VR・橋

孫一

橋と3バカ(脚本)

VR・橋

孫一

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〇森の中の小屋
  時に、20XX年―――。
  手元の銃を一瞥する。
  隣で橋本が長く息を吐いた。
田中「いやあ、取り敢えずここまでは無事に来られたな」
橋本「何事も無くこの拠点を押さえられて良かったよ」
田中「こっちの領土だって言っても、敵がトラップを仕掛けている可能性はゼロじゃないもんな」
  そんな会話をしつつ何の気なしに頭を掻こうとする。
  しかし手に当たったのはゴーグルだった。
田中「あ」
橋本「どうした?」
田中「いや、頭を掻こうとしちゃって」
橋本「VRゴーグルにぶつかった」
田中「そうなんだよ。やっぱまだ慣れないわ」
橋本「それだけリアルだってことだよ。 楽しんでるじゃん」
  そう、ここはゲームの世界。
  実際の俺は家の座椅子に座っている。
  手に持った銃はコントローラー。
  今いる丸太造りの家は、実際には安アパートだ。
  隣に立っている橋本は、自分の家にいるはずだ。
田中「本当にリアルだな。 ゲームもここまで来たか」
橋本「凄いよな。企業のシミュレーションなんかにも使われているらしいぜ」
田中「へぇー。一か月、プールの監視員を頑張って稼いだ甲斐もあるわ」
橋本「お前、真っ黒に日焼けしたもんな。 黒光りしてた」
田中「ゴキブリじゃねぇんだよ。 黒光りって言うな」
  そんな、部室で交わすのと同じようなやり取りを交わす。
  その時、ミッションクリアの表示が空中に現れた。
田中「おっ、出たな。まず一つ目クリアか」
橋本「順調だね。この調子で片付けよう」
田中「よっしゃ。ところで綿貫はどこ行った? 入って来ないけど」
  あたりを見回す。
  360度、どこを向いてもゲーム空間が広がっている。
  部屋全部がゲーム画面になったようでうきうきする。
橋本「あれ、そう言えばいないね。 何やってんだ?」
  二人して優しく心配していると、その時突然。
綿貫「橋、落としました!!」
  バカでかい声が耳元で響いた
田中「うわっ、びっくりした」
  耳を押さえようとしてゴーグルにまたぶつかる。
  我ながら不器用な人間だ。
橋本「綿貫、声がでかいぞ」
  橋本がやんわりとたしなめる。
  あいつもゴーグルに手をぶつけてはいないだろうか。
綿貫「すいません! 失礼しました!」
田中「謝罪がうるさい。で、何か言った?」
  衝撃で内容を忘れた。
  声がでかくていいところは、この場において一つも無い。
綿貫「はい! 橋、落としました!」
  ・・・・・・。
  ・・・・・・・・・・・・。
田中「・・・・・・ん?」
橋本「え?」
  俺と橋本の困惑が重なる。
  しかし綿貫は意気揚々と報告を続けた。
綿貫「橋、落としました! D4とE13の間の橋です!」
  横を向くと橋本のアバターもこちらを見ていた。
  無表情のはずのアバターに、困惑の色を確かに見た。
田中「え、何で橋落としたの?」
  当然の疑問を口にする。
  寝耳に水。ゴーグルから馬鹿声。うまくない。
綿貫「橋を落とすって、ミッションにあったじゃないですか」
田中「うん」
綿貫「だから落としました!」
  再び橋本と顔を見合わせる。
  こいつ何言ってんの。
  わかんない。
  無言で言葉を交わす。
  アバターの目も口ほどに物を言うらしい。
田中「・・・・・・橋を落とすのはミッションの一つだよ」
  ゆっくりと、慎重に言葉を選ぶ。
  感情がピンを抜かれた手榴弾状態だ。
綿貫「ですよね!」
田中「だから落としたのか」
綿貫「はい!」
  綿貫のアバターが敬礼した。
  俺の手榴弾は爆発した。
田中「でも今じゃねぇし、」
田中「その橋じゃねぇし、」
田中「むしろその橋は一番落としちゃダメな奴だよ!!!!」
  アパートの壁が薄いことを忘れて、俺はマイクへ叫んでいた。
  遠くで壁ドンの音がした。
綿貫「・・・・・・そうでしたっけ」
  警告無しに綿貫の足元へ発砲する。
綿貫「うわっ、何するんですか!」
田中「うるせぇヨ。黙って撃たれロよ」
橋本「まあまあ、落ち着けって」
  橋本が間に入った。
田中「どけヨ。撃ち殺スゾ」
橋本「冷静になれって田中。 片言になるくらい我を失っているぞ」
  仕方なく銃口を下げる。
  綿貫へ聞こえるよう、マイクに向かって思い切り舌打ちをした。
橋本「取り敢えず、現状の確認をしよう。 まずどこの橋を落としたか。 綿貫、もう一回言ってくれ」

