されど、歩みは止められない

紅石

水戸部和人 中(脚本)

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紅石

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〇劇場の舞台
10代の続木終「ここにいる俺たちは、 全員死にかけの俺たち・・・」
30代の続木終「なるほどな。 確かに、自転車で事故ったことも、 過労でぶっ倒れたこともあるな」
30代の続木終「で、あんたは・・・」
40代の続木終「・・・自殺だ 思い出したんだ。俺は、自殺を・・・」
「・・・・・・」
20代の続木終「あの、だとしたら、まだ死んでない ってことですよね?」
20代の続木終「ここにいる俺たちが死んではいないこと それは40代の俺が証明しています」
20代の続木終「本人が言うんだから、 自殺は間違いないかもしれません でも、俺はまだ生きているんですよ」
20代の続木終「何があったのかは分かりませんが・・・ でも、俺は、死にたくない 今も10年後も20年後も」
10代の続木終「お、俺だって!」
30代の続木終「まぁ俺も、10年後に死ぬのは嫌かな」
40代の続木終「そうか、そうだ 君たちは、俺だもんな」
40代の続木終「俺の問題は、俺たちの問題だ」

〇稽古場
加藤 稔「断る」
水戸部 和人「まぁ、そう言うと思ってました」
水戸部 和人「でも現実的に考えて、 このままおれが出演するのは得策ではない 稔さんも分かってるんでしょう?」
水戸部 和人「おれの知り合いに、良い俳優がいます 彼なら3日足らずで台本を覚えれますし 動線はおれが教えれば──」
加藤 稔「僕はそんなことを心配してるんじゃない!」
加藤 稔「水戸部和人なら僕の思う続木終を 演じてくれる そう確信して貴方を選んだんだ」
加藤 稔「貴方じゃないと、だめだ」
水戸部 和人「・・・そこまで言っていただけるのは 役者として嬉しい限りです」
水戸部 和人「とりあえず、明日は休みをください 落ち着いて考えましょう おれも、あなたも」

〇行政施設の廊下
橋田 玲央「あれ?カズさん?」
橋田 玲央「もう帰ったのかと思ってました」
水戸部 和人「きみこそどうしたんだい? 朔くんたちはもう帰っただろう」
橋田 玲央「オレは航さんに聞きたいことがあって 気がついたらこんな時間でした」
橋田 玲央「あの、カズさん」
水戸部 和人「ちょうど会えて良かった おれ、明日は稽古休むことにしたから 迷惑をかけるけど、三人でよろしく頼むよ」
橋田 玲央「え?」
水戸部 和人「そういうことだから じゃあお疲れ様。気をつけて帰るんだよ」
橋田 玲央「あ、ま、まって、待ってください!」

〇オフィスビル
橋田 玲央「カズさん!」
橋田 玲央「休む・・・って、明日だけですよね? 明後日にはまた稽古に来るんですよね?」
水戸部 和人「・・・・・・」
橋田 玲央「カズさん!」
水戸部 和人「聡いね、きみは」
水戸部 和人「役を降りると稔さんに伝えた」
水戸部 和人「でも納得してもらえなかったよ」
水戸部 和人「あとは稔さん次第」
水戸部 和人「でも稔さんだって分かってるはずだ 一人の役者と一つの舞台、 どっちを取らなければならないか」
水戸部 和人「稔さんにはプロの演出家として 舞台の幕を開けて成功させる義務がある 役者一人のために舞台を潰しちゃならない」
橋田 玲央「でも、でも! そんなのおかしいじゃないですか!」
橋田 玲央「何も悪いことをしていないカズさんを 犠牲にしないと、 上演ができないなんて!」
橋田 玲央「カズさん、オレに言ってくれたじゃ ないですか 舞台は一人じゃつくれない、って」
橋田 玲央「それって、一人でも欠けたらダメって ことじゃないんですか!?」
橋田 玲央「答えてくださいよ、カズさん・・・」
水戸部 和人「ごめんね」
橋田 玲央「オレは、謝ってほしいわけじゃ・・・!」
水戸部 和人「雨が降ってるから、風邪をひかないように 気をつけるんだよ 役者は体が資本だから」
水戸部 和人「もうすぐ本番だろう。応援してるよ 頑張ってね」
橋田 玲央「そんな、他人事みたいに・・・」
橋田 玲央「他人事みたいに言わないでください!」
橋田 玲央「カズさん!!」

〇おしゃれなリビング
水戸部 和人「朔くんと龍介くんには何も言わずに 休みをもらったけど 今日の稽古場、大丈夫だろうか」
水戸部 和人「いや、無理矢理休んでおいて大丈夫か、 なんて心配する権利もないな」
水戸部 和人「今日はマネージャーと話し合って あと代役を務めてくれそうな俳優何人かに 連絡を取ってみるか」
  ────
水戸部 和人「ああ、もうお昼か。 色々してたらあっという間だな ん?」
水戸部 和人「メッセージ・・・龍介くんからだ」
  お疲れ様です
  カズさんが急に休みだって聞いて
  びっくりしましたよー
  玲央は元気ないし、朔はイライラしてるし
  稽古場の雰囲気悪すぎて
  マジ俺だけじゃ手に負えませんよw
  今日の午前中はほんと稽古にならなくて
  もう本番まで時間もないので、
  明日は四人でしっかり詰めないと
  稔さんからのダメ出しは航さんがメモ
  してくれてるので、
  明日聞いて共有しといてくださいね
水戸部 和人「わざとらしく強調するなぁ 明日、ね」
  既読がついてるんで見てるんですよね
  俺、ちゃんとレシート持ってるんですよ
  カズさんに言われたから、
  俺が俺を蔑ろにしないように
  カズさんも財布にレシートを入れたら
  どうですか?
  俺と玲央と朔に飯を奢って
  そろそろ休憩が終わるので失礼します
  また明日
水戸部 和人「ははっ、中々キツいこと言うなぁ」
水戸部 和人「龍介くん、こんな風に怒るのか 驚いたよ」
水戸部 和人「ごめんね」
水戸部 和人「なんて返信したら もっと怒られてしまうかな」

