釣った外道は(脚本)
〇オフィスのフロア
桐谷「佐藤さん、コーヒー淹れるんですけど、 いりますか?」
佐藤「ありがとございます でも、僕にはこれがあるので・・・」
桐谷「水でいいんですか? コーヒーが嫌なら、お茶もありますよ」
佐藤「す、すみません。この水がよくて・・・」
桐谷「い、いやいや! 謝らなくていいんですよ?」
桐谷「ただその、コーヒーとか自由に飲んでいいものだから・・・ 遠慮しなくていいですからね!」
佐藤「はい、ありがとうございます」
〇施設の男子トイレ
上司「──なあ、桐谷 最近入った佐藤くんのこと、どう思う?」
桐谷「佐藤さん、ですか? 物静かですけど、真面目そうで良いと思いますよ」
上司「そうだけど、ほら、ちょっと変なところがあるだろう?」
桐谷「・・・水のことですか?」
上司「それだよ!」
上司「どうも頑固なところがあってな・・・」
〇応接スペース
取引先「──すみません、すぐに戻ってくるので」
上司「いえいえ、お気になさらず」
上司「佐藤くん、コーヒーは苦手なのかい?」
佐藤「そういうわけではないんですけど・・・」
上司「なら少しでもいいから、手をつけておいてくれるかな?」
上司「一口も飲まないのは、ちょっと失礼だからね」
佐藤「・・・すみません 僕、これ以外は飲みたくなくて」
上司「そ、そうか・・・ いや、無理ならいいんだ」
〇施設の男子トイレ
上司「──どうも、どこでもそんな具合でね」
桐谷「一口も飲まないのは、なかなかですね」
上司「理由も言ってくれないし・・・ そのせいで、壁があるような気もしてな」
上司「桐谷は年も近いし、仕事も教えてただろ? 理由とかは聞いてないか?」
桐谷「いえ、俺も仕事のことを話すくらいで・・・」
上司「そうか・・・ あの調子じゃ、飲みに誘ってもなぁ」
上司「──あ、釣りとかどうかな? 釣り竿とか道具は、私が貸せるし!」
桐谷(げっ!)
上司「桐谷もどうだ? 二人きりより、三人なら誘いやすいから」
桐谷「ど、どうでしょうね・・・ 佐藤さんも今時っぽいですし?」
上司「そうか・・・ 良いと思ったんだがなぁ」
桐谷(あの人、すぐに釣りに誘うんだから・・・)
〇オフィスビル
〇オフィスのフロア
上司「──それじゃあ、桐谷くん あんまり根詰めないようにね?」
桐谷「はい。お疲れ様です」
桐谷(・・・さっさと終わらせて帰ろう)
桐谷「ん?」
桐谷(佐藤さんも残業か・・・)
桐谷(本当にあれしか飲まないんだな)
桐谷「その水、美味しいんですか?」
佐藤「え? いや、そういうわけでは・・・」
桐谷「でも、いつも飲んでますよね?」
佐藤「・・・飲めないんです。これ以外」
桐谷「アレルギーとかですか?」
佐藤「いえ・・・その・・・」
桐谷(・・・なんで話したがらないんだろ?)
桐谷(──もしかして、宗教とかそういう!?)
桐谷「あ、いや、話したくないならいいですから!」
桐谷「お互い残業ですし、さっさと終わらせましょうか!」
佐藤「あっ・・・」
佐藤「・・・」
〇オフィスのフロア
桐谷(─よし、そろそろひと段落だな)
佐藤「あの・・・」
桐谷「はい?」
佐藤「これ、淹れたのでよければ・・・」
桐谷「おお、ありがとうございます! ちょうど休憩しようと思ってて」
佐藤「あと、その・・・ 実は聞いてもらいたいことがあって・・・」
桐谷「仕事のことですか?」
佐藤「いえ──」
佐藤「この、水のことなんです」
桐谷(おお?)
