4回目(脚本)
〇教室
4月28日 PM16:00
なんだか今日は幼馴染の様子がおかしい。
いや、元から変な奴だとは思っていたけど。
今日はなんだか妙だ。
朔真 稔人「なあ、今日どうした?」
笹倉 葵「・・・なにが?」
朔真 稔人「今日、変じゃないか?」
笹倉 葵「んー・・・」
笹倉 葵「ねえ、稔人」
朔真 稔人「ん?」
笹倉 葵「ここ」
葵が俺のノートを見て、指をさす。
ノートに書き込まれた数学の問題をさしているようだ。
朔真 稔人「関数の問題? これがわかんないのか?」
笹倉 葵「間違えてるよ」
朔真 稔人「・・・は?」
笹倉 葵「途中計算、間違えてるよ」
朔真 稔人「・・・」
朔真 稔人「わっ! 本当だ!」
朔真 稔人「お、お前、本当にどうしたんだよ・・・!」
朔真 稔人「この間の定期テスト、数学は14点だったじゃねえか!?」
笹倉 葵「なんで稔人が私のテスト結果知ってるのよ・・・」
朔真 稔人「それに! さっきの授業もすらすら答えてたし!」
〇教室
いつも頓珍漢な答えしか言わないお前がすらすら問題解いていくから、
数学の先生、ぽっかーんとしてたぞ。
〇教室
朔真 稔人「ま、まさか、一夜にして天才になったか?」
朔真 稔人「それとも、実は勉強が出来るタイプだったとか?」
笹倉 葵「残念ながらそういうわけじゃ、ないんだなぁ」
笹倉 葵「この天才ぶりも今日一日限りのものなのだ・・・」
朔真 稔人「・・・どういうことだ?」
笹倉 葵「いやあ、実はね・・・」
朔真 稔人「・・・うん」
笹倉 葵「私、今日を経験するの、四回目なんだよね」
朔真 稔人「・・・」
朔真 稔人「・・・はあ?」
〇教室
朔真 稔人「葵・・・お前、ついに頭おかしくなっちまったのか?」
朔真 稔人「いや、前々から変な奴だとは思ってはいたけどさ」
笹倉 葵「むっ、失礼だなぁ」
笹倉 葵「私まじめに言ってるだけどぉ」
朔真 稔人「あー、わかったわかった!」
朔真 稔人「つまり、なんだ・・・」
朔真 稔人「葵は今日・・・4月28日を何度もループしてるってこと?」
朔真 稔人「漫画みたいに?」
笹倉 葵「その通り!」
笹倉 葵「もうさすがに4回も同じ日を繰り返してると、苦手だった数学も覚えちゃうよね~」
笹倉 葵「まっ、全部丸暗記してるだけなんだけども」
朔真 稔人「・・・なんだそりゃ」
「“そんな馬鹿な話があってたまるかって”」
朔真 稔人「えっ!?」
朔真 稔人「・・・」
「“俺をからかっているのか?”」
朔真 稔人「・・・」
朔真 稔人「・・・言おうとしたことを先に言われるのはいい気分じゃねえな」
笹倉 葵「どう? 信じる気になった?」
朔真 稔人「んー・・・」
朔真 稔人「ループしているっていう証明も出来ないが、逆もしかり・・・」
朔真 稔人「まあ、暇だしな」
朔真 稔人「その前提で話すのはやぶさかじゃない」
笹倉 葵「さすが稔人!」
笹倉 葵「話が早くて助かるよ」
朔真 稔人「じゃあ、まず、ループが始まる原因に心当たりはないのか?」
笹倉 葵「それがねー・・・まったく覚えないんだよ」
朔真 稔人「全然?」
笹倉 葵「うーん? 強いて言うなら・・・」
朔真 稔人「強いて言うなら?」
笹倉 葵「1回目のときは、靴箱の中に手紙が入ってんだけど、2回目以降は見てないんだよね・・・」
朔真 稔人「手紙? ラブレターか?」
笹倉 葵「いんや、中身は見てない」
朔真 稔人「はっ? なんでだよ」
朔真 稔人「中身、気にならなかったのか?」
笹倉 葵「気になりはしたけど、登校時間だったから人目があったし」
