フレーズ!

くろべー

フレーズ選び(脚本)

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〇綺麗な図書館
めぐる「あのね、何でもいいから、まず本を1冊選ぶんだって」
戸橋「ふーん。ほんとに何でもいいのか?」
  戸橋くんは興味なさげに図書室の書架を眺めた。大遅刻したあげく、めぐるの世話になっているというのに、全く悪びれていない。
  昼休みの図書室に人影は少ない。
  暑い日なのに、ここは冷房がついていないのだ。
  戸橋くんはぼけっとあたりを見回している。
めぐる「私もよく知らないけど、どんな本でもいいって、先生が言ってたの。 そこからフレーズを1つ選んで、それを提出するんだって!」
  総合学習の時間に行うという、読書会ゲームの準備だった。めぐるは戸橋くんと同じ班で、図書委員でもあるので説明を任された。

戸橋「じゃあ俺、これでいいや!」
  戸橋くんは近くの書架に手を伸ばし、無造作に1冊引き抜いた。
  悪気はないのだろうけど、投げやりな態度がめぐるの勘に障る。
めぐる「・・・もっと考えて決めればいいのに」
  書架整理も図書委員の仕事だ。この文庫本の棚だってきれいに並べてある。
  どうせなら、しっかり見比べて選んでほしかった。
戸橋「いやー、俺はどうせ、何も考えちゃいないからさ」
戸橋「それに、フレーズさえ選べば、その本は読んでなくたっていいってルールなんだろ? なら何を選んだって一緒じゃん」
  今朝のホームルームにはいなかったくせに、そんなことだけは知っているらしい。他の誰かから先生の説明を話を聞いたのだろうか。
戸橋「そんで、フレーズを1つ提出しろっていうなら・・・これにする!」
  戸橋くんは目をつむった。それから適当に文庫本を開き、その一点を指さす。
  戸橋くんの、指の先。
  余白の多いページには、こんな文章が載っていた。

〇ガラス調
  『その宝石を見ただけで
  少女は魔女にかわってしまった』
めぐる「えっ・・・」
  めぐるは思わず息を呑んだ。
  その二行を見た途端、頭の中でイメージが広がった。おかげでうまく言葉が出てこない。
戸橋「なんだよ、変な声出して?」
めぐる「あ、えーと・・・ すてきなフレーズだなー、って思って」
戸橋「そうかぁ? ・・・なんか、詩になってるみたいじゃん。ここだけ取り出すとわけ分かんなくねーか?」
めぐる「そんなことないよ。 きれいだし、いい文章だなって思う。 ここからイメージ広がるっていうか・・・」
  「魔法」というタイトルの詩のようだった。
  言葉が二行ずつ連なり、一編の詩となっている。
  無意識にその先を読みそうになった。
  だけどめぐるは、どうにか我慢した。
  読むなら後でじっくり読みたい文章だった。
戸橋「そうかなぁ・・・ ・・・ま、図書委員がそう言うなら、きっといい文章なんだろうな」
めぐる「ねぇ、ここに書いてある「宝石」って、どんな宝石だと思う?」
めぐる「どうして魔女になっちゃうんだろ? 宝石の魔力かな?」
めぐる「それとも、そういう世界観なのかな? 宝石が出ると変身する、みたいな」
  めぐるは矢継ぎ早に尋ねた。
  いったん想像をめぐらすと、疑問が次々に涌いてくる。
  気付くと戸橋くんは呆れ顔に変わっていた。
戸橋「いや、そんなこと聞かれても・・・・・・俺が書いたわけじゃねーからさ」
めぐる「あ、ごめん。つい気になっちゃって・・・」
戸橋「でも、さすがだな」
めぐる「えっ?」
戸橋「フレーズ1つでそんなにあれこれ考えられるのって、やっぱり普段から本読んでるからなんだろな」
めぐる「うーん、これは本好きっていうか・・・・・・妄想好きってやつかもね」
  めぐるが本好きなこと、教室でも暇があると本を読んでいることに、彼は気付いていたらしい。
  急に、照れくさくなってきた。
めぐる「とにかく、このフレーズって決めたら、それを紙に書いて提出するんだって。 書名とか作者名は書かないで、覚えとけばいいの」

〇綺麗な図書館
戸橋「ふーん。 このメモ用紙でもいいのか? ・・・じゃ、こんな感じで、っと」
  戸橋くんは貸出カウンターに備え付けのメモ用紙を1枚取り、一緒に置いてあった鉛筆でそのフレーズを書き写した。
戸橋「あ、俺の名前は書かなくていいの? もう書いちゃったよ。 ・・・そんなら、提出しなくったってばれなかったんじゃねえかなあ?」
戸橋「・・・まあいいや。 せっかくだから、この本借りてってみるよ」
「じゃあこれ、よろしく!」
  戸橋くんは書き終えたメモをめぐるに手渡すと、文庫本を片手に廊下に向かった。
  何故かキザっぽくウインクを残して去って行く。
めぐる(提出って、私じゃなくて先生に出すんだけどな・・・)
  呼び止めかけて、めぐるは思いとどまった。
  彼はこれから、あの本の開いて昼休みを過ごすかもしれない。それを邪魔したくない。
  山里先生への提出は、めぐるが自分のぶんと一緒に済ませればいいのだ。ちゃんと説明しておきましたという報告にもなるだろう。
  手渡されたメモに、さっきのフレーズと戸橋友司という名前が記されている。
  意外と端正で、しっかりとした字だった。
  このフレーズを使って、どんなゲームが行われるのだろう。彼はどんな顔でそれに参加するのだろう。
  今から楽しみになってきた。

〇おしゃれな教室
  だけど、その読書会ゲームが行われる予定の日。
  
  戸橋くんは姿を見せなかった。
  いつもの遅刻とか、欠席とかじゃないらしい。
  朝の教室では、行方不明だとか、家出したとかいう噂まで流れていた。
山里先生「それじゃ、前から予告してた、読書会ゲームを開催してみようと思います。 欠席の戸橋にも役目を頼もうと思ってたんだが・・・」
山里先生「それは誰かに、代わってもらおうかな。 えーと・・・」
山里先生「こういう時は図書委員だよな。 崎本めぐる、やってくれるかー?」
めぐる「ええーっ!?」
  めぐるは悲鳴みたいな声を上げたが、途端にクラスのみんなが拍手し始めた。
  
  どうやら、逃げ場はないようだ。

次のエピソード:②フレーズ一覧

コメント

  • 図書委員として、読書好きとして彼がたまたま選んだフレーズにキュンときた彼女の様子が可愛かったです。なんだかんだ性格は良さそうな彼は何処にいってしまったのでしょう。選んだフレーズと何か関係があるのか? とっても次回が気になります。

  • アニメや小説、ドラマや映画、色々なものがありますが、フレーズが頭にずっと残ってるのってありますよね。
    自分の感性とマッチするからなのでしょうか。

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