黒い子が私のあとをついてくる(脚本)
〇通学路
昼間の晴天が嘘のように、夕方の空は分厚い雲に覆われて、太陽も顔を隠している。
しかし私の心は晴れ渡っていた。
娘の笑顔こそが、私にとっては太陽だからだ。
優香「ねえ、パパ」
優香「今日、すごいこと見つけたの!」
幼稚園からの帰り道、優香が嬉しそうに語り始めた。
優香「あのね、ずっと私のあとをついてくる子がいるの!」
さすが私の娘だ。
幼稚園でも人気者なのだろう。
たくさんのファンから追っかけられる、大人気アイドルみたいだ。
優香「それがね、ちょっと変わった子なの」
優香「いつも真っ黒なの」
パパ「真っ黒?」
パパ「黒いお洋服かい?」
パパ「それとも、よく日焼けしてる男の子かな?」
優香「違うの、黒い子なの」
優香「頭のてっぺんから足の先まで、ぜんぶ真っ黒!」
優香「面白いでしょう?」
優香は相変わらず笑っているが、私の心には、さざ波が立ち始めていた。
全身黒ずくめならば、まるで不審者ではないか。
ファンというより、ストーカーのイメージだ。
パパ「その黒い子って、幼稚園にいる間、いつも優香を追いかけ回してるのかい?」
心配は顔に出さず、努めて冷静な口調で尋ねてみる。
優香は首を横に振るので、私は一瞬安心したが・・・。
優香「幼稚園の中だけじゃないよ」
優香「お外に出てもついてくるよ」
娘が否定したのは、思いもよらぬ点だった。
優香「だけどね、今はいないの」
優香「どうしたのかな?」
ちらりと後ろを振り返り、不思議そうに首を傾げる。
もはや優香は、その黒い子の存在に慣れてしまい、「いる」状態が普通と感じているらしい。
むしろ「いない」ことに違和感を覚えてしまうらしい。
ああ、これはストーカーによる刷り込みではないか!
頭を抱える私の横で、娘が無邪気に呟く。
優香「どうしたの、パパ?」
優香「どこか痛いの?」
〇通学路
翌日の朝。
私の心とは裏腹に、澄み切った青空が広がっていた。
明るい日差しの下、娘と二人で幼稚園へ向かう。
歩き始めてすぐ、ニコニコ顔の優香が足元に指を向けた。
優香「ほら、いつもの黒い子!」
優香「また出てきたよ!」
娘が指差す先にあるのは、彼女自身の影だった。
(おわり)
可愛いなぁ。発想が子供らしくてとてもいいです。
でも親としては心配な一言だなあ笑
悪い方向へどんどん考えてしまいそうで…!
黒い子。黒子。ストーカー。不審者。誘拐魔。ストーリーを読みながら色々考えて最終的には「影」だと気づいた時は遅かった。大人になって子供の気持ちがわからなくなってしまいました。
ホラーだと思って、途中から鳥肌たてながら読んでましたが、最後は思わぬほっこり展開でした。子どもたちの発想って大人の常識というものを超えていて、びっくりさせられますね。