探偵は書庫に眠る。

ぷちり

第2話・似てない双子(脚本)

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〇黒
  ・・・────

〇古書店
  海堂くーん!
海堂 未樹(かいどう みき)「・・・聞こえてますよ、はぐむ先生」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「あっ、起きた!」
海堂 未樹(かいどう みき)「やっと眠れたのに・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「それは、ごめんなさいね」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「あっ! この本、いまベストセラーになってる 推理小説じゃない!」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「さすが海堂くん、こういうのも 読んだりするのね♪」
海堂 未樹(かいどう みき)「見かけたから買ってみただけです」
海堂 未樹(かいどう みき)「それより、はぐむ先生 ラブレターでも貰ったんですか?」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「あ、そうなの! いや、違うんだけれど──」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「この手紙の謎を 解いてもらいに来たの!」
  探偵は書庫に眠る。
  
  ── 第2話・似てない双子 ──
海堂 未樹(かいどう みき)「見たところ、ユリの花が 描かれていますね」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「外側もそうなんだけど、 中に文章があってね」
  Standing style is as grass peony,
  sitting as peony, walking style is lily.
海堂 未樹(かいどう みき)「peony・・・lily・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「あらっ、英単語は読めるのね♪」
海堂 未樹(かいどう みき)「まぁ・・・なんとか」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「『立てば芍薬座れば牡丹、 歩く姿は百合の花』」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「美しい人物を表す、有名な慣用句ね」
海堂 未樹(かいどう みき)「はぐむ先生の歩く姿が ユリのように美しい、ということでは?」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「いやいや、そんなの照れるわよっ」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「というより、その可能性が低いのよ」
海堂 未樹(かいどう みき)「どういうことでしょう?」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「この手紙を渡してくれたのは、 私が英語を担当しているクラスの 男子生徒なんだけど・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「英語の成績が明らかに良くないの」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「四ノ宮くん、って知っているかしら? 追試を一緒に受けていると思うんだけれど」
海堂 未樹(かいどう みき)「四ノ宮・・・ もしかして、金髪の?」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「そう!その金髪の子!」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「あの子が英語をわざわざ使うのは 考えづらくて・・・ 海堂くんに相談に来たの」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「渡し方も、その・・・ 冗談ぽかったし」
海堂 未樹(かいどう みき)「たしかに、調子のよさそうな 雰囲気でしたね・・・」
海堂 未樹(かいどう みき)「ここに、よく見たら 宛名がありますよ」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「えっ?」
海堂 未樹(かいどう みき)「『Ayato』 男性の名前かもしれませんね」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「アヤト・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「そういえば、四ノ宮くんの名前が 「北斗」っていうんだけど」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「たしか、双子の兄弟だったはず!」
海堂 未樹(かいどう みき)「ホクトとアヤト・・・ 手紙に関係する可能性はありますね」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「アヤトくんに話を聞きに 行きましょう!」
海堂 未樹(かいどう みき)(はぐむ先生、なんとなく 楽しんでいる気がする・・・)

〇学校の廊下
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・で、僕をそんな よく分からない理由で 呼び止めたんですか?」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「この手紙に、あなたの名前があるから 何か知ってるかな〜と思って・・・」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「知らないですよ そんな古臭いラブレターなんて」
海堂 未樹(かいどう みき)「なぜ、そんなに具体的なことが 言えるんだ?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「どういうことですか?」
海堂 未樹(かいどう みき)「綾斗さんは今、この手紙のことを 「古臭い」と言った」
海堂 未樹(かいどう みき)「しかし、手紙はレースが付いていて 綺麗な印象が強い」
海堂 未樹(かいどう みき)「どうして、古臭いと思ったんだ?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「なるほど、探偵気取りってワケか」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「その手紙は、僕の靴箱に 入っていたんです」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「えっ?そうなの!?」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「じゃあ、やっぱり 綾斗くん宛てなのかしら?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「そんなワケないでしょう」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「そういう色恋沙汰は全部 兄の担当なんですよ」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「だから、その古臭い手紙を すぐ兄に渡したんです」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「どうせ、送り主だって 僕と兄を間違えたんでしょう」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「それが私のところに渡ってきたのね」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「じゃ、もういいですよね? 僕は帰りますよ」
海堂 未樹(かいどう みき)「・・・これは、俺の 勝手な推理なんだが」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「?」
海堂 未樹(かいどう みき)「手紙に書かれていた英文のうち、 ユリの花に該当する箇所は 『歩く姿は百合の花』」
海堂 未樹(かいどう みき)「手紙の送り主は、 綾斗さんが歩く姿を見て この手紙を書いたんじゃないだろうか?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・何が言いたいんですか?」
海堂 未樹(かいどう みき)「綾斗さんの通学路を見ていけば、 送り主が分かるかなと思ったのさ」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「なるほど・・・!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・・・・」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・・・・・・・」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・会えるのかな、その人に・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「綾斗くん?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「なっ、なんでもないっ」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「わかりました それくらいの時間は、 費やしてもいいでしょう」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「素直じゃない・・・」
海堂 未樹(かいどう みき)「全くだ」

〇開けた交差点
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・兄は、ずる賢いんですよ」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「ずる賢い?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「知り合う人間、誰にでも笑顔で 調子いいことばかり喋って」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「おかげで僕は、いつも蚊帳の外だ」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「みんな兄ばかり気に入るんですよ 容姿だって、ほとんど変わらないのに」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「僕の方が、よっぽど真面目なのに どうして・・・っ」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「・・・・・・」
海堂 未樹(かいどう みき)「・・・あのベンチ、 ちょうどいい場所かもしれませんね」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「あらっ?誰か居るみたいね」

