魔界転生 〜転生したらめんどくさい魔女がオマケについてきました〜

うみ

魔女って設定、忘れてました!(脚本)

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〇草原
  苦労の末、俺が本日六匹目となる子犬もどきを倒したころには、そろそろ陽も傾きかけていた。
  俺たちは町への帰路につく。
  『道具屋』の主人からもらった薬草を傷口に塗り込みながら、先頭をスタスタと歩くマルリーティの後ろ姿を見つめた。
  心なしか、歩く速度が早いようにも思えるのだが。
タツヤ「……なあマルリーティ。お前なんか機嫌悪いのか?」
マルリーティ「……別に! 全然普通ですけどっ!」
  何やら理由はよく分からないが、どうやらご機嫌ナナメのようだ。
  魔法が使えるようになった後も、結局はただボーッと座っているだけで、これっぽっちもモンスター討伐を手伝わなかったし。
  ……本当にコイツは。実によく分からんヤツだ。今日の日銭を稼がないと野宿することにになるって事、分かってんのか!?
  ……言いたいことは山ほどあるが、まだ転生二日目。仲違いはよろしくない。
  一応コイツは『転生担当者(ナビゲーター)』だし、魔法も使えるわけだから何かの役にはたってくれるだろう。
  俺は大人の対応で、口から出かかった不満の数々を飲み込んだ。

〇戦地の陣営
  村に着き、まずは『道具屋』へと向かう。
  店内に入ると俺の顔を見た主人が、ふんわりとした笑みを見せた。
道具屋「よぉ、いらっしゃい。にいちゃんたち、無事で何よりだ。『魔求石』集めははかどったかい?」
  どうやら俺たちの事を心配してくれてた様だ。
  質草を預けたがどこの馬の骨とも分からないヤツに分割で武器を売ってくれた事といい、この主人は見た目と違ってイイ人だと思う。
  俺はポケットから『魔求石』を取り出すと、それを主人に差し出した。
  主人は天秤で『魔求石』の重さを測ったり、ランプに灯して透明度を確かめたりと、慣れた手つきで鑑定する。
道具屋「多少の差はあるが、大体一つ千ルーンってところだ。今日返済分の千ルーンは引いて5千ルーン、受け取ってくれ」
  金を受け取った俺たちは、主人の「また明日も頑張りな」と言う励ましを後に『道具屋』を後にした。

〇寂れた村
  5千ルーンを手に歩きながら、実のところ俺は軽いショックを受けていた。
  一日あれだけ頑張って正味6千ルーンかぁ。どう考えても割りに合わないだろっ……! それに確か……。
タツヤ「……なあマルリーティ。『宿屋』の代金って……いくらだったっけ?」
マルリーティ「ええと確か……一人3千ルーンだったわよ」
  やっぱりか! これじゃ全然足りねぇんだけどもっ!
タツヤ「ここから夕食代も出さなきゃいけないし、これっぽっちじゃ『宿屋』に二人泊まれないな……一体どうしたらいいんだ……」
マルリーティ「仕方ないわね。それは私が何とかしてあげるわ」
タツヤ「……えっ? マジか。……まさかマルリーティお前……野宿してくれるのか?」
マルリーティ「何で私が野宿なのよっ! 女の私を外に寝かそうとするなんて、ホントいい度胸を通り越して清々しささえ感じるわっ!」
マルリーティ「……まあいいわ。その説明は後でするから、先にご飯を食べましょう。私お腹ペコペコよ」
タツヤ「そうだな……だけど先に言っておく! 今日は贅沢厳禁だぞ! 注文は一番安いメニュー限定だからな!」

〇寂れた村
  食事が終わり腹もそこそこ満たされた俺たちは、『宿屋』に向かって歩いていた。
  これで残り4千ルーン。二人が今夜、暖かいベッドにありつくためには、後2千ルーン必要だ。
  マルリーティは心配するなって言ってたけど、不安は募る一方だ。
  ……ま、まさかアイツ。「宿代も分割で」とか言い出すんじゃないだろうなっ!?
  『宿屋』の前で立ち止まる。マルリーティは振り向くと、自信満々な笑みを浮かべてきた。俺の心配なんてどこ吹く風って表情だ。
マルリーティ「じゃあ、ちょっと変身するから後はよろしくね」
  そう言って目を閉じた。
タツヤ「……え? 今なんて?」
  マルリーティの体がぽわっと発光した。光が体全体を包み込み、その体積を縮めていく。
  ぎゅっと凝縮された光の塊が徐々に輝きを落ち着かせると、そこにマルリーティの姿はなく、一匹の黒猫が佇んでいた
変身マルリーティ「これで一人分の宿代で入れるでしょ?」
タツヤ「ま……マジか? お、お前……へ、変身なんてできるのか」
変身マルリーティ「まあね。何度も言うけど私は魔女よ。魔力が戻ればこれくらい訳ないわよ」
  ……忘れてました。そうでした。ただのイタい子かと思ってました。
  マルリーティ(猫)は俺の体を駆け上り、肩にすとんと座ると眠たそうに前足で目の辺りをこしこし擦り出した。
変身マルリーティ「さあ、早く『宿屋』に入りましょう。私なんだか眠くなってきちゃったの」

