project_IMG

荒木裕都

エピソード1(脚本)

project_IMG

荒木裕都

今すぐ読む

project_IMG
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇白
  ネオ豊田シティの皆さん!
  今日この日は、歴史に刻まれることになるでしょう。
  財善コーポレーションが本日発表したIMGnet。
  従来のコミュニケーションツールであるテキスト・音声・ビジュアルに、感情を上乗せして共有できる…
  「以心、伝心。」のキャッチコピーを体現した、次世代型SNS!
  ネオ豊田シティの皆様は、同社開発の外部ネットワークシステム…オリジナル・ディメンション・エリアにおいて
  この画期的なソーシャル・ネットワーク・サービスを安心・安全にご利用いただけます。
  アカウントの発行およびデバイスの貸し出しは完全無料。
  さあ、皆さん!IMGnetを通じて、以心伝心コミュニケーションを楽しみましょう!

  10年前、限定的にリリースしたIMGは、今や全国に対象エリアを拡大し、不可欠なインフラとして人々の生活に根付いている。
  テクノロジーにより、文字通りの共感を可能としたこのサービスは
  あらゆるシーンでコミュニケーションギャップを埋めるツールとして機能。
  特に画期的だったのは、犯罪の未然防止率が改善されたこと。
  感情を含めた個人情報を、ビッグデータとして管理するIMGは
  社会統制システムとしても機能し、危険人物の特定および監視を容易なものとした。
  要するに、危険な思考をもった人間は、その時点でシステムからマークされ、行動に移す前に確保される仕組みが整ったのだ。
  つまり、人々はシステムを介して、思考を監視されている、ということ。
  …21世紀半ば、ひとつの感染症が世界中で蔓延し、人間社会はその様相を一変させた。
  有史以来、あらゆる大陸を人為的に区分してきた国家という枠組みが、ものの10年で一気に形骸化したのだ。
  感染拡大を食い止めるべく、各国の政府は市民に断続的な外出自粛・禁止を求めた。
  伴って、消費活動は抑制されて全世界は恐慌状態に。
  連鎖して犯罪行為やテロ、暴動が頻発したが、もはや国家にこれを鎮静する力は残っていなかった。
  極め付けは、ウイルスが猛威を振るい、経済不振による貧困が渦巻くなか生じた…
  国際犯罪組織による各国主要都市への大規模な同時多発テロ。
  民間人を含め、数億人の命を奪ったこのテロ攻撃は、わかりやすく人々の国家に対する信頼を崩してしまった。
  市民の統治システムたる政府は、あらゆる国で機能不全をおこし、それに成り代わる形で民間企業が勢力を拡大させていく。
  結果として、企業による自治体が各地で発足。
  国家という枠組みは、名前だけを残す形となり、個人情報の居住地に記載するデータ以上の意味を持たなくなり
  実質的には企業への所属が身分の全てを保証する社会が到来した。
  …それまで国家が管理していた個人情報のすべてを、所属企業がシステムによって管理・統制する社会。
  感情という最もプライベートなデータを取り扱うIMGが、こともなげに人々から迎合されていったのも、当然と言えるだろう。
  システムを介してつながることで
  
  人の気持ちを知るという表現は、文字通りの意味を持つようになり
  開発者である私にも、思い描く理想に向けて、何もかもが順調に運んでいるように見えていた。
  いま思えば、間違いだった。

コメント

  • 日本でもこんなふうに何でも管理されてしまう日がくるのでしょうか…。安心につながるといえばそうなのかもしれないですが、やっぱり自由は大切だなあと思います。

  • 現在の日本の憲法では内心の自由が認められており、IMGシステムによる犯罪の未然防止はできないですが、作中のような世界になった場合は良くも悪くも活躍してしまいそうですね。現在でも海外にはそんな国はありますが(小声)

  • 国家が再起不能に陥ったとき、または陥りそうなとき、誰が先頭に立つのだ、と、いつも思います。ストーリーはとても悲惨なものでしたが、この国の政治家たちは一体何をいているのでしょうか。小説自体は鬼気迫る感じてとても引き込まれました。続編があれば、ぜひ行政や政治の介入を見てみたいと思いました。とてもおもしろい作品でした。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