エンカウント家族

渡邊OZ

家族ゲーム(脚本)

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〇パチンコ店
佐藤八郎太「はぁ・・・・・・」
  佐藤八郎太は、粗品のティッシュを抱えている。
佐藤八郎太「もしかして、督促の通知メッセージか? 日当の出る、新しい職場を探さないと」
佐藤八郎太「いや、これは『家族ゲーム』の 特別招待メールだ!」
  『家族ゲーム』
  人気スマホアプリでネット上の「疑似家族」間で、ミッションを遂行するゲーム。
佐藤八郎太「なになに。 特別任務の報酬が「1億円」だって!」
佐藤八郎太「うっひょー。 ますます、ギャンブルにつぎ込めるよ」
佐藤八郎太「そうだ! 任務内容は、っと」
佐藤八郎太「他の家族を『24時間以内』に集める。 何だ、簡単じゃん!」
佐藤八郎太「えっ、僕が『妻役』!」

〇雑踏
  残り時間:23時間
佐藤八郎太「何人かの女性に声をかけたけど、駄目だった。この風貌でナンパなんかするわけないっしょ」
???「誰か~。ひったくりよ!」
佐藤八郎太「何だって!」
おばあちゃん「あの赤帽の男よ!」
佐藤八郎太(僕の体型的に、追いかけるのは無理だ。 でも、これなら・・・・・・)
おばあちゃん「何と、とっさに足払いをするなんて。 人は見かけによらないわね」
おばあちゃん「このひったくり犯を警察に突きつけたら、 お礼をするからね」
佐藤八郎太「気持ちはうれしいけど、おばあちゃん、 僕急いでいるんで!」
おばあちゃん「おやおや、お忙しいこと」

〇広い公園
  残り時間:20時間
佐藤八郎太「人助けしたのはよかったけど、 相変わらず『妻役』のプロフ画像すら、 手に入らないなんて!」
子供「おじさんのスマホ画面って、 もしかして『家族ゲーム』?」
佐藤八郎太「あぁ、そうだよ」
子供「すげぇ、しかもSSランクじゃん。 お母さんと一緒だ!」
佐藤八郎太「それは本当かい。 少しだけ会わせてくれないか?」
子供(うん、見るからに間の抜けたやつだし、 怪しくはなさそうだ)
子供「いいよ。でも、条件がある。 日が暮れるまで、僕の子分になってくれ!」
佐藤八郎太「子分って? 遊び相手のことかい?」
佐藤八郎太(数時間の時間ロスは痛いが、 他にあてがない)
子供「そうともいう。 まず、キャッチボールからだぞ!」

〇綺麗な図書館
  残り時間:17時間
佐藤八郎太「ふぁ~。 もう動けない」
佐藤八郎太「ところで、深夜の図書館に、 勝手に入っていいのかい?」
子供「ここが俺たちの寝所だから。 心配しないで! 司書さんにちゃんと許可を取ってあるよ!」
佐藤八郎太「何だって! もしかして身寄りのないホームレスなのか」
女の子「そういう言い方はやめてください! 私たちは『家族』なのですから」
佐藤八郎太「ええっと。 もしかして、お母さんってこの娘?」
子供「うん、そうだけど。 どうした、子分?」
女の子「あらかた、その様子ですと、 私を利用したかったのですね」
佐藤八郎太「いやあ。違うんだ、違わないけど」
女の子「正直な方ですね。 弟が世話になったので、 私を『娘』役に設定してもいいですよ」
佐藤八郎太「やった!一歩前進だ!」
佐藤八郎太(本来は児童相談所に連れていくべきだ。 だが、かりそめでもこの家族は壊したくない)
佐藤八郎太「そうだ、親分。 「夫」役も設定しよう!」
子供「それは無理だ。俺たち、みなしごはみんなでスマホ一台しか持つのを許されていないからだ」
佐藤八郎太(俺の家にみんなを連れていくべきだ。 だけど、彼らにとってここがホームなんだ)
佐藤八郎太「よし、お父さんに腕枕してもいいぞ!」
子供「何、それ!気持ち悪い!」
女の子「深夜なので、消灯します!」

〇雑踏
  残り時間:6時間
佐藤八郎太「死ぬ気で頑張るぞ!」
  道行く人々に次々と声をかけるも、
  ほとんど無視される八郎太。
子供「子分のために一肌脱ぐか。 今日だけだからな」
佐藤八郎太「親分、ありがとう。 絶対にミッションをクリアするんだ」
  残り時間:3時間
子供「だめだ、おれの声には反応するけど、 具体的な交渉にはなかなか入れない」
おばあちゃん「おや、昨日の恩人さんじゃあないの」
佐藤八郎太「どういたしまして」
佐藤八郎太「おばあちゃん、自分からせがむのも気がひけるけど、写真を撮らせてくれないか」
おばあちゃん「変なことに使うんじゃなければええよ」
佐藤八郎太「ありがとうございます。 あとは、『夫役』を見つけるだけだ!」

〇綺麗な図書館
  残り時間:30分
女の子「もう時間がありません。 あきらめたのですか?」
佐藤八郎太「いや、諦めてはいない。 おばあちゃんのプロフ画像に反応して、 『夫役』の申請も複数届いている」
女の子「じゃあ、なぜもう手が届く『一億円』を 獲得しないのですか?」
佐藤八郎太「なぁ、ネット上の『疑似家族』って 本当に家族なのか?」
佐藤八郎太「目の前にいる現実の家族、血縁がなくても 『つながっている』のが本当の家族じゃあないのか?」
女の子「・・・・・・」
女の子「あれ、何で私泣いているんだろう?」
佐藤八郎太「こんな俺でも分かったんだ。 俺は『妻役』でもあり、『夫役』なんだ!」
女の子「時間切れですね。 でも、アプリでは、 兼任は出来なかったはずです」
おばあちゃん「ほぅ、それがお前さんの出した答えか?」
女の子「おばあちゃん、なぜここに?」
佐藤八郎太「俺は、今まで自分のこと しか考えていなかった」
佐藤八郎太「博打の確率よりも、今この瞬間出会えている確率のほうがはるかに奇跡なんだ」
おばあちゃん「ミッションコンプリートじゃ!」
女の子「えっ、おばあちゃんってまさか!」
おばあちゃん「そうじゃ。『家族ゲーム』のアプリ開発会社の総責任者じゃ」
おばあちゃん「1億円の使い方は、あとは任せたぞ!」
???「やったな、子分!!」
佐藤八郎太「あぁ、一億円はお前らを引き取る諸費用に充てる」
子供「野球のグローブ、新調してくれよな」
女の子「私は、身の回りをきれいにしたいです」
佐藤八郎太「ははっ、俺もまじめに働くぞ」
佐藤八郎太「おまえらを養うには、 何億あっても足りなさそうだからな」

コメント

  • これいい話ですね!1億手に入れて超ハッピーエンドで子供たちの笑顔はプライスレスですね!
    まさかあのおばあちゃんが!大物老人役が大好きなのでテンション上がりました

  • 男女の関係の不思議さを表す言葉に「縁は異なもの味なもの」がありますが、現代では血の繋がらない家族作りにも当てはまるような気がしますね。ラスボスのおばあさん、かっこよかった。

  • 血の繋がりがなくても、お互いを思いやり気遣える心の繋がりがある家族こそが本当の意味での家族なのでしょうね。すてきなストーリーに心がじわ〜んとあたたまりました。

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