〇おしゃれなリビング
水戸部 和人「うん?こんな時間に誰だ? インターフォンは・・・」
水戸部 和人「・・・ 待ってて、すぐにオートロック開けるから」
水戸部 和人「大したおもてなしはできないけど 中へどうぞ」
山本 朔「いえ、すぐに帰るので玄関で大丈夫です」
山本 朔「すみません、いきなり押しかけて 連絡したら断られるかと」
水戸部 和人「よくうちが分かったね 昔一回来たきりだろう」
山本 朔「貴方の家に招いて頂けたことが 嬉しかったので、覚えてましたよ」
山本 朔「・・・いや、部屋番号は覚えてなかった ので、稔さんに聞きましたが」
山本 朔「カズさん。貴方があんな雑誌のせいで 役を降りる必要なんてありません」
山本 朔「あのゴシップ誌は 前にも捏造で炎上していますし、 この騒動だって今に落ち着くはずです」
山本 朔「だから・・・」
山本 朔「・・・っ」
山本 朔「やめないで、ください」
山本 朔「まだ貴方に、演技でお返しできていない」
山本 朔「いやです 俺は、貴方と舞台に立ちたい」
山本 朔「俺がどれだけこの舞台を楽しみに・・・!」
山本 朔「・・・・・・」
山本 朔「すみません」
山本 朔「急に押しかけて、玄関で騒いでしまって もう帰りますので」
水戸部 和人「気にしないで」
山本 朔「はい、それじゃあおやすみなさい ・・・また明日、稽古場で」
水戸部 和人「ごめんね」
水戸部 和人「おれは、きみにそんな顔をさせたくは なかったんだよ」

〇おしゃれなリビング
水戸部 和人「・・・はい、水戸部です。お疲れ様です」
加藤 稔「お疲れ様。今電話大丈夫かい?」
水戸部 和人「ええ」
水戸部 和人「随分と声が上機嫌ですけど、 何か良いことでも?」
加藤 稔「カズさん気が変わってくれたかなぁ、と 思いまして」
加藤 稔「朔くんに部屋番号教えたけど 別に問題ないですよね? まぁもう終わったことですけど」
加藤 稔「龍介くんは昼休憩にこわーい顔して スマホ触ってたかと思えば、 そのあとは、言い過ぎたかも、って 落ち込んでましたよ」
加藤 稔「玲央くんは朝からずーと元気がなくて」
水戸部 和人「稔さん、知ってて彼らの自由に させたんでしょう?」
加藤 稔「人聞きの悪い言い方だなぁ 僕は役者の自主性を尊重しただけですよ」
水戸部 和人「みんな大げさなんですよ」
加藤 稔「大げさ? 玲央くんのデビュー作が? 朔くんがあんなに楽しみにしてたのに? 龍介くんの出世作かもしれないのに?」
水戸部 和人「・・・すみません 今のはおれが悪かったです」
加藤 稔「で、明日なんですけど、 本番まで時間もないし朝からやるので よろしくお願いしますね」
水戸部 和人「・・・おれは休みをもらったはず ですけど?」
加藤 稔「それは今日だけでしょ? カズさんが言ったんですよ お互い落ち着いて考えましょうって」
加藤 稔「僕は今日一日落ち着いて考えました そのうえで、こうして電話をして 明日の話をしています」
加藤 稔「カズさんはどうですか? 落ち着いて考えたんでしょう?」
水戸部 和人「・・・・・・」
水戸部 和人「分かりました とりあえず明日は稽古場に行きます」
水戸部 和人「おれの意思が完全に変わったわけじゃ ありません ただ・・・このままでは彼らに不誠実 だと思ったので」
加藤 稔「じゃあまた明日、 稽古場でみんなと待ってますね」

〇オフィスビル
水戸部 和人「とは言ったものの・・・」
水戸部 和人「流石に入りにくいな」
???「あ!」
橋田 玲央「カズさん!」
水戸部 和人「玲央くん・・・」
橋田 玲央「カズさん」
橋田 玲央「おかえりなさい」
水戸部 和人「・・・・・・」
水戸部 和人「ごめん。玲央くん。 昨日のおれはきみを傷つけた」
橋田 玲央「いいんです」
橋田 玲央「カズさんは帰ってくるって 信じてましたから、おれ」
橋田 玲央「さ、中に入りましょ。稽古始まりますよ」
水戸部 和人「ありがとう、玲央くん」

〇稽古場
橋田 玲央「おはようございます」
水戸部 和人「うん?どうしたんだろう」
山本 朔「カズさん!玲央!ちょうどいいところに これ、見てください」
水戸部 和人「SNSかい?これが何か・・・ん?」
水戸部 和人「これ・・・炎上が、収まってる・・・?」

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