山本朔 中(脚本)
〇劇場の舞台
10代の続木終「じゃあ何? あんたたちが未来の俺ってこと? 信じられるわけないじゃん」
20代の続木終「それが事実だから、文句言われても・・・」
10代の続木終「つか、なんであんたそんなにビクビク してんの? ホントに未来の俺?」
30代の続木終「俺が保証してやるよ お前は中学生の時の俺で」
30代の続木終「お前はブラック企業で社畜してた時の俺 で、俺はそのクソブラック企業を辞めた 32歳ニートの俺だよ」
30代の続木終「あんたのことは知らないから 俺より年上の俺ってこと?」
40代の続木終「そういう、ことになるな 俺は41歳の続木終だ」
40代の続木終「確かにあんたたちは過去の俺だが いったい、どういうことなんだ・・・?」
〇稽古場
山本 朔「おはようございます」
山本 朔「・・・まだ誰も来てないのか」
〇稽古場
加藤 稔「頭を冷やして落ち着くこと 分かったね?」
山本 朔「・・・っ」
加藤 航「失礼します 明日は通常通り稽古を行う予定ですので、 よろしくお願いします」
加藤 航「・・・・・・ お二人の声は外まで聞こえていました」
加藤 航「分かっているとは思いますが、 稽古でぶつかることは 悪いことではありません」
加藤 航「でも今の喧嘩は、舞台を良くするためでは ありませんでしたよね 無論、お二人は痛感していると思いますが」
山本 朔「すみませんでした 俺・・・」
加藤 航「俺に謝ってもらう必要はありません それでは」
〇稽古場
西 龍介「おはようございますー、って」
西 龍介「まだお前だけか」
山本 朔「あの、龍介さん。昨日は俺──」
西 龍介「いやー昨日は悪かったな! ついかっとなっちまって お前に怒鳴ったってどうしようもねぇ ことなのにな」
山本 朔「えっ ・・・いえ、俺こそすみませんでした 失礼なことを言いました」
西 龍介「いーよいーよ気にすんな」
西 龍介「迷惑かけたくないし、 稽古に支障は出さないようにしようぜ 俺のことは気に入らないだろうけど そこは我慢してくれ」
山本 朔「違います、俺は」
橋田 玲央「あっ・・・!」
西 龍介「よぉ、玲央!」
山本 朔「待ってください!話はまだ・・・!」
山本 朔「終わってないんだよ・・・」
〇稽古場
橋田 玲央「あの、山本さん 今朝はすみませんでした 龍介さんとの話、邪魔してしまって」
山本 朔「お前が謝ることじゃない それより、龍介さんの様子 どんな感じだった?」
山本 朔(朝に挨拶をしてから、 稽古中以外で俺に話しかけて こなかったからな)
橋田 玲央「普段通りでした 仲直りされたんですか?」
山本 朔「俺は欠片も思っていないが、 向こうはそのつもりなのかもしれないな」
山本 朔(いや、というよりもあれは 仲直りなんてする気もないのか 揉めるのが面倒だから 嫌われたままでいい、と)
山本 朔「ありがとう、玲央。今日はお疲れ あと」
山本 朔「稔さんに言われてたところ、 すごく良くなってたよ」
橋田 玲央「ありがとうございます!」
山本 朔「ただ、その直後の台詞トチってたな 滑舌甘かったし、気をつけろよ」
橋田 玲央「うっ。が、頑張ります お疲れ様でした」
山本 朔「さて、このあとは仕事もないし 残って少し自主練していくか」
山本 朔「ん?」
山本 朔「あいつらからか。 懐かしいな、何年前の舞台だっけ ・・・今晩飲みに行こう、か」
?「おっと」
加藤 航「すみません。玲央さんで最後かと」
山本 朔「もう出て行ったほうがいいですか? 少し残って練習しようかと 思っていたのですが」
加藤 航「あと1時間ほどでしたら大丈夫です」
山本 朔「すみません、うるさくて 友人から飲みに誘われてて」
加藤 航「なのに、稽古場に残るつもりなのですか?」
山本 朔「ええ、まぁ」
加藤 航「・・・今日の稽古、流石でしたね 昨日あんなことがあったとは思えない 集中力でした。貴方も、龍介さんも」
山本 朔「ありがとうございます 俺も、プロですから」
