第5話 そしてお別れの時(脚本)
〇一軒家
みさと「シロ、どうしたの? 目を覚まして、お願い!!」
ドッグラLaQLove「俺は泣きじゃくるミサトの声を遠くで聞きながら、同時に別の声も聞いていた。」
神様「いよいよこの時がきたようだ。」
ドッグラLaQLove「え? 神様って結局どんな顔してんの? 最後まで影のまま? この緊急事態に俺はそんな関係ないことをぼんやり考えてた」
みさと「獣医さんに連絡しなきゃ」
みさと「えーと、近所の獣医さんって、どこだっけ? 手が震えてボタンが押せないよ」
ドッグラLaQLove「待って、もういーから。そんなことより俺のことをもう一度じっと見つめてくれ。俺をしっかり抱きしめてくれ(クーン、クーン)」
ドッグラLaQLove「こんなに一生懸命に話しかけても、どうせミサトには犬語でしか聞こえない。何を言っても伝わらないんだ・・・」
みさと「怖いよ、嫌だよ、シロ、どこにも行かないで。」
俺はどんどん薄れていく意識の中であらためてミサトとの楽しかった日々を思い出していた。
ドッグラLaQLove「ミサト、大好きなミサト。このままずっと一緒にいたいと思っていたよ。」
ドッグラLaQLove「短い間だったけど、ミサトの側にいられて楽しかった。」
ドッグラLaQLove「できればもっとずっと側にいて、ミサトのことを守ってあげたかった。」
神様「一途なマシローのために、特別に死後のルールを教えてやろう」
みさと「え? これ誰の声? 誰なの?」
神様「人は誰でも、死後しばらくの間、ほかの生き物に生まれ変われるんだ。 そうしてお前のように大切な人の側にしばらく居られるのさ」
神様「それは今生に未練を残さないようにするためなのさ。」
神様「だから、大切な人が亡くなったら、周囲を注意深く見てみるといい。」
神様「いつも行く神社の境内に目がよく合う鳩がいたりとか、庭に普段は見ない蝶々が3日連続やってきたりとか」
神様「普段は見ない野良猫が庭の隅でじっとしてるとか。」
神様「それは、実は大切な人が最後に側にやって来て見守ってくれてるのさ。」
みさと「そういえば、シロが一瞬マシロー君に見えた時があったわ。」
みさと「まさか、シロが、マシロー君?」
みさと「そんなはずないよね。そんな不思議なことあるはずないわ」
神様「一途なマシローのために、最後のチャンスを与えよう。これが正真正銘のラストチャンスだ。」
神様「時間をあの日に巻き戻してやってもいい」
ドッグラLaQLove「え? それはどういう意味ですか?」
神様「交通事故をなかったことにするのさ」
ドッグラLaQLove「え! まさかそんな力もあるなんて。」
神様「なんでもできるさ、神様だからね。」
ドッグラLaQLove「じゃ最初からそうしてくれれば良かったのに」
神様「話を最後まで聞きなさい。その代わり、一つだけ条件がある。」
神様「交通事故に遭うのはマシローじゃなく、ミサトだ」
ドッグラLaQLove「え?」
神様「つまり、お前は生き返り、代わりにミサトが死ぬ」
神様「お前は元の暮らしに戻れるんだ」
神様「さあ、どうする? 早く決めなさい。シロが死ねばその選択肢も無くなるよ」
神様「さぁどーする?」
〇魔法陣2
神様「おやおや、即決したようだね。迷いはなかったのかい?」
ドッグラLaQLove「迷いはないさ。元々俺はミサトを守りたくて、シロに生まれ変わったんだ。そうだろ?神様!!」
ドッグラLaQLove「ミサトとの思い出が今の俺の宝物。それさえあればなにも怖いものはないよ!」
ドッグラLaQLove「ハッ! ミサトは? まさか神様、ミサトの命まで奪ったんじゃないよね?」
神様「なんて心配性な奴なんだ。しかたない、ほんの少しだけ、地上の世界を見せてやるか」
みさと「シロ、ありがとう。これまでいつも側にいてくれて。」
みさと「シロが初めて我が家に来てくれた日から毎日楽しかったよ。」
みさと「辛い時もシロが側にいてくれたから頑張れたんだ。」
みさと「大好きなシロ。安らかに眠ってね」
神様「これで安心できたか?」
ドッグラLaQLove「はい!」
ドッグラLaQLove「もう思い残すことはありません。神様、最後にミサトと一緒にいさせてくれてありがとうございました。」
みさと「最後の2週間、急にシロの性格が変わった気がしたんだけど、」
ドッグラLaQLove「え?」
みさと「ひょっとして・・・ううん、こんなこと考えるの変だよね。」
みさと「でもなんだか不思議。シロに話しかけてると時々マシロー君と話してるような気がしてた。」
みさと「ひょっとして、マシロー君が最後に私に会いに来てくれてたのかな? って。」
みさと「そんなこと起きるはずないけど、もしそうだとしたら、マシロー君に伝えたい」
みさと「マシロー君としばらくの間、一緒にいられてホントに楽しかった。」
みさと「マシロー君、会いに来てくれてありがとう。いつまでもマシロー君のことを忘れないよ。」
みさと「マシロー君、ありがとう。私、これからもなんとか頑張って生きていくよ」
みさと「私がいつか天国に行ったら、一番最初に迎えに来てね」
神様「マシロー良かったな。お前の一途な気持ちはちゃんとミサトに届いていたんだよ」
マシロー「ありがとう神様。ホントにありがとう。死んだ後にこんなステキなご褒美があるなんて、思ってもいなかった。」
マシロー「俺はホントに今、幸せです、これで安心して天国に行ける」
神様「死後、気持ちよく天国に行けるよう、死者の心のメンテナンスも丁寧にやるのさ。」
神様「だから天国は今も人気があるんだろ」
神様「よし、マシロー、そろそろ時間だ。」
マシロー「・・・」
神様「さあ、行こう。準備はいいか?」
マシロー「はい!」
俺は神様に手を引かれ、何もない、まばゆい光の天空へいざなわれた。
マシロー「ありがとう神様。ありがとうミサト。ミサトは俺の分まで生きてくれ。俺は天国でずっとミサトを待ってるよ。」
マシロー「ミサトが天国にやって来たら約束通り、俺が最初に迎えに行くからね。ミサトが天国で迷わないように。」
マシロー「大好きだよミサト。」
マシロー「俺の大切な人。」
ミサト・・・
ミサト・・・
ミサト・・・
ミサト・・・
ミサト・・・
さよなら。そしてまた会える日まで・・・
いつまでもミサトの笑顔が続きますように・・・
さようなら
奇抜な始まりからどのように展開していくのかと思いましたが、最後は胸がジーンとしました…!
作品全体を通してマシローの一途な想いが伝わってきて、切なくも温かい気持ちになりました。
犬とドラキュラの立ち絵を交換して、変身を表現したり、みさとの立ち絵をいくつも並べて走馬灯のような場面を作ったり、TapNovelとしての工夫もしていただいており、とても満足度の高い作品でした。
犬とドラキュラという不思議な組み合わせが、作品をユニークなものにしていて面白いです。犬ならではの葛藤や障害というのも、作中でとても活きていると思いました。どのエピソードもほんわかしていて、読んでいて非常に和む作品です。ラストの終わり方は切ないのですが、自分はこの終わり方、とても好きでした!