Let's 日銭稼ぎ!(脚本)
〇草原
新たに武器を手に入れた俺たちは、この『ロザリオンデ』に転生した最初の地点の草原でレベル上げに勤しんでいた。
もとい、少し語弊があったようだ。
時折草原から飛び出してくる子犬に似たモンスターを、必死になって倒しているのは俺だけで。
マルリーティはというと、少し離れた場所にしゃがみ込んで俺に悪態をついていた。
マルリーティ「あーもう!! そんなチンケな武器を使ってるからそんな小物を倒すのにだって時間がかかるんじゃない!」
マルリーティ「さっさと『インセンティバー(懸命の対価)』を使って、ズバーっとやっつけちゃえばいいのよ!!」
……ご覧の通りだ。
確かに俺のレベルと銅製のミドルソードの組み合わせじゃ、雑魚の類であるこの子犬もどきですら、何度か斬りつけないと倒せない。
俺はやっとの事で今日四匹目となる子犬もどきを倒し、振り返った。
タツヤ「マルリーティ! おまっ、後ろで気が散るようなこと言ってんじゃねーよっ!!」
マルリーティ「何よっ! タツヤがせっかく授けた『インセンティバー(懸命の対価)』をしっかり活用しないのがいけないんじゃないっ!」
タツヤ「お前は今がよければそれでいいアホなのかっ!? この剣は、いざという時のために、温存しておかなきゃいけないだろーがっ!?」
マルリーティ「だって! ヒマなんだもんっ! こんな地道なレベル上げをただ眺めてるだけだなんて、苦痛以外の何物でもないおぐふぉぉぉぉ!?」
草原の中から勢いよく飛び出した一匹の子犬もどきが、しゃがんで駄々をこねていたマルリーティの顎に、頭突きを喰わらせた。
なんて言うか、とっても胸がスカっとした。
転生して『天界』ならぬ『魔界』にたらい回された俺が、神の存在を確かに感じた瞬間である。
……神様、このポンコツ魔女に天罰をありがとうございます!
涙目のマルリーティは顎を抑えうずくまっていたが、やがて怒りに燃えた目で、頭突きを喰らわした子犬もどきをキッと睨んだ。
マルリーティ「ゆ、ゆ、ゆ、許さないわああああっ!」
そう言ってマルリーティは、両手を前方にかざした。
掌に光が集まりそれが形を成し、拳大の火球を創り出す。
逃げる子犬もどきに向かって火球を発射する。
火球はごうと風を切り、見事に命中した。
子犬もどき「ピギャアアアァァァァ————!!」
断末魔を上げ火ダルマとなった子犬もどきは、丸こげになり体が霧散して消滅した。
タツヤ「ま、マルリーティ……お、お前、ま、魔法が使えるのか?」
マルリーティ「当たり前じゃない。もう忘れたの? 私は『魔女』よ。ある程度の攻撃魔法なら使えるわ」
マルリーティ「ただね、魔法を使うにもその世界の『魔法の仕組み』を読み解かなきゃいけないの。『理』みたいなものね」
マルリーティ「だからその世界の仕組みに慣れるまでは魔法が使えないのよ……ようやくこの世界とシンクロしたみたいね」
マルリーティの説明を聞きながら、俺は子犬もどきの霧散した場所に目を移す。
————そこには紫紺に煌く一片の『魔求石』が落ちていた。
俺は『道具屋』の主人の言葉を思い出しながら、それをそうっと摘みあげる。
この『魔求石』を持ったモンスターは言わば、モンスターのコピーだと言っていた。
『魔求石』がオリジナルモンスターの『瘴気』を吸って『核』へと成長し、モンスターへと変貌を遂げるらしい。
なのでその地域のモンスター種を殲滅する為には、絶対数の少ないオリジナルモンスターを倒さないと無限に増殖をし続けるのだ。
ならばコピーが生まれるより先に、周辺の『魔求石』を壊せばいいと思ったが、『魔求石』にはその定義がないらしい。
オリジナルモンスターの『瘴気』を吸った木々の琥珀が『魔求石』に変化したり。
はたまた地層に存在する自然の鉱石が『瘴気』に当てられ『魔求石』に変化したりと。
要は、自然界すべてのものが『魔求石』になり得る可能性を持っているんだとか。
そんなモンスターの、コピーかオリジナルかを見分ける方法はただ一つ。
モンスターを倒した後死骸が霧散して『魔求石』をドロップすればそれはコピーのモンスター。オリジナルなら死骸が残るとの事だ。
そして皮肉なことに、コピーモンスターがドロップする『魔求石』はよい値段で取引される。
『瘴気』が抜けた『魔求石』装飾石として需要があるのだとか。
なのでこの『魔求石』集めが、俺たちの当面の日銭稼ぎの手段となるってわけだ。
俺はマルリーティが倒した子犬もどきがドロップした『魔求石』を見つめた。
透き通る紫色の、小さなカケラ。
見つめ続ければ、吸い込まれてしまいそうな怪しい輝きを放つ『魔求石』を、大切にポケットへとしまい込んだ。