〇英国風の部屋
  扉を開けて中に入る。「いらっしゃい」と店の主人の朗らかな声を聞きながら、俺はカウンターに近づいた。
タツヤ「こんばんわ。また今日も宿泊をお願いしたいのですが」
宿屋「連日のご利用ありがとうございます。……おや? 今日はお連れさまはお見えではないようですが?」
  そういや昨晩宿泊したとき、不審に思われないように「若い夫婦」の設定で泊まったんだっけ。
タツヤ「ああ、あのアバズレなら別れました」
宿屋「そ、そうなんですか。人生色々ありますからね……どうか気落ちしないよう。……大丈夫、女性なんて星の数ほどいますからね」
宿屋「…………って、お、お客さん、なんかめっちゃ齧られてますけど平気ですか?」
  肩に乗ったマルリーティ(猫)が、「フーッ!」と威嚇の声を発しながら俺のほっぺたをガジガジ齧ってくる。
  いてっ! いてててっ!! やめろバカッ!
  俺はどうにか主人から鍵を受け取ると、暴れるマルリーティ(猫)の首根っこを掴みブラブラ揺らしながら部屋へと向かった
  部屋に入るとマルリーティは変身を解いて、俺に詰め寄ってきた。
マルリーティ「ちょっとタツヤ! アバズレとは何よ! それに首根っこ掴んで連れてくなんて、猫扱いしないで頂戴!」
タツヤ「ちょっと待て! 分かったから落ち着け! 声がでかい! 宿の誰かにバレるだろう!?」
  俺がひとしきり謝ると、マルリーティはどうにか機嫌を直してくれた。
  俺は椅子、マルリーティはベッドに腰掛ける。ようやく人心地ついた俺は、今日の疲れが一気に襲いかかってくるのを瞼に感じた。
  そりゃ疲れるのも当たり前だよな。命をかけた戦いなんて生まれて初めてだし。下手すりゃまた死んでしまう可能性だってある訳で。
  ……こんなデッドオアアライブな生活を、俺はこの先も続けられんのか?
タツヤ「なあ……この『ロザリオンデ』に転生した目的って、自分で探すんだよな?」
マルリーティ「そうよ。日本からの転生者たちは、『この世界を平和にするんだ!』って正義感をブンブン振りかざすのが、大体のパターンね。」
  何とも身も蓋もない言われ方だ。
タツヤ「でもさ……目的を自分で見つけるってんなら、別にこの世界でそんなにグイグイ攻めないでまったりと静かに暮らしてもいいんだろ?」
マルリーティ「へー。せっかくチート能力を持ってるのに? それなのにガタガタ震えながら、つまらない余生を送ると言うんですか。タツヤは」
タツヤ「お前……言い方。言い方がひでぇよ!? それにチート能力ったって、使用回数に制限があるんだから普通の人と変わらないと思うぞ」
マルリーティ「大丈夫よタツヤ。『当たって砕けろ』の精神よ! いや、むしろ砕けなさい!」
マルリーティ「それぐらいの気持ちでこの世界を冒険するの。しっかりとこの私が最期まで見届けてあげるから!」
  なんかヘンなテンションで励まされ、昼間の疲れも相まって、結局話はうやむやのうちに終わってしまった。
  明かりを消してベッドに入ると、マルリーティは隣のベッドで早々に寝息を立て始めた。
  布団の柔らかさを背に感じ、重い瞼に抗っている最中、ふとマルリーティの言葉が眠りに落ちる寸前の頭の中にリフレインした。
  ———最期までって、どういうことだろう?

コメント

  • 転生についての設定に生々しさがあり、読んでいて面白かったです!
    マルリーティとタツヤのやり取りもコミカルで、ずっと読んでいたくなるような魅力がありました。
    異世界の設定や、マルリーティの能力なども明らかになってきて、より物語の深みが増していると感じました。続きも期待しています!

  • 最初魔界から始まって、その魔女がついていくという冒頭から面白いと思いました。マルリーティと主人公の掛け合いがコミカルで楽しかったです。彼女は説明不足だったり、勝手にお金を使ったり、困った魔女ではありつつも、好感が持てて好きなキャラでした。主人公の一条の神剣が、一回で使用回数を何百と使ってしまうのも面白かったです。沢山の障害がありますが、二人がどう乗り越えていくのか楽しみです!

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