水戸部和人 下(脚本)
〇SNSの画面
水戸部さんが着てるジャケット
これ限定コラボアイテムで
結婚してた時にはまだ発売されてない
袖口の釦が特殊だから、
見る人が見れば分かると思う
公式サイトの画像も載せとくね
これは、写真の女性と共演した舞台の
別の共演者のブログと写真
稽古終わりっぽい写真で、
服装は二人とも雑誌の写真と同じ
ブログの内容は、稽古のことと
『お二人はこれから、水戸部さんオススメ
の中華を食べに行くそうです』
と書かれてる
ブログに書かれてる稽古中の舞台は
水戸部さん離婚後の舞台で
それはブログの日付とかも含めて
誰が見ても疑いようがない
これがどこまで証拠として力を持つか
分からないけど
加工しやすい後ろのぼやけた看板一枚
よりは力を持つと思ってる
以上、チケットが取れなかったうえに
推し俳優が不当に貶められて
怒りが爆発したオタクのまとめでした
〇稽古場
このまとめ分かりやすいから拡散希望
やっぱりデマだったか
あの雑誌マジで廃刊しろ
うわっ、デマにのせられちゃった
批判ツイート削除します
これからはちゃんと落ち着いて
考えないとなぁ
これで心置きなく舞台を楽しめます
ありがとうまとめ主
雑誌編集者は許さないからな
カズさんは不倫なんかする人じゃない
あたしはずっと信じてたよ
山本 朔「この投稿があっという間に拡散されて 一気にSNSの雰囲気が変わりました」
山本 朔「批判が雑誌へと向いて カズさんは事実無根のデマによる被害者 という状態です」
山本 朔「まぁ実際被害者ですが」
橋田 玲央「えっと」
西 龍介「つまり」
加藤 稔「僕たちの悩みのタネはなくなったって ことさ!」
加藤 航「今確認しましたが、元のネット記事は 削除されていました」
加藤 航「雑誌は発売中なのでどうしようも ありませんが、ネットでの中傷はこれで かなりなくなるでしょう」
橋田 玲央「良かったです! ね、カズさん」
水戸部 和人「あ、え、あの」
水戸部 和人「その」
水戸部 和人「えっと」
水戸部 和人「ありがとう」
水戸部 和人「いや、ちょっと待ってくれ あんな啖呵切って役を降りようとしたのに なんだか恥ずかしいよ」
加藤 稔「珍しいカズさんも見えたところで さぁ稽古も大詰めだ! あと一週間をきってるんだから」
加藤 稔「カーテンコール込みで通し稽古いくよ」
〇稽古場
西 龍介「はー・・・疲れた!」
西 龍介「玲央、玲央!生きてるか!?」
橋田 玲央「な、なんとか・・・」
西 龍介「まぁでも詰め込むのも仕方ないよな」
橋田 玲央「本番まであと少しですもんね 昨日なんてオレ全然身が入ってなかった ので、頑張らないと」
水戸部 和人「お疲れ様」
水戸部 和人「朔くんオススメのココアだよ」
「ありがとうございます!」
西 龍介「お前、甘いの好きなのか ブラックの缶コーヒー飲んでそうな タイプなのに」
山本 朔「ええまぁ、それが何か」
西 龍介「今度いちごミルクでも買ってやろうか? この前コンビニで飲むプリンも──」
山本 朔「結構です」
西 龍介「なんだよ。せっかくの先輩の好意だぞ」
山本 朔「あんたは面白がってるだけでしょうが」
橋田 玲央「お二人のこのやりとりも なんだか随分久しぶりな気がしますね」
水戸部 和人「不安に思っていたあの頃が懐かしいな」
〇稽古場
加藤 航「稔、大丈夫か?」
加藤 稔「・・・本当は公演が終わるまで 黙っていようと思ったんだ でも・・・航、ごめん、だめだ」
加藤 航「いいさ 稔が一番いいコンディションで演出 できるようになるなら」
