Ep.40/ THE ELUSIVE NIGHT WATCH #30(脚本)
〇電子世界
僕は、世界各地の様子を写したウィンドウを見て、茫然とつぶやいた。
久常紫雲「なんだよ・・・これ・・・」
パステト「智是の切り札『セクメト』です」
〇未来都市
燃える街の上に巨大なセクメトの姿があった。
その姿は見る見るうちに巨大化していき、街をのみこんだ。
バステト「『セクメト』は智是とシンクロし、智是の身体感覚を拡張するAIです」
〇東京全景
中国 香港
東の夜空に浮かぶ巨大なセクメトの姿が、肥大化し香港の街に迫ってきている。
バステト「セクメトとシンクロすることで、智是のハッキング能力は拡張されます」
〇超高層ビル
アメリカ サンフランシスコ
ゴールデンゲートブリッジ越しに見える空はセクメトの姿で埋め尽くされている。
バステト「そして"身体で触れた"電子機器をすべて意のままに操れるようになるのです」
〇地球を抱くセクメト
月面基地 地球観測カメラ映像
宇宙に浮かぶ巨大なセクメトが、胎児のように身体を丸めて地球を抱えこんでいた。
セクメト「たった今、地球上の電子機器はほぼ全て、智是の支配下に置かれました」
〇地球を抱くセクメト
セクメトと同化した私は、全身で地球をぎゅっと抱きしめていた。
今の私には、地球上のほぼすべての電子機器の活動が手に取るようにわかる。
智是/セクメト「ふふふ」
そのとき、地球各地のゼニス支部が総力を挙げて日本にある私の本体にハッキングを開始する気配を感じた。
智是/セクメト「今の私をハッキングしようとしても、無駄よ」
私の両手が地球を包みこむ。
智是/セクメト「・・・ネットにつながった全ゼニス支部のメインフレームコンピュータを制圧」
智是/セクメト「近傍の無人兵器のコントロールを奪取。 ・・・物理攻撃、開始!」
私の支配する無人兵器群が、ゼニス兵に襲いかかる様子が私の脳裏に浮かんだ。
ゼニス兵どもは、まともな抵抗もできないまま虐殺されていく。
智是/セクメト「ふふふ。そうよ。殺しちゃえ! 私を殺そうとするものは、全部!」
ほどなくして、全世界のゼニス支部に長距離弾道ミサイルが着弾した。
ゼニス支部の周囲は徹底的に破壊され、火の海となった。
これで地上施設は壊滅。
地下施設に逃げた連中も、すぐに無人兵器群が皆殺しにするだろう。
智是/セクメト「ふふふ。これで、ゼニスはおしまい! みんな死んだ! 殺してやったわ! 呆気ない! あはははっ!」
そのとき、緊急通信が飛び込んできた。
私は他のタスクと並行し、宇宙規模に拡大した認識と意識のほんの一部をその通信に向けた。
〇電子世界
久常紫雲「もういいでしょ! 十分でしょ! やめようよ、ちーちゃんっ! こんなことしちゃダメだよ! 聞こえているの!?」
〇地球を抱くセクメト
智是/セクメト「・・・しゅーちゃん・・・」
私は一瞬、はっとした。
そうだ。ゼニスは壊滅した。これ以上続ける必要は──
智是/セクメト「!?」
そのとき、私の中で警報が鳴り響いた。
世界各国が私を脅威とみなして、殺そうと動き出していた。
・・・なんだ。まだ全然終わっていない。
智是/セクメト「全世界、各国。政府サーバーを掌握完了。新たな脅威を検索。ああ。なんてこと。まだこんなに・・・!」
地球上のありとあらゆる企業、組織、個人が潜在的に私を殺しうる存在だった。
智是/セクメト「ふふふふふ。全部、殺さなくちゃ! あははははっ!」
〇電子世界
久常紫雲「ちーちゃん! どうしたの!? こたえてよ! 聞こえないの!?」
智是/セクメト「あはははっ! 殺すわ! ぜんぶ! 壊れちゃえ! 死ねぇ!」
パステト「シンクロの副作用です。智是の意識がセクメトに吸収されつつあります」
久常紫雲「・・・吸収って!? なら、シンクロを切って! はやく!」
パステト「不可能です」
パステト「智是に肉体があれば、物理的に隔離することが可能でしたが。智是とセクメトのデータは、すでに融合してしまっています」
そのとき部屋が、轟音と共に揺れた。
久常紫雲「・・・今度は何!?」
パステト「この街が爆撃されています」
久常紫雲「・・・!?」
パステト「智是、いえ。セクメトは世界中の都市を焼き払うつもりです」
〇地球を抱くセクメト
私は・・・いや、ワタシは、セクメトであるワタシは決断した。
ワタシの中の余分な機能をカット。
全機能を潜在的な脅威の排除に注力する。
智是/セクメト「新たな脅威を多数検知。 最終手段を検討・・・決定」
ワタシは全世界の核ミサイル基地にアクセスした。
智是/セクメト「各国大陸間弾道弾ミサイル基地、掌握。 核弾頭装填。発射シークエンス開始」
〇電子世界
パステト「智是の意識、消滅しました」
久常紫雲「消滅・・・!?」
パステト「正確には、セクメトに吸収され──」
久常紫雲「そんな! ちーちゃん! だめだ! もどってきてよッ!」
パステト「無駄です。人間の意識や人格は"人間としての身体"があってはじめて、存在できるものです」
〇地球を抱くセクメト
バステト「セクメトの身体データは惑星サイズ。人間の身体のスケールを遙かに超えています」
バステト「シンクロした智是が意識と人格を保てない可能性は十分ありました」
〇電子世界
パステト「智是の意識を角砂糖とするなら、セクメトは海です。海に溶けた角砂糖を元に戻すことは、もう」
久常紫雲「うるさい! ちーちゃんは、消えてない! 絶対、絶対! ・・・うううっ!」
パステト「智是という意識と人格こそが彼女だとするのなら、彼女は死亡しました」
久常紫雲「でも僕は、ちーちゃんを助けるんだ! 一緒にいるって約束したんだ!」
パステト「不可能です」
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