されど、歩みは止められない

紅石

山本朔 上(脚本)

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〇おしゃれな居間
雑誌記者「それではインタビューを始めさせて いただきます」
雑誌記者「山本さんは若手イケメン俳優として これまでたくさんの舞台に 出演されていますね」
山本 朔「はい。舞台が好きなので、これからも 舞台をメインに活動していきたいですね」
山本 朔「2.5次元ミュージカルは勿論 これからはストレートの舞台にも たくさん挑戦したいです」
雑誌記者「さらに色々な舞台で山本さんの活躍を 見られるとなると、 ファンの方々も楽しみでしょう」
雑誌記者「それでは、そんな舞台で 役作りのこだわりなどはありますか?」
山本 朔「そうですね 僕はとにかく台本を読み込みます」
山本 朔「役のことをひたすら考えて、 頭で理解しないと上手く演じれないんです でも、役への理解の深さは僕の強みだと 思っています」
山本 朔「ただ、僕と反対の憑依型の俳優を 羨ましく思うときもありますね」
山本 朔「今の稽古場にも、憑依型の俳優がいて」
雑誌記者「山本さんの演技スタイルとは真反対、 ということですね」
山本 朔「はい。僕は彼のことをとても──」

〇開けた交差点
山本 朔(雑誌の取材は予定通りに終わったし、 これならゆっくり昼食を取っても 午後からの舞台の稽古には間に合うな)
  若手イケメン俳優と呼ばれることは
  一種のステータスであり、
  世間からの評価として嬉しく思う
  ただ、いつまでも呼ばれる呼称ではないし
  いつまでも呼ばれてはいけないとも思う
  俺より若くて容姿も演技も優れた俳優など
  これから山のように出てくる
  それに比べて俺はあと数年で30歳だ
  2.5次元の舞台は原作の性質上、
  若い主人公が多い
  勿論30歳になったって役次第では
  主演を張れるし、張る自信もある
  だが、若手イケメン俳優
  という強みだけではいずれ役は減っていく
  30歳の演じる中学生より、
  20歳の演じる中学生の方が、
  リアリティがあってはまり役なのは
  誰が見たって明らかだ
  加えて俺は単独主演をしたことがない
  あの舞台で主人公を演じた、
  という肩書もないのだ
  だから2.5次元以外にもフィールドを
  広げなければならない
  そうしなければ、いずれ俺は
  若い俳優に埋もれて消えていく

〇稽古場
加藤 稔「玲央くん、40代のきっかけ台詞までは もっとうるさく動き回って ここで10代の無鉄砲さと自由なところ を見せないとダメ」
加藤 稔「朔くん、上手ハケのタイミングが遅い 台詞を言ってからじゃなくて 台詞を言いながらハケて」
加藤 稔「龍介くんはもっと周りを見ること あとー・・・」
加藤 航「8ページ目の台詞」
加藤 稔「そうそれ あんたさぁ、からの40代との会話 もっと嫌そうな感じを出してくれるかな」
加藤 稔「カズさんは最初の板付き、 背中向けて付いてもらってるけど 倒れてるパターンも見たいので そっちも考えてくれますか」
加藤 稔「とりあえずこんなところかな よし、じゃあちょっと休憩して また同じ辺りを抜き稽古しよう」