加藤 航「ただ、あれが貴方の100%の実力とも 思えない」
加藤 航「メンタルの不調を表に出さないことは できるでしょう。でもそもそも、 不調なんてないほうが良いに決まっている」
加藤 航「貴方に今必要なのは、 一人で稽古することよりも そのスマホの連絡に答えることだと 俺は思いますね」
山本 朔「そう、かもしれませんね」
加藤 航「最近、仕事を詰めて入れてたんでしょう? カズさんも心配してましたよ」
加藤 航「気分転換してきてはいかがですか? 舞台のことでしたら、 俺もできるかぎり力をお貸しします 何でも言ってください」
山本 朔「ありがとうございます では、ここの戸締まりをお願いします」
加藤 航「ははっ それは元々俺の仕事ですよ」
〇行政施設の廊下
山本 朔(店は・・・あそこか なら地下鉄一本で行けるな)
水戸部 和人「おや、朔くん。今帰りかい?」
山本 朔「あれ、カズさん。先に帰ったんじゃ」
水戸部 和人「忘れ物してしまってね ところで、このあと予定は・・・ その顔を見るに、どうやらあるみたいだね」
山本 朔「すみません でも、カズさんの誘いなら・・・!」
水戸部 和人「いやいや、駄目だよそれは 気にしないで。ただきみを稽古場から 引っ張りだそうと思っただけだから」
水戸部 和人「根を詰めて一人で居残り練習、 なんてしないようにね」
山本 朔「・・・ははっ」
水戸部 和人「うん?何かおかしいこと言ったかな?」
山本 朔「あははっ、いえ、すみません。ついさっき 航さんに同じようなことを言われて、 稽古場を追い出されたところだったんです」
山本 朔「ありがとうございます 気にかけていただいて」
水戸部 和人「お礼はいいよ。演技で返してくれれば」
水戸部 和人「ふふっ なんて、ちょっとキザだったかな」
山本 朔「お返ししますよ。必ず」
山本 朔「それじゃあ、お先に失礼します お疲れさまでした」
水戸部 和人「いってらっしゃい 楽しんでおいで」
〇居酒屋の座敷席
山本 朔「悪い、遅くなった」
友人「お!久しぶりだなー、朔!」
友人「おいちょっと聞いてくれよー こいつさぁ、3年ぶりだってのに 俺になんて言ったと思う?」
山本 朔「何だよ、もう酔っぱらってんのか? 聞いてやるから俺にも注文させてくれよ」
友人「かんぱーい!」
山本 朔「乾杯、ってどうせお前ら2回目だろ?」
友人「3回目なんだよなぁこれが」
〇居酒屋の座敷席
友人「朔は今度、舞台あるんだっけ?」
山本 朔「ああ、告知ももう出てる 稔さんの演出だし、 久しぶりにカズさんとも共演するんだ」
友人「稔さんかー あの人、見た目のわりにすげぇ厳しいよな」
友人「朔が出る舞台のホームページこれ?」
友人「あとの二人って新人? 見たことない俳優だけど」
山本 朔「ああ、一人はこれが初舞台の新人 もう一人は俳優活動はずっとしてたけど あんまり出演の機会がなかったみたいだ」
友人「どうなんだその二人は?演技的にさ」
山本 朔「・・・ そのことで、ちょっと相談があるんだが 聞いてくれるか?」
「勿論!」
山本 朔「実はこの前・・・」
山本 朔「────」
山本 朔「ということがあって」
友人「・・・お前さぁ」
山本 朔「な、なんだよ」
友人「いや相談も何も、その龍介さんって人と 腹割って話すしかねぇだろ」
友人「直ってねぇのな。その下手くそな言い方 素直に言えばいいのに」
友人「マジでさ、二人で話してお前の気持ちを 伝えるしかなくね?」
山本 朔「でもあの人、露骨に俺を避けるんだよ」
友人「んなもん、避けられない状況にすりゃあ いいんだよ」
山本 朔「避けられないって、そんなの・・・」
山本 朔「いや、まてよ、そうか」
山本 朔「ちょっと電話してくる!」
友人「・・・真面目だなぁ相変わらず」
友人「ま、それが朔のいいとこだろ」
〇飲み屋街
山本 朔「・・・・・・ もしもし、夜遅くにすみません。航さん」
山本 朔「明日の稽古で、 少しお願いしたいことが・・・」