第1話:輪廻転生×(脚本)
〇銀閣寺
応永7年(1400年)、京都──
侍女「千菊丸、今日からお前はこの寺で受戒するのです」
千菊丸「じゅかい?とはなんです母上」
侍女「仏門に入った者は、守らなければならない戒律があります」
侍女「その戒律を受けて必ず守り従うことを誓う儀式、それが受戒です」
千菊丸「私は坊主になるのですか?」
侍女「お前が成るは坊主でなく僧侶、仏の道を歩む者ですよ」
侍女「これからはツラい修行が待ち構えているかもしれない」
侍女「苦しい生活がありふれているかもしれない」
侍女「それでも強く生きるのですよ、千菊丸・・・」
千菊丸「母上!母上ーー!!」
〇祈祷場
千菊丸は6歳の頃に安国寺へと入門し、名を周建と名付けられた
周建「仏説摩訶般若波羅蜜多心経...」
幼少期の彼はとても大人しく聡明であり
後の世に伝え聞く人物像に比べれば”勤勉”であった、と伝えられている
〇神社の石段
彼が17になる頃、とある転機が訪れる
宗純「お師匠様ー!お師匠様ーー!」
謙翁宗為「宗純か、僧が慌てふためけば誰ぞ死んだと不安にするものだ」
宗純「師匠もお年なのですから、おひとりで御勤めに行かれましてはお体に障ります」
謙翁宗為「年寄り扱いするでない偏物め」
宗純「私が偏物なら、お師匠様は大偏物です」
謙翁宗為「コヤツ言いよるわい」
臨済宗、京都西金寺の住職、謙翁宗為(けんおう そうい)に弟子入りし
その名を宗純(そうじゅん)と改めた
〇古民家の居間
謙翁宗為は変わり者であり、質素な寺で細々と純禅の道理を求めたと言われている
愚直なまでに粛々と禅道に励む謙翁和尚の姿に宗純は心酔し、共に仏道を歩んでいた
〇洞窟の入口(看板無し)
応永21年、宗純は石山観音にて悟りの修行に入る
が、悟りを開くことはできなかった
その原因はただ1つ・・・
宗純「お師匠様、申し訳ありません・・・葬儀すらままならず、私にできることは供養のみ」
宗純「このような不甲斐ない私をどうかお許しください・・・」
〇祭祀場
師である謙翁宗為の死去
宗純にとって初めて師と崇める親しい者の死は
絶望に染まるには十分すぎる理由だった
〇山中の川
私には・・・この残酷な世で生きる術を持ちません・・・
宗純「お師匠様・・・今、そちらに帰依します」
宗純「浄土にて共に涅槃に入りましょう」
〇水中
一歩、また一歩・・・
岸から離れるたび、その身にするどい痛みが駆け上がってくる
絶望に満ちた体は重く、足を上げることすら煩わしく感じた
それでも前に進み続けるのは
既にこの身から魂が抜け落ちていたからかもしれない
そして私は、この世の一切皆苦から解脱するのだった
〇黒背景
・・・よ
めざめよ
・・・ここは
私は・・・?
お前は死んだ
ここは冥土?だが死出の山とはとても思えんが・・・
お前に審理は必要ない
そんなバカな!自殺は五戒に当たらぬハズだ!
この愚か者め!
お前はより多くを導き、より多くを助け
より多くの者に安寧を与えるハズであった
だが師に心酔する余りその後を追うなど
仏の道にあるまじき行為
お前は自らの煩悩に負けたのだ
でしたら私は地獄に落ちたのでしょうか?
如何にも、だが私も鬼ではない
お前が真摯に仏に向き合っていたことは誰よりも知っておる
故にお前には罰と新たな機会を与える
新たな機会?
左様、再び生をもって地を歩むべし
そんな!私はただ謙翁和尚と共に──
自縄自縛を知らんのかこの偏物が!
そ、その物言い!あなたは──
さっさと行け大バカモノ!
そして今度こそお前らしく生きて見せよ
お師匠様!どうして!私はどうすれば──
〇英国風の部屋
第1話:輪廻転生×
宗純「ん、んぅ」
宗純「ここは・・・」
目が覚めると、その周囲は奇妙奇天烈な物で埋め尽くされていた
高さのある座椅子、高さのある文机・・・
宗純「なんと布団まで地面から離れているではないか!?」
宗純「いったいここはどこだ!?余程の僻地に流されたか?」
宗純「私は瀬田川から身を投げたハズ・・・」
宗純「可能性としては近江国か?」
???「よかった。目が覚めたのですね」
部屋に入ってきた女性は、目を閉じた状態にも関わらず慣れた足どりだった
宗純「盲人・・・」
宗純「あなたは?」
ララ・フォーレ「私はララ・フォーレ、薬師をやっております」
宗純「ララ・フォーレ?日本の名ではないな」
ララ・フォーレ「あの、お体は大丈夫ですか?」
宗純「あぁ。あなたが介護を?」
ララ・フォーレ「はい。村の者が川で倒れているのを見つけたそうで、私の家に運び入れました」
宗純「命を助けて頂き感謝致します」
ララ・フォーレ「いえ、そんな」
宗純「私の名前は宗純・・・」
”修行僧”、そう答えようとしたが、今の私にその資格があるのか?