〇稽古場
山本 朔「ふぅ」
水戸部 和人「朔くん、最近仕事を多めに入れてる って聞いたけど大丈夫かい?」
山本 朔「ちゃんと調整はしてるので大丈夫です 無理はしていませんよ こっちの稽古に支障は出しません」
山本 朔「念願の稔さんの舞台ですからね 体調は万全で挑みたいんです」
加藤 稔「おや、嬉しいこと言ってくれるね」
山本 朔「勿論です 稔さんと航さんの舞台には絶対出ると 決めてましたから」
加藤 稔「聞いたか航?あれ、航?」
加藤 稔「まったく、せっかく朔くんが嬉しいこと 言ってくれたのに、 どこに行ったんだあいつは」
橋田 玲央「あの、ずっと気になってたんですけど 稔さんと航さんって双子ですよね?」
山本 朔「ああ。双子でお二人とも本業は演出家だ ただ、どちらかが演出を担当する時は、 もう一人が演出助手で入られることが多い」
橋田 玲央「へぇ。航さんも演出されるんですね」
水戸部 和人「こうして縁もできたし、 航さんの舞台にも何かの折に 呼んでもらえるんじゃないかい?」
山本 朔「それもありがたいですけど、 オーディションをして自分の力で役を 勝ち取りたいですね。俺は」
橋田 玲央「か、かっこいい・・・!」
西 龍介「俺らもそんなかっこいいこと 言ってみてぇなぁ」
橋田 玲央「龍介さんは演技上手いじゃないですか この前の稽古だってすごかったですよ まるで続木終が憑依してるみたいで」
西 龍介「んなこたねぇって 俺なんてどこにでもいるレベルだよ」
山本 朔「二人だってオーディションで 役を勝ち取ってるんですから、 好きなだけ言えばいいじゃないですか」
橋田 玲央「そ、それはそうなんですけど」
西 龍介「自信があるからそんなこと言えんだよ」
山本 朔「共演する以上、 ある程度は自信を持ってほしいんですが 俺はこの舞台を良いものにしたいので」
西 龍介「今その話はしてねぇだろ 俺がこの舞台に手を抜いてるって 言いたいのか?」
山本 朔「同じでしょう」
加藤 稔「なんだい君たち、また喧嘩してるのかい よく飽きないねえ」
加藤 稔「適当なところで喧嘩切り上げてね そろそろ稽古再開するから」
西 龍介「そんなのすぐにでも!」
山本 朔「・・・・・・」

〇稽古場
水戸部 和人「・・・・・・」
橋田 玲央「・・・・・・」
橋田 玲央「あの二人、毎日のように喧嘩してますね 大丈夫なんでしょうか」
水戸部 和人「うーん 朔くんはストイックで自他ともに 厳しいから、物言いがキツいことは 他の現場でも何度かあったけど」
水戸部 和人「共演者とあそこまで喧嘩してるのは 初めて見るなぁ」
水戸部 和人「無闇矢鱈に誰かに突っかかるようなタイプじゃないと思うんだけと・・・」
朔「いい加減に・・・!」
橋田 玲央「山本さん!?」

〇稽古場
山本 朔「自分に微塵も自信のない俳優に 良い演技ができると思うんですか?」
西 龍介「・・・なるほどな だから俺はこの歳までろくに舞台に 出れなかった、と」
山本 朔「そういう、意味じゃ・・・」
西 龍介「そういう意味だろうが!」
西 龍介「お前は軽々しく自信持てって言うけどな 15年間オーディションに落ち続けて、 どうやって自信を持てっていうんだ!?」
西 龍介「順風満帆に舞台に出演してきた お前には分からないだろうけどな!」
山本 朔「っ! だと、しても・・・! あんたのその態度は、選んでくれた 稔さんに失礼だと思わないんですか!」
西 龍介「んなこと分かってんだよ! お前に言われなくたって分かってる!」
西 龍介「ああそうだよ 俺は成功したお前に嫉妬してんだよ これで満足か!?」
西 龍介「35歳にもなってみっともねぇだろ お前には一生分からねぇ感情だよ」
山本 朔「ち、違う 俺があんたに言いたいのは、そんな・・・」
加藤 稔「・・・・・・ 今日の稽古は中止」
加藤 稔「頭、冷やしてきて」

〇稽古場
橋田 玲央「稔さん・・・」
加藤 稔「聞こえなかった?今日の稽古は中止だ 帰ってくれるかな」
西 龍介「・・・・・・ すみません。俺がかっとなりました 俺は帰りますが、玲央とカズさんは 無関係です」
西 龍介「二人に稽古をつけてもらえませんか?」
加藤 稔「駄目だ。こんな雰囲気で稽古したって ろくなことにならない」
加藤 稔「君たちが今すべきなのは、稽古でも喧嘩 でもない。頭を冷やして落ち着くこと 分かったね?」
山本 朔「・・・っ」

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