P1・魔王、エンディングノートを書く(脚本)
〇荒廃した街
ガルディアス「ヴィエリゼ」
ガルディアス「よく見ておけ」
ガルディアス「愚かな人間どもの末路を──」
ヴィエリゼ「はい、お父様」
ゲンティム「魔王様」
ゲンティム「村の殲滅が完了しました」
ガルディアス「捕らわれていた魔獣たちはどうした」
ゲンティム「スライムやヴァイパーなど、 小型の魔獣は保護できましたが──」
ガルディアス「ワイヴァーンとグリフォンは救えなかったか・・・」
ゲンティム「申し訳ございません」
ガルディアス「・・・用は済んだ」
ガルディアス「魔界へ戻る」
ゲンティム「はっ」
ヴィエリゼ「・・・あっ」
ゲンティム「嬢ちゃん、どうした?」
ヴィエリゼ「なんでもない!」
ゲンティム「さあ、帰ろうぜ」
ヴィエリゼ「うん!」
〇貴族の部屋
ヴィエリゼ「はっ」
ヴィエリゼ「夢・・・」
グエル「おはようございます、ヴィエリゼ様」
ヴィエリゼ「おはよう、グエル」
グエル「どうかなさいましたか?」
ヴィエリゼ「懐かしい夢を見たの」
グエル「まあ」
ヴィエリゼ「書斎に行きたいから、 朝食は向こうに運んでくれる?」
グエル「かしこまりました」
〇屋敷の書斎
ヴィエリゼ「──あった!」
ヴィエリゼ「これだわ」
子供の頃、人間界から持ち帰った一冊の本。
昔は何が書いてあるのかよく分からなかったけれど、今なら理解できるかもしれない。
ヴィエリゼ「『エンディングノート』・・・?」
ヴィエリゼ「『自分のこと』 『親族の連絡先』」
ヴィエリゼ「なにこれ?」
ヴィエリゼ「『資産の情報』 『遺言書の有無』 『お墓について』」
ヴィエリゼ「・・・なるほど」
どうやらこの本は、自分が死んだ後に、遺された者が様々な手続きを行うのに必要な情報を書き留めるためのものらしい。
ヴィエリゼ「未使用品みたいだし、書いてみようかな?」
ヴィエリゼ「名前は── ヴィエリゼ・レイヤール・ヴァンダドラル」
ヴィエリゼ「誕生日に血液型、身長体重・・・」
ヴィエリゼ「え、本籍地?」
その時、控えめなノックの音が聞こえた。
ヴィエリゼ「はぁーい」
ガスタイン「失礼いたします」
この城の家令であるガスタインが、静かに部屋に入ってくる。
ガスタイン「お食事をお持ちしました」
ヴィエリゼ「いいところに!」
ガスタイン「どうかなさいましたか?」
ヴィエリゼ「私の本籍地ってどこ?」
ガスタイン「・・・・・・はい?」
ヴィエリゼ「だから、本籍地」
ヴィエリゼ「ここの住所でいいの?」
ガスタイン「お、お嬢様?」
ヴィエリゼ「あっ」
ヴィエリゼ「またお嬢様って言った!」
ガスタイン「申し訳ございません──」
ガスタイン「魔王様」
そう──
父が引退した今、私が魔界〈ヴァンダドラル〉の王なのだ。
ヴィエリゼ「よろしい」
ガスタイン「何をなさっておいでですか?」
ヴィエリゼ「エンディングノートを書いてるの!」
ガスタイン「は・・・?」
ヴィエリゼ「勇者の一行が魔界に近付いてきてるって聞いたし、ちょうどいいかなって」
ヴィエリゼ「げっ」
ヴィエリゼ「これ、保険証番号と運転免許証番号、 マイナンバーまで書く欄がある・・・」
ヴィエリゼ「めんどくさっ」
ヴィエリゼ「ガスタイン」
ヴィエリゼ「寝室から私のお財布を持ってきて」
ガスタイン「その、お嬢様・・・」
ヴィエリゼ「・・・・・・」
ガスタイン「魔王様」
ヴィエリゼ「なぁに?」
ガスタイン「浅学でお恥ずかしいのですが・・・」
ガスタイン「エンディングノートとは、 いかなるものなのでしょうか?」
ヴィエリゼ「もしもの時のために、家族や友人に伝えたいことを書き留めるノートのことよ」
ガスタイン「もしもの時・・・?」
ヴィエリゼ「そう」
ヴィエリゼ「まあ、終活の一種?」
ガスタイン「終活・・・」
〇古い洋館
「終活ぅ~ッ!?」
〇魔王城の部屋
〇魔王城の部屋
ガスタイン「皆様、お揃いですね」
ゲンティム「急に呼び出すなんざ、珍しいじゃねえか」