笹倉 葵「あとで見ようと思って鞄に仕舞ったまま忘れてたんだよねぇ」
朔真 稔人「はあ? 忘れるかなぁ普通」
笹倉 葵「う、うるさいなぁ」
朔真 稔人「それで?」
朔真 稔人「心当たりはそれだけなのか?」
笹倉 葵「うーん・・・」
笹倉 葵「それ以外は別段いつもと変わらない1日だったよ」
笹倉 葵「漫画みたいに誰かが死ぬわけでも、私が死ぬわけでもなかったし」
朔真 稔人「そりゃ漫画の見過ぎだ・・・」
朔真 稔人「しかしなぁ・・・うーん」
朔真 稔人「なにかあるとしたらやっぱりそれが原因なのか・・・?」
笹倉 葵「そもそもさ」
笹倉 葵「なんで私だけループしてるんだろ」
朔真 稔人「さてね・・・そんなこと俺がわかるわけないだろ」
朔真 稔人「もしかしたら、どっかの誰かがタイムトラベルに試みて、時間のねじれとか因果とかそういうのに巻き込まれたか・・・」
朔真 稔人「もしくは、実はこの世界の時間は最初から4月28日しかなくて、ずっとそこを繰り返していただけかも」
朔真 稔人「無限の未来も無限の過去もない」
朔真 稔人「ただ同じ時間を繰り返していて、誰もそのことに気づいてない」
朔真 稔人「ただ、葵だけがそのことに誰よりも早く気が付いただけのかもしれない・・・」
朔真 稔人「仮説はいくらでもたてられそうだな」
笹倉 葵「ふぅん、なるほどねぇ・・・でも」
笹倉 葵「未来も過去もない、っていうのは・・・困るね」
朔真 稔人「なんで? 記憶がリセットされて自覚がないなら、いくら繰り返そうが関係ないじゃん」
笹倉 葵「そうだけど、せっかくもう少しでゴールデンウィークなんだよ?」
笹倉 葵「お休みがないのは困るよ」
笹倉 葵「やっぱり、私は明日がないと嫌だな」
朔真 稔人「それは・・・」
朔真 稔人「そうかもしれないな」
朔真 稔人「気にするところが休みなのが、葵らしい」
笹倉 葵「いや、だってさ、例えば競馬で勝ったとするじゃん」
笹倉 葵「でも、いくらたくさん稼いだって、1日しかループしてないなら意味ないじゃん」
朔真 稔人「あー、タイムトラベルが題材の映画ではあるあるだけど、確かにな」
笹倉 葵「まっ、そういうわけで、私はこのループを抜け出さなきゃいけないのよ」
朔真 稔人「ゴールデンウィークのために?」
笹倉 葵「立派な目標でしょ?」
笹倉 葵「そのために協力したまえ」
朔真 稔人「ずいぶん、偉そうだな・・・」
朔真 稔人「うーん、協力するっつてもな、具体的になにすりゃいいのか・・・」
朔真 稔人「まずそのラブレター探してみるか」
笹倉 葵「うん!」
〇学校の昇降口
笹倉 葵「うーん・・・」
朔真 稔人「どうだ?」
笹倉 葵「やっぱ、ない」
朔真 稔人「念のために他の靴箱も探してみるか・・・」
笹倉 葵「怒られない?」
朔真 稔人「見つかる前に終わらすんだよ」
笹倉 葵「なるほど!」
〇学校の昇降口
笹倉 葵「3年生の靴箱、調べ終わったよー疲れたー」
笹倉 葵「やっぱ、見当たんないわ」
朔真 稔人「こっちもだめだ それらしきものは見当たらない」
笹倉 葵「やっぱり、捨てられたんじゃない?」
笹倉 葵「あっ」
笹倉 葵「もし誰かに捨てられてるんだとしたら、張り込んでたら犯人わかるかな?」
笹倉 葵「張り込みとかちょっと刑事っぽくてテンションあがる~!」
朔真 稔人「う~ん、どうだろ」
朔真 稔人「葵は心当たりないのか?」
笹倉 葵「心当たり? なんの?」
朔真 稔人「靴箱に入った手紙なんて、用途が限られているだろうが」
朔真 稔人「呼び出されるなら、相手に心当たりないのかよ?」
笹倉 葵「ない!」
朔真 稔人「即答かよ・・・」
