〇大きい研究所
　　14年前　旧・ネスト研究所
　　私の一番古く鮮明な記憶は、全身を貫く激痛だった。

〇近未来の手術室
　　手足に、内臓に、脊髄に、脳に。
　　灼けた鉄を突き込まれるような激痛が何度も、何度も繰り返された。
　　このまま死ぬのかと、覚悟した。
　　だけど私は生き残った。

〇研究装置
　　私が気がついたとき、目の前に"教授"がいた。
教授「おめでとう。実験は成功だよ。 CZ（シーゼット）」
教授「君の全身の神経は無事、特殊マイクロマシンに置きかわった。素晴らしい成果だよ」
根須戸智是「きょう、じゅ・・・みんな、は？」
教授「みんなは、君のように優秀じゃなかったんだ。だからもういない。その点君は素晴らしい。よしよし。えらいぞ、えらい」
根須戸智是「・・・え・・・らい・・・？」
教授「そう。君はえらい。人類を次のステージへ導く鍵となるかもしれない。君は人と機械との、唯一の理想的な融合体なんだ」
根須戸智是「・・・ゆう、ごう・・・たい・・・？」
教授「君のマイクロマシンは特別でね。 君と共に進化し、やがては・・・おや」
根須戸智是「きょうじゅ・・・わたし、つかれました。すごく・・・すごく、ねむい」
教授「まぁいい。今は休みたまえ。明日から忙しくなる。痛いのには慣れているだろ？」

〇黒
　　それから私は、研究室で行われる実験という名の拷問に晒され続ける日々を送ることになった。
　　しかし当時の私には、それがあたりまえで。それが私の世界のすべてで。
　　異常なことだと気づくことさえできなかった。

〇近未来の手術室
　　８年前
　　ある日、世渡刃が私の前に現れた。
根須戸智是「・・・・・・」
世渡刃「こいつが、教授のお気に入りか」
　　奴は私を電気椅子のような実験装置に繋ぐと、研究員たちに命じた。
世渡刃「よし、実験をはじめろ」
研究者「は、はい。開始します」
教授「待ちたまえ、世渡君！」
　　教授が走りこんできた。
教授「マイクロマシンを強制的に活性化させるなど、CZ・・・NEST-CZ01Xαが！ 私の貴重な研究材料が死んでしまう！」
世渡刃「はっ。カネと時間も貴重なリソースだ。　これ以上は待てないな」
教授「この実験体には無限の可能性がある！ 世界を根底から変える技術が、いずれ！」
世渡刃「いずれじゃ遅い。今見せろ」
教授「次世代マイクロマシン移植の、唯一の成功例なんだぞ！」
　　世渡は教授に、銃をつきつけた。
世渡刃「殺すのが怖くて研究が進まないようじゃ、本末転倒だ。おい。やれ」
研究者「は、はい・・・」
教授「くっ・・・待て！ 僕がやる！ 僕ならあれを殺さずに済むかもしれない！」
世渡刃「いい心がけだ」
教授「・・・はじめる」
　　実験装置から、マイクロマシンを活性化するための高出力のエネルギーが私の身体に注がれた。
根須戸智是「うっ・・・うううううっ!?」
　　全身の神経を針で刺されるような痛みが全身を駆け巡った。
教授「・・・マイクロマシンに変化なし」
世渡刃「限界までいけ」
教授「・・・・・・」
根須戸智是「きゃああぁああぁああぁっ～～!!」
　　耐え難い激痛が私の身体を直撃した。
　　私はたまらず、意識を失った。

〇黒
　　しかしゼニスが期待した結果は得られず、実験は失敗。
　　彼らは、そう結論づけた・・・しかし、そうではなかった。

〇殺風景な部屋
根須戸智是「・・・・・・」
　　激しい頭痛と共に、変化は突然訪れた。
根須戸智是「・・・うっ！ 頭が、痛・・・っ」

〇荒れた公園
　　公園で遊ぶ３人の子どもたち。
　　しゅーちゃん、歩くん、美結ちゃんの姿をとらえた防犯カメラの画像が、私の頭の中に浮かんだ。

〇殺風景な部屋
根須戸智是「今の・・・なに？ ・・・うっ」

〇荒れた公園
久常紫雲「ヒーローごっこで全員ヒーローじゃ、敵がいないじゃん！ 誰か敵やれよ！」
御子柴歩「じゃ、じゃあ、僕が」
久常紫雲「えーっ。弱そう！」
辻崎美結「しゅーちゃん、ひどーい！」

〇殺風景な部屋
根須戸智是「あ、頭の中に、勝手に！ ・・・でも」

〇荒れた公園
　　私は３人の笑顔から目が離せなかった。

〇殺風景な部屋
根須戸智是「なんだろう・・・たのしそう・・・？」
　　口元に、微笑みが浮かんだ。
　　私ははじめて「外の世界」というものがあることを意識した。
　　そのとき、私の目の前に膨大な数のウィンドウが空中に開いた。