宗純「訳あって放浪の旅に出たものです」
ララ・フォーレ「旅人さん、変わったお名前ですね」
宗純「私が変わっているのか・・・やはり私の知り得ぬ土地であることに間違いはない」
宗純「ぐうぅぅ(お腹の鳴る音)」
宗純「そういえば山に籠っている間、ろくな食事を取っておらなんだ」
ララ・フォーレ「フフッ、もしよろしければお食事でも如何ですか?」
宗純「かたじけない・・・」
ララ・フォーレ「お気になさらず、こう見えても慣れておりますので」
宗純「・・・」
〇暖炉のある小屋
ララ・フォーレ「変わった匂いのする人・・・」
ララ・フォーレ「でも悪い人じゃない」
ララ・フォーレ「魔物や盗賊に襲われたような外傷はなかった」
ララ・フォーレ「事故か事件に巻き込まれたにしては落ち着いている」
ララ・フォーレ「何かあの人には欠けているものを感じる」
〇英国風の部屋
ララ・フォーレ「お待たせしました。パンとスープだけですが・・・」
ララ・フォーレ「宗純さん?」
ララ・フォーレ「いない!?まさか・・・」
〇西洋の街並み
ララ・フォーレ「一体何処に・・・」
「センセー!あの男退院したんすかー?」
ララ・フォーレ「その人どこに行ったか教えて!」
〇けもの道
ララ・フォーレ「病み上がりに森に入るなんてやっぱりおかしい」
ララ・フォーレ「ッ、森の匂いで見失いそう」
ララ・フォーレ「でも彼が向かう場所は予想できる」
ララ・フォーレ「恐らくここら辺──」
精神を研ぎ澄まし、手を耳に当てて周囲の音にのみ集中する
「......」
ララ・フォーレ「微かな声、人──!?」
〇山中の川
宗純「衆生無辺誓願度煩悩無尽誓願断...」
ララ・フォーレ「みぃつぅけぇたぁぞぉ〜💢」
宗純「よく分かりましたな」
ララ・フォーレ「これでも人探しは得意なんです!」
ララ・フォーレ「もう、こんな場所で何をしているんですか?」
宗純「・・・少々物想いにふけておった」
ララ・フォーレ「なにか悩みがあるなら、私でよければ・・・」
宗純「フッ、坊主の不信心か」
宗純「アナタは何故この世に生を受け、苦しみにまみれながらもその一生遂げなければならないとお考えか?」
ララ・フォーレ「えっと、何故生きようとしているのかってことですか?」
宗純「アナタは視力すら失った身、光なくして常世にどうして希望を見出せようか?」
ララ・フォーレ「難しいお話ですね、宗純さんは生きることに絶望しているんですか?」
宗純「私にはそれは大きな希望があった・・・」
〇祭祀場
私の世界は腐敗と欺瞞、虚栄で溢れておった
祈りは流行であり、悟りが名誉であり、仏門に入る者ですら虚偽に塗れている
その道を歩む者として、私は迷いを抱いていた
〇祈祷場
そんな時に私の道標となる者が現れた
権力に媚びず、世間に靡かず、欲に溺れず、金に眩まず、人に縋らない
孤にして禅に生きる修行者
〇山中の川
宗純「だが心から尊敬した師は・・・私の元から去ってしまった・・・」
宗純「今の私はアナタと同じ、光を失っためくらなのです」
宗純「世捨て人になるのも至極当然」
宗純「アナタなら私の想い、その一端でも理解してくれるのではないですか?」
ララ・フォーレ「・・・はい」
ララ・フォーレ「大切な方を亡くされて、宗純さんが大変心を痛めたのは分かります」
ララ・フォーレ「ですが、この世にお師匠さんのような」
ララ・フォーレ「大切な人、頼れるお方がいないと決めつけている節があるように思います」
宗純「自縄自縛・・・」
宗純「師匠も言っていたな・・・」
ララ・フォーレ「私はこの様な姿ですから、時には揶揄されることも、お荷物と思われることもありました」
ララ・フォーレ「人を憎み、世相を苦しく思うこともあります」
ララ・フォーレ「ですが・・・」
〇新緑
ララ・フォーレ「私を見て下さい」
ララ・フォーレ「私は生きています」
ララ・フォーレ「それは慈悲深い心が人にも残されている証ではないですか?」
宗純「コレは何似生!?」
宗純「我を見よ、この身が生き永らえているのは、世に仏性が残されているから」
宗純「異国の地、盲目の若き女性が禅を持ち合わせているとは──!」
ララ・フォーレ「もしよければ、めくらな私をお家まで導いていただけませんか?」
宗純「フッ、フフ・・・」
宗純「この宗純、ララ殿を導く存在となろう」
宗純「破戒僧として、な」
〇けもの道
「お腹空いてません?」
「そうだな、腹が減ったな」
「お家で硬いパンと冷めたスープが待ってますから」
「・・・スマン」
〇けもの道
〇荒廃した街
「アレが──」
「ヤツの本性──」
「破戒僧、宗純──」
???「あぁ・・・沼に・・・」
熔けてしまいますわ・・・
破戒僧を「破壊」と読み違え、敵をバッタバッタ倒していく物語と勘違いした素人が横を通りますね...
とても不思議な異世界転生、続きが楽しみです!
不思議な世界観で、引き込まれました。
追伸、皆さん大きな絵が途中で登場しますね。
破戒僧 宗純はこれからまた戒を破るのだろうか?
どの戒を? どれだけ?
最後に見えた影は…?
続きがとても気になります!