ローレット「エリゼのところに行こうと思ってたのに~」
ダーリナ「ローレット」
ダーリナ「きちんとヴィエリゼ様とお呼びなさい」
ローレット「ダーちゃん、かた〜い」
ダーリナ「ダーちゃんって呼ばないで!」
フェゴール「まあまあ」
フェゴール「お二人とも落ち着いて」
フェゴール「して、ガスタイン卿・・・」
フェゴール「我らをお呼びになったのは、 いったいどのようなご用でしょうか?」
ガスタイン「少々ご相談したいことがございまして・・・」
ゲンティム「四天王を揃えてまでか?」
ローレット「恋バナだったらいつでも聞いたげるよ〜」
ローレット「あ!」
ローレット「もしかして、エリゼのお見合い相手を探してるとか?」
フェゴール「ほほほ、お見合いですか」
フェゴール「たしかに、そろそろお相手を探してもいい頃合いかもしれませんねぇ」
ローレット「エリゼの好みのタイプは、 背が高くてイケボで次男で堅実な人だよ」
ガスタイン「なぜ次男・・・」
ローレット「婿に来てくれる可能性が高そうだからだって」
ガスタイン「えぇ・・・」
フェゴール「ほっほっ、 なんとも現実的ではありませんか」
フェゴール「そうですねぇ」
フェゴール「ウェルゴル家、ルゼバエナ家などは、 お家柄も釣り合うのではないかと」
ローレット「家柄なら、ウチもありじゃね?」
ローレット「あたしの弟とかどう?」
ゲンティム「お前の弟、エリゼより年下じゃねえか」
ローレット「全然いけるっしょ」
ローレット「てか、エリゼが弟と結婚したら、 あたしお義姉さんになれるの!?」
ローレット「超いい~!」
ガスタイン「あの〜・・・」
ゲンティム「嬢ちゃんの相手なら、俺でいいじゃねえか」
ローレット「はあ!?」
ローレット「すでに何人も嫁がいるオッサンが何言ってんの?」
ダーリナ「そうですよ」
ダーリナ「ゲンティムさんなど論外です」
ゲンティム「ひでぇな~」
ガスタイン「もしもーし?」
フェゴール「ならば私はいかがです? 独身ですよ?」
ゲンティム「鳥類はどうよ〜」
フェゴール「・・・今、何と仰いました?」
ガスタイン「すいまっせーん!!」
「うわぁっ!?」
ガスタイン「そろそろ、私の話を聞いていただいてもよろしいですか?」
「・・・ハイ」
ガスタイン「実はですね、魔王様が──」
ガスタイン「エンディングノートをしたためておいでだったのです!!」
「エンディングノート!?」
ゲンティム「・・・何それ?」
ローレット「おいオッサン」
ゲンティム「知らんものは知らん!」
フェゴール「別名、終活ノート」
フェゴール「死後の手続きに必要な情報を書き留めるためのものですね」
ガスタイン「そうです!」
ガスタイン「しかも、ページが余ったとかで『死ぬまでにしたい100のこと』なども書き始めて・・・」
ゲンティム「何でそんなことしてんだ?」
ガスタイン「どうやら、勇者たちが魔界に接近していることを耳にして、ご不安に思われたようなのです」
ローレット「え~っ」
ローレット「あたしたちがいるんだから、 心配することないのに」
ダーリナ「でも、不安にさせてしまったのなら私たちの落ち度だわ」
コンコン。
ガチャッ。
〇魔王城の部屋
ヴィエリゼ「みんなして、こんなところで何やってるの?」
ローレット「エリゼ!」
ダーリナ「ヴィエリゼ様!」
ヴィエリゼ「ダーリナにお願いがあってきたんだけど・・・」
ダーリナ「なんなりと」
ヴィエリゼ「あのね、私が死んだら、私のTwitterアカウント削除して欲しいの!」
「えっ・・・」
ダーリナ「縁起でもないことを仰らないでください!!」
ヴィエリゼ「もしもの時はってことで、ね?」
ヴィエリゼ「ノートに書くのは恥ずかしいから、 あとでログイン情報教えるね」
ローレット「Twitterやってるなんて聞いてない!!」
ヴィエリゼ「鍵垢だから、 特定の人にしか教えてなくって」
ローレット「その特定の中に、 あたしが入ってないんですけど!?」
フェゴール「魔王様」
