されど、歩みは止められない

紅石

西龍介 中(脚本)

されど、歩みは止められない

紅石

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〇劇場の舞台
40代の続木終「・・・思い出してきた」
10代の続木終「なぁ! 誰が一番、自転車で坂道早く下れるか 競争しようぜ!」
40代の続木終「そして俺はそのあと、坂道を止まりきれず 転んで大怪我をする」
20代の続木終「仕事、行かなきゃ・・・ あれ、この、立ちくらみ、もしかして ヤバい、かも・・・」
40代の続木終「そして過労で倒れ入院 それでも仕事に来いという会社に絶望して 仕事を辞める」
30代の続木終「久しぶりにこの辺まで来たし ちょっと買い物でもしていくか」
40代の続木終「そして車に轢かれて、あとから知ったが 酔っ払い運転だったらしい」
40代の続木終「ここにいる俺は全員、 死にかけているときの俺だ」
40代の続木終「なら、俺は・・・? 41歳の俺は、一体どうして 死にかけている・・・?」

〇行政施設の廊下
西 龍介「・・・え? 稔さん、今、なんて・・・」
加藤 稔「・・・これで失礼します くそっ」
西 龍介「あ、稔さん、その」
加藤 稔「外さないから」
西 龍介「え?」
加藤 稔「その様子だと聞こえてたんでしょ? 僕は龍介くんを続木終役から外すつもり はないから」
加藤 稔「そんなこと、僕は認めない」
西 龍介「・・・・・・」
西 龍介「・・・俺も」

〇テーブル席
店長「楽しみにしてるよ 頑張ってね!」

〇行政施設の廊下
西 龍介「俺も、外れたく・・・!」
西 龍介「外れたくないです!」

〇行政施設の廊下
加藤 稔「はい。どうぞ」
西 龍介「ありがとうございます ・・・あの、すみませんでした 電話、盗み聞きしてしまって」
加藤 稔「あんなところで電話してた僕が悪いよ」
加藤 稔「・・・・・・」
加藤 稔「聞きたいなら全部話す 聞きたくないなら話さない どうする?」
西 龍介「・・・聞きます。聞かせてください」
加藤 稔「分かった」
加藤 稔「僕の電話の相手は舞台のスポンサー」
加藤 稔「これは役者にあまり言いたくなかった んだけど、この舞台は当初スポンサー からの評判は悪かったんだ」
加藤 稔「でも注目されてないからこそ 僕は好きにできたし、 いざ情報を公開してみれば、 存外好評でチケットの売り上げも順調だ」
加藤 稔「広報の人たちや、積極的にSNSで宣伝 してくれた朔くんに感謝しないとね」
加藤 稔「で、上手くいきだした途端に、 スポンサーはいらぬ口を出してくる 黙ってお金だけ出しとけばいいのにさ」
加藤 稔「君を外せって言ったのは、自分が 売り出したい役者を出演させたいから」
加藤 稔「チラシも何もかも出来上がったこの段階で 配役に口を出してくるなんて、 スポンサー様だからって非常識すぎる」
加藤 稔「龍介くんがどれだけ努力して続木終役を 演じているかも知らないくせに、 失礼過ぎるよ」
加藤 稔「だいたい、もしお気に入りの役者を 出演させられても、急に配役が変更に なったらどうなるか分かってないんだ」
加藤 稔「お客さんだってばかじゃないんだ おかしく思う人はいるし、 その役者だって短時間で演技を 詰め込まなくちゃならない」
加藤 稔「お金はかかるし、お客さんは訝しむし、 役者さんだって苦しむ」
加藤 稔「誰も得しないなんてちょっと考えれば 分かるのに、どうして無駄な口を挟んで くるのかな」
西 龍介「み、稔さん、ちょっと落ち着いて」
加藤 稔「はっ」
加藤 稔「ご、ごめんね。 君が一番悲しくて怒りたいだろうに 僕がつい・・・」
西 龍介「いえ、稔さんの気持ちはもっともですし そこまで俺を思ってくれて嬉しいです」
加藤 稔「当たり前だよ。だって僕が選んだんだから」
加藤 稔「他の3人とのバランスも含めて、 30代の続木終は龍介くんしかいない」
加藤 稔「君のことは僕が守る 絶対に役を外させたりなんかしないから」
西 龍介「ありがとうございます・・・!」
加藤 稔「さて、僕はそろそろ稽古場に戻るよ 龍介くんはそれを飲み終わってから ゆっくりおいで」
加藤 稔「それと、このことは航には話すけど カズさんたちには話さないから」
西 龍介「ありがとうございます そのほうが助かります」
加藤 稔「それじゃあ、またあとで」

〇行政施設の廊下
西 龍介(多分、スポンサーの売り出したい俳優が 30代じゃなければ、こんなことは 言い出さなかったはずだ)
西 龍介(俺が無名の俳優だから、 俺なら役を奪っても大丈夫そうだから)
西 龍介「情けねぇな、俺」
西 龍介「・・・・・・」
西 龍介「・・・いや、こんなところでうだうだ してちゃダメだ 稔さんもああ言ってくれたじゃないか」
西 龍介「俺に今できることは、演技を磨くこと 奪われないように、奪えないと思わせる だけの演技力を身につける」
西 龍介「それだけだ」
西 龍介「よし。稽古場に戻ろう」

