第3話(脚本)
〇大学の広場
〜昼休み〜
美丘 碧葦(早く来すぎたな・・・)
美丘 碧葦(ん? あのものすごい勢いで走ってくるのってもしかして・・・)
無銘 文人「せんぱーい! ゼーハー・・・」
美丘 碧葦「やっぱりお前か・・・」
無銘 文人「お待たせ、しました・・・ゼーゼー」
美丘 碧葦「大丈夫か? 随分慌てて来たみたいだけど」
無銘 文人「はい。 講義が終わってすぐに席を立ったはずなのに、いつもの場所に先輩がもういて・・・」
無銘 文人「ヤバいと思ってダッシュしてきました」
美丘 碧葦「俺、今日は昼前の講義が休講でな。 いつもより早めに着いちゃったんだ。 急がせたならごめん」
無銘 文人「いえ、俺が勝手に焦っただけなんで・・・」
美丘 碧葦「互いに謝ったから良しとしようか。 じゃあ、今日も恒例の”アレ”やるぞ」
無銘 文人「はいっ」
美丘 碧葦「せーのっ」
無銘 文人「おおっ! サンドイッチ!?」
美丘 碧葦「へー、大分上手くなってきたな」
無銘 文人「先輩が『週イチで弁当の交換会やるぞ』なんて言うから、 オレ毎回必死で頑張ってるんですよ!」
美丘 碧葦「料理の上達には他人に食べてもらうのが一番の近道だ ──と思ってるからだよ」
無銘 文人「確かに・・・」
美丘 碧葦「もぐもぐ・・・腕前も上達してるな。 というより、俺の好みの味付けを覚えたな」
無銘 文人「はい。 先輩に美味しいって思ってもらいたくて、つい」
美丘 碧葦「ありがとう。 その気持ちがすげー嬉しいよ」
無銘 文人「先輩・・・!」
美丘 碧葦「俺もお前のこと、もっと知りたいな」
無銘 文人「え・・・?」
美丘 碧葦「次の週末、俺の家に来ないか? ほら、前に約束してたろ」
無銘 文人「そう言えば・・・」
美丘 碧葦「俺の家、週末なら妹弟がいないんだ。 どうかな?」
無銘 文人「はい!お邪魔したいです! よろしくお願いします!」
美丘 碧葦「じゃあ、決まりだな。 詳細は後で連絡するよ」
無銘 文人「はい!」
無銘 文人(やった! 先輩の料理器具を使わせてもらえるぞ! 楽しみ!)
〇カウンター席
〜待ち合わせ場所〜
無銘 文人(先輩の家ってどんな雰囲気なのかな?)
無銘 文人(きっと、にぎやかなご家庭なんだろうな)
美丘 碧葦「よ、お待たせ。 どうした?そんなにニヤニヤして」
無銘 文人「先輩!なんでもないですよ」
無銘 文人「ただ、どんなお宅なんだろうって想像してただけなんです」
美丘 碧葦「そんなに大した家でもないけどな。 さ、行こうか」
〇マンションのエントランス
〜碧葦の住むマンション〜
無銘 文人「!?」
美丘 碧葦「すみません、美丘ですけど鍵をお願いします」
マンションのコンシェルジュ「開錠ですね。かしこまりました。 このままキーをかざしてお部屋の階までお進みください」
美丘 碧葦「ありがとうございます」
無銘 文人(何だこれ、ホテルみたい・・・!)
美丘 碧葦「行くぞ」
無銘 文人「は、はい!」
〇高級マンションの一室
〜碧葦の家のリビング〜
美丘 碧葦「どうぞ、入って」
無銘 文人「お、お邪魔します」
無銘 文人(わぁ・・・!すごい部屋!)
無銘 文人「もしかして先輩のお家って、物凄いお金持ちだったりします?」
美丘 碧葦「まぁ、多少な。 ちょっと事業をしてるってだけさ」
無銘 文人「ええ・・・?」
無銘 文人「ところで、妹弟さんは?」
美丘 碧葦「言ったろ。今日はいないって。 週末だから実家に帰ってるんだ」
無銘 文人「実家・・・?」
美丘 碧葦「弟が妹と同じ私立に通うことになってね。 俺の大学と近いから面倒みてやるって言ったら、いきなりここの鍵を渡されたんだ」
無銘 文人(異次元の話過ぎて、頭がクラクラしてきた・・・でも!)
無銘 文人「先輩って凄く面倒見が良いんですね! オレだったら何もかも親に任せてると思います」
美丘 碧葦「そうかな。ありがとう。 そういうお前も結構甲斐甲斐しいところ、あると思うぞ」
無銘 文人「そうですか?」
美丘 碧葦「ああ。 前に教授に雑用を押し付けられた時、嫌な顔もせずにせっせとこなしてただろ」
美丘 碧葦「そういうところ、俺は好きだよ」
無銘 文人「先輩、見ててくれたんですね! 一生懸命やって良かった・・・!」
美丘 碧葦「・・・・・・ゴホン」
美丘 碧葦「気を取り直して、料理を始めようか」
無銘 文人「はい!」
〇おしゃれなキッチン
美丘 碧葦「これが、この前言ってた卵焼き用のフライパンだよ」
無銘 文人「おお!本当に四角いですね!」
美丘 碧葦「そんなに珍しいか?じゃあこれは?」
無銘 文人「四角い包丁!?」
美丘 碧葦「ただの菜切り包丁だよ」
無銘 文人「へぇー」
美丘 碧葦(面白い奴・・・!)