加藤 稔「うん、ありがと」
加藤 稔「みんな、少しいいかな」
加藤 稔「僕たちスタッフは、君たち演者を 守らなければならない」
加藤 稔「でも今回の雑誌の件で カズさんを、君たちを守れなかった」
加藤 稔「頭を下げて済むことじゃないのは 分かっているけど、謝らせてほしい」
加藤 稔「本当に、申し訳ない」
水戸部 和人「み、稔さん? そんな──」
加藤 稔「記事を発表したあのタイミングだと、 舞台が中止になる可能性だってあった」
加藤 稔「そうなれば当然、 うちのスポンサーから恨まれる」
加藤 稔「俳優一人のスクープを出すにしては リスクが大きすぎる。ならば、 狙いは舞台自体の中止だったかもしれない」
加藤 稔「狙いは僕や航で、その武器として たまたまカズさんが使われてしまった」
加藤 稔「そうだとしたら、本当に──」
水戸部 和人「稔さん、航さん」
水戸部 和人「二人とも頭を上げてください」
水戸部 和人「本当に、気にしないでください」
水戸部 和人「今回のことは記事を捏造した雑誌側が 100%悪いのであって、 稔さんたちに落ち度はありません」
水戸部 和人「稽古期間中の行動ならいざしらず、 過去の写真に難癖をつけられては 稔さんたちに防ぎようはありませんよ」
水戸部 和人「稔さんたちが気に病む必要はありません」
水戸部 和人「それに」
水戸部 和人「三人が助けてくれたので おれは大丈夫です」
水戸部 和人「改めてありがとう 玲央くん、朔くん、龍介くん」
西 龍介「い、いやいや俺なんか! というかめちゃくちゃ失礼なメッセージ 送った気がしますけど!」
山本 朔「あの時は勢いで行動してしまって 俺らしくもなかったので、その ・・・忘れていただけると」
橋田 玲央「オレもなんか、その、全然 ただオレの言いたいこと言っちゃった だけで!」
水戸部 和人「そんなことはない 嬉しかった。おれは忘れないよ」
「カズさん!」
加藤 航「稔」
加藤 稔「・・・・・・」
水戸部 和人「稔さん」
水戸部 和人「それでも自分を許せない そんな稔さんの気持ちも分かります だから、もしおれに悪いと思うなら」
水戸部 和人「あと数日の残された期間 何の悔いも残らないような 充実した稽古にしてください」
水戸部 和人「それが、おれの望む償いです」
加藤 稔「・・・よし! じゃあカズさんも音を上げるほどの 稽古にしますよ!」
加藤 稔「あと数日、どうかついてきてください この僕に」
水戸部 和人「ええ、勿論です」
〇稽古場
〇空
〇オフィスビル
〇綺麗なコンサートホール
〇コンサートの控室
橋田 玲央「ああああ・・・」
橋田 玲央「緊張で胃の中全部ひっくり返りそう です・・・・・・」
西 龍介「落ち着けって!ほら水でも飲め!」
水戸部 和人「おや、うちの座長が死にかけてる」
橋田 玲央「あああ言わないでください〜!」
山本 朔「決めただろ 全8公演、日替わり座長でいくって 初日は玲央、お前が座長だ」
水戸部 和人「大丈夫だよ。カーテンコールで 軽く挨拶するぐらいだから」
水戸部 和人「幕が下りるその時まで、 何かあってもおれたちが絶対に助ける」
橋田 玲央「はい!」
加藤 稔「みんな、そろそろ時間だよ 舞台へ」
加藤 稔「と、その前に、本日の座長から 一言もらおうかな」
橋田 玲央「え!?」
橋田 玲央「あー・・・えっと」
橋田 玲央「その」
橋田 玲央「最高の舞台にしましょう!」
加藤 稔「何より舞台を楽しむように その気持ち、忘れないでね」
加藤 稔「さぁ、幕が上がるよ!」