〇稽古場
西 龍介「お疲れ様でーす」
西 龍介「なんか盛り上がってんな 何の話?」
橋田 玲央「お疲れ様です、龍介さん 今、航さんが演出をするならって話で」
西 龍介「あー、朔のやつ航さんの舞台にも出たい って言ってたもんな」
加藤 稔「今は敬語で慎ましい態度だけど 演出家となると結構荒いよー」
加藤 航「演出家と演出助手じゃ、 立ち振る舞いが違って当たり前だろう」
山本 朔「望むところです オーディションなら絶対参加しますから」
加藤 航「ありがとうございます 俺の舞台は動きが多いので、 鍛えておいてくださいね」
加藤 航「とはいっても、朔さんは2.5次元舞台で 殺陣もダンスも経験済みでしょうから、 その点は大丈夫でしょうけど」
加藤 稔「航は顔に似合わず、派手な演出の多い エンタメバトルものとか、 ドタバタコメディ系が得意だもんね」
加藤 航「稔だって性格に似合わず、 シリアスなヒューマンドラマや 素舞台の会話劇が得意だろう」
加藤 稔「性格に似合わずって失礼だなぁ」
加藤 航「顔に似合わずだって失礼だろ」
西 龍介「へぇ、なんか意外だなぁ 二人の雰囲気だと得意な作風は逆って 感じなのに」
橋田 玲央「そうですね。航さんにコメディの イメージってあんまり」
水戸部 和人「ところがそうでもないんだよ」
水戸部 和人「おれは公演中、筋肉痛が酷かったなぁ」
水戸部 和人「殿様役で殺陣は少なかったけど、 それでも走り回ったからね 主人公の子なんて、袖にハケるたびに ぜぇぜぇ言ってたよ」
橋田 玲央「そ、想像できない・・・」
水戸部 和人「機会があれば出てみるといいよ 稔さんの舞台とはまた違っていて、 楽しいし学ぶことも多い」
橋田 玲央「確かに興味はあります、けど」
橋田 玲央「オレは今、目の前のことで いっぱいいっぱいですから」
橋田 玲央「今はこの舞台に全力を注いで成功させます」
橋田 玲央「ちょっと気を抜いたら、 みなさんに置いてかれちゃいますし」
西 龍介(置いていかれる?玲央が?)
水戸部 和人「しっかりついてきてるじゃないか ね、龍介くん」
西 龍介(違う、置いていかれるのは・・・)
水戸部 和人「龍介くん?」
西 龍介「え?」
西 龍介「あ、すみません 寝不足ですかね、ははっ」
橋田 玲央「大丈夫ですか?昨日もバイトで?」
西 龍介「そうじゃ、ねぇけど まぁとにかく、お前は大丈夫だよ、玲央!」
西 龍介「あ、稔さんが呼んでるみたいですよ」
水戸部 和人「・・・・・・」

〇稽古場
橋田 玲央「俺の未来が社畜にニートってふざけんなよ 現実に戻ったって最悪な人生決定とか、 生きる気なくすわ」
山本 朔「でも、ずっとここにいるわけにも いかないだろ」
橋田 玲央「んなこと言われなくても分かってるよ でも、未来に待ってるのはこんな俺 なんだろ」
西 龍介「まぁ落ち着けよ、二人とも 俺同士で喧嘩したって不毛なだけだろ」
橋田 玲央「ふん。俺同士だから、じゃん てか、おっさんの俺はどこ行ったわけ?」
西 龍介(ここは俺が仲裁に入ることで話が進む でも、俺はこんなに理性的な男か?)
西 龍介(プライドを捨てきれない俺が、 ニートと罵られても大人しく中立に立つ ・・・そんな男だろうか、俺は)

〇稽古場
加藤 稔「帰る前にちょっといいかな 今度の音響照明が来る衣装付き通し稽古 なんだけど」
加藤 稔「以前からスポンサーの人たちが稽古を 見てみたいって話があって、 ちょうどいいからこの時一緒に 来てもらうことにした」
加藤 航「マスコミを呼ぶ公開稽古ではありません」
加藤 稔「当日はちょっとにぎやかになると思うけど まぁ普段通りに通し稽古してくれれば おっけーだよ」
加藤 稔「それじゃあ、今日はこれでおしまい」
西 龍介(今日はバイトもないし、残れるなら ちょっと自主練していくか)
加藤 航「龍介さん、少しお話が」
西 龍介「うん?」
加藤 航「見学に来られるスポンサーですが、 その中に例の方がいます」
西 龍介「例の、って」
加藤 航「その方が何を目的に見学に来られるかは 分かりませんし、何があろうと稔も俺も 貴方を守ります」
加藤 航「ただ、一応お伝えしておこうかと」
西 龍介「ありがとうございます」
加藤 航「いえ それと、今日はあと一時間程度でしたら 残ってもらって大丈夫ですよ」
西 龍介「ははっ、航さんエスパーじゃないですか じゃあ、一時間お願いします」
加藤 航「分かりました」
西 龍介「・・・そっか」
西 龍介「・・・・・・」

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