〇ボロボロの吊り橋
  そう言いながら橋本が地図を壁に映し出した。
  流石に手馴れている。
綿貫「D4とE13の間です」
橋本「ここだな」
  地図に赤いバツ印がついた。
  そういう機能もあるのか。
橋本「じゃあ確認だけど、何で今落とした?」
綿貫「橋を落とすってミッションにあったから」
橋本「うん」
綿貫「だから落としました」
橋本「そうか。 でも作戦では、夜間密かに行う予定だったよな」
綿貫「・・・・・・そうでしたっけ」
田中「そうでしたっけじゃねぇよ」
  再び足元へ発砲する。
  こめかみをぶち抜かないのは、戦力を下げるわけにもいかないという最後の理性だ。
綿貫「ちょっと、危ないじゃないですか!」
田中「危ないのはお前の頭だよ」
橋本「落ち着けって」
田中「むしろ何で橋本は冷静なんだよ」
橋本「大人だからだよ」
  同級生にそう言われると、黙るしかない。
  渋々銃口を下げる。
橋本「そして、俺達が落とす予定だったのはK8とM13の間にかかっていた橋だ。 ここな」
  地図に赤丸がつく。
  マルバツゲームで言えば、俺達の拠点が真ん中。
  挟んで対角に赤丸と赤バツ。
綿貫「真逆じゃないですか!」
田中「だからお前に発砲してるんだよ」
  三度銃口を向ける。
橋本「落ち着けって」
田中「だから何でお前はそんなに冷静なんだよ」
橋本「大人だからだよ」
田中「その無敵カードやめろや」
  悔し紛れに悪態をつく。
  しかし流石は大人、華麗に無視して話を続けやがった。
橋本「クリアの条件は三つ。 一つ目、ここの拠点を押さえる」
橋本「二つ目、敵の侵攻を妨げるためにK8とM13の間にかかっている橋を落とす」
橋本「三つ目、味方の援軍が合流するまで持ちこたえる」
  言いながら、今度はミッション一覧を映し出した。
  後でやり方を教わろう。
橋本「拠点を押さえるのはクリアした。 橋を落とすのも、まだ出来ないことは無い」

