AIバーチャルダウン:そしてアーカイブは囁いた。あなたに私のすべてを捧げますと

伯鵬楯

エピソード2(脚本)

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伯鵬楯

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〇住宅地の坂道
  ビ――ンビ――ン。
  けたたましく鳴り響く原付スクーターの2ストロークエンジン。
梛良郁美:少年「さびぃ!!」
  原付スクーターとは言え、バイクを乗り回すには厳しい季節に突入した。
  ようやく本日の早朝から始まったバイトから解放され、帰宅途中にある俺。
  快調に音をたてぶんまわっていたエンジンの音が突如途切れだした。
  プスプス
梛良郁美:少年「おいおい、マジかよう」
梛良郁美:少年「もうちょっとだから何とかもってくれ!」
  プスン、プスン。ボツっ
梛良郁美:少年「えっ!」
梛良郁美:少年「止まるなよぉ。頼むから動いてくれぇ!!」
  スターターを何度か回したが、それ以来エンジン音は聞えなかった。
  腕時計をちらっと見て
梛良郁美:少年(6時かぁ、おやっさんの所まだ開いているな)
梛良郁美:少年(まったく、また戻んなきゃいけねぇなんてついてねぇな)
  親しくさせてもらっているバイク屋まで、スクーターを押して歩いて行く
梛良郁美:少年(うんしょうんしょ)
  およそ3キロほど先にあるのだが、意外とこのスクーターは重い。
  躰は冷え切っているうえに、腹も減っている。
  朝からフル稼働だったバイト。疲労感も半端ない。
  そこにこんな状態になるとはとことん今日はついてねぇ。
  
  ようやく『時田モータース』の看板が見えて来た。
  店の前に行くとすでに戸はがっちりと閉まっている
梛良郁美:少年「おいおい、嘘だろう。おやっさんよぉ、店閉めるにはまだ早い時間だぞぉ!!」
  と、ぼやくが躰は店の裏手にある自宅の方に動いていた
梛良郁美:少年「ごめんくださぁい!」
  玄関先で大声で言う俺の声に反応するかの様に「はぁ―い」と声が帰って来る
  ほんわりと漂う香。たぶん煮物の香だろう。
  すきっ腹にはこたえる香だ。

〇シックな玄関
時田麻奈美(あれぇ、郁美じゃん。どうしたの?)
  まったく恥じらう気も見せない此奴は高校のクラスメイトでもある時田麻奈美(ときたまなみ)
  お互い幼稚園の頃からの付き合いだ。ま、簡単に言ってしまえば幼馴染と言う仲だ。
梛良郁美:少年(バイク壊れた)
時田麻奈美「はぁ、そうなんだ。でも、お父さん今いないよ。商店街の会合で出て行っているんだよね」
梛良郁美:少年(マジかぁ)
時田麻奈美(それに多分今日はお酒飲んでくるから修理は出来ないと思うんだけど)
梛良郁美:少年(はぁ―、何でこんなんだよ。今日は)
  がっくりと肩を落として落胆する俺に「ま、あがりなよ」と麻奈美は俺に言う。
時田麻奈美(腹減ってんでしょ。もしかしてバイトの帰りだった?)
梛良郁美:少年(ああ、もうちょっとの所で突然止まりやがった)
時田麻奈美(もぉ、いい加減あのスクーター限界超えちゃっていたんだよ。ま、タダで使っているんだから文句は言えないでしょ)
梛良郁美:少年「そりゃな、文句なんて言わねぇよ。今は動いてくれればそれでいいんだから」

〇明るいリビング
  投げ台詞の様にいい流し、勝手知ったる他人? いや、他人じゃねぇな。
  むかしっから自分の家よりも、麻奈美のこの家の方が何となく落ち着く気がする。
  「あったけぇ」|炬燵《こたつ》に入り、キッチンに向かう麻奈美の姿を目で追う。
  動くたびにチラチラと見える下着。もといパンツ。
梛良郁美:少年(今日は青か)
時田麻奈美(えっ、なんか言った?)
梛良郁美:少年「いやなんでもねぇ」
時田麻奈美(お料理、もう少しで出来るから食べていきなよ)
梛良郁美:少年(ありがてぇ、ごちになるわ)
  言われなくても食っていく気満々だ。麻奈美は料理は上手い。
  性格は少々がさつなところはあるが、これと言って非を口にするところは俺的にはない。
  最も、お互い何かを意識。
  その何かとは思春期真っ盛りの男子が想像する恋愛じみた感情や、クラスメイトの女子に向けるエロイ妄想などは一向に湧いてこない
  むしろいて当たり前すぎるような存在だ。
時田麻奈美(ほいよ。熱いから気を付けて食べて)
  目の前にホクホクと煮あがった肉じゃがが置かれた。
  十分温かい部屋の中でも煌々と器から湯気が立ち上っている。
時田麻奈美(今ご飯とお味噌汁持って行くからね)
梛良郁美:少年(おお、ありがてぇ)
時田麻奈美(でもよかったよ、郁美が来てくれて。お父さん今日会合あるのすっかり忘れててさ、慌てて出て行ったんだよ)
時田麻奈美(おかげで肉じゃが余りそうだったから、助かちゃったぁ!)
梛良郁美:少年(ほふほふ、う、うめぇ)
  程よく味が染みた肉じゃが、躰にこの温かさが染みる。
  そんな俺を見つめ麻奈美は
時田麻奈美(美味しい?)
  と一言言い微笑んだ。
  その表情がとても懐かしい人を思い起こさせた。
  
  俺も、麻奈美も母親はもうこの世にはいない。
  俺の母親は、俺がもの後心付いたころにはすでにいなかった。
  その面影を感じることが出来るのは、和室の仏壇に飾られているフォトケースに入った一枚の写真だけだ。
  親父と付き合っていた・・・・・・結婚する前の姿らしい。
  綺麗な人だ。俺にはその印象しかない。
  麻奈美の母親。おばさんが亡くなって6年が経とうとしている。
  そう言えば、今日はおばさんの命日だった。
  おやっさん。
  こんな日くらいは一緒にいてやればいいのに・・・・・・。
  思いにふけっていると、俺の対面に自分の分の肉じゃがとご飯味噌汁を用意し、炬燵に足を入れ
時田麻奈美(いただきます)
  と手を合わせて箸でジャガイモをつまみ口にアムっと頬張った。
時田麻奈美(う―――ん。上出来。ね、上手く出来たでしょ)
梛良郁美:少年「ああ、ホントうめぇよ。おばさんの味にまた近づいたな」
時田麻奈美(そうぉ? ホント? だとしたら嬉しいな)
  ちいせぇ時はおかっぱ頭で髪も短くしてて、女の子と言うよりは男の子って言う感じにしか見えなかった麻奈美。
  高校生になってから髪を伸ばし始めた。
  伸びた髪がはらりと麻奈美の顔にかかる。
  やっぱ似て来たな・・・・・・。おばさんに。
  俺にとっても母親みてぇな人だったから、思い入れも大きい。
  そんな感傷的な気持ちになってしまう。
  俺がいた。

〇サイバー空間
  梛良郁美
  彼の過去。
  アーカイブが蘇る。
  そして郁美は生涯を共にする相棒と出会う。
  
  そいつの名は・・・・・・
  フリスト

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