王太子めんどくさい

蒼衣海子

エピソード1(脚本)

王太子めんどくさい

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〇渋谷駅前
  ・・・異世界転生したい。
  
  いつものバイトでやってきた渋谷で。
  ごった返すスクランブル交差点を見て、わたしは思った。
  大学卒業後。
  コロナによる就職難で、やっとの思いで入った会社はブラック企業だった。
  一年我慢して得た結論は、逃げること。
  コロナはいい。
  世界中だしもはや天災だし、ある意味仕方ない。
  けれど、この国に蔓延する生きにくさは何なんだろう。
  真面目な人ほど損をする。
  優しい人ほど傷つけられる。
  
  現実逃避のため、毎日帰りに百円でマンガを借りて読んでいた。
美亜「いいなぁ、異世界転生。転移でもいいけど。 ごく普通の女の子でいい、何にも特別じゃなくていい。わたしでもいいじゃん」
  転生先は、必ず裕福な貴族の家柄。
  だってそれがテンプレだからね。
  
  そして自分は、箱入りで大切に育てられたご令嬢。
美亜「何にも苦労したことない子。 それで何にもしなくても、すぐイケメンに溺愛される展開確定とか・・・。 羨まし過ぎるでしょ」
  勿論、本当に異世界に行きたいかと言われたらそんなことはない。
  
  安全な日本に生まれて、できるならこの国で幸せに生きたい。
「けど、それが難しいんだよ・・・。 ただ普通に毎日を幸せに生きたいのに、何かいつもしんどくて苦しいんだよ」

〇渋谷駅前
  ・・・今日も、バイト先の店長に嫌味を言われた。
  昼の混雑時に、注文のミルクティーをひっくり返したのが原因だけど。
美亜「わたしがミスしたのが悪いんだけどさ。 なにも『役立たずのクズ』まで言うことなくない?」
  今日も落ち込みながら家路に着く。
  
  明日はハローワークに行かなきゃ。
  もう失業保険の給付期間が終わってしまう。
  早く、新しい仕事を見つけなきゃな・・・
  
  普通でいいから、幸せな生活を送りたいよ。
  借りたマンガを手に、家路についた。

〇アパートの玄関前
  大学時代からいるアパートに、卒業後も住み続けている。
  社会人になったら、おしゃれで広いマンションに引っ越すつもりだった。
  バイトですらロクに稼げない、大した能力もない自分には夢のまた夢だけれど。
  
  郵便受けを開けると一枚のチラシが入っていた。
美亜「『コロナ禍で困っている方、給付金を申請しませんか』・・・? 生活が苦しい方、就職できなかった方等、ご相談下さいって・・・」
  「簡単に申請・給付の審査が通ります」とあった。
  
  これはもしかして、ネットなどで話題になった虚偽申請じゃないだろうか。
  このアパートは、都内の各大学に近い割に家賃が安い。
  代わりに古くて設備がボロいのだけど、大学生が沢山住んでいる。
  ここにはわたしのように、卒業してもまともな就職先が決まらず住み続けている人も多かった。
  
  それも見越して入れたのか。
  悔しくて、グッと紙を握りしめる。
  
  急いで部屋の鍵を開け、近くに誰もいないことを確かめてわたしは勢いよくドアを閉めた。

〇アパートのダイニング
  うがいと手洗いをしてから荷物を片付け、買ってきたお弁当を取り出した。
  
  5割引シールの付いたそれが、一日の最後の楽しみ。
  バッグから先ほど借りてきたマンガも取り出す。
  最近ハマっている、いわゆる異世界転生ものだ。
  ごく普通の女の子が主人公。
  普通の女子高生や社会人でも、異世界に行けば貴族のお嬢様。
  煌びやかなドレスを着て、カッコいい男の子に溺愛される王道展開。
美亜「流石に、異世界転生できるとは思ってないけどな。 ・・・お金さえあれば、普通にもっと可愛い服とか買えるのに・・・」
  ふと。先ほど部屋に入って、真っ先にゴミ箱へと放り込んだチラシの方を見る。
  
  手を伸ばして拾い、紙をもう一度広げて見た。
美亜「誰でも簡単に、お金が貰えるの・・・・・・? 本当に、もしかしたら。わたしでも・・・・・・?」
  その時だった。
  
  チラシを見るためにテーブルの上に伏せてあったマンガ本から、パッと眩しい光が広がった!
美亜「えっ・・・・・・!!! な、何・・・・・・??!」
  あまりの眩しさに、思わず瞳を閉じて顔を覆う。
  
  すぐ近くで、大きな音がした。
  まるで何かが落ちてきたような・・・・・・!
アークブラク「・・・・・・おいおい。何か悪いことを考えてる奴がいるな?」
  すぐそばで声がして、思わず飛び上がる所だった。
  
  まさか、泥棒?! 鍵はちゃんとかけたはず。それとも、先に入ってた?!
  目を開けると、そこにいたのはどこかで見たことがある美男子だった。
  
  金髪に、甲冑。
  どう考えても日本人じゃない。
美亜「あなた、誰・・・?! どこから入ってきたの?! て言うか、いつからここにいたの!?」
アークブラク「ここに来たのはたった今だ。 君がここへ呼び出したんだろう? 俺の名前はアークブラク。ノーネマルノ王国の王太子だ」
  ノーネマルノ王国?!
  
  慌てて目の前のマンガを手に取る。
  表紙には金髪の甲冑美男子。
  全く同じ人物が、いま目の前にいた。
美亜「う、う、う、嘘でしょー!!?」
  わたしの悲鳴が、夜のアパート室内に響き渡って消えていった・・・・・・。

コメント

  • 悲しい現代日本の現実が彼女の嘆きから伝わり、勤勉な日本人がどうしてこんな目に合わなければならないのか!と怒りがこみ上げます。予期せぬ王子の出現で、彼女の心が温まる展開であればと願っています!

  • これからの展開がとても気になります。先が見えなくてどんよりした感じからのスタート、嫌になる時ってありますよね。これからどうやって切り抜けていくのかが楽しみです。

  • 異世界転生とは逆のパターンですか!
    一人暮らしていくだけでも大変なのに、さらに食い扶持が増えて大変な予感がします。
    不況の中彼女にはがんばってほしいです。

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