第2話:諸行無我(脚本)
〇暖炉のある小屋
彼...宗純さんとの生活は、今まで経験したことのない未知でありふれていました
日の出と共に起床し、部屋やリビング、家の前に至るまで掃除をはじめる
掃除が終わると朝食の準備をはじめ、私の起床と共にテーブルに食事を並べる
彼は食事中、一切音を立てず、会話すらなく無音で食す
これも作務(さむ)と呼ばれる僧侶の修行の一環なんだとか・・・
私としてはとっても楽なんだけど・・・
〇草原
宗純「おっ、つつみ草(タンポポ)」
ララ・フォーレ「どの国にも生えているのですね」
宗純「貴重な食糧だ どこでも生えるから助かるよ」
ララ・フォーレ「もしかして薬草にも詳しかったりします?」
宗純「知ってはいるが・・・」
宗純「この地の野草は知らぬものばかり」
宗純「私の知識は役に立ちませんな」
ララ・フォーレ「もし興味があるなら教えましょうか?」
宗純「ほう、それは・・・」
宗純「お師匠さま、と呼ばせてもらえますかな?」
ララ・フォーレ「うーん、マスターがいいかも」
宗純「マスター?」
ララ・フォーレ「お師匠さまって意味です」
宗純「よろしくお願いします、”マスター”」
宗教はもちろん食生活も生活基盤も全て違う
それでも気にならない
それどころか
一緒にいて安心するような・・・
〇草原
その手が離れると
どこかに行ってしまいそうな──
〇けもの道
男とか女とか
正直私には関係なかった
性別の違う生き物
それ以上でもそれ以下でもないのに
体温以上のものを感じられるハズがない
なのにどうして・・・
宗純「マスター、どうかされました?」
ララ・フォーレ「あの、宗純さん・・・ ララでいいですよ・・・」
宗純「ふむ?」
ララ・フォーレ「名前・・・です」
宗純「ララですか、少し気恥ずかしいですな」
ララ・フォーレ「ダメですか?」
宗純「ララ、ララ、ララ・・・」
宗純「少し楽しい気分になってきました よい名ですなぁ」
ララ・フォーレ「楽しくなる森って意味でララ・フォーレと名付けたみたいですよ」
宗純「”みたい”と言うと?」
ララ・フォーレ「6歳ぐらいの頃、お母さんと一緒にこの森に山菜をとりに入ったんですが」
ララ・フォーレ「森の中でお母さんとはぐれちゃったんです」
〇山の中
ララ・フォーレ「ママー!ママー!マーマー!!」
その頃の私は、まだ目が見えている時でした
ララ・フォーレ「やーだー!あっちいって!」
クロカミ「グルルルルルル・・・」
ララ・フォーレ「ママー!!」
〇山の中
ララ・フォーレ「その後のことはあまり覚えていません」
ララ・フォーレ「必死でしたので・・・」
ララ・フォーレ「後から聞いた話だと、通りすがりの旅人が私を助けてくれたそうです」
宗純「母上は・・・?」
ララ・フォーレ「分かりません」
ララ・フォーレ「あのケモノに襲われたのか 私を捨てたのかも・・・」
ララ・フォーレ「その時からです 私の目が何も映さなくなったのは」
ララ・フォーレ「でも悪いことばかりじゃありませんよ」
ララ・フォーレ「鼻が良くなったり、耳が良くなったり」
宗純「三昧(さんまい)ですな」
ララ・フォーレ「さんまい?」
宗純「目を閉じれば耳が良くなる 耳を閉じれば目が良くなる」
宗純「いわゆる集中です」
宗純「視力を失ったことで 他の感度が著しく上がった」
宗純「それによりアナタは物の本質を捉える ”目”を手に入れたのです」
ララ・フォーレ「目を・・・」
宗純「信じられませんか?」
ララ・フォーレ「信じられないと言うよりは よく分からなくて・・・」
宗純「少々右手を貸してもらえますか?」
ララ・フォーレ「はい・・・」
宗純「今アナタが手にしている物はなんですか?」
ララ・フォーレ「う〜ん・・・」
ララ・フォーレ「ゴツゴツとしてて、硬くて小さい・・・ 土の匂いがします」
