Tender 気づかなかった優しさ

57Toki

エピソード1(脚本)

Tender 気づかなかった優しさ

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〇華やかな寮
友達「芽衣のお兄ちゃん、かっこいいよね。 朝のニュース見たよ」
友達「あたしも見た! 天才ヴァイオリニストって紹介されてたよね」
友達「あんな優しそうなお兄ちゃん欲しかったな。うらやましすぎだよ!」
  友達は楽しそうにはしゃいでるけど、
  わたしは勉強のことで頭がいっぱい。
  それどころじゃない。
芽衣「全然そんなことないから! 外面いいだけだよ」
芽衣「家の姿見たら、幻滅すると思う。 帰ったらジャージかスウェット。 練習以外は寝てばっかりだもん」
友達「え、芽衣の家遊びに行きたいんだけど」
芽衣「あと、勝手にわたしのケーキ 食べちゃうんだよ?」
友達「いいじゃん。裕樹さんが家にいるなら、 それくらい。芽衣は贅沢すぎだよ」
芽衣「よくない。わたしは一人っ子がよかった」
友達「絶対お兄ちゃんいるほうが いいと思うけどな」
友達「あ、ひとつデメリット見つけた」
芽衣「?」
友達「家にあんなかっこいいお兄ちゃんいたら、理想高くなりそう」
友達「確かに!」

〇川沿いの道
  学校から帰る途中、きれいな女の人に
  囲まれてるお兄ちゃんの姿を見つけた。
  遠くからでも目立ってる。
裕樹「芽衣!」
  わたしに気づいて、
  ぱっと笑顔になったお兄ちゃん。
  こっちに駆け寄ってきた。
裕樹「もう学校終わり?」
  女の人たちがざわついてる。
  あの子は誰なの?って。
  わたしは逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
芽衣「今日は部活なかったから・・・」
裕樹「うわ、荷物多いな。登山帰りみたいだ。 持つよ」
  お兄ちゃんが、わたしの背負ってる
  リュックの取っ手をもち上げた。
芽衣「いいって。持てるから」
  わたしはお兄ちゃんから離れて歩いた。
  照れくさいのもあるけど、
  隣を歩いてると知り合いに
  話しかけられそうだし。
知り合いの人「新聞見たわよ。裕樹くん、 コンクールで優勝したんでしょ」
裕樹「ありがとうございます」
知り合いの人「こんな有名人と知り合いなんて、 鼻が高いわ。今度サインもらおうかな」
  すれちがうたびに、いろんな人から
  話しかけられてるお兄ちゃん。
  また猫かぶってる。
  家でのだらけた姿を知ってるから、
  よそ行きの顔を見てると
  なんだかむずがゆくなる。
知り合いの人「芽衣ちゃんも、もっとがんばらないとね。お兄ちゃんみたいに」
芽衣「は、はい」
裕樹「芽衣、勉強得意なんですよ。 いつも遅くまで予習してるし」
知り合いの人「そうなんだ。さすが裕樹くんの妹さんね」
  とりえのないわたしは、
  いつもお兄ちゃんのおまけ。
  家でも学校でも比べられて、
  なんだか素直に喜べない。
  小さい頃はお兄ちゃんの演奏が
  大好きだったけど、今は聴きたくない。
  いつのまにか、お兄ちゃんの存在が
  プレッシャーになっていた。

〇一階の廊下
  今朝は、起きたときから気分も最悪。
  頭は痛いし、朝食も食べられそうにない。
  昨日遅くまで勉強してたから、
  睡眠不足で気持ち悪い。
  廊下ですれちがったお兄ちゃんは、
  わたしを見て眉をひそめる。
裕樹「芽衣、お前今日は・・・」
芽衣「行ってきます!!」
  わたしはふりむかずに、家を出た。
  今日の5時間目は小テスト。
  最近成績下がってるから、休めない。

〇線路沿いの道
  駅まで歩いてるうちに、
  足がふらついてきた。
  気分が悪くて、これ以上歩けそうにない。
  ・・・頭がくらくらする。
  目の前が真っ暗になって、
  わたしはその場にしゃがみこんだ。
裕樹「芽衣!」
  その時、お兄ちゃんの声が聞こえた。
  車で様子を見に来てくれたみたいだ。

〇見晴らしのいい公園
裕樹「体調悪いなら言えよ」
芽衣「気づいてたんだ」
裕樹「あれだけ顔色悪かったらわかる。 勉強大変なのはわかるけど、無理すんな」
芽衣「だって、しょうがないじゃん。 全然成績上がらないし・・・」
裕樹「そんなにがんばらなくてもいい。 お前は我慢しすぎ。 つらいなら、もっとおれに頼れよ。 家族なんだから」
  気にかけてくれるのが嬉しくて、
  思わず泣きそうになった。
芽衣「うん、ありがと・・・」
裕樹「お前がいつも努力してるのわかってる。 芽衣は芽衣のペースで ゆっくり進めばいいんだ」
  真剣な顔で励ましてくれる。
  お兄ちゃんの手にはケーキ屋の大きな袋。
  わたしが意地をはってただけで、
  お兄ちゃんはずっと優しかった。
  なんで早く気づかなかったんだろ。
芽衣「お兄ちゃん」
裕樹「ん?」
芽衣「今度あの曲弾いてくれる?  また聴きたいな」
裕樹「いいよ。芽衣のためなら、 いつでも弾いてやる。 俺は芽衣が一番大切だから」

コメント

  • 比べられるとプレッシャーに感じますよね。
    私なんて出来損ないなんだと思い込んでしまって…私もあったなぁ。特に兄妹からもそう思われてる!って考えてしまうとついつい頑張り過ぎてしまう気持ちも痛いほどわかりました!

  • 最後に仲直りできてほっとしました。食べてしまったケーキの代わりを買ってきてくれたんでしょうか?優しいお兄さんですね。周りの人の態度を見て本当のことが分からなくなってしまうこと、どうしてもありますよね。お兄さんの優しさに気付けてよかったです。

  • 兄弟だから比べられることも多いし、ひねくれて悪く思いたくなる気持ちもわからなくもないけれど、どこまでも優しいお兄ちゃん。いろいろ心が葛藤してしまいそうではあるけれど、やっぱり本当は自慢のお兄ちゃんなんでしょうね。

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