〇公園のベンチ
他校の女子生徒「あっ、綾斗くん!!」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「あら、お知り合いの人?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「いえ、全然知りません」
他校の女子生徒「綾斗くん、本当に来てくれたんだ よかったぁ・・・」
海堂 未樹(かいどう みき)「じゃあ、あなたが綾斗くんに 手紙を送った?」
他校の女子生徒「そうです! 綾斗くんに、どうしても 会いたくなったので・・・」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「どうせ、勘違いでしょう?」
他校の女子生徒「・・・えっ?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「僕には、見た目がそっくりの 兄がいるんです」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「女の子が惚れるようなのは、 兄みたいな人間に決まっています」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「というか、兄のほうが 恋愛には適しているので オススメしますよ」
他校の女子生徒「・・・・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「本当に素直じゃないわね・・・」
他校の女子生徒「・・・お兄さんのことは、 今は関係ないですよ」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「えっ?」
他校の女子生徒「私は、ここに座ったときに 綾斗くんのことを見かけたんです」
他校の女子生徒「格好良くて、ちょっと不機嫌そうで、 どこか儚い雰囲気で歩いていて・・・」
他校の女子生徒「美しいな、って思ったんです!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「ちなみに、あのユリの花の表現は 一般的に女性に使われるものなのよ」
他校の女子生徒「えっ!そうなんですか!?」
他校の女子生徒「・・・でも、関係ないです」
他校の女子生徒「綺麗な綾斗くんにピッタリな文章だって 私は思ったから!!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「僕に・・・?」
他校の女子生徒「綾斗くんに、です!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・・・・・・・・・・ありがとう」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「真っ直ぐな君に、僕は 詫びなければならない」
他校の女子生徒「詫び、ですか?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「僕は、君の手紙を読まなかったんだ」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「ああいうものは全部、兄が 貰うものだと思い込んでいたから・・・」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「読まずに、兄に渡してしまった」
他校の女子生徒「で、でもっ!綾斗くんはここに 来てくれました・・・!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「探偵と先生のおかげだよ」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「あと・・・ある意味、兄さんの おかげでもあるかな」
他校の女子生徒「お兄さん・・・!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「僕は君が期待した人間じゃ ないかもしれない」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「だけど、僕を好いてくれる人に 出会えたことが嬉しいんだ」
他校の女子生徒「あっ!その先は、 私に言わせてくださいっ!!」
他校の女子生徒「綾斗くん、私とお付き合い してくださいっ!!!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「うん、僕のほうこそ よろしくお願いします」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「なんか、うまくいったわね!」
海堂 未樹(かいどう みき)「綾斗さんの心境の変化があったなら、 良かったのかもしれないですね」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「・・・ところで、私ちょっと 気になっていることが2つほど あるんだけれど」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「彼女は、どうして綾斗くんの名前を 知っているのかしら?」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「あと、どうやって靴箱に ラブレターを入れたのかしら?」
海堂 未樹(かいどう みき)「ウチの高校は出入り自由ですし、 靴箱に鍵も無いので・・・」
海堂 未樹(かいどう みき)「彼女の熱意、じゃないですかね・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「そういうことに、なっちゃうのね・・・」

〇玄関内
一之瀬 北斗(いちのせ ほくと)「お〜綾斗、やっと帰ってきた! 俺より遅いなんて超珍しいじゃん!」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「・・・兄さん」
一之瀬 北斗(いちのせ ほくと)「ん?どした?」
一之瀬 綾斗(いちのせ あやと)「俺にも寄り道する場所ができた、 ってことだよ」
一之瀬 北斗(いちのせ ほくと)「・・・そっか」

〇シックなカフェ
八野宮 育(やのみや はぐむ)「喫茶店は、やっぱりコレね〜♡」
海堂 未樹(かいどう みき)「俺の常識が崩れそうだ・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「今日もお手柄だったわね、海堂くん」
海堂 未樹(かいどう みき)「手紙から推理したことが、偶然 合っていたにすぎませんよ」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「それが凄いのよ! なんたって、人の役に立ったんだもの!」
海堂 未樹(かいどう みき)「・・・・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「今日の謎解明で思ったんだけれど、」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「誰かの愛情を素直に受け取るって、 実は簡単なことじゃないわよね」
海堂 未樹(かいどう みき)「愛情を、受け取る・・・ですか」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「助けられたり、守られていたり、 存在を受け入れられていたり・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「そういう愛情って、見えにくいものだから」
海堂 未樹(かいどう みき)「・・・・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「ところで、海堂くんは どうしていつも地下書庫にいるの? やっぱり本が好きなの?」
海堂 未樹(かいどう みき)「好きというか・・・本に囲まれていないと 落ち着かないんです」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「へぇ〜! それは好きってことじゃないかしら!」
海堂 未樹(かいどう みき)「そう、なんですかね・・・ でも・・・・・・」
八野宮 育(やのみや はぐむ)「ん?」
海堂 未樹(かいどう みき)「・・・いえ、なんでもないです」

〇黒
  ・・・待って・・・
  ・・・どうして・・・

〇炎
  嫌だ・・・────

〇古書店
  ────!!
海堂 未樹(かいどう みき)「はっ・・・はぁっ・・・」
海堂 未樹(かいどう みき)「なんだ、今のは・・・?」
海堂 未樹(かいどう みき)「何かが・・・燃えていたような・・・」
海堂 未樹(かいどう みき)「・・・・・・・・・」
海堂 未樹(かいどう みき)「・・・やっぱり、読めないか」

〇黒
  探偵は書庫に眠る。
  ── 第2話 完 ──

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