ララ・フォーレ「石です!」
宗純「正解!」
ララ・フォーレ「イェイ✌️」
宗純「ララにとってゴツゴツして硬くて小さくて 砂の匂いのするものが石です」
宗純「私には地面の上に落ちている物でしかない」
宗純「匂いもかかず 触りもせず 聞こうともしない」
宗純「表面的な情報で私は石を石と認識する」
宗純「それに比べれば アナタは何事も本質を”視る”」
宗純「さまざまな角度から物事を視ることを」
宗純「”禅”と呼ぶ」
ララ・フォーレ「禅っていつも宗純さんがやってる瞑想のようなものですか?」
宗純「その通り」
宗純「アナタは無自覚に禅の境地に立っている」
宗純「ララこそ 私達仏僧にとってお手本のような人だ」
ララ・フォーレ「ほ、褒めてます?」
宗純「尊敬しております」
ララ・フォーレ「仕事上、感謝されることはあっても 尊敬は初めてかも・・・」
ララ・フォーレ「誰もこうなりたいとは思わないハズなのに」
ララ・フォーレ「仏僧ってのは変な人達なんですね!」
宗純「変態ばっかりですよ」
宗純「ですからどうか正しき道にお導き下さい」
宗純「私のマスター」
ララ・フォーレ「今の流れだと私変態マスターじゃないですか!」
〇新緑
マスター、1つ聞いてみたいことがあります
まだ続けるんですね・・・
何ですか?
色は無常、受は無常、想は無常、行は無常、識は無常
色は無我、受は無我、想は無我、行は無我、識は無我
すべての行は無常である
すべての法は無我である
宗純「この意味分かりますか?」
ララ・フォーレ「なんのこっちゃかさっぱりです」
宗純「この世の万物に実体など存在しない」
宗純「これを”諸行無我”と呼びます」
宗純「マスターならこの教えの意味が分かるかもと思ったのですが」
〇黒
この世に実体が無い?
ますます言っていることの意味が分からない
この人達の宗教観は私達のものとまるで違う
神とは力の象徴であり
信仰の対象であり──
畏怖の存在だ
この神は、いや──
仏教と呼ぶものは一体なんなの?
〇草原の道
宗純「おや?吹いてきましたな」
宗純「雨が降る前に帰りましょう」
ララ・フォーレ「宗純さんはどうしてそこまで”教え”に対して思慮されるのですか?」
ララ・フォーレ「言葉の意味、諸行無我でしたっけ?」
ララ・フォーレ「本当はご存知なのでは?」
宗純「流石マスター 隠し事はできませんな」
ララ・フォーレ「私を試したんです?」
宗純「諸行無我とは 万物に不変な我は存在せず」
宗純「さまざまな因縁によって事物が生まれること」
宗純「要は助け合い」
宗純「”持ちつ持たれつ”と言った意味ですな」
ララ・フォーレ「ではどうして──」
宗純「言葉を知ることを知見 言葉の意味を知ることを知識と呼びます」
宗純「ですが私達はその先を求める者です」
ララ・フォーレ「知識の先・・・?」
宗純「1から100を理解するのが知識なら」
宗純「0から100を理解することを”悟り”と呼びます」
宗純「悟りを得、神の教えの根幹に迫る者」
宗純「それが私達”修行僧”なのです」
宗純「知るだけでは 理解するだけではダメなのです」
宗純「根源へと至るのが我等が役目・・・」
〇水中
少し分かった気がする・・・
私達は神によって作られた申し子
故に創造主である神を崇め信仰する
私達にとっての神は父であり絶対神
だけど彼等(修行僧)は違う
神の言葉を聞き、悟りを得て
神に同調しようとしている──
それはすなわち神の領域に至ること
だとしたら
仏僧の目指す最終地点は──
〇黒
神の共感者──?
何だか読むだけで徳が高くなった様な気しています。
今後もつんこ師に導いて頂きたく存じます……
いわゆるパルスのファルシのルシがコクーンでパージ的な奴ですね
仏教の考え方を「神の共感者」と捉える…
この解釈、異世界感(異文化感?)あってイイですね。