第三幕「雪の降る日に」 (脚本)
〇図書館
サワコ「外、むっちゃ寒い~!」
イチカ「図書室では大きな声出さない」
サワコ「だって~」
イチカ「外の空気を吸って、ちょっとは眠気が覚めたでしょ? さ、受験勉強の続きをするよ」
サワコ「ううっ・・・。演劇なら苦しくても 楽しいのに、勉強ってただ苦しいだけ」
イチカ「【楽しんでやる苦労は、苦痛を癒すものだ】って、シェイクスピアのマクベスにも出てくるでしょ?」
サワコ「だからその苦労が楽しくないんだってー」
イチカ「ったく、自分で勉強教えてって 言ったくせに」
サワコ「まあそうなんだけどさあ」
イチカの横に座って参考書を開くサワコ。
サワコ「うー、ちんぷんかんぷん・・・」
イチカ「ねえ、サワコ。 前から聞きたかったんだけど」
サワコ「ん? なに?」
イチカ「あの日・・・演劇部の秋季大会の日以来、 ハルと口きいてないの?」
サワコ「まあ・・・ね。 私、ハルのこと、どうしても許せないから」
イチカ「・・・・・・」
サワコ「幸い、イチカは大事に至らなかったけど、 舞台出てたらどうなってたことか」
イチカ「でも私・・・ハルの気持ちはわかるよ」
サワコ「・・・・・・」
イチカ「あの時は、みんな精一杯、全力で 頑張ったし、作品に情熱を注いでたから」
サワコ「・・・・・・」
イチカ「サワコには、 ハルのことを許してあげて欲しい」
サワコ「いい加減にしてよ。ハルと仲直りしてって 言うの、これで何回目?」
イチカ「私はサワコとハルが、 このまま卒業するのが嫌なの。 学校生活もあと三か月しかないのに」
サワコ「・・・ちょっと外の空気吸って来る」
イチカ「さっき行ってきたばかりでしょ?」
イチカ「はぁ・・・なんだかなぁ」
イチカが立ち上がり、ついたての
後ろにある自習スペースを覗く。
そこにはイヤホンを付けて、
勉強しているハルがいた。
ハル「二人とも声がでかい・・・」
イチカ「ハル!? 話、聞いてたの!? どこから?」
ハル「楽しんでやる苦労は、 苦痛を癒すものだ・・・かな」
イチカ「ほとんど最初からじゃん!」
ハル「だから声大きいって」
イチカ「ねえ。ハルのほうから、 サワコに歩み寄れないかな?」
ハル「・・・私が志望している芸術系の大学に 合格するには、もっと勉強しなきゃいけないの。これからも演劇を続けたいから」
イチカ「そうなんだ・・・」
ハル「だから今は、 サワコと仲直りしているヒマなんてない」
イチカ「でもサワコもね、 大学で演劇をやりたいんだって言ってたよ」
イチカ「それでミュージカル科のある 大学を探してる」
ハル「・・・・・・」
イチカ「頑固でごめんなさいが言えないところも、 二人はそっくりなのに」
ハル「・・・一緒にしないで」
イチカ「はあ・・・うまくいかないなぁ」
窓の外には曇り空。
イチカ「・・・今夜は積もるかな」
〇可愛い部屋
サワコ「わっ! 紅茶とクッキーだ!」
ヒナタ「急に来るから、 これくらいしか用意できなかったけど」
サワコ「いやいやいや! うちなんか 出せたとしても粗茶と煎餅だから! やっぱヒナタ様様だなぁ」
ヒナタ「まったく調子いいなぁ」
サワコ「へへへ」
ヒナタ「で、急に勉強教えてって、 どういうつもりなの?」
サワコ「だって、イチカはうるさいんだもん。 ハルと仲直りしろーって」
ヒナタ「え? 喧嘩したって話は聞いたけど、 まだ仲直りしてないの?」
サワコ「ハルの気持ちもわかるんだ。 ヒナタが抜けて二か月・・・ あの大会に向けて必死に作った舞台だもん」
ヒナタ「うん」
サワコ「でも・・・私は、やっぱり舞台や作品の ことよりも、みんなのほうが大事」
ヒナタ「まあ・・・私は、 サワコのそういうとこ好きだよ」
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