読切(脚本)
〇オフィスのフロア
モブ女A「ねぇねぇっ、昨日の配信見た!? 円盤化キターー!!!!」
モブ女B「見ました見ました!! 円盤待ってましターー!!!! 伝説の舌ペロライブがついにっ!! いつでもこの手の中にっ・・・!!」
「・・・・・・舌ペロ・・・?」
モブ女A「はっ!」
モブ女B「あっ・・・木田マネージャー、お疲れ様ですっ」
モブ女A「お疲れ様です! 木田マネージャー!! 今日もイケですね!!」
木田望「2人とも、お疲れ様。 ところで君達、何の話をしてたの?」
モブ女A「えっ! 木田さんも興味あります? 私達の推しについてっ」
木田望「・・・・・・・・・」
木田望「・・・・・・・・・」
モブ女A「・・・あれ? 木田さん?」
木田望「推しっていうのは、どこの世界線の推し?」
モブ女B「ユメ虹ワールドで、人気を博すアイドル事務所レインボーキャンパニーのプロデューサーになれる世界線ですねっ!!」
木田望「・・・それ、2次元・・・?」
モブ女B「あっ、最近は2.5次元俳優さん達なんかも人気ですが、私は崇めるべくは神絵とイケボのみのタイプなんで、2次元オンリーです!」
モブ女A「オタにもいろいろ許容範囲ありますからねぇ。ちなみに私は舞台もアニメもCVも人類の宝だと思いながら箱で推してます!!」
木田望「・・・推し・・・ねぇ・・・」
木田望「その推し活とやらのおかげで、仕事が捗るのなら好きにしてくれて構わないけどな、現実のトラブルで頼りにすべくは上司だからな?」
モブ女A「・・・はい・・・? あっ、はい・・・」
木田望「・・・あと・・・彼氏・・・」
木田望「君達は、恋人持ちだったよな? 人とは、現実にある尊みのありがたさを失ってから気付きがちだからな。気をつけたまえな・・・」
モブ女A「・・・うん・・・?」
モブ女B「・・・ぷっ・・・クスクス・・・」
モブ女A「あははっ・・・木田さんてほんと奥さんのこと大好きよなーっ」
モブ女B「アニオタの奥さんの推しに、ずっとライバル意識燃やしてるんですっけ? 可愛い〜っ」
モブ女A「あの外見でその嫉妬はズルいよなぁ〜っ。 ていうか、対抗意識燃やし過ぎて永遠に顔が老けない説・・・!!」
モブ女B「確かにそうですね!! 木田マネが奇跡のアラサーなのは奥さんの推しのおかげか!! 推し神!! 私の彼もそうなってほし〜」
〇おしゃれなリビングダイニング
木田望「・・・ただいまー」
ワタシ「お帰り! 望君! 今ご飯ができたところです!!」
木田望「お、ありがとう。 それじゃすぐ着替えてくる」
ワタシ「うんっ、待ってるね!」
木田望「・・・やっぱいいな・・・ 結婚の世界線・・・サイコー」
ワタシ「・・・っしゃあ!!!! 特製尊ムライス!! フィニッシュ!!」
木田望「・・・特製・・・トウトム・・・ライス・・・?」
木田望「・・・・・・・・・」
ワタシ「見て見てこれ!! 本日の献立は最推し尊君の大好物デス!! イメージカラーの赤も映えますね〜良きかな良きかなッ」
木田望「・・・んぐぐぐぐ・・・・・・」
木田望「なんで!? 急に!? 推し!?」
ワタシ「急にというわけではありません!! 何故なら昨日、伝説的超絶神ライブの円盤化が発表されましたからね!! 祝いの宴不可避!!」
木田望「あ!? 何それ、ユメ虹ワールドの話!?」
ワタシ「なっ・・・!! さすが望君!! ついに推しの世界線への理解も深めるようにっ!!」
木田望「あのさぁっ! この前も生誕祭とか言って盛大なホールケーキ作ってたけど・・・なんなん!? 俺の誕生日や昇格祝いと違くね!?」
ワタシ「へ? 違う、とは?」
木田望「誕生日はどっかで買ってきたプリンだったし、役職もらえた時も、俺の大好物とかっ、作ってくれてなかったし!?」
ワタシ「違うよ望君っ! 推しの記念日は、1日1日が命がけっ・・・!! 推しの祭りは推しに全力を捧げられる、二度とない1日!!」
木田望「俺も二度とないわ!! むしろ俺のが二度とないわ!! だって尊君はずっと年とらねーし!?」
ワタシ「その比較は平等だ!! 望君も年とらないじゃん!!」
木田望「はぁ!?!?」
ワタシ「怖いんだもん!! いつまでもカッコいいから!! アナタは本当に3次元なのですか!?」
木田望「・・・え・・・? え・・・えっと・・・」
木田望「・・・(ボソッ)2.5次元・・・?」
ワタシ「・・・ん?」
木田望「ん・・・?」
ワタシ「・・・とにかく・・・ 毎日、毎日、イベントみたいで・・・しんどいんだもん・・・」
木田望「毎日・・・しんどい・・・?」
ワタシ「毎日毎日、おはようといってらっしゃいとおかえりなさいとおやすみする度に、この祭りは夢なんじゃないかって、不安になるの!!」
木田望「・・・なっ・・・ま、祭りって・・・ なんだよ急に・・・」
ワタシ「急にじゃなくて、いつもそう思ってる!!!!」
木田望「・・・キュン・・・」
ワタシ「あっ、だから、望君、早く老けてね?」
木田望「・・・は?」
ワタシ「老けてくれたら、記念日は手作りケーキだって手作りプリンだって手作り海老カツだって手作りちらし寿司だって、なんでも出すよ?」
木田望「・・・・・・ふはっ・・・」
木田望「お前ってほんと、内心は俺のこと・・・」
ワタシ「内心・・・配信!!!!」
木田望「・・・は?」
ワタシ「やばばば今日も別ユニットの配信ライブがあるんだった!! 推しとの絡みあるグループだから見逃せんのよ!! スマホスマホ!!」
木田望「はぁ!? どーせアーカイブとやらがあるんだろぉ!?」
ワタシ「リアタイが正義!!!!」
木田望「ぐぬぬぬぬぬ・・・」
木田望「決めたわ!! 俺ぜってー老けねーから!! 毎日毎日お祭り状態のままでお前のこと不安にさせ続けてやる!! ばーかばーか!!」
ワタシ「なっ・・・!! 鬼・・・!!」
木田望「鬼じゃない推しだ!! お前の推しは俺だ!! どんな俺も箱で推せ!! 俺のことを1番に推せっつの!! ぶぁーっかっっ!!」
気持ちすごくわかります!しかも両者の!
推しって現実の恋人や夫婦とは違い、また別世界の人なんですよね。あ、生きてるのは同じ世界なのですが…。
でも逆にそればかりの話になるとむっとすることもあります。都合良すぎるのかなぁ?
望くんうま〜く奥さんにころがされているなぁ。なんだかみているだけで奥さんへの愛があふれでていて、そんなこんなで空回りしてる様子も微笑ましかったです。
妻の推しって要するに絶対安全な愛人みたいなものですよね!だから何の害もなく、夫はそれに負けまいと努力するし、妻は夫にない要素を推しの中で満たせて、非常に便利な存在だと思います。