檻の外

千博

最終話(脚本)

檻の外

千博

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〇黒
  ―――●ヵ月後―――
  多分、昼間に起きた。実際の時間は知らない。外の世界の時間なんて俺には全く関係ない。
  昨日は密香にぼさぼさに伸びた髪の毛と髭を切ってもらったから、すっきりしている。
  あいつとの日々は本当に幸せだと、最近よく感じる。あいつも俺のことを大事に思っている。
  俺の部屋の扉はすっかり一方通行になってしまい、こちらからは開けられない。入れるのも出られるのも密香だけだ。
  何故だかは知らないが、そういうものなのだ。
  俺はこの扉を開けることは出来ない。
優貴「…………なんで?」
  良く考えてみる。理由が思い出せない。
  何故こちらからは開かないのだろうか。
  どうして俺はこの部屋に閉じ込められている?何不自由しない生活のせいで今まで気付かなかったが、外の世界にはなにがあるんだ?
優貴「・・・今まで俺は、どこにいたんだ?」
  この世界に入るまでの自分が、外の世界がわからない。
優貴「とびら、俺の部屋の」
  ドアノブに触れる。触れただけでも少しだけ下がった。
  もしかして、開けられるのか?
優貴「外には、大切なものが無い……なにもない」
  右手に力を込めると、少し扉が開く。

〇家の階段
  光が一気に差し込んできて、眼を強くつぶってしまう。明るいものは苦手だ。
「……が、…………も、君は……」
  耳は、少しだけ悪くなっている。声が聞こえるけどよくわからない。眩しくて影しか見えないけど、近づいてみよう。
密香「気にしないでください、私は兄さんが生きてさえいてくれれば、幸せなのです」
  密香の声だ。あの小さな影は密香だったのか。
  その隣にもう一つ大きな影があるが、あれはなんだ?
  外の世界に大切なものは無いのに、どうして密香はそんなものに構っているんだ?もしかして俺を裏切ったのか?
叔父さん「だが……このままの生活も優貴君に良くない、しばらく密香ちゃんも甘やかすのをやめてみてはどうだ?」
  なんだ、こいつ。密香に話しかけてるのか。
叔父さん「密香ちゃんの気持ちもわかるけど、君まで学校をやめることは無いんじゃないか?」
叔父さん「姉さん……君のお母さんも君達のこんな姿は見たくない筈だ」
  なんだ。何だよお前。密香に何を吹き込もうとしてるんだよ。
優貴「・・・」
密香「えっ? 兄さん!」
  ふらふらと、一歩づつそれに近付く。
叔父さん「優貴君!やっと出てきてくれたのか……!!」
  なんだ、邪魔だな、これ。
叔父さん「え……? 優貴君? どうしたんだ」
  なにこれ、邪魔。すごく。
叔父さん「や、やめろ。やめ・・・」

〇黒
  どっか、行け。
「うわあぁぁぁぁああああああああああああああぁぁああぁぁああぁぁぁあああああああああああああぁあぁぁああ!!!!」
  みしっ。
  鈍い音がしたが、多分俺には関係ない。
  影が倒れていたので、何度も踏みつける。
  そして、足元で転がっていた丸みを帯びたなにかを影にむかって何度も叩き付けた。
  よくわからないが、影は動かなくなった。

〇怪しい部屋
  叔父さんがお亡くなりになりました。
  階段から突き飛ばされた拍子に頭を打って気絶してしまい、その後何度も花瓶で頭を殴られたのです。
  私もお世話になった方なので、とても悲しいですが、『証拠写真』がどうしても必要でしたので、とめるわけにはいきませんでした。
  桜さんは、大学で年上の新しい彼氏ができたそうです。
  金髪で少し怖い雰囲気の人ですが、先輩はとても幸せそうだったので、『記念写真』を何枚か撮らせて頂きました。
  やっと手に入れることが出来たこれを、少し前の私にプレゼントしてあげなくてはいけませんね。
  向こうの私も早くここに来たい筈ですから。
  私も今の私に感謝しています、こんな素敵なプレゼントを未来から送ってきてくれたのですから・・・
優貴「ひそか、ひそか……」
  真っ暗な部屋から声が聞こえます。
  この素敵な声はすべて私に向けられたものだと思うと、身体の奥底から熱く燃え上がるのを感じてしまいます。
密香「なんですか?兄さん」
優貴「そとのせかいには、なにがあるの?」
  ふふっ、好奇心旺盛で・・・いけない兄さんですね。
密香「何もありませんよ?兄さん。」
密香「それよりも、今日のご飯はオムライスですよ。」
  私の言葉をすべて受け入れ、外への興味も記憶もなくしてしまいます。
優貴「ひそかのつくったごはん、おいしいから。すき」
  子供のように無邪気に微笑む兄さん、素敵です。
優貴「ひそか……だいすきだよ、おれにはひそかだけだ。」
密香「ありがとうございます、兄さん」
  真っ暗な部屋の中では、兄さんの表情もこの先のことも、外の世界のことも見えません。
  でも、兄さんの言葉の一つ一つを受け入れるだけで、私は今までの苦労が報われた幸福感に満たされるのです。
密香「ずっと一緒にいましょうね、兄さん」
  だって、
  檻の外には何もないのですから。

コメント

  • 読後にズンッと心にのしかかってくるような作品でした。徐々に壊れていく主人公と、そんな兄を飼いならしながら、その関係に依存していく密香。二人のいびつさを見てどのように思ったらいいのか、うまく整理がつかないです。難しい題材を見事に描き切っていて、とても筆力があると感じました。他の作品も期待しています!

  • 独特な世界観、徐々に変貌していく主人公、檻の中に閉じこもっていく過程、怖さもありつつ、緊張感もありつつで、最後まで引きつけられました。そして妹ですが、一番の常識人のようでいて、徐々にヤンデレの片鱗を見せていくところが非常に魅力的です。最後の終わり方、一見するとバッドエンドのようですが、二人にとっては、ある意味ハッピーエンドなのかなと思います。自分はこの何とも言えない終わり方が、とても好きでした。

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