〇オフィスのフロア
佐藤「コーヒー、味は大丈夫ですか? 普段、飲まないので・・・」
桐谷「美味しいですよ ありがとうございます」
佐藤「よかった・・・」
桐谷「それで、どうして佐藤さんは水しか飲まないんですか?」
佐藤「・・・虫が、気になってしまって」
桐谷「虫? 寄生虫とか・・・?」
佐藤「その、話半分で聞いてほしいんですけど・・・」
〇黒背景
「僕の親戚のおじさんに、 手の指が一本、切れてしまっている人がいるんです」
「高校生のころ、 その人から、指が切れている理由を教えてもらったことがあって・・・」
〇白いバスルーム
親戚「──朝、顔を洗おうと思って洗面台に行ったんだ」
親戚「そしたら、洗面台に水が溜まっててさ しかもその水に、糸みたいな虫がいたんだ」
親戚「最悪だと思ったよ!」
親戚「栓もしてないし、きっと虫が湧いてパイプに詰まってるんだろって」
親戚「それで、まずはその虫を捨てようと思って摘まんだら・・・」
親戚「指に、なにか刺さったんだよ」
親戚「そしたらすごい力で引っ張られて、人差し指が排水口に飲み込まれたんだ・・・」
親戚「わけがわからなかったよ それで踏ん張ってるうちに・・・」
〇オフィスのフロア
佐藤「──おじさんの指はちぎれて、なくなってしまったらしいです」
桐谷(えっと・・・)
桐谷「佐藤さん? これって──もしや、怖い話?」
佐藤「あ、いえ、怪談とかじゃないんです!」
佐藤「本題は、その話を聞いていた時のことなんです」
〇おしゃれなリビングダイニング
佐藤「なにその話・・・」
親戚「おいおい、本当なんだぞ!」
親戚「あれ以来、俺は水に虫がいないかずっと気にしてるんだからな!」
佐藤「本当は、なんか変なことしてちぎれちゃったんでしょ?」
親戚「本当の本当なんだって!」
親戚「お前も気をつけろよ 下手したら、指だけじゃすまんぞ!」
佐藤「わかった、わかった・・・」
親戚「──待て!」
佐藤「・・・な、なに?」
親戚「おる」
佐藤「え?」
親戚「コップに、あれが・・・」
〇黒背景
「うわぁああああ!」
〇オフィスのフロア
佐藤「おじさんは、落ち着いてから僕に謝ってくれました」
佐藤「それ以来、中身が見えるこの新品の水以外、飲む気がしないんです」
桐谷「・・・その、言ったら悪いとは思うけど」
桐谷「おじさんが変だっただけ、とか」
佐藤「・・・僕も、見たんです」
佐藤「コップの中に浮かぶ、赤い虫を」
桐谷(・・・反応に困るなぁ)
佐藤「す、すみません! 信じられませんよね、こんな話・・・」
桐谷「い、いやいや、大変だったね!」
桐谷「けど、どうして俺にだけその話を・・・?」
佐藤「この会社に入るまで、やっぱり苦労したんです・・・」
佐藤「でもここでは、嫌がらせとかもないですし、大目に見てもらえました」
佐藤「その中でも桐谷さんは、面倒も見てくれて、気にかけてくれたでしょう?」
佐藤「桐谷さんなら、この話も聞いてくれるかも知れないと思って・・・」
桐谷(年が近いからって、任されてただけなんだけどね・・・)
佐藤「──人に話せてすっきりしました ありがとうございます。桐谷さん!」
桐谷(・・・まあいいか!)
桐谷「どういたしまして」
佐藤「僕、これからも頑張りますね 改めてよろしくお願いします!」
桐谷「ええ、一緒に頑張りましょう!」
桐谷「それじゃあ、仕事も再開しましょうか」
佐藤「はい!」
桐谷(──え?)
〇黒背景
その時、俺は見た
佐藤さんのペットボトル・・・
その中に浮かぶ、赤いなにかを
〇オフィスのフロア
佐藤「お?」
「おごぉおおおおおおおおおおおお?」
〇オフィスのフロア
耳慣れない、なにか折りたたまれるような音と、彼のいびつな悲鳴が聞こえた
俺には佐藤さんが、ペットボトルへ口から吸い込まれているように見えた
けれど、もうそこには空のペットボトルがあるだけで
なにかが起こった後とは、とうてい思えなかった
〇海岸の岩場
奇妙なことに、佐藤さんの死体は遠く離れた海岸で見つかった
その死体は、長い間放置されていたかのように、からからに干からびていたらしい
〇オフィスのフロア
かつて、釣り好きの上司から聞いたことがある
釣り人は、目当て以外の魚を釣り上げると、陸に放置することがあると
なぜだかその話を思い出し、そして当てはめてしまう
佐藤さんが目当てじゃないなら、
いったい誰を狙っていた?
彼の近くにいたのは──
〇オフィスのフロア
同僚「──桐谷さん、コーヒーいりますか?」
桐谷「いや、いいよ」
桐谷「俺には、これがあるから」
怖い話ですね…。
どんどん次から次へと、持ち主?を変えているのですね…。
持ち主を変えるというよりかは、変わっていってしまうのでしょうか。
結局あの赤い虫ってなんなんだ…😨虫なのか?
誰かを釣り上げようと意志を持って狙っているのか…?
明かされないのが想像をかき立ててゾッとしました😱
明るくスッキリした文体の中の佐藤君のペットボトルエピソード、からの恐怖ストーリー!そのギャップで恐怖感も増してしまいます。読後もぞわそわします!