、今付き合っている彼女とは結婚しようと考えている」
宮崎 俊介(みやさき しゅんすけ)「例え彼女に父さんとの血縁関係への気持ちを伝えられなくても、父さんと同じように墓場まで持っていきたい」
さっき購入したばかりの手土産を入れた紙袋を私に差し出した。
宮崎 俊(みやさき しゅん)「どうしたんだこれ・・・」
中身は私と妻の結婚を祝う意味が込められたペアリングと旅行のチケットだった。
宮崎 俊(みやさき しゅん)「ありがとう」
今日の手土産コーナーはいつもより少しにじんで見えた。
〇白
息子と妻と後何年、一緒に暮らせるだろうか。
〇デパ地下
棚橋 悠介(たなはし ゆうすけ)「沙織のやつ、どこ行ったんだろな」
モール内を探しながらふと今日の喧嘩の原因を思い出した。
してあげたというのが口癖の世話好きな彼女につい頼んでいないと口走しってしまった自分の幼さに今さらながら腹を立てている。
そんな時、近くのタバコ屋さんは数人だが列に並んでいるのが見受けられる。
二話に続く。
確かにショッピングモールは、家族や恋人のいろんな姿や思いでごった返してしる舞台ですよね。悠介くんがどのような思いを抱いて、彼女とどのような関係を結ぶのか(否か)展開が楽しみになりますね。
たとえ血の繋がりがなくても、家族は家族なんですよね。
息子さんもびっくりしたでしょうが、勘づいていたからこそお母さんに聞いたんでしょうね。
幸せな家族だと思います。
確かに血の繋がりがなくとも家族は家族。
一番は気持ちの問題ですよね。
確かに受け入れるまでには時間がかかるかもしれませんが…。