美丘 碧葦「今日はお前の好きな料理作ってやるよ。 お前の好物って、何?」
無銘 文人「ええっと・・・ ハンバーグとカレーと唐揚げと・・・」
美丘 碧葦「おいおい、何種類あるんだよ」
美丘 碧葦「その中で今作れそうなのは・・・ハンバーグかな」
無銘 文人「おお!先輩のハンバーグ、凄そう・・・! よろしくお願いします!」
美丘 碧葦「おう、任せろ。 俺のハンバーグはソースにこだわってるから、特別にお前にだけレシピを教えてやるよ」
無銘 文人「ありがとうございます!」
無銘 文人(先輩秘伝のソースってこと!? 格好いい〜!)
──1時間後──
美丘 碧葦「──で、ここに赤ワインを入れる。 肉の旨味をワインに移すイメージだな。 そこにコンソメと残りの調味料を加えて・・・」
無銘 文人「は、はい」
美丘 碧葦「後は煮立たせたらソースの完成。 お疲れ様」
無銘 文人「うわー、いい匂い」
美丘 碧葦「早速盛り付けるから、食ってみろよ。俺の自信作だ」
無銘 文人「ありがとうございます!」
〇高層マンションの一室
美丘 碧葦「どうぞ、召し上がれ」
無銘 文人「いただきます!」
無銘 文人(もぐもぐ・・・)
無銘 文人「うまっ!お店みたい!」
美丘 碧葦「大袈裟だな。でも、嬉しいよ」
美丘 碧葦(いいぞ・・・もっと俺の料理に夢中になってくれ)
無銘 文人(先輩のハンバーグ、うまいなぁ。 幸せだ〜)
無銘 文人「ふー、ごちそうさまでした。 また先輩にご馳走になっちゃいました」
美丘 碧葦「喜んでもらえたからいいよ。 やっぱり人にメシ作るのっていいもんだな」
無銘 文人「そんなに良いものですか?」
美丘 碧葦「前に『誰かに食べてもらうのが上達の近道』って言ったろ。 自分で自分に作るだけじゃ張り合いがないのさ」
無銘 文人「なるほど、深い・・・」
美丘 碧葦「ところでお前、料理を作りたい相手とかいる?」
無銘 文人「えっ? どうしたんですか、いきなり」
美丘 碧葦「いや、お前って女っ気がないから心配になってさ。 もし気になる子がいるなら、料理は強力なアピールポイントになるぞ」
美丘 碧葦「実際、どうなんだ?」
無銘 文人「そう言えばオレ、最近は恋とかしてないような・・・ そもそも彼女とか、いたこともないですけど」
美丘 碧葦「それは勿体ないな。 お前もいずれは恋人とか欲しいだろ?」
無銘 文人「そ、それは。まぁ」
美丘 碧葦「へぇ。じゃあ今のうちから練習しておいた方がいいぞ」
無銘 文人「れ、練習!?」
美丘 碧葦「ああ。前にも少し”練習”したろ?」
無銘 文人「・・・!」
美丘 碧葦「今回は・・・そうだな。 俺の部屋で練習しようか」
無銘 文人「えっ・・・」
無銘 文人(ど、どうしよう・・・ でも先輩の部屋は見てみたいかも)
無銘 文人(男同士だし大丈夫だよな! たぶん)
無銘 文人「わ、わかりました」
美丘 碧葦(よし、いい子だ)
〇本棚のある部屋
美丘 碧葦「さぁ、入って」
無銘 文人「は、はい」
無銘 文人(お洒落な部屋・・・!)
美丘 碧葦「まず、ベッドに座って」
無銘 文人「はい」
美丘 碧葦「いい子だ。 ここで実践練習をしてみよう。 俺を相手に見立ててごらん」
無銘 文人「ああ、柔道の練習みたいな・・・」
美丘 碧葦「そうだ。自分で言うのも何だけど、俺の胸を借りるつもりでさ」
無銘 文人「先輩の胸を借りるつもりで・・・ なるほど」
美丘 碧葦「そう、俺に見を委ねて・・・」
無銘 文人「わかりました。 先輩、失礼します!」
ガバッ
美丘 碧葦「!?」
美丘 碧葦「ちょっと待て! どうして俺を押し倒してるんだよ!」
無銘 文人「え、だって先輩を相手に見立てろって・・・」
美丘 碧葦「そういう意味で言ったんじゃない!!」
無銘 文人(こうして近くで見ると先輩、綺麗な顔立ちしてるなぁ)
無銘 文人(睫毛も長いし、怒って紅くしてる顔色が何か照れてるように見えて・・・)
無銘 文人(か、かわいい・・・!)
美丘 碧葦「おい!いつまでこんな格好させるつもりだ!」
無銘 文人「ハッ! すいません!すぐ退きます」
美丘 碧葦「まったく・・・」
無銘 文人「すみません、オレもう帰ります。 今日はありがとうございました」
美丘 碧葦「お、おう。下まで送っていくよ」
無銘 文人「・・・ありがとうございます」
〇エレベーターの中
無銘 文人「・・・・・・」
美丘 碧葦「・・・・・・」
無銘 文人(何か、気まずい・・・)
美丘 碧葦「さっきの、ごめんな。 ちょっとからかい過ぎた」
無銘 文人「い、いえ! 俺こそ真に受けてしまって、すみませんでした!」
美丘 碧葦「これに懲りずに、また遊びにきてくれよな」
無銘 文人「は、はい!」
無銘 文人(よかった、嫌われてはいないみたいだ)
〇マンションのエントランス
美丘 碧葦(やれやれ・・・途中まではいい線いってたのになぁ)
美丘 碧葦(あいつ、天然なのかな?)
美丘 碧葦(次は、上手くやろう)
〇シンプルなワンルーム
無銘 文人(ベッドに押し倒した時の先輩、 かわいかったな・・・)
無銘 文人(──って!何考えてるんだオレ! 先輩をかわいいだなんて!)
無銘 文人(この気持ち、どうしたらいいんだー!?)
つづく