西龍介 上(脚本)
〇テーブル席
西 龍介「いらっしゃいませ 空いてるお席へどうぞー」
西 龍介「メニュー表お持ちしますね」
店長「西くん。そろそろあがっていいよぉ」
西 龍介「はーい。分かりました」
店長「あ、そういえば西くん。急なんだけど、 明日の夜シフト入れないかな?」
西 龍介「すみません、明日は稽古が入ってて」
店長「そっか、役決まったって言ってたね 今回も詳しいことは教えてくれない感じ?」
西 龍介「あー、えっと・・・」
店長「いいよいいよ! ぼくたちが見に行ってもいい舞台なら またチラシとか頂戴ね じゃあ、お疲れさま」
西 龍介「は、はい。お疲れさまです」
西 龍介(最初のうちは舞台が決まれば 店長や他のバイトの子に宣伝して 見に来てもらってた)
西 龍介(でも端役ばかりで、 だんだんと呼ぶのも悪い気がしてきて 最近は舞台が決まっても 何も教えなかったんだよな)
西 龍介(でも、今回は主演。主演なら・・・)
〇稽古場
橋田 玲央「すみません、遅くなりましたー!」
西 龍介「おう、玲央おはよー、って」
西 龍介「制服じゃん。どうした?」
橋田 玲央「学校で先生と話してたら、 家に帰る時間がなくなってしまって 仕方ないから制服のまま来ました」
水戸部 和人「へぇ。学ラン姿だと舞台衣装みたいだね 10代の続木終も中学生だし」
橋田 玲央「そういえば、衣装を着た稽古って いつからするんですか?」
水戸部 和人「演出家によって多少違うけど、 基本的には稽古終盤かな 数回しかないと思うから、不安なら衣装に似た稽古着を用意するといいよ」
水戸部 和人「今回、玲央くんの衣装は学生服だし、 着なれないものではないから 大丈夫だとは思うけど」
加藤 稔「おっ、衣装の話? ちょうどいいタイミングだ」
加藤 稔「今度の通し稽古で、音響や照明を呼んで きっかけ確認をしようと思ってるんだけど」
加藤 稔「その時に衣装も着てもらう予定だよ」
加藤 稔「チラシ撮影のときに着た衣装と同じだけど いざ演技をしたら動きにくいとか 色々あるかもしれないからね」
加藤 稔「気になったことは何でも言ってほしいな」
加藤 稔「それじゃあ、稽古始めようか」
〇稽古場
加藤 航「玲央さん、帰る前に少しいいですか?」
加藤 航「これ、頼まれてた分です。 手配できましたので」
加藤 航「3枚でしたよね?チケット」
橋田 玲央「ありがとうございます! 家族が見たがってたので、助かりました」
加藤 航「ご家族にもよろしくお伝えください」
山本 朔「チケットの売れ行き、好調みたいですね SNSでも結構話題になってますし」
山本 朔「楽しみにしてるって、 俺のアカウントにもコメントがきますよ」
加藤 航「はい。公式アカウントの運営も順調で、 宣伝も上手くいっているようです」
加藤 航「それに朔さんも、自身のアカウントで オフショを上げてくれてますし」
橋田 玲央「あ、オレも見ました! コメントたくさんついてましたよね」
山本 朔「そういえば、玲央はSNSやらないのか? ああでも、今はどこかに所属してる わけじゃないのか」
山本 朔「事務所によっては個人にSNSを やらせないところもあるし、 それから考えたほうがいいかもな」
橋田 玲央「事務所所属かぁ・・・ なんだか考えたこともないです」
山本 朔「大事なことだ。ゆっくり考えればいいさ」
橋田 玲央「そうだ!この学ラン姿で写真あげたら──」
加藤 航「駄目です」
山本 朔「学校が特定される危険性がある 何でもかんでも載せればいいわけじゃない」
橋田 玲央「あ、そっか・・・」
山本 朔「今は些細なことでもネットで炎上するんだ 宣伝にも使えるが、気をつけないと」
山本 朔「でも、今度の衣装あり稽古のときに 衣装を着た写真をあげるのはいいかもな」
加藤 航「稔に聞いておきます おそらく問題ないでしょうが」
橋田 玲央「宣伝も難しいんだなぁ・・・ オレがSNS始めたら、 コツとか教えてくださいね。朔さん」
西 龍介(チケットか)
西 龍介(・・・うん。そうだな。今回は)
西 龍介「あの、航さん・・・」
〇テーブル席
西 龍介(なんか、緊張しちまうなぁ いまさら、とか・・・いやでも! 店長はそんなこと言う人じゃないし)
西 龍介(それに、少しは自信持たないと またあいつに怒られちまうか)
西 龍介「店長」
店長「あれ?西くん 今日は稽古じゃなかったの?」
西 龍介「稽古終わったんできました それより、そろそろクローズですか?」
店長「うん。もうラストオーダーも終わったし 今いるお客様が帰れば閉めるよ」
西 龍介「なら、ちょっとお時間いいですか?」
西 龍介「・・・・・・ 実は、これ」
店長「チケット、とチラシ?」
西 龍介「今度俺が出演する舞台のなんですけど 実は、主演をいただけて それで、良かったら、なんですけど──」
店長「主演!?すごいじゃない!」
店長「西くん諦めずに頑張ってたもんねぇ! いやぁ努力したかいがあったもんだ」
店長「え?じゃあもしかして、 このチケットって・・・」
西 龍介「え、あ、はい その、店長が良ければ見に来てほしいなと 思って・・・」
店長「ほんと!?絶対行くよぉ!」
西 龍介「いや、でも、店は・・・」
店長「あ」
店長「いやでも!2、3時間くらいだけなら バイトの子たちだけでも 嫁さんに来てもらうこともできるし!」
店長「常連さんの貸し切り予約とか入らない 限りは大丈夫!・・・のはず!」
西 龍介「ははっ!店長それフラグっすよ」
西 龍介「でも、それだけ言ってもらえて めちゃくちゃ嬉しいです 頑張りますから、予定が合えばぜひ 見に来てください」
西 龍介「チケット3枚あるんで、 もし他に見たいバイトの子とかいれば」
店長「うん。きっとみんな行きたがるよ」
西 龍介「だといいですけど」
店長「楽しみにしてるよ 頑張ってね!」
〇行政施設の廊下
西 龍介(昨日は店長も喜んでくれたし、 稽古ももっと頑張らねぇとな)
西 龍介「稽古場行く前に、自販機で飲み物でも 買っていくか」
「失礼ながら、おっしゃっている意味が よく分かりません」
西 龍介「ん?この声は・・・」
西 龍介「稔さんだ。 電話中みたいだし、あとにするか」
西 龍介(にしても、随分と苛立ってるな 前に朔と言い合いして怒られたときとは またちょっと雰囲気が違うというか)
西 龍介(なんか、今回の方がマジで怒ってる感じだ)
加藤 稔「まわりくどい言い方をしないで いただきたいのですが」
西 龍介「おっと、大事な電話かもしれないし 聞こえないところまで戻──」
加藤 稔「西龍介を役から外せと、 そう言いたいのですか?」
西 龍介「・・・え?」