ヴィエリゼ「どうしたの、フェゴール?」
フェゴール「失礼ながら、魔王様は終活をなさっておいでなのですか?」
ヴィエリゼ「そんな大袈裟なものじゃないよ」
フェゴール「ではなぜエンディングノートなど・・・」
ゲンティム「しかも『死ぬまでにしたい100のこと』なんて書いてんだろ?」
ヴィエリゼ「そうなの!」
ヴィエリゼ「それが、書いてるうちにどんどん楽しくなっちゃって!」
ヴィエリゼ「見て見て!」
ヴィエリゼ「やりたいこと70個まで書けたの!」
ゲンティム「『スライムでドッジボール』 『スライムでボウリング』 『スライムでラグビー』」
ゲンティム「これホントにやりたいか?」
フェゴール「初っ端からネタ切れ感が半端ないですね」
ヴィエリゼ「だって~」
ローレット「あの様子だと、暇つぶしに書いてただけっぽくない?」
ダーリナ「取り越し苦労だったようですね」
ガスタイン「よかったぁ~!!」
ローレット「ねぇ、他には何て書いたの?」
ヴィエリゼ「『文通がしたい』とか 『陶芸がやりたい』とか・・・」
ヴィエリゼ「あと『みんなで慰安旅行がしたい』!」
ゲンティム「おっ、いいねえ!」
フェゴール「でしたら、温泉などいかがでしょう?」
ヴィエリゼ「じゃあ、今から行っちゃう?」
ガスタイン「今からですか!?」
ヴィエリゼ「ガスタインは留守番よろしくね」
ガスタイン「えっ」
ヴィエリゼ「いってきま〜す!」
ガスタイン「私だけ留守番って・・・」
ガスタイン「そんなぁ〜!!」
〇露天風呂
ローレット「すっごーい!」
ダーリナ「領地内にこのような場所があるとは知りませんでした」
ヴィエリゼ「ねぇ・・・」
ヴィエリゼ「何で二人は温泉入らないの」
ローレット「ゲンティムが覗きに来そうだから、見張り」
ダーリナ「人間界に近いのが気掛かりなので、護衛を」
ヴィエリゼ「それじゃ慰安旅行にならないよ~」
ローレット「あたしは楽しいけど?」
ダーリナ「同じく」
ヴィエリゼ「何か違う・・・」
「・・・?」
ヴィエリゼ「二人も服脱いできてっ!」
ヴィエリゼ「一緒に入ってくれなきゃ意味ないもの」
ローレット「エリゼ・・・」
ダーリナ「承知いたしました」
ヴィエリゼ(ちょっと強引だったかな)
ヴィエリゼ(急にエンディングノートなんて書き始めたせいで、みんなに余計な心配掛けちゃった)
ヴィエリゼ(勇者一行が迫ってるからって、 悲観したわけではないけれど──)
ヴィエリゼ「・・・勇者かぁ」
???「うわ〜、いい眺め!」
ヴィエリゼ「誰っ!?」
???「あれ、先客がいたんだ」
ルカード「──って」
ルカード「女の子!?」
ルカード「うわ、ごめっ・・・」
ヴィエリゼ「・・・っ」
ルカード「ちょっ・・・」
ルカード「ちょっと待って!!」
ヴィエリゼ「変態相手に待つ必要ある!?」
ルカード「これは事故!!」
ルカード「事故だからっ!!」
ルカード「決して覗こうとしたわけじゃ──」
ルカード「あれっ」
ルカード「きみ、どこかで・・・」
ヴィエリゼ「・・・?」
〇魔界
〇露天風呂
「あーっ!!」
ヴィエリゼ「あなた、あの時の・・・」
ルカード「きみは──」
ルカード「魔王の娘ヴィエリゼ!!」
ヴィエリゼ「勇者ルカード!!」
「・・・・・・」
「何でこんなところにいるの・・・?」
魔王と勇者──
10年振りの再会であった。
ガスタインも連れてってあげて😂
王道ファンタジーの魔王討伐ものだと思っていたら、魔王が主人公だしなんだかホワイトな職場みたいな雰囲気の四天王いるしでとても楽しめました
こういうの書き始めはノリノリなんですけど途中でやめちゃうんですよね…笑
やりたいことリスト1から可哀想な目にあうスライム…
むかし勇者と会っていたことと今回の再会がこれからの展開にどう展開していくのか楽しみです
おもしろーい!キャラクターがみんな魅力的で楽しく読んでました!前向きなお話が好きなので、続きが楽しみです!
一番温泉に行きたそうな人が留守番!