朔真 稔人「うーん・・・手紙がループのトリガーだったとして考えて・・・そもそも、手紙は入っていない?」
朔真 稔人「1回目とそのあとでは何かしらの違いがあって、手紙を入れられなかった・・・もしくは入れられなかった・・・」
朔真 稔人「いや、入れる必要がなかった・・・?」
笹倉 葵「あ、あのー・・・」
朔真 稔人「なんだよ、今考えてるんだけど」
笹倉 葵「ごめん、ごめん」
笹倉 葵「でもさ、ほら、もう時間も遅いし」
笹倉 葵「今日はこの辺で切り上げようぜ」
朔真 稔人「今日は、って・・・」
朔真 稔人「葵の言うことが正しいなら、またリセットされるんだろ?」
笹倉 葵「そうだけど、説明すれば稔人はまた協力してくれるでしょ?」
朔真 稔人「それは次の俺次第だけど・・・」
朔真 稔人「まあ、多分同じ反応をするんだろうな・・・」
朔真 稔人「じゃあ、またループしたら今回とは別の行動を取るといい」
朔真 稔人「しらみつぶしになるだろうけど」
笹倉 葵「うん、わかった!」
〇通学路
笹倉 葵「いやいや、今日はありがとうね」
笹倉 葵「おかげで退屈しなかったよ」
笹倉 葵「さすがに4回目となると1日過ごすのも暇でさー」
朔真 稔人「ちなみにだけど、ループの話をしたのは今回が初めてなのか?」
笹倉 葵「ううん、前回もしたけど、私自信すごく困惑してたから」
笹倉 葵「挙動不審で信じてもらえなかった」
朔真 稔人「ま、今も信じてないけどね」
笹倉 葵「・・・でも、冷静に話せばこの事態について一緒に考えてくれるってことはわかったから」
笹倉 葵「それだけでも、今回は収穫」
朔真 稔人「・・・!」
朔真 稔人「・・・」
朔真 稔人「ま、まあ、どうせ暇だしな」
朔真 稔人「覚えてなくてもきっと今日みたいに考えることはするよ」
朔真 稔人「だから、その・・・ちゃんと話せよな」
笹倉 葵「うん、そうする」
笹倉 葵「ありがとう、稔人」
朔真 稔人「・・・じゃあ、ここで分かれ道だな」
笹倉 葵「うん! ばいばい、稔人」
朔真 稔人「ああ、また・・・明日な」
笹倉 葵「・・・!」
笹倉 葵「うん、また明日」
〇一人部屋
4月28日 PM23:59
朔真 稔人「・・・」
朔真 稔人「日付が変わる」
朔真 稔人「葵の話ならそろそろだな」
朔真 稔人「しかし、酷なこと言っちまったな」
朔真 稔人「また明日、なんて・・・」
朔真 稔人「でも・・・」
俺はスマホを手に取る。
目的のアプリを起動し、目標の時刻にセットする。
この動作をするのも、もう5回目だ。
設定時刻は、4月28日。午前0時。
葵は言っていた。
明日が来ないのは困る、と。
正直、俺の意見は逆だ。
朔真 稔人「明日なんて、来なくていい」
俺の望む明日がないなら、そんなものはいらない。
例え、それが彼女の意思に反することだとしても・・・
朔真 稔人「おやすみ、葵」
朔真 稔人「また、今日という明日に会おう」
〇黒背景
そうして、祈るように、俺は。
5回目のループを起こす。
彼はタイムループしていることに気づいてたんですね。
次の日が来ると何かが起きるのか、それとも彼女に相談をしてもらいたいのか…いろいろと考えてしまいます。
彼は、彼女の話を真摯に受け止めて協力していて優しいなぁと思っていましたが、なんだか闇が隠れていそうですね。実は彼女を明日起きる出来事から守るため、、?手紙の謎も気になります。
彼は明日が来たら彼女に何か不運なことが起こることを察知しての、その行動なのでしょうか? どういう仕掛けでループを繰り返せるのかも知りたいけど、そのうち彼女が絶望するのは見たくないですね。