〇森の中の小屋
田中「でも後ろの橋を爆破したんだから、味方の合流は不可能だろ」
田中「地図を見た感じ、他のルートは思いっ切り地雷原だし」
橋本「うーん、まあ・・・・・・そうか。 そうだな。残念だけど、今回は無理だな」
綿貫「そんな、諦めたらダメですよ!」
綿貫「まだゲームオーバーにはなっていないし、何か手を考えましょう!」
田中「この状況を招いた張本人が言うセリフじゃねぇよ。 お前の倫理観はどうなってるんだ」
  アバターを綿貫に近付けリモコンを振る。
綿貫「うわっ、拳骨が飛び出してきた」
田中「どのタイミングでVRを満喫してるんだよ」
  その時、ふと疑問が湧いた。
田中「しかし、何でゲームオーバーにならないんだ?」
田中「絶対に合流出来ないじゃん。 何か方法があるか?」
綿貫「橋が無いなら、味方が泳いで来るとか」
田中「幅200mくらいあっただろ。 泳いで渡って来るなら、多分装備全部捨ててるわ」
橋本「うーん」
  橋本が考え込む。
橋本「合流する方法があるとは思えないんだけどなぁ。 俺達三人だけじゃあ地雷原をどうにかしようも無いし」
綿貫「相手を倒して装備を奪って、それで何とかすればいいんじゃないですか!?」
田中「3人対1000人だぞ。1-1面の難易度じゃねぇよ」
田中「チュートリアルじゃねぇよ超英雄級だよ!」
  言ってる内にまた腹が立って来る。
綿貫「なりましょうよ英雄! カッコいいじゃないですか!」
田中「三人中、二人が素人のパーティで出来るわけねぇだろ!」
  夏真っ盛りにつくづく暑苦しい。
  VRを持っているからと言って、こんなバカを誘うんじゃなかった。
綿貫「ちなみに、間違えて橋を落としちゃったこととか今まで無かったんですか?」
橋本「無いよ。俺、三か月くらいこのゲームをやってるけど聞いたことも無い」
田中「お前みたいなバカそうそういねぇよ」
綿貫「バカって何ですか! 失礼じゃないですか」
田中「失礼じゃない。事実だから」
綿貫「田中さん、ひどいっすよ。 ちょっと間違えちゃっただけじゃないですか。ねえ橋本さん!」
橋本「うるさいよバカ」
  落ち着いた口調でバカ呼ばわりされた綿貫は、そんなぁとうなだれた。
橋本「うーん、もしかするとだけど」
  バカを尻目に橋本が口を開く。
橋本「フラグが立たなかったのかもね」
「フラグ?」
  バカとハモってしまった。
  自分のIQが低いみたいで無性に腹が立つ。
橋本「ミッションを成功させたらフラグが立つ。 そうすればクリア」
橋本「逆に、ゲームオーバーになるためには失敗のフラグが立たなきゃならないんだと思う」
橋本「今回、自分で自軍の援護を橋の爆破って形で断ったけど、」
橋本「そんな状況は開発側も想定していなかったからフラグが立たないんじゃないかな」
橋本「だからミッション失敗、ゲームオーバーにならない」
田中「あー、なるほど。 めちゃめちゃレアケースじゃん」
橋本「運営に報告してみようかな。 まあ思いっ切り恥を晒すことになるけど」
  俺達のアダルトなやり取りに、あの、と綿貫が割り込んできた。
綿貫「橋本さんが何を言っているのか全っ然わからないんですけど。どういうことですか」
田中「お前、よく大学に入れたな」
綿貫「またそうやってバカ呼ばわりして! 失礼ですよ!」
橋本「要するに、誰もがやるわけないと思っていたことをお前はやらかしたんだ」
  落ち着いた声色で、橋本が綿貫にそう伝えた。
  綿貫のアバターが首を傾げる。
  やや間があった後。
綿貫「それ、俺が想像以上のバカってことですか」
「そうだよ」
  今度は橋本とハモる。
綿貫「えぇー・・・・・・何か・・・・・・流石にショックです・・・・・・」
綿貫「開発者も想定しなかったレベルのバカってことですよねぇ?」
田中「だからそう言ってるじゃん」
橋本「まあまあ。あんまり追い詰めるなって。 また初めからやろうぜ」
  しかし綿貫は首を振った。
綿貫「いえ、今日はもういいです。 また今度、誘って下さい」
  さっきまでデカい声で騒いでいたのに、急にしおらしくなった。
  何だかこちらの居心地が悪くなる。
橋本「まあ、経験者の俺がもう少し丁寧に教えればよかったな」
橋本「明日は暇か? 一緒にやろうぜ」
  大人が必死でフォローにまわる。
橋本「お前もやるだろ、田中?」
  こちらがもぞもぞしているのを見透かしたかのように話を振って来る。
  空気を読め過ぎだろう、この大人君は。
  あるいは一人でフォローするのも嫌なだけなのか?
田中「まあ、別に。いいけど」
綿貫「あざーす! じゃあまた明日、よろしくお願いしゃーす!!」
  途端にバカ声が響いた。
田中「あ、お前ショック受けてたのは演技か!  おいバカ! コラ! おい!!」
綿貫「じゃ、失礼しまーす! お疲れーっす!!」
  ふっと綿貫のアバターが消えた。
  ワタさんが離脱しました、というメッセージがあいつのいた中空に浮かぶ。
橋本「・・・・・・行っちゃったな」
田中「行っちゃったなじゃねぇよ。何でしんみりした空気を醸し出せるんだよ」
橋本「どうする、俺ら二人で最初からやる?」
  橋本がこちらへ向き直る。
田中「いや、いいよ。何か疲れた」
田中「今日はもう、いいや」
橋本「そっか。じゃあ後で二人宛に明日のことを連絡するね」
橋本「お疲れ」
田中「あーい、お疲れー」
  ほどなくして橋本も離脱した。
  山小屋には俺一人。割と寂しくなる。
  綿貫のせいでしっちゃかめっちゃかになってしまったが、まあ楽しいと言えば楽しかった。
  それにしても凄いなVRゲーム。ハマること間違いなしだ。
  いやぁ、いい買い物をした。
  ふぅ、と息をつく。
  VRゴーグルを外すと、額にうっすら汗が滲んでいた。

〇古いアパートの一室
  さっきまでの風景は消え失せ、安アパートが目の前に広がる。
  結構長い時間遊んでいたらしい、外はすっかり暗くなっていた。
  手の届く位置には知らない女が座っていて、
  長い黒髪を床に垂らしてニマニマ笑いながら俺の顔を下から覗き込んでいた。
  数秒かけて、
  脳が現実を理解して。
  腹の底から、俺は絶叫した。
  ――――――――――。

コメント

  • VRに限らずいかなる場合も、綿貫のような想定外の変化球を暴投する人間がいるから人生は楽しくもなり恐ろしくもなるんですよね。ラストの人物が強盗っぽい男性とかではなく髪の長い女性というところが、リアルな恐怖というものを分かってらっしゃる。さすがです。

  • 最後の展開がびっくりしすぎました。VRって体験でしかやったことないですけど、本当に現実世界とごちゃまぜになってしまいそうで、怖いですね!

  • VRゴーグルを付けてゲームをやってみたい。異世界に瞬時に移動して没頭したい。現実社会ではできないことをやってみたい。このストーリーのキャラクターのようになってみたい。

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